2019/04/30

急速に成長する中国の第一次産業の新技術開発



最近、わけあって中国の第一次産業部門の新技術開発(発明や実用新案権など)を調べているが、その件数と内容ときたら雨後の筍どころの話しではなく、満天にかがやく星の数にも似て数えきれない。中国の特許局に発明や実用新案権を申請するのは中国本土の大学、農業用資材メーカー、研究機関が主だったところだが、海外からの申請も全体の10%程度に上る。特許に無関係の工夫や発想も豊富だ。



それだけ、中国の新技術市場の広さ、ビジネスとしての勢いと可能性の大きさを物語る。海外勢の主な国は日本、アメリカ、ドイツ、欧州、シンガポール、韓国などだが、これにも技術分野としての特徴があり、日本・ドイツは機械系、アメリカ・韓国はソフト系に分かれるといってもよさそうだ。



中国は、といえば機械系とソフト系に、ソフト系には日本人の発想を基準にするとアイディアに過ぎないようなものもその範疇に入るから不思議だ。中国ではものつくりにつながるものだけが発明ではない。



ソフト系の発明や実用新案権の内容の一例をあげると、有機農場経営の管理、有機たい肥の作り方と使い方、汚水の測定の仕方、栽培方法とその有効な管理の方法、青果物の移植の方法、家畜糞尿の処理方法、高タンパク豚の肥育方法、穀物の殺虫方法、農産物の栽培方法、水循環と果樹園灌漑用水循環システム、生態系立体農園などだ。



機械系またはモノ系に属するものは際限がないほどの数と用途の広さである。新型果樹園殺虫装置、ミツバチ可視養殖箱、新型コメ保管装置、冬虫夏草(冬には虫の姿、夏には草の姿で育つ中国チベット地方の特産菌類。さまざまな疾病に効くとされる)培養装置、新飼料添加剤、新食品抗菌剤(抗生物質)、新型冷蔵コンテナ、新型コンテナ植物工場、汚染土浄化装置、養殖用ディスク駆動飼料投入装置、多機能播種機、土壌浄化用土壌サンプリングおよび試験装置、AI農薬散布ドローン、牛肉加工冷凍装置などだ。



以上のほか、中国が得意とするAI多用技術、ゲノム応用食品などの先端技術を使った機械やオフトが目白押しだ。その一方で、素朴なユーモアあふれた技術開発や製品開発も並行して生まれていることが面白い。




2019/04/03

中国の農業政策の方向は大規模革新農業経営の樹立にある

 各地の中国農村を回っていると気づくことがあります。共通する点は、若者と中年層が少ないこと。未舗装の村の家々が連なる薄茶色の小道を歩きながら思うことです。とくに若者が少ない、というよりもほとんど見かけることがないことです。

 将来、中国の農業や食料生産はどうなるのかと、気をもむこともありました。
 しかし、最近は考えを徐々に変えるようになりました。

 生産性の低い限界地は次第に淘汰され、条件のよい場所では大規模経営が発達し、一部では農業生産の効率を上げていくことでしょう。大規模化の進展は中国農業の大きな光明です。いま各地で、日本では想像もつかない斬新な農業方式が生まれ、これに政府が支援するモデルが広がっています。

 でも、それで自給率は大丈夫なのか、との心配がないではありません。ありますが、不足する食料は輸入で補充する方向に行くでしょう。農産物貿易の数字をみていると、中国が、すでに農業の国際競争力を失いつつあるか失ったことがうかがわれます。

 学者の一部は、これを農村の賃金上昇に求めていますが、理由はそれだけではありません。土の劣化、零細農業、農業資本装備の立ち後れ、若者層の農村忌避思想の広がり、安い農産物価格、高い肥料・農薬、安全な農産物生産農法の不足などもその理由です。

 効率の悪い農業は淘汰し、競争力のある農業を中心に構造改革を断行していく様子が見えてきました。


2019/03/28

土は国家を語る

私が長い間、研究上こだわってきたことに土があります。中国農村の野菜畑やトウモロコシ畑などへ行くと、まず素手で畑の土を握って、匂いを嗅いで、見つめます。この作業は、日本でも、東南アジアでも、どこへ行っても続けてきました。

