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2025/02/12

進む資本制大規模農業

 中国は大規模農業経営の発展をめざして、奮闘中です。これには、5つの柱があります。

1,資本制企業がリードする。

2,AIスマート+大型機械化農業を展開する。

3,遺伝子組み換え農産物+ゲノム編集農産物を全面解禁する。

4,農業生産コストを下げる。

5,食料自給率を上げる。


1,中国農業のアキレス腱は規模が小さく、若者が減っているのが現状です。零細な経営規模を変えずに、労働集約的な農業が中心にしていたのでは、この先、食料の安定的確保はできないことに、政府は気づいています。そこで、頼りにするのが資本制農業です。もう、中国農業は社会主義の体面を気にしていてはどうにもならないことになっているのです。

すでに、各地で、資本制農業が浸透し、広がっています。これには中国鉄道集団など従来、農業には関心が薄かった異業種も参入し始めています。


2,スマート農業にはAIを組み込んだ完全自動化、GPSによる施肥・農薬散布、栽培管理・収穫予想などを進めています。これで農場の規模が大きいことが、さらにプラスになると見込んでいます。


3,遺伝子組み換えについて、拒否反応がまだ残っています。しかし、アメリカやブラジルから輸入する大豆や飼料はほとんどが遺伝子組み換え作物です。政府は、その事実を徐々に公開し、消費者の遺伝子組み換えアレルギーの希薄化を進めています。


あわせて、中国が得意なゲノム編集農産物が成長をしています。こちらについては、遺伝子組み換え農産物とはちがい安全なので、政府はなんの躊躇もありません。


コメ、トウモロコシ、大豆、小麦をはじめ、多くの農産物の遺伝子組み換えの生産をはじめ、商業化がすすめられ、昨年12月末、農業部が許可を出しました。


4,生産コストを下げることは、中国農業の喫緊の課題です。主要国でコストが高く、したがって国際競争力に劣る国の二番目が中国です。 一番目? もち、わが日本です。

いま中国農業は、旧い毛沢東型の何でもいい農家寄せ集め型農業から変貌しつつあるのです。まだまだ、改善すべきことは山ほどありそうですが、日本よりは早いスピードで近代化が進んでいます。ネックは、土地制度!!!! これもいずれは変わって行くでしょう。


5,中国の食料自給率は70%台に低下しています。国家発展改革委員会のある人も、そのくらいだと公言したようです。


わたしは、何もしなければ、これから、もっと低下すると見ています。遺伝子組み換えやゲノム編集食料に力を入れる理由は、ただひとつ、食料自給率をこれ以上下げない、できれば上げることにあります。

2024/06/24

"超異常気象が中国農業を襲う!

 

 

ここ数年、中国を異常気象が襲うようになっている。しかも、ますます過激になっている

のだ。それを指して、ここでは暫定的に「超異常気象」と言う。まだ、「超常」といえる

ほどではないので、やや控えめな表現にとどめたつもりである。

 

国土を南北に分ける境界を揚子江とすると、北へ行くほど干ばつ、南へ行くほど洪水と、

両極端の気象が続いている。添付した画像は、2024624日の中国国土の衛星写真だ。

 

やや見えにくいが、画像の下部は中国南部。厚い雲で覆われて国境線も見えにくい。上部は茶色の土が丸見えで、乾燥している様子が手に取るようにわかる。そのやや上部は東北地方の一部だが、やや雲がかかっている。しかし、この地方、今年も干ばつの恐れがあると、政府自身が伝えている。

 

最近の南部は洪水がつづき、桂林上流の桂林江付近では堤防をこえて氾濫し、史上最大の洪水になったという。なんと、同江の水位は一時146メートルにも達したらしい。62018時時点の桂江全域で、警戒水位を超えたという(水利部、6.20)。

 

また、広西自治区を流れる西江でも洪水が発生、河川は警戒水位を約6メートル上回る24メートルに達したらしい(中国水利部、2024.6.21)。

 

広西自治区や近くの広東省は米、サトウキビ、豆類、露地野菜、果物の産地である。洪水が起きても、中国政府は農産物の被害状況を報道することはない。洪水の映像も街中の様子を放映するだけで、農産物や農村の様子を伝えることはまれにしかない。

 

だから、農産物の被害状況を具体的に知ることはほぼ不可能である。

 

一方、北部は相変わらず水不足でカラカラだ。雨は降るには降るが、人工降雨依存、満足できる状態ではない。

 

そこで始めた取り組みが節水品種と節水農業の普及だ。ソルガムやキビなど畜産物の飼料や一部は食用加工品にまわす雑穀だが、干ばつ耐性品種を植えると10アール当たり90立方メートルの水が節約できる。

 

あるところでは、冬小麦の作付けを休耕、その結果節約できた地下水をトウモロコシ、油脂作物、雑穀などの栽培に振り向け、地下水を90%節約できたという。少雨の影響は地下水の減少を招き、穀物の減反も引き起こすから深刻だ。

(衛星画像:中国気象局)


2024/02/27

畜産物輸入を抑えるため、米と小麦の生産量を下げ、輸入を増やし、トウモロコシの生産を増やす中国

 中国政府は昨年末から今年の初めに、2023年の食糧生産の実績をかなりこまかく発表しました。

まず発表どおりの内容をかいつまんでお知らせします。

作付面積:1億1900万5000ヘクタール

収穫量:6億9541万トン

収穫量の増加率:1.3%


1ヘクタール当たり収穫量:5.843トン(10アール当たり584.3キログラム)


