2024/07/23

丁戊奇荒から学ぶ

世界の気象体質は明らかに変わったという。体質の変化が確かめられた、その後に確実にやってくるのは、その体質を隠すことなく表現する気象現象であろう。この気象現象は、すでに世界各地で猛威を振るい始めていることは先刻ご承知の通りである。

その影響は人間の生産活動や日常活動にも深刻なダメージをもたらし始め、やれ真夏日だ、やれ熱中症だのとテレビは騒ぎ、海の向こうでは気温が40度を超えたという一方では洪水だ、干ばつだとの、真逆の気象現象が、世界同時に起きているニュースが続く。

これが太古のむかしのことであれば、権力を持つ祭司たる役目にある支配者が臣民の先頭に立って神に向かい、起きている恐怖を抑えてくれよと乞い叫ぶことであろう、などと想像してしまう。

私は、一農業学者の立場から、中国におけるこれらの現象を農業と結びつけて長らく観察してきたが、昨今の異常気象は、異常という表現がぴったりするほどである。

言うまでもないことかも知れないが、政府の公式の農業統計は、嵐などない凪だけの海面が延々と続く大海原のごとくである。ときに起こる波もいつのまにか、左官がコテをもって壁に塗ったモルタルを均すかのように、過去に立ち戻って平にしてしまう神業をほどこす。

この方面のニュースを流す中国のネットの書き方が変わり出したのは、ここ2,3年、とくに1,2年のことのように思う。

たとえば、干ばつ。中国の農業史はウラを返せば干ばつ史の様相を呈する。長い中国史のステージから見れば最近の出来事に属する大飢饉の丁戊奇荒は、その典型的な災難の一大事であった。

日本にも起きた飢饉、たとえば天明の大飢饉では樹食や人食は日常のことであったようだが、その規模のけた違いの大きな災難がこの飢饉である。このような飢饉は、日本でも中国でも、二度と起きて欲しくはない。

中国の甘粛省の省都蘭州の真ん中を流れる黄河には、巨大な水車がいまも残る。黄河から離れ、やや沙漠気味の大地を歩くと、干上がった元河川の低い堤防跡と川底だったことを想像させるところに、水の流れに任せて自然に整ったかのように並ぶ砂利の列が見える。河川の消滅は、中国の各地で起きてきたことだ。

農業の欠点は、干ばつと洪水にからきし弱いことだ。広く起伏の激しい中国農業大地、異常気象は始まったばかり、私のその観察は今日も、明日も続きます。