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2025/11/04

コスト高の悩みから生まれた、中国の26階建て高層養豚の大きな課題 (つづき)

 前回、ここで紹介した中国高層養豚(繁殖から肥育までの一貫養豚経営)のつづきを書くことにした。関心のおありの方がけっこうおられることも分かった。

いま中国でみられる高層養豚は26階建て程度の高層ビルに、人間ではなく、豚が短い生涯を送る施設を作ろうという動きが始まり、各地で広がる動きを見せている、ということなのだ。中国人以外には、とても思いつく話しではないと思う。

今後、高層養豚が中国で安定的に拡大し、経営がうまく行くかどうか私には判らない。背景に養豚農家の減少、拠点集中養豚、糞尿・衛生管理・病気改善、コスト抑制などがあると思うが、これらの問題を解決できるのかどうか、課題も少なくないと見られるからである。

今回はこの視点に立って、高層養豚を検討してみよう。

まず、高層養豚は金食い虫、だという問題がある。高層ビル建設費、パイプ式糞尿処理施設(豚は特に排尿量が非常に多く、糞も泥状である)、糞尿が発するガスや気体などの被害対策、無菌室設計と建設、脱臭装置、水道光熱費、高層の飼料パイプ、解体と解体時の血液・糞尿処理、骨や歯その他残滓の送管や保管、解体後の固体管理・冷蔵冷凍倉庫、コンピューター管理装備、高層養豚専門飼育員養成・・・・・・・・数え上げたらきりがない。通常の養豚事業ではほとんどが無縁のものだ。

これらを合わせた建設資金やその他の事業資金がどのくらいに上るのか、いっさい明らかにされていない。総額40億元(600億円以上)・・・・という数字は聞こえてくるが。事業は地方政府の公的資金援助を受けていなければ、到底できないことである。

以上の問題はどれもこれも解決しようとすると難題で、高層養豚を始めたはいいが、いまのところは試行錯誤の段階、新たに生まれた課題も多く、まずは運転資金調達をどうするか、販路をどうするか、といった課題に直面している模様である。

筆者からみると、どれもこれも大変な問題なのだが、豚の棲む場所は無菌室なので、おそらくは換気も制限され、糞尿から出るアンモニア、硫化水素(下水管の腐植で日本でも問題になっている気体)、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、亜酸化窒素など有害物質の排出に制約があると予想される

これらの気体には、鉄やコンクリートを破壊するものも含まれ、巨額の費用を投じた建物や内部の設備の建設コスト増や寿命そのものに、悪影響を及ぼす恐れがある

さらには、いま流行りの動物倫理、いくら家畜とはいえ、人間本意の扱いをしてはいけないという風潮を軽視できない。

高層養豚を始めた背景の一つは、中国の養豚の国際競争力を向上させようとする意図だったことは否定できない。例えば養豚業のコストと深いかかわりのある豚肉(枝肉、冷蔵・冷凍)の生産者価格は、主要な世界の豚肉生産国と比べ格段に高いグラフがその実態を如実に表している。

飼育場を移動する豚(「街溜」より)



データはFAO統計の2023年、年間ベースのトン当たりドルである。これによると、中国(本土)は3,633ドル、豚肉輸出国のデンマークは2,390ドル、アメリカは2,266ドル、中国を1,000ドル以上も下回る低さなのである

このような大きな差が生まれる最大の要因は、経営単体当たり飼養規模の違いである。中国には家庭養豚といって、繁殖メス豚を数匹飼って仔豚を売る者、30頭とか50頭とかの子豚を仕入れて120㎏程度まで肥育して、肉豚として出荷する者がまだまだ多数残っている。需要が国内供給を上回っているので、こうした低効率すなわち高コスト養豚農家が食べていける生産者価格を温存せざるを得ない事情がある。

高層養豚の始まりは、はこうした問題をなんとかするつもりでもあったかもしれないが、あまりにも極端な方法を思いついたものである。いかにも中国らしい、大は小を兼ねる式の発想におぼれ過ぎてはいまいか。