収穫増加量(2022年比):888万トン

作付増加面積(同)    :636,432ヘクタール


1ヘクタール当たり収穫量:13.95トン(10アール当たり1395キログラム)


これが事実であれば、なんと!!!、新しく増えた作付面積についての新しく増えた収穫量(増加土地生産性)(1395kg/10アール)は、従来の作付け面積全体の収穫量(土地生産性)(584.3kg/10アール)の2.38倍!ということになります。常識では考えられないことです。


新しく増えた作付面積についての収穫量の増え方が従来の増え方と同じとすると、収穫量の増加は888万トンではなくて、約372万トン(5.843×636,432)のはずでしょう。

もし収穫量の増加が372万トンにとどまるとしたら、2023年の収穫量の増加率は1.3%ではなく自動的に、0.55%に下がることになります。


中国の4大穀物の収穫量の前年比は、米:マイナス0.9%、小麦:マイナス0.8%、トウモロコシ:プラス4.2%、大豆:プラス2.8%でした。

収穫量が最大の穀物はトウモロコシ、近年、増え方も大きくなっています。その理由は簡単です。飼料として需要が高まるトウモロコシの収穫量を増やすことは、需要が増える畜産物の輸入を抑え、国内生産を増やすことができるからです。


米と小麦の収穫量をトウモロコシに回した、ということですね。

国家経営的な目から見ると、価格の高い畜産物の輸入を、それにくらべて価格の安いコメと小麦の輸入に代えた方が得、ということでしょう。トウモロコシの価格は?、米や小麦よりさらに安いのです。なので、中国はトウモロコシの輸入量もけっこうなものです。

ますますおいしい畜産物の消費が増えるはずですので、中国の今後は、畜産物を軸として米、小麦、トウモロコシ、大豆が作付け・貿易の調整が行われていくでしょう。というのは、もう国内には適当な農地資源がありません。農民が増えることもありません。10年先の中国農村は日本の10年前の農村を鏡で写すと分かりやすいかもしれません。









2023/08/16

台風5号の中国農業への影響は甚大の模様、「害虫の口から穀物を奪取せよ」

 

今年の中国大陸は気象危機に見舞われている様子が伝わってくる。

農業農村部は8月8日、被害の深刻な河南省安陽市で現地「秋穀物重大病虫防除」会議を開催、現下の情勢について視察し対策を協議したと、同部は広報していた。

とくに被害の大きな安徽省の6市21県、河南省11市60県ではヨトウムシ、ワタキバガ、イネヨトウ(写真)が大発生、トウモロコシ,イネ,大豆、落花生に大量の産卵がみられ、その防除に取り組み始めたところらしい。ニカメイガは昨年の同じころにも発生したので、今年は多くの種類の作物の難敵である害虫が発生したことになる。

そんなことから「害虫の口から穀物奪取せよ」という合言葉が流行しているそうな。

台風の影響は広範に及んでいる。

北京、天津、河北、山西、内モンゴル、吉林、黒竜江、浙江、福建。

心配なのは今年の作柄である。

政府は災害復旧に乗り出しているが、台風5号までの高温と豪雨被害の影響もあり、今後の成り行きが懸念されている。






2023/06/27

穀物の収穫、今年もお天気が最大の敵に

 中国の気象局には、農業専用サイトがありほぼ1週間単位で小麦やトウモロコシやコメなど、重要な穀物の作況や植え付け、栽培管理、収穫時期、天気図、その予測など、専門的な話で埋まる。


そのサイトから拝借した左の2つの図の上は、6月26日の全国の気温上場をあらわし、下は降雨の様子をあらわしたものだ。


上の図は、35度C以上の高温地帯が北部の中央から南部の中央にかけて山脈のように連なっている様子が一目瞭然であろう。


下の図からは南部のコメ作地帯が強い降雨に覆われている様子をうかがうことができると思う。


このような、北の高温、南の降雨という現象はここ数年のように起きているものだが、今年は、北の高温、南の降雨という二極化が鮮明になり、それが毎日のように続いていることが過去にないことになっている。

南部の降雨は日本列島に居座る梅雨前線の一体化している点も、ここ数年の特徴といえば特徴なのである。

中国農業の専門家なら「三夏」という言葉を知らない者はいない。陰暦の四月を猛夏、5月を夏の中盤、6月を夏そのもの、といったような意味だが、農業では収穫、播種、栽培管理の区分として使われることもある。「三つの夏」を三年という意味で使うこともある。

いま、今年の三夏を豊作を実現しながらどう乗り切るか、という点に農業農村部も気象局もやっきの様子が伝わってくる。

全体の収量の3割程度の冬穀物(前年の冬の前に播種し、夏まえに収穫期を迎える穀物)の収穫の約7割を超えたいまであるが、豊作の声はあまり聞こえてこないが、もう少し様子をみてみようと思うこの頃である。そのうち、続きをおしらせしたいと思う。













2023/03/05

農民少なくして農地多し・・・中国、今の実態

コロナ禍で減少していた2021年の農民工(主に住民登録のある故郷から離れて、6か月以上都会に住んで、農業以外の仕事に就く農民=出稼ぎ農民)の数が、なんと2億9千万人に上ったと、中国国家統計局が発表した(昨年)。

