2021/06/14

中国のゲノム編集食品(含む農畜産物)の発展と立ち遅れる日本

 ゆえあって、中国のゲノム編集食品の開発・研究の現状と今後を調べた。その過程で、日本のゲノム編集食品開発・研究の立ち遅れが際立つことに気づいた。

ゲノム編集技術が遺伝子組み換え技術と本質的に異なることは、世間にだんだんと浸透してきた。遺伝子組み換え食品の安全性にはかなりの疑念を持つ筆者だが、現段階では、ゲノム編集食品の「食品としての危険性」は少ないかゼロ、という見方を持っている。

遺伝子組み換え技術は、例えば豚の遺伝子に鳥の遺伝子を組み込むことだから異生物が生まれる可能性を捨てきれない。ブーブーと鳴きながら羽根をばたつかせて空を飛ぶ豚、コケコッコーと叫びながら丸々と太った丸い鼻をもった鶏、SF漫画が現実になる恐れを抱く消費者もなかにはいるかもしれない。

ゲノム編集技術はこれと異なり、自分の遺伝子の一部を切り取ったり、場所を入れ替えたりするだけなので、豚は豚、鳥は鳥のままで生物学的属性が変わることはない(とされている)。

さあ、そのゲノム編集技術にはZFN、TALEN、CRISPR/CAS9があり(説明は省く)、中国科学院系、中国農業技術院系、大学、民間企業の多数のゲノム編集技術専門の開発・研究機関がしのぎをけずりあっている。

最近は3つの方法のうち最も進んだ技術のCRIPR/CAS9に、開発・研究資源が投入される傾向がある。世界的には、この分野の特許戦争が起きている。

中国がこの分野で成果を出し始めるのは2015年以降だが、特許戦争の準勝者になろうとしているのだ。コメ、小麦、トウモロコシ、大豆、野菜、果物、魚、豚、牛、鳥、羊・・・・品目はなんでもあれだ。

その背景に食料自給率の低下が進んでいるという事実があり、遺伝子組み換え食品の市場性に見切りをつけ、新しいゲノム編集技術分野に賭けようとしているのではないか、と思われる。

最も進んだ技術のCRISPR/CAS9による中国における農業、食品開発・研究成果を調べると、すでに特許申請に至っているものが約500件、うち特許権成立が130件、審査中のものから特許権成立するものが多数見込まれる。

日本では、GABAトマト(血圧を下げる効果ありとされるもの)、おとなしいマグロ、肉厚の鯛などが話題になっているが、日本の大学等の特許権成立件数は多くない。むしろ非常に少ないと言った方がよいくらいだ。

ゲノム編集技術のうちCRISPR/CAS9発案者(投稿論文中、最速で研究成果を発表した者)は昨年のノーベル賞を受賞した。

この分野の特許権の多くを握っているのはアメリカ。その次に多いのが中国、日本はとても中国にはかなわないし、韓国にも後れをとっているともいえる。

中国は、アメリカの特許項目をかいくぐるように隙間を狙い、有効な特許権を幅広く獲得しつつある。このたび、筆者はそのすべてを調べた。

中国の特許には、日本やアメリカにも認められたもの(国際特許)が多数ある。今後も、この勢いはつづくだろう。

対する日本、全部で20周の陸上競技を走っているとして、アメリカに10周遅れとすれば中国には5周遅れている、というのが筆者の感想だ。中国もまもなくゴール、日本はまだ4周も残っている。