2026/04/22

中国の食料自給率はピークが過ぎ、低下するばかり

 2010年から2023年までの14年間の中国の食料自給率(穀物、青果物、畜産物、食用油、砂糖類など64品目をカバー)を計測しました。その結果は、以下の通りです。

 

中国の食料自給率推移

 2010年:88.8

2011年:90.0

2012年:88.2

2013年:90.2

2014年:90.4

2015年:88.9

2016年:85.5

2017年:83.2

2018年:81.7

2019年:80.9

2020年:75.3

2021年:73.2

2022年:74.6

2023年:73.7

 

20102023年の14年間のうち、中国の食料自給率は2013年、2014年がピークだったことが分かります。2013年、2014年といえば、習近平が最高権力の座に就いた2012年末の「中央八項規定」に始まる反腐敗、反高級接待指示、ここでは過剰接待や赤じゅうたん、横断幕、花飾りなどをやめる方針が打ち出され、20132014年にはその執行が一気に強まりました。

 さらに201312月には「党政機関国内公務接待管理規定」が発令され、中国人の文化の一種でもあった接待飲食気運が急速にしぼんで行きました。

 中国人一般家庭の食事場所は、屋台や広い歩行者道路にまで張り出したテーブル食からまち食堂など、さまざまですが、これらの規制気運は、無関係な庶民の心にも浸透、食事は簡素化しました。

その行き過ぎた食の引き締め気運が、食料消費の伸びを抑えたのでした。2013年、2014年の食料自給率が高止まりした背景ではないかと推察します。

 さて、20102023年までの14年間の食料自給率の平均は83.2%です。ところが、この17年間を、前後7年ずつに分けると明白なことが分かります。

 20102016年の7年間は88.9%なのに対し、20172023年の7年間は77.5%です。

 つぎに、20172023年の7年間を、3年間と4年間、すなわち ① 20172019年と② 

 20202023年とに分けると、①  81.9% ② 74.2%となり、最近になるにしたがって低下していることが分かります。

 グラフからも、この点は確認できますね。

中国人の食生活は年々豊かになって、畜産物の消費は、伝統的な豚肉・羊肉・鶏肉を使った料理や豆乳から、牛肉・バターやチーズ・牛乳をふんだんに消費するようになり、街には肥満の男女が溢れる光景が広がっています。

 飼料として使われるトウモロコシや大豆、雑穀は、いくらあっても足りません。

 食用油も、以前は動物性のものが多かったのですが、最近は、トウモロコシ油・菜種油・大豆油・ヒマワリ油・落花生油など多彩です。これらは、大量の原料(トウモロコシや大豆など1次産品)を消費します。

 こうなると、穀物、トウモロコシや大豆(粕)などは、中国でも大量に消費されるようになります。これからも、この傾向は強まりせよ、弱まることはないでしょう。

 世界の2010-2023年間までの食料自給率(カロリーベース)の計算アプリが開発され、公開されたばかりです。

 中国にかぎらず、日本、台湾、韓国、インド、カナダ、オーストラリア、イランなど180国程度の国の食料自給率が簡単に分かります。

 興味のおありの方は、下記のURLをクリックしてみてください。

 すぐわかる世界の食料自給率アプリ


2026/03/09

新しい論文が出版されました(Agriculture and Food Security: 高橋五郎)

 202636日、私の論文

“A new method for calculating the food self-sufficiency ratio: supply-side food self-sufficiency ratio”
が、食料安全保障分野のQ1ジャーナルである Agriculture & Food Security (S


pringer Nature,BMC)に掲載されました。

この論文では、従来の食料自給率では十分に評価できなかった肉類、乳製品、油脂、砂糖、水産物などを含め、食料供給全体をより実態に即して評価するために、SSFSSRSupply-Side Food Self-Sufficiency Ratioサプライサイド食料自給率 という新しい指標を提示しました。

この方法の鍵となるのが、PPCRPrimary Product Conversion Rate です。これは、二次産品を生み出すために必要な一次産品量を換算するための係数です。論文では、この PPCRの低下を図ることで、単純な食料増産に頼らずとも、食料自給率の上昇を実現しうることを明らかにしました。これは、食料安全保障政策に新しい視点を与えるものです。