これも同じ国家統計局のデータだが、農業等就業人口(正確には第一次産業就業人口)が1億7千万人しかいないのに、出稼ぎ農民がそれよりも1億人以上も多いというのはおかしいことだが、両方を合わせると4億6千万人、幼児や学童を含む農村人口が5億人しかいないのだから、この数はどうみても理屈に合わないところがある。

この点はともかく、農民工が2億9千万人もいるという点に焦点を当てると、性別は男性が64%、女性は36%、未婚者17%、既婚者80%、死別者3%という。

この大量の農民工、短くても半年以上のあいだ農村や農業現場から離れるわけだから、実質的には離農・半離農に等しくはないだろうか。

農村に残って農業に従事する者が最大でさきほどの1億7千万人、実際は漁業や林業従事者も含まれるので、本当に農業中心の農民は1億7千万人ではなく、1億人2千万人程度と思われる。

農民の2億9千万人は農業から事実上離れているとすると、中国1億2千万ヘクタールの農地は1億2千万人ほどの者が耕している可能性があり、だとすると1人当たりでは1ヘクタールということになる。

農地は二期作とか二毛作とかとして利用されるので、耕地面積は増える。統計によると、中国では1億7千万ヘクタールに達するので、1人当たりでは1.4ヘクタールという勘定になるではないか! 多い!

中国の農業の特徴は「多人地少」、人口が多くして土地は少なし、といわれているが、実態は、農民少なくして農地多し、なのではないかと思うこの頃である。





2022/09/01

中国の穀物生産量の記録的な減収に現実味

地球レベルの天候異変から、今年の穀物生産量がどうなるかに世界の注目が集まっています。穀物生産が天候と深いかかわりがあることは常識です。

氷河の雪が溶け、北極の気温が30度を超える日が続き、世界中で、高温と洪水が同時多発的に起きているのが今年の現実です。

その顕著な例が、いま、中国各地で起きているのです。中国ではこれから秋の本格的な穀物の収穫時期を迎えます。中国で年間生産される穀物の70~80%は秋以降の収穫が占めますので、その生産量の大小は、9月以降にならないと全容が判明しません。

ですから、いまの段階で今年の穀物生産量が平年作にくらべて多いか少ないかを決めつけることはできません。

しかしですね、この春からずーーと中国の天候の推移を見てきた自分としては、異変が起きている、と直感することがあまりにも多過ぎました。

この点は中国気象局がネットで毎日発表する天候情報、日本の気象庁が発表する天気図や衛星写真に写る雲の流れなどを見ると、素人目に見ても感じ取れることです。

中日新聞WEBのコラムにも最近書いたことですが、たとえば、高温。8年間(2015-2022年8月まで)毎日の気温を記録した湖南省長沙市の気温を8年間のうち前の4年間と後ろの4年間の毎日の気温の平均(同じ日の4年平均)で比べると、最近4年間の7月~8月の気温は、その前の4年間よりも3度以上上がって、40度近くに達していることが分かりました。わずか4年の間に、3度も上昇したことになります。

高温は大地と河川・湖沼の乾燥を招き、水位が低下した長江の川底から約600年前に作られたとみられる仏像が3体姿を現したり、最大の淡水湖の鄱阳湖(日本語読みで「ぽようこ」:中国語で「ポヤンフ」)が干上がったり、かといえば年間300ミリ程度しか雨の降らない内モンゴルや水田地帯の江西など南方では大洪水が発生したり、自然災害の発生を聞かない日がないほどです。

そのために水田が干上がり、他方では水田や畑が流されています。この被災は局地的なものでもなければ、一過性のものではないことが深刻なことです。

2021年の統計によると、中国の生産量はコメ(玄米)1億4260万トン、小麦1憶3694万トン、トウモロコシ2億7255万トン、合計5億5209万トンでした。

私の予測では少なく見積もって600から1000万トンは減収になるのではないか、と見られます。この数字は、パーセントにして1.1から1.8パーセントのマイナスに相当します。

今年は5年に一度の共産党大会(10月)が開催される予定、習政権の延長がほぼ間違いないともいわれています。中国当局にとって、このお祝いごとに泥をかけることは絶対に避けなければなりません。

残された一か月の間に中国のコメさん、小麦さん、トウモロコシさんはどれだけ「頑張る」ことができるでしょうか?











2022/04/19

中国の農地制度が質的な転換をし始めたことについて-農地請負資格者に「商工企業等社会資本」を追加-

中国の農地制度の基幹となる法律は「中国農村土地請負法」というものです。2003年に制定されてから15年がたち、この法律を支えるはずの農村の社会基盤が大きく変わりました。

2018年、この法律は質的な転換を図りました。ついに、それまで禁止されていた、農地請負権の資格者に、「商工企業等社会資本」と呼ぶ「資本制企業」を認めることにしたのです。これには資格者としての妥当性を審査する要件を設けましたが、実質的にはこれら資本の農業経営への直接参入を許容したといえましょう。

「中国農村土地請負法」は中国農地制度の脱社会主義化の一歩、農民は耕作の自由の拡大を通じて生産意欲を膨らませ、食料生産の社会的増加に大きく貢献するようになれたのでした。

しかし中国の経済社会の大きな変化・膨張は、やはり農村のあり方を根本から変えました。古い時代に生まれた発想は、時代の変化とともに農地制度をも新しいものに変えざるを得なくなったのです。