私は、土には二つの顔があると考えています。
新鮮かつ栄養分のつまった農産物を育てるための養分の貯蔵庫 としての顔。この顔は農産物にとっては何よりも重要なものであり、農業生産にとっての生命線でもあります。この顔は土の持っている物理的な性格を示しています。

しかしこの顔は、土が生まれながらにして持っている部分と、後で雨や風、雑草や木の葉など、やはり自然による作用で変わった部分、農民や国家など人工的な手が加えられることによって変化した部分とからなります。土地改良や肥料投下などによる方法がそれです。土を機能論的に観たものです。

もう一つの顔は土自身が持っている、土を使っている国家を反映する鏡としての一面で、この顔は土の社会科学的な性格を表すものです。この顔は土が生まれながらにして持っている顔ではなく、農業用の土となってから、土の利用者や国家など、土に直接・間接に関係する者が土壌 養分や水分を付け加えたり削ったりした結果の顔であり、原状から変化していることが多いといえます。

この顔は、土を表象論的に観たものともいえます。
最近これをもとに、「中国における土資本論」を考えています。まだ、これといった成果はできていませんが、こだわってみたいと思っています。

2019/03/13

中国スパイ防止法実施細則の紹介


2014111日、中国のスパイ防止法(中華人民共和国反間諜法)が成立したが、その3年後の2017126日に、同法実施細則(中人民共和国反间谍细则)が公安部から交付された。

 法律段階では具体的な内容がはっきりしなかったが、この細則によって、スパイ防止法のかなり具体的な内容が分かってきた。法律公布から3年後にやっと実施細則が出るというのはやや奇異な気がしないでもない。この細則によると、法律公布後の様子をみて、後付けしたような点も見られなくもない。その最大の点は、スパイ行為の代理を最も重視しているように見える点だ。

  具体的には、国内外の機関から有償等の対価を得てスパイ活動を行う組織や個人に焦点を当てているような点である。つまりは、自分の意思というよりは、しかるべき機関の委託スパイ活動は容赦しない、ということだろう。該当する部分は以下のような内容になっている。
 スパイ活動の意思を持つ組織・個人から資金を得て中国の体制存立・維持に反する情報収集・敵対行為を行うこと、これらを国内外の組織・個人と共謀して行うこと、と要約することができる。

 どういうケースがあるいは拘束される可能性について、日本では次のように言われている。
○中国に協力的な大手商社員が拘束されたことに対して、「だれもが拘束される可能性がある」、「拘束されるのはどういうケースか不明で、駅の写真すら撮ってはいけない」・・・・・。

 そういう見方のすべてが間違いだというわけではないが、おそらく、拘束する方の中国では、その理由ははっきりしているだろう。ただし拘束するかどうかについての判断には幅があり、機械的なものではないだろうから、疑われやすい行為は危険というべきである。

私などは、ただ中国に於ける農民の暮らし方や農業の技術・技能のあり方などを研究しているだけで、けっして中国の国家転覆とかは考えていないのだが、そうと疑われる恐れがないとも断言できない点も皆無とはいえない。

それでも、農村調査はやめられません。これ、私にとっても研究法なのですから。
ここまで書いて、大事なことを忘れていました。中国には外国人社会調査管理法なる、調査規制法があることを。この規制は2004年に法制化されたものですが、前身は97年の暫定規則でした。この規制も、自由な研究者にとってはあまり嬉しくないものです。破ると、やはり刑法の対象になることがあります。このあたりのことは、実は、拙著『国際社会調査』に詳しく書いてあります。

