2022/09/01

中国の穀物生産量の記録的な減収に現実味

地球レベルの天候異変から、今年の穀物生産量がどうなるかに世界の注目が集まっています。穀物生産が天候と深いかかわりがあることは常識です。

氷河の雪が溶け、北極の気温が30度を超える日が続き、世界中で、高温と洪水が同時多発的に起きているのが今年の現実です。

その顕著な例が、いま、中国各地で起きているのです。中国ではこれから秋の本格的な穀物の収穫時期を迎えます。中国で年間生産される穀物の70~80%は秋以降の収穫が占めますので、その生産量の大小は、9月以降にならないと全容が判明しません。

ですから、いまの段階で今年の穀物生産量が平年作にくらべて多いか少ないかを決めつけることはできません。

しかしですね、この春からずーーと中国の天候の推移を見てきた自分としては、異変が起きている、と直感することがあまりにも多過ぎました。

この点は中国気象局がネットで毎日発表する天候情報、日本の気象庁が発表する天気図や衛星写真に写る雲の流れなどを見ると、素人目に見ても感じ取れることです。

中日新聞WEBのコラムにも最近書いたことですが、たとえば、高温。8年間(2015-2022年8月まで)毎日の気温を記録した湖南省長沙市の気温を8年間のうち前の4年間と後ろの4年間の毎日の気温の平均(同じ日の4年平均)で比べると、最近4年間の7月~8月の気温は、その前の4年間よりも3度以上上がって、40度近くに達していることが分かりました。わずか4年の間に、3度も上昇したことになります。

高温は大地と河川・湖沼の乾燥を招き、水位が低下した長江の川底から約600年前に作られたとみられる仏像が3体姿を現したり、最大の淡水湖の鄱阳湖(日本語読みで「ぽようこ」:中国語で「ポヤンフ」)が干上がったり、かといえば年間300ミリ程度しか雨の降らない内モンゴルや水田地帯の江西など南方では大洪水が発生したり、自然災害の発生を聞かない日がないほどです。

そのために水田が干上がり、他方では水田や畑が流されています。この被災は局地的なものでもなければ、一過性のものではないことが深刻なことです。

2021年の統計によると、中国の生産量はコメ(玄米)1億4260万トン、小麦1憶3694万トン、トウモロコシ2億7255万トン、合計5億5209万トンでした。

私の予測では少なく見積もって600から1000万トンは減収になるのではないか、と見られます。この数字は、パーセントにして1.1から1.8パーセントのマイナスに相当します。

今年は5年に一度の共産党大会(10月)が開催される予定、習政権の延長がほぼ間違いないともいわれています。中国当局にとって、このお祝いごとに泥をかけることは絶対に避けなければなりません。

残された一か月の間に中国のコメさん、小麦さん、トウモロコシさんはどれだけ「頑張る」ことができるでしょうか?











2022/06/07

穀物自給率100%未満が大部分、149か国・84%も

 


 このほど統計がそろう世界178か国のカロリーベース穀物自給率(対象は畜産物の飼料を含むコメ、小麦、トウモロコシ、大豆)を試算してみた。最新の統計データ(FAO:酪農品に補足上の弱点があるので留意の必要あり)は2019年。

その結果、自給率が100%以上の国・地域は29、わずか16%にとどまることが分かった。残りの149か国84%は100%未満(グラフ参照)。

もっとも高いのはウクライナ500%を超える。ちなみにロシアは117%。両国はいつ終わるとも分からないドンパチをやっていることもあり、世界の穀物の需給は不安定さを増す。

世界最大の穀物生産国の中国(本土)は80%そこそこ、日本は、といえば驚くなかれ

21%少し。この秋、日本の穀物と畜産物(豚肉・牛肉・鶏肉・酪農品・・・)の価格は円安の拡大ともあいまって、高騰する可能性がある。


世界の穀物自給率の分布を地図にすると、地政学的食糧地図ができあがる。地図の黒っぽいところは少なく、白に近いところが大部分だ。世界には、自給率ゼロの国も16か国、10%以下を含めると、なんと46か国も。その多くの国はアフリカ、中東にある。

輸出余力のある、100%以上の少数の国は南北アメリカ、ウクライナ、ロシア、豪州、フランスなど欧州のごく一部にとどまる。

しかしどの国も地球をめぐる新しい変化、たとえば気候危機、土壌危機、農薬など化学物質汚染に直面し、貧しい国ほど、豊かな国による食料買い占め競争や戦争・紛争のあおりをうけ、食糧が手に入りにくくなっている。貧しい国は二重の理由から深刻な食糧危機に直面しつつある。


2022/04/19

中国の農地制度が質的な転換をし始めたことについて-農地請負資格者に「商工企業等社会資本」を追加-

中国の農地制度の基幹となる法律は「中国農村土地請負法」というものです。2003年に制定されてから15年がたち、この法律を支えるはずの農村の社会基盤が大きく変わりました。