同法の社会基盤だった若者は農村から消え、農家世帯は高齢者が占め、若い夫婦は都会に出稼ぎに行き、お金を稼ぎ、生活もレベルや食生活も向上しました。

他方、家族的結びつきの弱体化が進んでしまいました。後継ぎするはずだった子供はみな進学、専門学校や大学へ、卒業後は都会に就職・定住、古い農村基盤が崩れるのは抑えることのできない必然だったのです。

農業の担い手が個人(農民)から企業へ、しかも単なる企業ではなく資本制企業という、利潤を目的とするものへと広げざるを得なくなったのですね。

中国農業はますます資本主義的になり、やがては私的営利企業が農業と農地制度の担い手の中核に成長する可能性が濃厚になってきたように、私には思えます。


この改正にともなって、農地の出し手と受け手が交わす農地請負契約書の書式も変わり、ようやく2021年に、そのひな形も公布されました。中国の農地制度は、またまた大きく質的に変わり始めています。


 

2022/01/25

発展する中国の農民合作社と非メンバー農民(農民の准組合員)

 このほど発表した中国の農業農村部情報によると中国全体の法人登記済の農民合作社数は221万9千社に上ったといいます。一合作社当たりの正式メンバー(日本のJAに例えれば正組合員=農民)は245人ですから、とても小さいですね。だから、数が多いということでしょう。

メンバーの総数は5億4400万人ですが、中国の農民合作社は総合経営を行う日本のJAとはちがい、大部分が専業農協のような単一経営体です。農業機械合作社(農機共同利用)、リンゴ合作社、信用合作社、野菜合作社等々。ですから、一人の農民が複数の合作社に加入することは少なくありませんから、この5億4400万人には同じ農民が複数数えられていますので、実質は、こんなに多くはありません。

このメンバー以外、おもしろいことに日本のJAの准組合員に似た「非メンバー農民」という制度があり、その数が一合作社当たりなんと778戸もあるというのです。正式メンバー数の3倍にもなります。しかも日本のJAの准組合員は原則的に非農家で=地域住民ですが、中国の農民合作社の場合は農民なのです。

その理由は比較的単純です。規則どおりに、出資金を払っていないが合作社を利用することが許される農民がいるということなのです。

日本ではとても許されないことですが、そこは弾力的というかルーズというか、いかにも中国農村らしい点が滲み出ています。

日本のJAは農民全戸加入の慣習があり例外なく出資金を払い込み、みな「持分」というJAの区分所有者権利を与えられますが、中国の農民合作社もこの点は変わりません。

課題の一つは、JAのような総合経営体になることですが、経営の核になる事業が見つかりにくいこともあり、スムーズにはいかないでしょう。中国なりの発展をすれば十分ではないかと私には思えます。




2022/01/09

中国の穀物在庫急増の影響と背景 日経新聞にコメントしました(紙面をクリックすると全開します)


 

 最近、中国は世界の5大穀物の新規在庫増の約半分を占めています。日経新聞2021年

12月19日日曜版は、この問題を一面トップに掲載しました。見出しがこの記事の概要をそのまま言い表しています。

ここに、求められたコメントをしました。全国紙の中で、最も中国農業に詳しい記者を擁するのは日経だと思います。各地に記者がおり、筆者がしばしば電話話しをする在中国のお二人の記者は本当に詳しいです。在中国のNHK記者の中にも詳しい記者がいます。

新型コロナが落ち着いたら、現地農村で、彼らと中国農業について話し合いたいと思っています。


2021/10/04

水先物取引、ついに来た水の新しい時代―やがて、空気さえも?―

 ついに、水までも先物商品取引所の投機対象になりました。

去年の127日、初日の取引価格は496ドル/1エーカー・フット。日本人の中に1エーカー・フットとは何のことかを知っている人は少ないと思います。私にもさっぱり分かりません。

欧米の単位は複雑で、日本人は混乱したり大きなミスをおかしたり・・・・・。たとえば麦やトウモロコシの量の単位に「ブッシェル」というのがありますが、大豆、麦、トウモロコシ、それぞれブッシェルを使うのですが、実はそれぞれ、中身が違います。

つまり、大豆1ブッシェルと麦1ブッシェルは、単位の呼び方は同じでも重さが全く違うのです。大豆1キログラムと麦1キログラムは同じですので、分かりやすくていいですよね。

 

さて、水の単位、日本では立方メートル(㎥)やリットル(ℓ)を使いますが、アメリカなどでは、このエーカー・フットという単位を使うのが一般的のようです。調べてみました。高さ1フィート、面積1エーカーの箱のことです。

1フィートは30.48センチ、1エーカーは63.6メートル四方。この箱1杯の水を1エーカー・フットと呼ぶのだそうです。これをリットルに換算すると1,233,482ℓだそうです。さっぱり見当がつきません。大体ですが畔の高さが30センチくらい、面積40アールほどの田んぼを想像するとイメージがわきそうです。

 

ついでに、では、なぜ1エーカー・フットが水価格の単位になったかというと、カリフォルニアの一般世帯が1年間で消費する水の量を平均すると、大体1エーカー・フットなのだそうです。なんだか後付けのような気もしないではありませんが、そういう説明を見つけたのです。

 

さて、水の先物取引を始めたところはナスダック・ベルズ・カリフォルニア・水先物インデックス(NASDAQ VELES CALIFORNIA WATER INDEX FUTURE)というボードです。取引名は分かりやすいH2O