 以下は、実施細則の関係部分の要約です。ご参考まで。
○敵対的な組織であるかどうかは、国務院の国家安全主管または国務院の公安部門によって確認される。
○中華人民共和国「スパイ防止法」に記載されている「資金調達」という用語は、国内外の機関、団体および個人の次のような行為を指す。
1)スパイ活動団体または個人に、資金、場所、物資を提供すること。
2)一般の団体または個人にスパイ活動を実施するための資金や場所、物資を提供すること。
○「スパイ防止法」でいう「共謀」とは、中華人民共和国の国家安全を脅かすスパイ行為の実施をいい、以下の国内外の組織や個人の行為を指す。
1)国家安全を危険にさらすようなスパイ活動を海外の機関、組織、および個人と共同で計画または実施すること。
2)国家安全を危険にさらすスパイ活動を実行するように資金を受け入れること、または外国の機関、組織または個人に指示すること。
3)海外の機関、組織、個人との接触を恒常化し、支援、援助を受け、国家の安全を脅かすスパイ活動を行うこと。
○以下の行為は、「スパイ防止法」第39条に規定されているように、「スパイ以外の国家安全にかかわるその他の行為」として分類される。
1)国家の分裂を組織し、計画し、そして実行し、国家の団結を弱体化し、国家権力を破壊し、そして社会主義体制を転覆すること。
2)国家安全を危険にさらすテロ活動を組織し、計画し、そして実行する。
3)事実のねつ造または歪曲、国家安全を危険にさらす言葉または情報の公表または配布、あるいは国家安全を危険にさらすオーディオビジュアル製品またはその他の出版物の作成、配布または公表。
4)国家の安全を危険にさらす活動を行うために社会組織または企業や機関を利用すること。
5)国家安全を危険にさらすために宗教を利用すること。
6)国家安全を危険にさらすためのカルトの組織化と利用。
7)民族紛争を起こし、民族分裂を扇動し、国家安全を危険にさらすこと。
8)関連する規制に違反し、その説得に耳を傾けず、国家安全の行為または国家安全を危険にさらす行為について深刻な疑いがある国内の人物と会う外国人。

2019/01/20

中国農業の成否を分ける経営者のウデ

先日、北京郊外の農村部を廻ってきた。北京中心部から高速を使って1時間半も行けば、
そこは、ここも北京市なのかと思ってしまうほどの田舎になる。北京市の人口はこのところ、やや減ってはいるが2千万人を大きく超える巨大都市だ。

 そこに生きる都市農業は、東京圏に比べ、はるかに都市住民の食生活と近い。農産物は
市場を通さず、北京市住民が直接農場に買いに来たり、ネット業者を通じて、トラックが
戸口へ配達することが普通だ。だから、農場は都市住民のニーズや評判にすこぶる敏感だ。
中間層以上の都市住民のニーズは有機農産物、それも完全無農薬・完全化学肥料野菜や果物
に変化した。農場は都市住民のニーズに合わなと買ってもらえないので、いい商品づくりに
没頭する。

 北京の中間層以上の消費者は、栽培方法が看板どおりかどうかを自家用車で確かめに来
る。彼らが乗ってくるクルマのほとんどは黒塗りの高級車、日本のスタンダードだと3ナ
ンバー車だ。私などは、いまだかって運転したことのない車種だ。

 先だって訪ねた農場の一つは、面積が1棟5アールのビニールハウスを64棟持つ中国
ではごく普通の規模の農場だ。飛び込みで訪問しても、大概はそこの経営者とか現場責任
者が親切に案内してくれる。ただし、専門家でないと無理だ。かれらなぜ専門家は親切に
迎え入れてくれるかといえば、なにかしらの参考になる話しを期待するからだ。ほとんど
の農場で聞かれるほぼ共通することは、日本のハウス栽培技術、コールドチェーン、コス
ト内容、消費者ニーズだ。というのは、彼らには、これらの問題が未解決だからだ。一通
り案内を終えると、逆質問の時間がやってくるのだ。

 話しを戻すが、その農場では44種の野菜を栽培、すべてが無農薬、無化学肥料で栽培
する。見ても握って嗅いでも、土の状態はふかふかでとてもよい。たい肥を買って撒いて
いるからだ。変わっているのは、ハウスの中で害虫を退治する天敵の昆虫を飼っているこ
とだ。さらには、害虫寄せのための植物を植え、栽培植物から遠ざける工夫もある。ここ
は成功した農場だ。

 一方、もう一つの農場は失敗した例だ。数十棟のビニールハウスは空っぽで、白っぽく
埃っぽいだけの土は乾燥してかたかった。広い場内に建てられた農場施設も荒れ放題。農
場の中には多くのしゃれた感じのコテージが建てられ、週末ともなると北京市街地から家
族が田舎暮らしを終日楽しんだこともあったにちがいない。
 そこも、いまは寒風が吹き抜けるだけだ。場内にある立て看板を観ると、そこには、こ
の農場の土壌検査結果を示した表が貼っている。土壌の重金属検査の結果表だ。すべて基
準内だ。これを見て思った。こういう表を貼ってあるくらいだから、この農場も有機栽培
や化学肥料に気を使っている、さきほどの農場と同じように、都市住民のニーズに応じて
きたにちがいない、と。

