わたしの中国農村あるきの体験で見たもの、食べたもの、触れたもの、嗅いだもの、訊いたものは数知れません。
わたしの中国フィールドワークのモットーは、「五感で臨む」、というもので、農村では、つねに、自身の身体に付随するこれらの「道具」を意識して臨んできました。
そのなかから、かなりザックリのはなしではありますが、このことは、どこの農村でも変わらない感触でした。
それは、
中国の農民は従順で素朴、貧しくとも生きる喜びや幸福のありかを探し求める人生を送っている、というものです。なかには、どこで身につけたか、権力者のまねのようなふるまいをさらす者にも会わなかったわけではありませんが、そういうひとはごく少数のように思います。
そのような農民の世界に土足で侵入する不束者、詐欺を生業とする者の横行が、農村には絶えません。中国でも日本をまねたオレオレ詐欺が世間を騒がせる時代、農村はかっこうの餌食として狙われているようです。
では、詐欺師たちは、どんなことをするのでしょうか?
つまりは、次の違法物資を売り付けたり、違法行為をして金銭を詐取しているのです。
農業経営に不可欠な農業生産資材が、とくに狙われやすい物資です。
●種をまいても芽が出ない種子、
●安全性基準や禁止物質を無視した農薬、
●ぜんぜん効き目のない化学肥料や有機肥料、
●工業規格が無視されたトラクター、耕運機、田植え機、
●家畜用医薬品の偽造。
また、これらも違法に横行しています。これらは詐欺という言葉には当てはまりませんが、社会に対する違法行為であることには変わりありません。
●安全基準を無視した遺伝子組み換え食品、農産物、
●未検査家畜等の移送(中国では、家畜移送が耳標のない大型家畜は禁止、予防接
種のない家畜飼養は禁止)と、移送中の違法薬物の使用や投与。
●無許可屠畜場と死亡家畜の放置。
●家畜飼養業者の違法薬物、たとえば「痩肉精」(家畜の成長促進剤)の販売。
2024年、これらの農村に蔓延する行為を取り締まるうごきが、「緑剣護糧安」法に向けた政府の取り組みです。
「緑剣護糧安」というのは新語です。
「緑」はグリーン、エコ、環境保全などの意味合い。
「剣」は、厳しく、緩むことなくなど、政策にこめた心意気。
「護」はあとにつづく「糧」(食糧)と「安」(安全)すなわち食糧安全を守る。
これらからわたしなりに繫げると、「緑剣護糧安」の意味は「食糧確保を守るためのグリーン政策を厳格に遂行する」というようなことといえるでしょう。
以上は、2024年2月に農業農村部が出した「「緑剣護糧安」法執行行動の実施に関する通知」とか、2025年3月の「2025年の「緑剣護糧安」法の執行に関する通知」などには、その詳細な取組みの趣旨と内容を見ることができます。