この方法による計測では中国2023年の食料自給率78.5%、2010年の88.8%から大きく低下しています。

また、日本の食料自給率は農林水産省の公表する38%の約半分であることも示されました。これは、日本の食料安全保障を考える上で、従来の指標だけでは不十分であることを示唆しています。

掲載論文の詳細は以下です。
Goro Takahashi, “A new method for calculating the food self-sufficiency ratio: supply-side food self-sufficiency ratio,” Agriculture & Food Security, 14, 46.

 論文URL:  

https://doi.org/10.1186/s40066-025-00570-z









2026/02/13

過大評価だった?中国土地革命


 (写真:中国内陸のある村の光景。高橋撮影)

中国の最大の課題は土地制度、実際の土地利用、土地権利の諸矛盾などの諸問題をどう解決するか、というものだ。

 

技術、自然資源、交通に問題はなく、教育、市場機能、暮らし等々もどちらかといえば平穏だ。ただし経済成長はほぼ終焉するステージにあるので、これからは、日本やアメリカと同じように、富の分配をめぐる対立(よくいわれる「分断」は、それが表面化したものだろう)が起こる可能性は否定できないだろう。

 おそらく、中国は冒頭で示した課題を置き去りにしたまま、経済成長がほぼ終焉するステージに入り込むのではなかろうか。

 とすれば、土地問題の解決はさらに遠のき、農民の普遍的であるはずの権利も空のかなたへ消えゆくかもしれない。

 そこでだが、これまでの土地の歴史は、おおむね次のようなものだった。

 はるかむかしの西周(紀元前11世紀頃)から、今日までの約3000年の中国史を「土地レジーム」というキーワードでふりかえると、王朝(支配者の象徴)と農民(被支配者の象徴)の対立の歴史だった一面が見えてくる。

 対立は、ときに農民反乱、生活苦からの逃散(むらから逃げ出すこと)や盗賊化を生み出した。逃げた者は、土地が欲しかったわけではない。逆だ。土地から逃げたかった、農民の立場から逃げたかったのである。

 時代が下ったあと、宋代、元代、明代、清代、民国期以後においても、農民が王朝や大土地所有者からの苛斂誅求(むごく厳しく、非道に取り立てること)に合って来たことに変わりはない。

 それを変えようと、孫文、次いで毛沢東がいわゆる土地革命に乗り出した。孫文は「平均地権」(土地所有の平均化)、「耕者有其田」(耕作者が土地を持つ)などの斬新な改革案を打ち出した。しかし孫文は、農民問題の解決に本気ではなかった。

 一方の毛沢東は、というと、真剣だった。

地租軽減、地主制度の解消、土地分配策などの土地革命を打ち出し、農民の歓心策を展開した。

そして毛沢東は土地革命を急いだ、急ぎ過ぎたので、さまざまな非道もあった。この頃、毛沢東ひとりの意向が国のなりゆきを左右した。

 貧しく、正直な農民たちは、「私の味方になれば、あなた達には土地をやる」という毛沢東のことばを額面どおりに信じて、大多数が反国民党戦線と抗日戦線に、命をかけて積極的に参加した。

 1949年の中国革命が画期的だったことは、間違いないなかろう。一度は農民に土地に与え、私有化を認めもした。農民は歓喜の渦に包まれ、方々で、毛沢東と土地革命の成功を祝う農民歌が生まれ、老若男女の農民の歌声が村々で響き渡ったという。

 ところが農民にとっては信じられないことに、すぐあとで官製の合作社、そして人民公社に、ほとんどの土地や農具、そして労働力までもが、供出を強制されることになった。歯車が逆回転したように。

 農民は「なにごとか?」・・・・と、悲愴と迷いで混乱したことだろう。

 