 

初日の価格は496ドル(0.4セント/ℓ)、取引参加者は期待ほどにはいなかったようです。

 

まえから気になっていたこともあり、ナスダックの該当情報に入り込んで、最近の相場を見てみました。

先物ですから限月(将来の決済月数または何か月後の価格を売買するか)が必要ですが、ひと月、ふた月、三月、五月、七月、九月・・・24か月辺りまでとなっておるようです。

 そこで、直近の価格ですが、限月ひと月もの857ドル、2年先もの993ドル、この二つに挟まる期間は、先になるほど上昇するようです。



先物取引の初日のほぼ倍に上昇しています。

 

水は有限な資源であることはどなたも知っています。海には計りきれない量の水があるのに有限、とは理解しがたいことのように聞こえますが、人類が使える水は南極圏と北極圏を除く陸地にある水と雨ですからほぼ固定的です。

 

一方、ウオーター・フットプリントの観点から、コメ1kg生産には3,400ℓ、牛肉1kgには15,500ℓの水が、工業用品も生活用水も負けず劣らずの水が必要ですので、人口が増え、生活レベルが上がると、水は足らなくなることは目に見えています。

 

水にはすでに価格がついています。1立方メートル当たり、生活用水を例にとると、東京は下水道料金抜きで22円(基本料金を除く)、中国は28元(約45円:水道水)です。

両国とも、水価格は上昇傾向にあります。価格には取水・給水・設備費などのコストがかかり、純粋な水価格の比較はできないのですが、上昇傾向にあることは否定できません。

 

おそらく、人類全体にとって、水はますます貴重なものになっていくことでしょう。水の先物取引所の開設はこの点が背景にあります。はたして、人類の水の適正な使用に効果があるのかどうかは不明です。水が、たんなる投機の対象にならないことを願いましょう。

もしそんなことが起きれば、やがて空気さえ、先物取引の材料として上場されないとも限りません。


2021/01/23

<社会主義所有制相対性論>について

 

 中国に行った際に普通の農民と接しているときに感じることだが、自分たちが政治制度上は社会主義といわれる国に住んでいることをどれくらい自覚し、本来の社会主義なるものをどれくらい理解しているのかとなると、ほとんど乏しい。ほとんどの農民にとり、中国の社会主義制度は、実はあまり重要なものではなくなってきているのではあるまいか。

  尋ねると、きまって返ってくる「政府・党のおかげで生活もよくなった」という言葉は、まったく「オウム返し」そのもので、「外人に訊かれたらそう答えておくだけでよい」と教育されているかのようだ。

 筆者はまだチベット、新疆、海南省、広西、貴州省には行ったことがないので、解ったようなあまり大きなことはいえないが、少なくとも、残りの26か27の省・直轄市・自治区の農村で、農民に会った経験からすると、中国の農民は中国の都会人や富裕者層のひとたちが考えるほど無能でもなければモノ知らずでもない。

むしろ、生き方を心得た人間としても、農業人としても優秀な方であると思う。若い頃、中国以外の国、アメリカ、豪州、東南アジア、東西の欧州諸国や日本全国すべての都道府県の農村調査をした経験からいうと、この点は、どこもほぼ同じである。

 生き方を心得ていると思うことは、となり近所との付き合い方、けっして豊かとはいえない生活水準のもとで、生きる喜びを最大にする術を知っているということだ。

農業人としても優秀、という点は、農業に素人な筆者や都会人ではとうてい知り得ないしできないことを身に付けており、それを理解し、日々、技術や技能を発見し更新し、それを全身に上書きする能力の持ち主なのである。

彼らが身に付けている農業技術や技能は、地主や貴族あるいは王族が農民に教え伝えてきたものではない。彼らは、何も知らないのだから教えようもない。みな、あるものは仲間から、あるものは自分の経験と努力からうまれ、改良してきたものだ。

 とくに近代になると、食料調達や分配の社会的安定が支配者にとっても不可欠になり、農業専門の技術研究、教育研修施設などが生まれてくるが、その受け皿たる農民に能力と自覚がなければ無意味なことである。

  中国農民の場合、何千年もの長い期間、農地を自分の所有物としたことがない。いまもそうである。いまではその正当化が、「科学的」というもっともらしい言説でもって、端的に言えば、社会主義なのだから当然だという、非常にざっくりの「思想」が根拠におかれている。

 では社会主義とは何かとなるが、生産手段の私的所有制度の廃止とその中央計画的運用、したがって搾取がない(公平な分配と同じことであるが階級制の止揚)、資源の適正配分、効率、公平な社会参加、自由、民主などがその要諦のはずである。言葉の使い方は教条主義的な論者とは異なるが、中身はそういうことである。

 では、実態はどうであろうか?

