2020/07/02

マスクメロンからマスクへ―中国のハウス栽培農家の「多角経営」

 リニューアルに関わっている中国のとある大規模農場、COVID-19が猛威を振るった春節のころ、敷地内にある大きな冷蔵倉庫が、地方政府の依頼を受け、突如、マスク製造工場に早変わりした。自ら「した」、というより上からの半ば命令に近い、うむを言わせぬものであったという。大きな農場なので、農業経営には直接の影響もなく、マスク不足の最中でもあり、作り終える前から出荷先が決まっていたから、単に、商売のはなしだけなら悪くはない。
 その農場の経営主は40歳を超えたと想像する女性で、旦那は地方政府のお役人、そばで見ていると、夫婦関係に、「完全な」という表現が当てはまるかどうか知らないが、あえていえば、完全なかかあ天下、旦那は、もてきぱきと大声を出しながら、なんでも一人でこなそうとする妻には頭が上がらない。旦那の年恰好は、10歳は上ではないかと想像する。
 農場以外に、化粧品のようなものを作って商売上手を発揮しているようで、その化粧品の一部を試しだと言って小瓶をくれたが、単なる化粧品ではなく、顔に塗ると何とかに効くとか言われたが、いつのまにか、どこへ行ったか見えなくなった。
 もともとビニールハウスとガラス温室で、野菜、果物、アロエなどを広い露地では、麦やトウモロコシ栽培を、土地の一部を果樹や放し飼い鶏から採卵などを作るなかなかの多角経営ぶりであったが、これにマスクづくりが加わったというわけである。
 私は、高級マスクメロンづくりを進めたが、一足先に「メロン」ぬきマスクとなったのだが、両者はあまりにも無縁。
 ところが、当の女性経営者にとって、そんなことは大した違いではなく、要は、フトコロの膨らみ具合がどっちが有利か、があるにすぎない。日本の農場経営者からは、なんとなく、使命感のようなものを嗅ぎ取ることができるが、それとはかなり異質な農場経営者である。一緒に、この事業に関わっている私の大学の後輩は、「日本のマスクは十分にあるか?なければいつでも送るよー」という声を電話で言われたという。親切心は豊富なので嬉しいが、早くパンデミックが収まって、現地で、このおばさんたちと、この農場の今後の話しをしたいものである。

2020/01/11

中国の先端技術農場の建設をお手伝い



このたび、中国政府系のある組織から先端技術を導入した農場建設を3箇所も請け負うことにになりました。そのために、まずは現場へと行き、足と手で現在の農場を見てみました。その時に、撮られた写真ですが、哀愁漂う男の放浪姿のように見えます。土壌を掘り返しているところと、農地を歩き、土壌の硬さ、水分、土質などを見ているところ。ハウスは、現在アロエを栽培していますが、生育はよくありません。そこで、まず土壌検査を。PH,EC,微生物、重金属。結果が出次第、訪中し、対策と今後の栽培・投資計画を決める予定です。そとから見ただけでは、けっして農地の状況は分かりません。なので、また勉強です。大学は退職したけど、休みなし。本も執筆中ですので、とても忙しい日々です。

2019/09/05

孤高の農家の話し。江西省富山郷にて。2019年8月22日


江西省農村は初めて行ったところです。上海から高鉄で約4時間乗ると、省都の南昌市があります。車窓に広がる田園地帯を眺めながら、区画整理がまったくといっていいほど手付かずの状態です。このあたりは中国南方の伝統的稲作地帯ですから、もっと基盤整備ができていて当然だと思ったのですが・・・・。
 作っているコメは長粒種です。水田のイネの茎の長さも、作られているコメ品種の特徴をよく表しています。
 この地方では中国で流転という農地流動化が極端に進んでいて、訪ねた農家のほとんどは近くの工業団地勤務、農業は自家消費用の野菜を作るくらいのものです。月収を聞くと5,000~6,000元(9万円と少し)。でもみな乗用車を持っていて、大都会周辺の農家よりその割合はずっと高いです。この月収でよく買えるねと聞くと、農産物は買う必要がないし、夫婦で働くので買えるのだ、といいます。

 気温が40度はあろうかと思われるなか、村内を散歩しながら、畑と家々の作りなどを観察しました。畑の広さは家庭菜園程度、栽培されている野菜はナス、サトイモ、インゲン、キュウリ、トマト、名も知らぬ緑色野菜と、賑やかです。家々は中国農村のどこでも見ることができるつくりで、特徴はありませんがつくりは丈夫です。家並みから、経済的に貧しいとか豊かだとかという判断はできませんでした。
 
