2021/11/02

 中国固体廃棄物汚染環境保全法がスタート 狙いは一石二鳥

中国の農村を歩くと、農業廃棄物が目に留まることがよくあります。ため池や中小河川の汚染はだいぶ改善されてきましたが、取組みが遅れている部分もあります。これも廃棄物の未処理が原因の一つでしょう。

そこに改善の手を付けようとする法律が「中国固体廃棄物汚染環境保全法」です。この法律は2021年8月に公布されたのですが、私がこの法律から感じた意図は次のようなものです。

要約すると、一石二鳥を狙ったものといえましょう。

一の鳥:環境保全です。

この法律は、●畜産物の糞尿、●収穫後の農作物の茎、●栽培用ビニール(トンネルやビニールハウスから出るもの)、●農薬の包装容器の4つの汚染物を無くすことを目標にしています。

2019年の数字ですが、政府によると、それぞれの廃棄量は糞尿30.5億トン、茎8.7億トン、ビニール246.5万トン、包装材35億個という膨大な量に上ります。

このうち農作物の茎とはなにか、解りにくいかもしれません。晩秋の農地を見渡すと、多くのところで山積みされたトウモロコシやコウリャン、それにイネなどの茎をみることがあります。これは処分がけっこう厄介で、次の耕運作業をするまでに柔らかくなったり風化したりすることはありません。しっかりと乾燥しながら残るのです。

仕方なく燃やす場合もありますが、空気汚染につながるという批判もあり、最近はやや減ってきました。

畜産物の糞尿のうち、牛糞は水分が少ないので乾きやすく、処理しやすいですので冬の燃料に使ったり、堆肥にして土に戻したりできます。牛糞堆肥は「肥」という文字が付きますが、肥料養分は低く、主に土壌改良向けに使います。

しかし鶏糞と豚の糞尿は役に立つ代物です。

鶏糞は水分が多い上に臭いが強い。豚の糞尿の臭いもきついですが水分も多量です。

鶏糞は細かなオガクズ(木材をのこぎりで切った際に出る米粒状の木くず)などを混ぜ、80度程度に自然発酵させると最高の肥効を持つ肥料に変わります。発酵は自然に起きます。

豚の糞尿は飼料の消化率が悪いのでに匂うのですが、その分、栄養分はたくさん残っています。しかし、これをすぐ堆肥にはできないので、少し寝かせます。

ところが、堆肥作りをせず、鶏舎や豚舎の脇にくぼみを掘り、そこに流し込むだけの農家がけっこう多いのです。不衛生この上ない惨状になります。

一方、化学肥料の使用はうなぎのぼり、これが農産物コストの押上げにもつながっているのです。中国の農畜産物の多く、穀物も畜産物も、コストが上昇しています。もはや、アメリカや欧州にはかないません。

新しい法律を作ったのも、こんな現状だからという面もあるのでしょう。

また、有機物の不足から土壌の劣化が進み、養分と水分吸収力の低下が進む現状への配慮があってのことかもしれません。最近、農地土壌の持つ水分吸収力の低下が、収穫作業の障害要因になっています。

二の鳥:この法律では、畜産物の糞尿は土に還すべきことを謳っています。土壌改良がもう   一つの狙いでしょう。

日本では、家畜・家禽を飼いながら農作物を栽培する「有畜農業」が伝統的な農法でしたが、いまでは非常に少なくなっています。土づくりには欠かせない方法でしたが、これでは経済的にも労力的にも成り立たない時代です。

ただ日本の農家の多くは堆肥や有機肥料を調達して、土づくりには手間ひまをかけています。

中国でも、家畜を飼養し栽培も行う大規模農場もあることはありますが、まだ多くはありません。

この法律が、農地の土壌にいい影響を与えることになるかどうか、今後、注目して行きたいと思っています。