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2025/06/12

O2Oが主役、米の流通チャンネル豊富な中国

日本では米の流通量が不足して、価格の高騰を招いていますが、世界最大の米の消費国家である中国はどんな様子なのでしょうか?

 

日本の米流通は、江戸時代から、船場や「相場」という言葉が米の取り引き(堂島米会所)が盛んだった大阪で生まれたことに象徴されるように、米は日本最古の市場取引物資だったのですね。全国の津々浦から米を吸い上げ、大阪に集めたのですか、その仕組みの複雑さと堅牢さは、他の商品にくらべ抜きん出ていました。

 

その基本的な仕組みは現代まで引き継がれ、それが柔軟さに欠ける要因にもなっているのではないでしょうか?日本の米流通は、昔の仕組みを引きずっているのかもしれません。

 

さて、中国ですが日本とまったく事情が異なって、米に歴史的な形と言うものがありません。旧い流通システムは、共産党が破壊してしまって、消費生協のような供銷合作社という名の商店のような組織を全国津々浦の消費地に配置して、国家統制的な流通を展開してきたのです。

 

しかし、これもいまや過去の話し。

 

米はO2O流通が主流に

 

中国人は、世界でもっとも新しもの好きといえると思うのですが、いまや、消費者が買う米はO2O、オンラインto オフライン 、スマホでECのプラットフォームに注文すると、30分以内に注文主の自宅に届く、という方法が都市の流行、流行というか、買い物の仕方として定着しているのです。

 

この30分、というのが勝負なのです。注文から30分以内に届けないと、この注文主から、次の注文はありません。

 

オンラインというのは、スマホで注文、オフラインというのは注文した米を現物で手にする、という意味で、O2Oの 2はtoすなわち両者をつなぐ、という意味ですね。

 

ただし、オフラインには二つのパターンがあります。

 

いまの例のように、30分という短い時間内に注文主に届ける、という方パターンと、注文主が注文した米をスーパーとか米やさんの実店舗に取りに行くというパターンです。

 

いまは、バイク便のような配達が人気です。

 もう少し、くわしく説明しましょう。

 

生産された米はどこへ行くのか?

 

農家が生産した米には、3つの流通ルートがあります。以下は、そのうちの2つについて焦点を当てましょう。残るもう1つは、政府備蓄米としての販売ですが、今回は捨象します。

 

●伝統的な多段階流通ルート

比較的小規模農家(中国の大部分がこれです)が「米販子」と呼ばれる米集荷人(ブローカーですね)が村単位で米を買い取ります。

 

米販子は、集荷した米を農民専業合作社(短粒種の一大産地となった五常大米合作社などは有名です)へ売り渡します。

 

その後、地域にある、けっこう広域的な産地卸売市場に集められ、精米工場へ回されます。米は、ここまでは玄米の状態です。

 

そして精米工場で精米され、等級化され、都市の消費卸売り市場(北京ですと、有名な新発地卸売市場が有名ですね。二三度行きましたが、ここは非常に大きい市場です。)へ回されます。

 

精米されていますから、消費はのんびりできません。しかし、このとき、スーパーや米の小売店に行くことがおおむね決まっていますから、問題はありません。

 

ECルート

これには、少なくとも3つのパターンがあります。

 

(1)合作社ルート:

農家から農民専業合作社等に集荷されます。集荷された米(玄米)はひとまず、ここでストックされます。

 

消費地近郊の倉庫へ移動、適量を精米します。

 

次に、ECプラットフォーム(ウイチャット、抖音小店など)を経由して、注文が来ますと、出荷です。

 

(2)O2O生鮮ルート

農家から美団などの産地EC倉庫へ輸送します。

 

次いで、都市消費地の拠点倉庫へ。一定量を精米保管。

 

注文が来ると、30分以内に配達します。

 

(3)企業契約栽培ルート

企業が稲作農家と栽培の契約を結びます。

 

収穫後、米は、玄米のまま農家から消費地近郊倉庫に輸送され、そこで保管されます。

 

そこで、一定量の精米を確保し保管します。

 

京東などの予約サイト注文を受けて、米は注文主に配達されます。

 

消費者は、QRコードから、注文した米の生産者がどのような人で、どのように栽培されたかを知ることができます(トレーサビリティ)。

  

これらにさまざまなバリエーションが加わる、豊富なルートが形成されています。

 

ますます中国の米流通は合理化され、消費者サービスの向上がはかられつつあります。いったいどこまで、発展するのでしょうか?

 

2025/05/08

中国の大豆価格の急騰はじまる!


 

輸入関税の影響大
中国の輸入関税の引上げの影響が、中国で、早くも大豆と、大豆を原料とする大豆粕(主に、ブタの飼料用)の卸売価格が急騰する気配を見せ始めたようです。

上の図1は、トランプ大統領が当選した頃から、最近までの大豆価格、下の図2
大豆粕の価格の推移を追ったものです。

二つの図の赤い星は、左から、トランプ当選、トランプが大統領就任、右端がアメリカと中国がそれぞれ145%と125%の関税を課すと表明した頃(4月初・中旬)のものです。

トランプ大統領の誕生が決まった直後、二つの物品の価格はどちらかというと穏健な動き方をしていました。むしろ、二つとも低下する気配さえありました。

大豆価格急騰
12月以降、大統領就任式が近ずくにつれて、トランプ氏の対中強硬発言が勢いを増すようになってか、大豆価格も大豆粕価格も急速に上昇を始めます。

そして1月20日、ついにトランプ大統領が正式に誕生します。すると、アメリカから毎年3千万トンほどの輸入をしている大豆の価格は急速に上昇を始めたのです。

2月1日、トランプ大統領は中国に10%の追加関税を課すと表明したからです。

一方、大豆粕価格は、在庫をみながら低下を見せ始めたのです。これは、大豆柏そのものの輸入とブラジルからの大豆輸入、一部はロシアからの輸入が市場の緊張感を緩めた結果でした。