 村の農家から農地を100ムー(約6.7ヘクタール)も集めていると村人が教えてくれた人が、水田を案内してくれました。あぜ道は狭くてでこぼこ、チャーターしたミニバンの運転手さんは、揺れるハンドルを握りながら「行けない」「危ない」「この先は無理だ」とさかんに文句をいいながら運転します。私の隣の席にいた100ムーの農家は、私たちと飲んだ昼のアルコールが残っているらしく半分酔った口調で、「いつも収穫したコメを積んで、この道を走っている」「この道で行けないところはない」(わたしには理解できない方言でそう言ったそうです。通訳してくれたのは江西出身で、いまは大阪の大学で働く友人です)と、反論。ついに、水田の奥まで私たちを運んでくれたのです。
 あとはクルマを降りて、水田観察です。そのときのスナップが、上二枚の写真です。
出穂期を迎え、水を求めるイネに、小さな用水路から水を田に引こうとした写真です。草ぼうぼうで、隠れてしまった取水溝を手でまさぐりながら探し出して、水を田内に流し込みます。
 イネの生育はどうかというと、まっすぐ、力強く伸びています。きっと、ことしも豊作でしょう。

 水田に行くとほぼ必ずと言ってよいほど、観察するものがわたしにはあります。生育状況は言うまでもありません。
①草刈りができているか?
②イネを水平に眺め、イネ先は水平か、線から抜け出したような雑草はないか?
③用排水路がきれいに保たれているか?
④どんな農薬を撒いているか(かならず、空き容器や袋類があぜ道などに落ちている)?

 これらについて、やはり、100ムーおじさんの水田でも観察しました。

 さてこの人に、もし政府がいま耕している水田を返せと言ってきたらどうするつもりか、聞いてみました。こたえは、「もちろん返せと言われた水田は全部返す。あとは年金で暮らす。」でした。
 そのこたえが本心からでたものかどうかは分かりませんが、とても従順な人だと思いながら、そんな日が来ないことを願っているのだろうなと推し量りつつ、真夏の太陽が照り付ける緑一色の水田を後にしたのでした。


 

2019/07/11

中国の農土を握り、臭いを嗅ぎ続けて

 中国の農村が好きなのですが、そこかしこで土を握り、嗅ぐことが習慣になりました。農土はもはや自然物ではなく、何百年、何千年と耕され、何千人という農民や地主に酷使され、すでに、絞っても絞っても一滴の水分も出なくなった乾いたタオルのように、あらゆる養分が吸い取られ干からびてしまった農土もあります。

 いま、緑の植物を育てている農土も、すでに自然物ではありません。手を変え品を変えしてあらゆる手を尽くして延命措置をほどこし、鞭打つように激務に耐えさせられ続けてきた農土。

 そのような農土を握り、嗅いでいると、なぜかその土がいとおしくさえ感じられることもあるのです。手ですくい、ときにかたくなったのを道具で掘り返して握った時の感覚は、実にさまざまです。

 中国の農土、ものの記録によると農土は中国の最初の夏王朝(紀元前2000年ころ建立)以前から、栽培のために使われた可能性があるそうです。そして、その 農土は、4000年以上過ぎたいま、河南省に住むだれかによって耕されている可能性があることになります。

 となると、使われ方やケアのされ方はともかく、農土の寿命はとてつもなく長く、これに勝る人間が作り上げた生産手段は他にはないといってもいいでしょう。どんなに優れた機械や工場も、その命は農土にくらべれば稲妻の光ほどもない短さではないでしょうか? 驚きですね。

 その中国の農土ですが、長年の経験から、地域によってパターンはさまざまですが、握るといくつかの感触に分けることができます。実際は、もっと微妙な差がありますが、省略します。

 臭いに、土本来の臭いはなく、肥料臭や農薬臭、ときに機械油が混ざったような人工的な臭いが混ざっています。しかし、よく嗅ぐと、農土にも個性があるものです。皆さんも、近くのあちこちの農土を、なければその辺の土を握って、嗅いでみてください。面白いですよ。

1、柔らかく小さな玄武岩を含む赤土・・・・握ると、ぐにゃっと指の間からはみ出す。しぶくてキノコ臭が新鮮な土と混ざったような臭い。
 山土(やまつち)に多くみられ、雲南、福建、湖南などで遭遇する機会が多い。

