2019/03/13

中国スパイ防止法実施細則の紹介


2014111日、中国のスパイ防止法(中華人民共和国反間諜法)が成立したが、その3年後の2017126日に、同法実施細則(中人民共和国反间谍细则)が公安部から交付された。

 法律段階では具体的な内容がはっきりしなかったが、この細則によって、スパイ防止法のかなり具体的な内容が分かってきた。法律公布から3年後にやっと実施細則が出るというのはやや奇異な気がしないでもない。この細則によると、法律公布後の様子をみて、後付けしたような点も見られなくもない。その最大の点は、スパイ行為の代理を最も重視しているように見える点だ。

  具体的には、国内外の機関から有償等の対価を得てスパイ活動を行う組織や個人に焦点を当てているような点である。つまりは、自分の意思というよりは、しかるべき機関の委託スパイ活動は容赦しない、ということだろう。該当する部分は以下のような内容になっている。
 スパイ活動の意思を持つ組織・個人から資金を得て中国の体制存立・維持に反する情報収集・敵対行為を行うこと、これらを国内外の組織・個人と共謀して行うこと、と要約することができる。

 どういうケースがあるいは拘束される可能性について、日本では次のように言われている。
○中国に協力的な大手商社員が拘束されたことに対して、「だれもが拘束される可能性がある」、「拘束されるのはどういうケースか不明で、駅の写真すら撮ってはいけない」・・・・・。

 そういう見方のすべてが間違いだというわけではないが、おそらく、拘束する方の中国では、その理由ははっきりしているだろう。ただし拘束するかどうかについての判断には幅があり、機械的なものではないだろうから、疑われやすい行為は危険というべきである。

私などは、ただ中国に於ける農民の暮らし方や農業の技術・技能のあり方などを研究しているだけで、けっして中国の国家転覆とかは考えていないのだが、そうと疑われる恐れがないとも断言できない点も皆無とはいえない。

それでも、農村調査はやめられません。これ、私にとっても研究法なのですから。
ここまで書いて、大事なことを忘れていました。中国には外国人社会調査管理法なる、調査規制法があることを。この規制は2004年に法制化されたものですが、前身は97年の暫定規則でした。この規制も、自由な研究者にとってはあまり嬉しくないものです。破ると、やはり刑法の対象になることがあります。このあたりのことは、実は、拙著『国際社会調査』に詳しく書いてあります。

 以下は、実施細則の関係部分の要約です。ご参考まで。
○敵対的な組織であるかどうかは、国務院の国家安全主管または国務院の公安部門によって確認される。
○中華人民共和国「スパイ防止法」に記載されている「資金調達」という用語は、国内外の機関、団体および個人の次のような行為を指す。
1)スパイ活動団体または個人に、資金、場所、物資を提供すること。
2)一般の団体または個人にスパイ活動を実施するための資金や場所、物資を提供すること。
○「スパイ防止法」でいう「共謀」とは、中華人民共和国の国家安全を脅かすスパイ行為の実施をいい、以下の国内外の組織や個人の行為を指す。
1)国家安全を危険にさらすようなスパイ活動を海外の機関、組織、および個人と共同で計画または実施すること。
2)国家安全を危険にさらすスパイ活動を実行するように資金を受け入れること、または外国の機関、組織または個人に指示すること。
3)海外の機関、組織、個人との接触を恒常化し、支援、援助を受け、国家の安全を脅かすスパイ活動を行うこと。
○以下の行為は、「スパイ防止法」第39条に規定されているように、「スパイ以外の国家安全にかかわるその他の行為」として分類される。
1)国家の分裂を組織し、計画し、そして実行し、国家の団結を弱体化し、国家権力を破壊し、そして社会主義体制を転覆すること。
2)国家安全を危険にさらすテロ活動を組織し、計画し、そして実行する。
3)事実のねつ造または歪曲、国家安全を危険にさらす言葉または情報の公表または配布、あるいは国家安全を危険にさらすオーディオビジュアル製品またはその他の出版物の作成、配布または公表。
4)国家の安全を危険にさらす活動を行うために社会組織または企業や機関を利用すること。
5)国家安全を危険にさらすために宗教を利用すること。
6)国家安全を危険にさらすためのカルトの組織化と利用。
7)民族紛争を起こし、民族分裂を扇動し、国家安全を危険にさらすこと。
8)関連する規制に違反し、その説得に耳を傾けず、国家安全の行為または国家安全を危険にさらす行為について深刻な疑いがある国内の人物と会う外国人。