農業部門に限定して、いまの中国に照らして確認すると、そこには優れた点と問題点とが併存している。

 1、優れた点

(1)上述した農民自身の努力以外に、品種、基盤整備、栽培・飼養、収穫、保管などの新農業技術開発と普及に、資金、頭脳の国家的集中投資が行われ、多くの国際特許権を獲得しているほどだ。

 (2)灌漑整備や土地利用の大規模化が、国家もしくは地方政府主導により一気に可能。典型的には「基地」と呼ばれる大規模農業団地やビニールハウス農場が各地に誕生した。

その結果、農業参入を行う農外企業が増え、しかも数百、数千ヘクタールの農業経営企業を輩出した。

 (3)政府主導による改良品種の全国的普及、栽培・飼養技術の統一、政府買入価格の設定による農産物市場価格形成制度の一元化が可能になった。

 (4)農産物物流を担う車両の高速道路料金の無料化や軽減など、食料の統一的確保政策。この点は、新型コロナによる農産物物流の滞りや停止に対する強制的な排除やグリーンロードといわれる道路の迅速な確保にも応用された。

 

2、問題点

(1)現在の農地所有は制度的には(集体)集団経済所有制で、定義的には、農民の農地はそこからの借地である。

農地の所有制度なぜこうした制度になっているか、といえば土地は憲法で全人民所有制(公有、国有)とされているからで、なぜそうしたのかといえば、社会主義制度の国だからと、卵と鶏の順番争いのようになる。

 社会主義の指導者であり実権掌握者は党だから、実際は、農地を含む中国のすべての土地は見方を変えれば「党有」とも呼べる。つまり農民は、党から借地をしているともいえる。

 土地所有制度の呼び方はともかく、制度的には公有がよい、と考えた結果、いまのような制度になったわけであるが、人民公社時代に比べれば、いまの家庭請負生産制になって、確かに農業生産力は上がった。農民個々が、自由に農業ができるようになったためで、もし、農地所有が自分のものになれば、さらに意欲と工夫と努力が実り、生産力はこれまでにも増して高まることを示唆する。

 この意味するところは、農民には自由のない、ただ集団農場というだけの農地公有制―新中国ではその典型が人民公社だった―の優位性は一度も実証されたことがなく、むしろ否定されたということである。

 (2)家庭請負責任制という農地制度には、新たに登場してきた地方ボスが、農民から農地を奪い、身勝手な農地の使い方を許す問題を全国規模で起こしているという。形式的には請負農地の権利が別の農民や企業に移転していく過程で起きている問題だが、形式的土地取引の背後に隠れて実態は見えにくい。

 (3)大部分の農民は生活に苦しく、跡継ぎもいない。だから農地を売却したいが、自分が使っている農地には所有権がないのでそれができない。一方、大規模化を進めたい農民は資金の準備はできても、近在の農地が複雑な権利移動関係にあるのが普通で、農地を団地式に集めることができないし、集めた農地はすべて借地のままである。

 (4)農民が集団経済から借りている農地面積は狭く、単純平均で一農家当たり65アール。これでは一家を養うことは到底できない。さりとて豊富で労働条件に恵まれた兼業機会がそうあるわけではなく中途半端だ。そういう意味では、農地は生活を補っている。だからといって、農地制度がこのままでいいとはいえない。

 (5)借地でも安定した経営ができればまだいい。実態は、農地は公有であるという理由から、公共の利益という名目のもと、しばしば強制収用に遭う。しかも補償制度は弱く、補償は農民または農業企業ではなく、農地所有者すなわち集団経済に支払われる仕組みだ。農民はそこから、一定の補償金を受け取るのだが、農産物販売代金の3年間程度を受け取る程度である。まれに、収用された農地に建ったマンションの一室など物的補償を得る場合もあるようだが、農民には習慣がなく住めない。だから売却してしまうが、そのお金はなかなか身に付かないように聞く。

 (6)農民と農地を農村に縛るための戸籍制度(1958年)は農民を一般勤労者から切り離し、製造業やサービス業に正規に、つまり都会生まれの人と同じように従事することを許さない。許しても待遇や社会保障制度では差別を受ける。農地使用権(借地権)は農民でないと持てないので、逆に都市戸籍者には差別になる。

 以上、現在の農地制度の持つ優劣を事例的・断片的に紹介したが、劣位の部分をいかに是正していくのか?

 中国では、農地の所有制度について、批判を受けながらも私有化論が根強く存在する。もちろん農地の私有化だけで問題は片付かない。筆者の近著『中国土地私有化論の研究』でも、この点を論じている。これには、さまざまな反響といおうか批判といおうか、激励といおうか、さまざまなご意見やコメントをいただいているが、まことにありがたいことである。

 ところでいま、筆者が考えているのは<社会主義所有制相対性論>とでも命名しようかという研究課題である。ひとことで紹介すると、中国に関する限り、いまこの国は社会主義制度あるいは共産党支配の状態にあるのだが、それと所有制度は相対的であり、実質的には両者は無関係でよいのではないか、という見方である。

 現に、本来は社会主義と対立・矛盾するはずの市場経済は発展し息づいており中国発展の柱となっている。五カ年計画や毎年の中央一号文件は存在するが、そこにマルクス・レーニン主義に本来的な中央計画経済は存在しないといえるほど微弱だ。

 また、所有に関しても企業そのもの、個人の株式や預金など金融資産、マンションなどの不動産の一部、高級車など物的資産、企業や農民の建物や製造・生産設備、牛や豚など動産の私有化が進み、経済活動の根幹を支えている。資産の大衆所有化は徐々に進んでいる。

これら私有資産の隊列に土地が加わったところで、中国の体制に影響するところはまずないであろう。つまり政治の社会主義や共産党一党支配という実務的制度と所有制度は相対的なものであり、分離してよいと思うのである。社会主義イコール土地公有というのは、観念論に過ぎないともいえる。社会主義の国にも私有制度は成立しうる。