2、黒くて柔らかな粘土のような土・・・・握った感覚は上の赤土と似ているが、色は濃い茶色で、あまりきれいとは言えない。ほとんどが、落ち着いた普通の土の臭いがベースになっている。
 南方や西方、たとえば広州、四川、青海などで遭遇する機会が多い。 

3、灰黒色で、やや砂土や水晶系かガラス系の細かな粒子が混ざった土・・・・・握ったとたん手のひらが砂を感じる、やや乾燥。土の団粒構造はかなり疲弊し、乾燥というよりも固まった土の感がする。比較的無臭だが、深く吸い込むと、私の故郷、新潟北方の土と最もよく似ている。
 浙江、上海、江蘇、河南、山東、吉林、遼寧などで遭遇する機会が多い。

4、やや茶色で、粘土質を含む砂地系の土・・・・・握った感覚は上の土(3)と似ている。無臭に近く、深く吸い込むと子供のころ工作で使った粘土に似た臭いがする。
 北京、河北、山西、内モンゴルなどで遭遇する機会が多い。

5、黒っぽい砂質土壌で比較的さらさら感がある土・・・・握っても固まることなく、すぐに崩れてバラバラいになる。湿り気があり近くに大河川が流れている光景に出会うことがある。臭いは腐敗した木の葉のように、自然感がある。
 黒竜江では多くがこの農土。

6、黄色に近い茶色をして、粘土質の濃い、やや硬い農土・・・・・握っても、手のひらの形はできず、手のひらを下に向けるとバラバラになって下に落ちる。乾燥がそうしたのか、土の団粒構造が破壊されたためなのか、土同士の結びつきはゆるい。
 陝西、甘粛、寧夏などで遭遇する機会が多い。

 どんな農土にも、家禽・家畜・人糞・魚介などの有機肥料(中国では農家肥料と呼びます)あるいは化学肥料の臭い、あきらかに化学薬品臭のする農薬の臭いが混ざり合っています。
 私は、経験から、その農土に使われている家禽・家畜・人糞・魚介などの別を嗅ぎ分けます。しかし、まかれている農薬の種類までは区別できません。
 


 
 

2019/06/14

中国におけるネット規制に思う


6月中旬から中国のネット規制がさらに厳しくなりました。中国現地では、すでにネットの検索エンジンが事実上、百度だけに限られるようになっていました。

最初に開けなくなったのがgoogleで、まだヤフーは使えていましたが、突然、二年ほど前から、これも開けなくなってしまいました。GooDuckduckgoは開けるのですが、遅いし、情報数に制約があります。

結局、中国出張の際、頼りになるのは百度しかありませんが、日本語はだめなので、使い勝手はよくありません。

これだけではありません。

百度で開ける情報自体が狭く、社会批判染みたものは見出しが残っているだけで、開こうとしても出てこない場合が増えました。当局が中身を消したのです。日本の年金問題の2000万円赤字事件、これも日本政府はなかったことにしとうとしていますが、政権に都合の悪いことは隠そうとするのは日中共通のようです。

以前はどうかというと環境汚染問題を追及する社会派記者の記事がなんの検閲も設けることなく、そのままネット上を踊ったものです。わたしなども、中国農村の水や土壌の環境問題の現状を、これら記者の記事から学び、それを確かめるべく中国に出かけたものです。最近とくに少なくなった一つに、農村問題についての記事や告発があります。

20111210 日に、広東省の烏坎村という村で、ある事件が起こりました。圧倒的多数の村人が村民大会で選んだ村長(村民委員会主任)を共産党が気に食わないとして無効にしたため、村民自治を無視するものだとして、農民が大衆行動に出たものです。

結局、村民の何人かは違法な集会と暴動を起こしたとの罪で警察に拘束され、村民が選んだ村長までも拘束された事件です。

村民は法律で認められたことをしたまでだ、と主張したのですが認められませんでした。しかし、自分の研究分野の関係から関係法律(村民委員会組織法など)を何度も読んでいますが、その限りでは、村民に非はありません。

それで、いまこの事件のネット上の報じられ方をみると、当時の権力側の正当性を主張する記事が躍っています。

よき中国理解者はよき中国調査者でなければならない、よき中国理解者を増やすには中国における自由な研究と調査の機会を保証すべし、というのがわたしの自戒と願いです。

2019/06/04

中国農村技術のかたちと今後

中国の農村技術-農産物栽培・保管・加工・出荷、土地管理技術、水利管理技術は今後どうなるのだろうか?現在、日本顔負けの先端技術が登場し、中国の農村自身が驚くほどの発展がみられる。しかし、技術には担い手と開発者がないと発展しない特性がある。技術は社会的なもので、そこから個人的な概念である技能や術(わざ)が派生し、あるいは新しい技術を生み出す役割をになう。

