2019/01/20

中国農業の成否を分ける経営者のウデ

先日、北京郊外の農村部を廻ってきた。北京中心部から高速を使って1時間半も行けば、
そこは、ここも北京市なのかと思ってしまうほどの田舎になる。北京市の人口はこのところ、やや減ってはいるが2千万人を大きく超える巨大都市だ。

 そこに生きる都市農業は、東京圏に比べ、はるかに都市住民の食生活と近い。農産物は
市場を通さず、北京市住民が直接農場に買いに来たり、ネット業者を通じて、トラックが
戸口へ配達することが普通だ。だから、農場は都市住民のニーズや評判にすこぶる敏感だ。
中間層以上の都市住民のニーズは有機農産物、それも完全無農薬・完全化学肥料野菜や果物
に変化した。農場は都市住民のニーズに合わなと買ってもらえないので、いい商品づくりに
没頭する。

 北京の中間層以上の消費者は、栽培方法が看板どおりかどうかを自家用車で確かめに来
る。彼らが乗ってくるクルマのほとんどは黒塗りの高級車、日本のスタンダードだと3ナ
ンバー車だ。私などは、いまだかって運転したことのない車種だ。

 先だって訪ねた農場の一つは、面積が1棟5アールのビニールハウスを64棟持つ中国
ではごく普通の規模の農場だ。飛び込みで訪問しても、大概はそこの経営者とか現場責任
者が親切に案内してくれる。ただし、専門家でないと無理だ。かれらなぜ専門家は親切に
迎え入れてくれるかといえば、なにかしらの参考になる話しを期待するからだ。ほとんど
の農場で聞かれるほぼ共通することは、日本のハウス栽培技術、コールドチェーン、コス
ト内容、消費者ニーズだ。というのは、彼らには、これらの問題が未解決だからだ。一通
り案内を終えると、逆質問の時間がやってくるのだ。

 話しを戻すが、その農場では44種の野菜を栽培、すべてが無農薬、無化学肥料で栽培
する。見ても握って嗅いでも、土の状態はふかふかでとてもよい。たい肥を買って撒いて
いるからだ。変わっているのは、ハウスの中で害虫を退治する天敵の昆虫を飼っているこ
とだ。さらには、害虫寄せのための植物を植え、栽培植物から遠ざける工夫もある。ここ
は成功した農場だ。

 一方、もう一つの農場は失敗した例だ。数十棟のビニールハウスは空っぽで、白っぽく
埃っぽいだけの土は乾燥してかたかった。広い場内に建てられた農場施設も荒れ放題。農
場の中には多くのしゃれた感じのコテージが建てられ、週末ともなると北京市街地から家
族が田舎暮らしを終日楽しんだこともあったにちがいない。
 そこも、いまは寒風が吹き抜けるだけだ。場内にある立て看板を観ると、そこには、こ
の農場の土壌検査結果を示した表が貼っている。土壌の重金属検査の結果表だ。すべて基
準内だ。これを見て思った。こういう表を貼ってあるくらいだから、この農場も有機栽培
や化学肥料に気を使っている、さきほどの農場と同じように、都市住民のニーズに応じて
きたにちがいない、と。

 では、なにが失敗の原因だったのだろうか。正確なことは不明だが、この似通った方法
の二つの農場を観て思ったことは、その分かれ目は、経営者の腕の差ではないか、という
ことだ。

 近頃、中国の農業はコスト上昇が大きい。人件費ばかりでなく、資材、物流、広告、施
設投資などなど、全体的な領域でコストが上がっている。ところが、ビニールハウスの普
及によってあらゆる野菜の周年栽培が進み、旬にもなると、さらに生産量が増え、市場で
は輸入農産物も激増している。消費者の階層化が進み、品ぞろえの幅が縦横に広がり、一
物一価の法則が崩れつつあるなかで、消費者ニーズに合わないものは、売れても採算が合
わなくなっている。この微妙な変化についていけない経営者は淘汰されるのだ。

 おそらくこの失敗農場は、じぶんの顧客層の求める価格帯と提供しようとする商品との
間に、大きなミスマッチングがあった。そんなことを思いながら帰途についた。