 見方を変えれば、中国の現在の体制はそれほどまでに柔軟で、我々が頭の中で想定してきた正統的な硬い社会主義などではなく、「中国の社会制度」である。これを「中国の特色ある社会主義」と呼ぶのも、もちろん自由である。

2021/01/09

中国米の味と今後の変化

  中国で食べるコメの味はお世辞にも、良いとは言えないと思うのは、日本人だけかもしれません。昔の日本米は日本晴れという品種に代表されるように、味より量、少しでも収量の高いコメが優れた品種とされてきました。

 ところがいまや、日本米はブランド勝負、つまりは味勝負の時代になりました。スーパーで売られているコメはほぼブランド米か、有名な優良品種だけとなりました。

 高いのは新潟県の南魚沼産の無洗米コシヒカリ、無洗米北海道産ななつぼし、山形産のつやひめ、岩手産ひとめぼれなどですが、私は新潟県の岩船産コシヒカリも相当なものだと思います。故郷の近くということもあるかもしれませんが、残念ながら、私の生まれ故郷の中条産はあまり有名ではありません。おいしさにかけては岩船産にも負けてはいないのですが。

 では中国のブランド米にはどんなものがあるでしょうか?

 河南省原陽米、吉林舒欄米、黒竜江省五常米、遼寧省柳林貢米、河南省原陽米、その他いくらでもあります。ただし、ブランド米を全国統一的に規格化し、消費者に対する威厳ある組織によるものではなく、かなり勝手で宣伝的な要素が強いブランド化ですので、公平といえるかどうかは疑問です。 

 もう一つ日本とはちがって、中国米独特の留意が必要な点があります。それは、中国ではコメと一口でいっても、ジャポニカ系(主に東北産の日本米と同系統の単粒種)とインディカ系(タイ米など長粒種)があり、それぞれにブランド化されている点です。消費量はほぼ同量ですが、インディカ産は主に中国の南方産です。輸入量が多いのもこの品種です。

 私は長粒種の香りとさらさら感もスキですが、やはり、ご飯といえば単粒種です。かなりおいしい品種、日本のコシヒカリ系の色つやがよく粘り感がありやや甘みのある品種もありますが、末端価格は1キロ12元~13元、一般米の二倍以上はします。

 ところが、味という点になりますと、日本人独特の好みを基準としますと、やはり、まだまだというところです。では、日本人の好みはガラケー並みかというとそうでもなく、日本で食べたコシヒカリの味は、中国人も、やはりおいしいと喜んでくれます。

 おそらく、中国でも日本のコメのような味を求める動きが急速に進むと思われます。ご飯におかずを乗せたりかけたりすると、コメの味はきえてしまいます。余談ですが、日本の丼物、たとえば牛丼、かき揚げ丼など、汁物が混ざった丼物に使われるコメは古米、古古米が多いと聞きます。コメの味よりも肉とか天ぷらとかの味の方が勝ってしまいますから。高級丼物、たとえばうな重などは、コメもおいしいですよね。なぜかというと、うな重とコメは味のハーモニーを奏でますので、片方がまずいと全体が台無しです。

 中国本来の料理に丼物は多分無いと思いますが、店物ですと、最近は日本風の丼飯は大流行です。習慣的に白いご飯の上におかずを乗せて、両方を混ぜながら香りを嗅ぎながら、箸で喉に送り込む食べ方もありますが・・・・・。

 おいしいコメの味嗜好が広がっていくと、コメのブランド化と価格の多層化は一層進み、おいしいコメを作る農家の所得が上がる日本のようになると、頑張った農家にとっては励みになるに違いありません。

 追伸:『無洗米』は日本の発明ですが、読んで字のごとく洗う面倒のないコメのことくらいはご存じでしょうが、その誕生秘話について、いずれお話ししましょう。


2020/12/07

農民力学とSDGs

  新潟下越地方の稲作農村生まれの私にとって、中国の農村で、気が付けば故郷の風情を探している自分がいることがしばしばです。意識してこまかく観察すればみな違うのですが、風情という感情を軸にすると、似ているところの方が多いように思います。

 

たとえば、一面がたんぼのあぜ道や大きなむらさき色したナスや赤いトマトがぶら下がった夏の日の村はずれの畑に立った時、そこは新潟の農村の風情と変わるところはほとんどありません。土の色、稲穂が揺れるときかすかに発てる葉のこすりあう音、堆肥をまいたと思われるやや萌えるような鼻をつくにおいなどは、小学生のころ通った通学路で毎日のように触れた感覚と同じです。

 

いまの中国の農村の風情にも、新潟平野と似たところがあって、農繁期ともなればトラクターやコンバインが広い農地を轟音を響かせて行く姿があります。

 

そんな風情が好きなこともあり、中国の農村行脚から離れることはできません。また、ときおり見かける農作業をしている農夫や農婦が腰をやや屈めるようにしている姿は、いまも新潟下越の農村で目にすることがしばしばです。そんな共通点もあるからかもしれません。

 

しかし残念なことに、その農村に行く機会がないままはや一年間が経ってしまいました。そこにはほぼ何も変わらない光景があるのでしょうが、農村のちょっとした食堂で食べる農家料理のことも、農家の暮らしも、一人暮らしのおじいちゃん農民の農業現場の様子も、ともかく中国へいかないことには見ることはできません。