2018年、この法律は質的な転換を図りました。ついに、それまで禁止されていた、農地請負権の資格者に、「商工企業等社会資本」と呼ぶ「資本制企業」を認めることにしたのです。これには資格者としての妥当性を審査する要件を設けましたが、実質的にはこれら資本の農業経営への直接参入を許容したといえましょう。

「中国農村土地請負法」は中国農地制度の脱社会主義化の一歩、農民は耕作の自由の拡大を通じて生産意欲を膨らませ、食料生産の社会的増加に大きく貢献するようになれたのでした。

しかし中国の経済社会の大きな変化・膨張は、やはり農村のあり方を根本から変えました。古い時代に生まれた発想は、時代の変化とともに農地制度をも新しいものに変えざるを得なくなったのです。

同法の社会基盤だった若者は農村から消え、農家世帯は高齢者が占め、若い夫婦は都会に出稼ぎに行き、お金を稼ぎ、生活もレベルや食生活も向上しました。

他方、家族的結びつきの弱体化が進んでしまいました。後継ぎするはずだった子供はみな進学、専門学校や大学へ、卒業後は都会に就職・定住、古い農村基盤が崩れるのは抑えることのできない必然だったのです。

農業の担い手が個人(農民)から企業へ、しかも単なる企業ではなく資本制企業という、利潤を目的とするものへと広げざるを得なくなったのですね。

中国農業はますます資本主義的になり、やがては私的営利企業が農業と農地制度の担い手の中核に成長する可能性が濃厚になってきたように、私には思えます。


この改正にともなって、農地の出し手と受け手が交わす農地請負契約書の書式も変わり、ようやく2021年に、そのひな形も公布されました。中国の農地制度は、またまた大きく質的に変わり始めています。


 

2022/02/17

中国が世界を牛耳る100の分野、3月刊行の光文社新書の表紙が出来上がりました。

 


ほとんど枯れかけている全身の「バッテリー」を絞り出して、「乾いたタオルを二度絞る」とはこのことか、と思いつつ書き上げたものです。学術書ではありませんが、実証精神を心がけ、優秀な編集者とはときに静かなバトルをしながらの著書です。3月には店頭に並ぶ予定ですので、ぜひお手に取って眺め、できたらお買い求めください。

2022/01/25

発展する中国の農民合作社と非メンバー農民(農民の准組合員)

 このほど発表した中国の農業農村部情報によると中国全体の法人登記済の農民合作社数は221万9千社に上ったといいます。一合作社当たりの正式メンバー(日本のJAに例えれば正組合員=農民)は245人ですから、とても小さいですね。だから、数が多いということでしょう。

メンバーの総数は5億4400万人ですが、中国の農民合作社は総合経営を行う日本のJAとはちがい、大部分が専業農協のような単一経営体です。農業機械合作社(農機共同利用)、リンゴ合作社、信用合作社、野菜合作社等々。ですから、一人の農民が複数の合作社に加入することは少なくありませんから、この5億4400万人には同じ農民が複数数えられていますので、実質は、こんなに多くはありません。

このメンバー以外、おもしろいことに日本のJAの准組合員に似た「非メンバー農民」という制度があり、その数が一合作社当たりなんと778戸もあるというのです。正式メンバー数の3倍にもなります。しかも日本のJAの准組合員は原則的に非農家で=地域住民ですが、中国の農民合作社の場合は農民なのです。

その理由は比較的単純です。規則どおりに、出資金を払っていないが合作社を利用することが許される農民がいるということなのです。

日本ではとても許されないことですが、そこは弾力的というかルーズというか、いかにも中国農村らしい点が滲み出ています。

日本のJAは農民全戸加入の慣習があり例外なく出資金を払い込み、みな「持分」というJAの区分所有者権利を与えられますが、中国の農民合作社もこの点は変わりません。

課題の一つは、JAのような総合経営体になることですが、経営の核になる事業が見つかりにくいこともあり、スムーズにはいかないでしょう。中国なりの発展をすれば十分ではないかと私には思えます。




2022/01/09

中国の穀物在庫急増の影響と背景 日経新聞にコメントしました(紙面をクリックすると全開します)


 

 最近、中国は世界の5大穀物の新規在庫増の約半分を占めています。日経新聞2021年

12月19日日曜版は、この問題を一面トップに掲載しました。見出しがこの記事の概要をそのまま言い表しています。

ここに、求められたコメントをしました。全国紙の中で、最も中国農業に詳しい記者を擁するのは日経だと思います。各地に記者がおり、筆者がしばしば電話話しをする在中国のお二人の記者は本当に詳しいです。在中国のNHK記者の中にも詳しい記者がいます。

新型コロナが落ち着いたら、現地農村で、彼らと中国農業について話し合いたいと思っています。