少し時間をおいて、人民公社の失敗が明らかになり、農地は農家のかなり自由な耕作裁量が広がり、時代はいまに至った。

 しかし農民に、自分の農地はない。農民集体という実体のないところの農地を耕作するようになったが、農民が零細な農耕をすることに、なにも変わりはない。

 実体のない農民集体から農民が農地を借りることを中国政府は「請負い」と表現しているが、経済学的には農地貸借、あるいは農作業請負(職業分類上は「サービス業」)である。

 農業所得は農家所得の三割強程度、生活費の大部分を出稼ぎなど、いまも、農外就労に依存しなければ生活は成り立たない。

 荒っぽいいい方だけど、最近、1949年の中国革命を過大に評価し、それまでの王朝時代と比較して、農民問題や土地問題が、質的に、大々的に、途方もなく、画期的に改善された、と思い込んでいただけかもしれない、という疑問が筆者の脳裏をかすめるようになった。

 もしかして、革命を評価し過ぎて、見るべきことをどこかに追いやってしまっていたのではないか、と思うこの頃である・・・・・・。

2026/01/13

穀物単収、最大2:1の地域差

   

  中国政府によると2025年の穀物生産量はこれまでの最高、7億1,500万トンに上り、前年比  

  1.2%、838万トンの増加だったといいます。

 作付面積は1億1,940万ヘクタール(二期作を含む)、前年比9万ヘクタール、0.1%の増加だったといいます。いくら中国とは言え、毎年、よくもこうも面積を増やせるものですね・・・・・・。

 

とは言っても、生産量は作付面積の増加以上に増加したのですから、単収の増加が背景にあったわけです。これだけの世界の天候不順にかかわらず、これだけの豊作を実現したのだから、中国農業おそるべき耐久力と成長力を持つと言えそうですね。

 

そのかげで、コメや大豆、食用油などの輸入量が前年を上回る趨勢にあることも事実で、一方には、生産は増えたけれど消費に追い着かない中国の姿もあるということです。人口は停滞していますが、食料需要はどんどん増えているのです。

 

だから、SSFSSR方式による筆者試算の食料自給率も改善している状況とはいえず、70%台にあります。この点は、近いうちにくわしくこの場にお知らせする予定ですので、その節はぜひお読みください。

 

こんなにおおくの穀物が生産されているのですが、面積当たり生産量(単収:10アール当たり生産量、kg)は地域ごとにみると大差があります。

地域イコール省・自治区・直轄市(北京、上海、重慶、天津)としますと、最大で2対1くらいの差があるのです。

 

品種の差や天候の差、農地の質や水利、地形、標高などが影響いていると考えられますが、その様子をグラフにしてみました。データは2025年、中国農業農村部が作ったものです。

 

このグラフは、単収が最大の新疆ウイグル自治区の単収から、各地の単収を引いた数字をそれが少ない順に並べてありますので、一番右には、その差が最大の青海省が位置します。

 

知覚的にも、その差のなんと大きなことか想像がつくことでしょう。

 

最も単収が高いのは小麦とトウモロコシの産地、新疆ウイグル自治区で829kg/10アールとすごいのです。次は上海ですが、そもそも作付面積が少ないので飛ばした次が吉林省、743kg、最も少ないところが青海省の392kg、二番目に少ないところが貴州省で421kg。

 

増穀物単収の地域差が非常に大きい中国、最大で2対1ものひらきがあるのです。

 


厳密にいいますと、栽培する主な穀物が何であ
るかによって、この序列は影響を受けます。一般的には、単収が最大の穀物はトウモロコシ、次に米、最後に小麦の順ですので、トウモロコシが主産地のところはこの序列が上に、小麦が主産地のところは最後になる傾向があります。

 

でもトウモロコシ栽培が盛んだからといって、序列が上位に来るとはかぎりません。内モンゴル自治区や黒竜江省がその例で、序列は31の省・自治区・直轄市のうち内モンゴルは14位、黒竜江省はコメの産地でもあるのですが21位にとどまっています。

 

同じことは貴州省にも当てはまり、コメが最大の穀物ですが前述のとおり421kg、序列は30位です。

ですから、穀物の単収に与える影響が大きい要因とは何なのか、筆者にはよく分かりません。これからの課題にしておきましょう。