                           

新潟というところに住むと、東京のようになることだけが発展で、土着的なことや伝統的なこと、田舎染みた風情やことば(たとえば方言)をさえ消すことが、あるべき姿という感覚があたりまえのようになりがちでした。

小学生のころ、教室や廊下で、先生の口から盛んに発せられた「標準語をしゃべりなさい」という空虚なことばは、いまでも耳についています。そんなことができるわけがありませんでしたし、当の先生が方言を話していました。

たぶん、これと似たことは中国の農村の学校でも起きているのでしょう。

そうしていながら、新潟の農村も中国の農村もやはり少しずつ、巧みに、たくましく変化し発展していることも見逃さないようにしたいと思っています。内面から変わっていく農民の力学の存在が農村の歴史にもなってきました。そうでなければ、農業という職業も農民という社会的存在も、とうの昔に消えていたにちがいありません。

この力学の持続的発展を守るにはどうすべきかを考えてきましたし、これからもそうしたいと思います。これが私個人にとってのSDGs論でもあります。

2019/07/11

中国の農土を握り、臭いを嗅ぎ続けて

 中国の農村が好きなのですが、そこかしこで土を握り、嗅ぐことが習慣になりました。農土はもはや自然物ではなく、何百年、何千年と耕され、何千人という農民や地主に酷使され、すでに、絞っても絞っても一滴の水分も出なくなった乾いたタオルのように、あらゆる養分が吸い取られ干からびてしまった農土もあります。

 いま、緑の植物を育てている農土も、すでに自然物ではありません。手を変え品を変えしてあらゆる手を尽くして延命措置をほどこし、鞭打つように激務に耐えさせられ続けてきた農土。

 そのような農土を握り、嗅いでいると、なぜかその土がいとおしくさえ感じられることもあるのです。手ですくい、ときにかたくなったのを道具で掘り返して握った時の感覚は、実にさまざまです。

 中国の農土、ものの記録によると農土は中国の最初の夏王朝(紀元前2000年ころ建立)以前から、栽培のために使われた可能性があるそうです。そして、その 農土は、4000年以上過ぎたいま、河南省に住むだれかによって耕されている可能性があることになります。

 となると、使われ方やケアのされ方はともかく、農土の寿命はとてつもなく長く、これに勝る人間が作り上げた生産手段は他にはないといってもいいでしょう。どんなに優れた機械や工場も、その命は農土にくらべれば稲妻の光ほどもない短さではないでしょうか? 驚きですね。

 その中国の農土ですが、長年の経験から、地域によってパターンはさまざまですが、握るといくつかの感触に分けることができます。実際は、もっと微妙な差がありますが、省略します。

 臭いに、土本来の臭いはなく、肥料臭や農薬臭、ときに機械油が混ざったような人工的な臭いが混ざっています。しかし、よく嗅ぐと、農土にも個性があるものです。皆さんも、近くのあちこちの農土を、なければその辺の土を握って、嗅いでみてください。面白いですよ。

1、柔らかく小さな玄武岩を含む赤土・・・・握ると、ぐにゃっと指の間からはみ出す。しぶくてキノコ臭が新鮮な土と混ざったような臭い。
 山土(やまつち)に多くみられ、雲南、福建、湖南などで遭遇する機会が多い。

2、黒くて柔らかな粘土のような土・・・・握った感覚は上の赤土と似ているが、色は濃い茶色で、あまりきれいとは言えない。ほとんどが、落ち着いた普通の土の臭いがベースになっている。
 南方や西方、たとえば広州、四川、青海などで遭遇する機会が多い。 

3、灰黒色で、やや砂土や水晶系かガラス系の細かな粒子が混ざった土・・・・・握ったとたん手のひらが砂を感じる、やや乾燥。土の団粒構造はかなり疲弊し、乾燥というよりも固まった土の感がする。比較的無臭だが、深く吸い込むと、私の故郷、新潟北方の土と最もよく似ている。
 浙江、上海、江蘇、河南、山東、吉林、遼寧などで遭遇する機会が多い。

4、やや茶色で、粘土質を含む砂地系の土・・・・・握った感覚は上の土(3)と似ている。無臭に近く、深く吸い込むと子供のころ工作で使った粘土に似た臭いがする。
 北京、河北、山西、内モンゴルなどで遭遇する機会が多い。

5、黒っぽい砂質土壌で比較的さらさら感がある土・・・・握っても固まることなく、すぐに崩れてバラバラいになる。湿り気があり近くに大河川が流れている光景に出会うことがある。臭いは腐敗した木の葉のように、自然感がある。
 黒竜江では多くがこの農土。

6、黄色に近い茶色をして、粘土質の濃い、やや硬い農土・・・・・握っても、手のひらの形はできず、手のひらを下に向けるとバラバラになって下に落ちる。乾燥がそうしたのか、土の団粒構造が破壊されたためなのか、土同士の結びつきはゆるい。
 陝西、甘粛、寧夏などで遭遇する機会が多い。

 どんな農土にも、家禽・家畜・人糞・魚介などの有機肥料(中国では農家肥料と呼びます)あるいは化学肥料の臭い、あきらかに化学薬品臭のする農薬の臭いが混ざり合っています。
 私は、経験から、その農土に使われている家禽・家畜・人糞・魚介などの別を嗅ぎ分けます。しかし、まかれている農薬の種類までは区別できません。