近代、現代にかけて中国の農村技術の担い手と開発者は、長い地主の時代を経て集団(組織)、家庭(個人)と受け継がれてきた。家庭請負責任制が生まれてから、農民にとって増産は所得向上に直結するようになったので、農民自身が「発明の母」の役を演じ、技術開発の先導を担うようになり、食料は一部の農産物を除くとほぼ自給体制を作り上げるうえで貢献した。

農村技術は土地や土と密接に繋がっている。土地制度のあり方、土と農民の心理的・物理的密着度が農村技術の発展とあり方を決めるといっても過言ですらない。

こうみてくると、いま、中国農村で起きていることは技術の担い手と開発者にどんな影響を与えるだろうか?

いま中国で起きていることは、農業を生業として生きる者(純粋な農民)がほぼいなくなったこと、日本の農水省が定義する専業農家に合う農民世帯は皆無だということだ。父母と息子夫婦が専業として農業経営と生計を立てうる者は、中国ではほぼいないし、その存在自体が不可能に近いのだ。

そこで生まれているのが企業の農業参入、合作社による集団農業(供銷合作社と農民専業合作社があり、農民の土地使用権を株式化するなどして出資金に変え、配当として収益の一部を農民に還元、農業経営の大規模化を目指す)、「家庭農場」(家族経営の中国版で規模を自立経営並みを志向)、「新農民農業」(若い学のある非農民による投資的経営-私の言い方では「異星人農民」)などのかたちだ。

彼らは、土地制度と土との関係で新しい関わり方を作り始めた。共通しているのは現在の土地制度を利用し、土地を集めるだけ集める。不要になったら捨てる(だれかに権利を渡す)。

だからいまの土地制度は彼らにとって都合がよい。もともと農民の制度だった家庭請負土地使用権制度は徐々に変節し、農業をやりたい者には解放している。ここは、日本とは大違い。中国の方が自由といえば自由なのだ。

土は地力を吸い取るだけ吸い取って、その後は路地大規模農業から転換し、既存の土地を利用したビニールハウス栽培、植物工場、観光農業、農村遊技場とかあるいは食品加工場とかに進出する。土地改良投資はカネがかかるのでしない。政策も植物工場やコンテナ農場の支援に大きな予算を投じようとしている。露地栽培に、あるいは伝統作物にこだわらない。そこから新しい技術が生まれ出てきている。

土地改良投資や土の機能維持のための投資をしないことは問題であるが、すべてはフローの国中国。これがストック重視の日本だと稲作農家は何代も米にこだわり、キャベツ農家はキャベツ以外は作らない。他のものができないストック投資方式から出られないからだ。

中国の農村技術はますます自由に発展する可能性がある。



2019/05/20

中国の農業分野+農産物物流の先端技術を調べてきたし、現場で体験もしてきた。中国は自身が公言しているように、いまはまだ先進国ではないが、確実に先進国に近づいている。この調査を通じて、その実感を肌で得るようになった。

この分野での特許件数も米に劣らぬスピードで増えつつあり、いつの日か、世界一になる可能性もある。

その背景に、溢れ出るほどの優秀な大量の研究者と現場の実践者がいる。最近、「996」が話題になっており、ちょっと調べたことがあるが、研究者の世界も大差なく仕事に没頭する生活が日常なのだ。そこには、「働き方改革」などという体の良い語句だけの世界さえみじんもない。

いま、専門用語満載の知産権局の資料をあさるようにながめては、アタマを重くさせているが、その申請件数の多さと内容、特許や実用新案権の授与内容にはとてもついて行けない。図や説明は、素人には同じように見えても、こまかいところがだいじなのだろう。

しかし肝心なことを無視・軽視してはいけない。先端技術にはその国の文化が基盤になっているという点、一見先端技術など高遠な次元と無関係にみえる土着技術にも進んだ、しっかりした技術が織り込まれているという点だ。

だいぶまえ、シュマッハーが唱えた「スモール イズ ビューティフル」には感銘を受けた者だが、いまはどこの企業のキャッチフレーズだか忘れたが「スモール バット ビューティフル」のように、「ビューティフル」だけに注目が集まる時代なのかも。

この具体的な様子は、科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター(CRSC)の電子コラムに連載する予定だ。