 では、なにが失敗の原因だったのだろうか。正確なことは不明だが、この似通った方法
の二つの農場を観て思ったことは、その分かれ目は、経営者の腕の差ではないか、という
ことだ。

 近頃、中国の農業はコスト上昇が大きい。人件費ばかりでなく、資材、物流、広告、施
設投資などなど、全体的な領域でコストが上がっている。ところが、ビニールハウスの普
及によってあらゆる野菜の周年栽培が進み、旬にもなると、さらに生産量が増え、市場で
は輸入農産物も激増している。消費者の階層化が進み、品ぞろえの幅が縦横に広がり、一
物一価の法則が崩れつつあるなかで、消費者ニーズに合わないものは、売れても採算が合
わなくなっている。この微妙な変化についていけない経営者は淘汰されるのだ。

 おそらくこの失敗農場は、じぶんの顧客層の求める価格帯と提供しようとする商品との
間に、大きなミスマッチングがあった。そんなことを思いながら帰途についた。
 







2019/01/01

週刊朝日掲載記事


 12月25日発売の週刊朝日新年特別号に掲載された私の4ページものの記事は、けっこう反響がありました。28日のテレビ朝日グッドモーニングから電話取材を受け、顔写真とともに画面に紹介されました。
 輸入量の34%を依存するアメリカ産輸入大豆に中国が25%の関税をかけたあと、輸入は完全にストップ、大豆自給率が10数%の中国は「大豆ショック」に見舞われ、食卓から養豚業者までを巻き込む一大パニックとなったのです。
アメリカ産の中国大豆の流れは以下のように、日本の食卓へも影響を及ぼし、これから及ぼすでしょう。 
アメリカ産大豆→中国→大豆粕→国内養豚業者と日本の養豚業者(輸入)。
A中国の大豆価格上昇(約二倍へ)→大豆粕価格上昇(約二倍に)→養豚コスト割れ→経営撤退と縮小(繁殖豚数縮小)→(ピッグサイクル)→肥育豚数減少→国際豚肉価格上昇。
B(日本への影響)中国の大豆価格上昇(約二倍へ)→大豆粕価格上昇(約二倍に)→日本の大豆粕価格上昇→養豚経営の更なる減少→豚肉輸入増加+豚肉価格上昇。
        
    このような食品のグルローバル化と食品のデジタル化は、大豆に限ったことではありません。穀物、野菜、肉類、魚介類、果物にも起きている現象です。食料自給率の低い日本では、更に、大きな渦のように世界中から食品を巻き込みながら渦の中心(日本)に引き寄せているのです。中国も徐々に、このような渦に巻き込まれようとしています。その背景には、土地の疲弊、農薬・化学肥料依存、農業労賃上昇などによる生産コストの上昇=農業の国際競争力の低下の進行という問題があります。中国農業の問題を農業労賃の上昇にのみ求める見方もありますが、これは、視野狭窄というほかありません。
         

2018/12/02

中国農業と米中FTA

ブエノスアイレスでの米中首脳会談は新聞報道によると、中国側は、25%の輸入関税をかけ、事実上締め出していたアメリカ産大豆を含む農産物輸入を即刻増やすと言明したらしい。中国、アメリカ双方にとって、いいニュースだ。

これで、高騰していた中国国内の大豆価格、家畜の飼料として欠かせない豆粕価格も落ち着く方向に動くだろう。

とはいえ、中国の養豚農家などがこれまで受けた損害はのこったままだ。また、せっかく上がった大豆価格で一息ついていた中国の大豆農家や中間業者は、またまた産品の低価格とコストとのし烈な競争の波に戻っていくのだろう。せっかく増産機運が盛り上がり、十数%にまで低下した国内自給率の期待された反転も消え失せる。

大豆に限らず、多くの農産物が輸入されるとなると、このままでは、中国農業は敗北の道を行く可能性がますます高まろう。そこで重要なことは、農業の構造の改革―土地制度の自由化、土地と農民をセットにした農村戸籍制度廃止、農産物市場制度の改正などー根本的な見直しが必要となろう。長年、改革を先に先にと伸ばしてきたつけを払うときが見えてきた。

アメリカは、これからの交渉過程で、おそらく、米中FTAを念頭におくだろうから、中国の農業問題改はいよいよ大きく動き出すのではないか・・・・・。