しかし、4月9日、トランプ大統領が中国に対して、145%関税を課すと、おどろきの表明をしたのでした。

それにより、中国はその二日後の11日、アメリカからの輸入品に対して125%の報復関税を課すとしてのでした。

大豆価格も大豆粕価格もこれにすぐに反応、図1図2のように、二つは急騰を始めたのです。

世界最大の養豚国
世界最大の養豚国の中国は、豚肉が毎日の食卓に欠かせないほど大事な食材、今後、関税の影響は食卓を直撃することでしょう。これに関連して考えられることは、中国の豚肉輸入が増えることです。

これまで中国の豚肉輸入量は落ち着いていて、減少する傾向がみられましたが、それでも年間、100万トン以上の輸入大国であることに変わりありません。

国際豚肉価格上昇は必須
輸入先の相手もアメリカが含まれますが、今後は、スペイン、ブラジル、デンマークやドイツ、ロシアなどからの輸入が増える可能性もありますが、そうなると、日本もあおりを受け、国際豚肉価格の上昇が家庭を襲うことにならないともかぎりません。

コメ価格の急騰で苦しむ食卓に、またまた別の圧力が加わって来るかもしれません。泣きっ面にハチ、とはこのことでしょうか?

このような世界1,2の経済大国の関税戦争は、両者にとってマイナスであるばかりでなく、世界にとってもマイナスですね。







2025/04/15

農村詐欺の横行に効き目はあるのか:「緑剣護糧安」法

 わたしの中国農村あるきの体験で見たもの、食べたもの、触れたもの、嗅いだもの、訊いたものは数知れません。

わたしの中国フィールドワークのモットーは、「五感で臨む」、というもので、農村では、つねに、自身の身体に付随するこれらの「道具」を意識して臨んできました。

そのなかから、かなりザックリのはなしではありますが、このことは、どこの農村でも変わらない感触でした。

それは、

中国の農民は従順で素朴、貧しくとも生きる喜びや幸福のありかを探し求める人生を送っている、というものです。なかには、どこで身につけたか、権力者のまねのようなふるまいをさらす者にも会わなかったわけではありませんが、そういうひとはごく少数のように思います。

そのような農民の世界に土足で侵入する不束者、詐欺を生業とする者の横行が、農村には絶えません。中国でも日本をまねたオレオレ詐欺が世間を騒がせる時代、農村はかっこうの餌食として狙われているようです。

では、詐欺師たちは、どんなことをするのでしょうか?

つまりは、次の違法物資を売り付けたり、違法行為をして金銭を詐取しているのです。

農業経営に不可欠な農業生産資材が、とくに狙われやすい物資です。

●種をまいても芽が出ない種子、

●安全性基準や禁止物質を無視した農薬、

●ぜんぜん効き目のない化学肥料や有機肥料、

●工業規格が無視されたトラクター、耕運機、田植え機、

●家畜用医薬品の偽造。


また、これらも違法に横行しています。これらは詐欺という言葉には当てはまりませんが、社会に対する違法行為であることには変わりありません。

●安全基準を無視した遺伝子組み換え食品、農産物、

●未検査家畜等の移送(中国では、家畜移送が耳標のない大型家畜は禁止、予防接  

 種のない家畜飼養は禁止)と、移送中の違法薬物の使用や投与。

●無許可屠畜場と死亡家畜の放置。

●家畜飼養業者の違法薬物、たとえば「痩肉精」(家畜の成長促進剤)の販売。


2024年、これらの農村に蔓延する行為を取り締まるうごきが、「緑剣護糧安」法に向けた政府の取り組みです。


「緑剣護糧安」というのは新語です。

「緑」はグリーン、エコ、環境保全などの意味合い。

「剣」は、厳しく、緩むことなくなど、政策にこめた心意気。

「護」はあとにつづく「糧」(食糧)と「安」(安全)すなわち食糧安全を守る。


これらからわたしなりに繫げると、「緑剣護糧安」の意味は「食糧確保を守るためのグリーン政策を厳格に遂行する」というようなことといえるでしょう。


以上は、2024年2月に農業農村部が出した「「緑剣護糧安」法執行行動の実施に関する通知」とか、2025年3月の「2025年の「緑剣護糧安」法の執行に関する通知」などには、その詳細な取組みの趣旨と内容を見ることができます。





2025/03/21

農業問題が、今年も共産党にとっては厄介な問題

 共産党と政府が一年間に取り組む重要な施策をまとめ、宣言する文書が中央一号文件です。

「文件」とは、平たく言えば「文書」あるいは「施策説明書」のような意味を持つ、中国独特の言葉です。

 毎年、1月末か2月、世間は春節の祝いムードが漂う頃に公表されるのが慣例です。

さて、今年の中央一号文件は2025223日の公表でした。今年も「三農」問題が中心でした。18回党大会以降、13年連続のことです。いかに、中国にとって農業問題が厄介な課題であり続けているかを象徴するもの、と言ってよいのでしょう。

 今年のタイトルは『農村改革のさらなる深化と農村の全面的振興の着実な推進に関する意見』です。「農村改革の進化」、「農村振興」はこの10年余り、中国が力を注いできた言葉です。

 私から見ると、実際の進展は、非常にのろいというひと言に尽きます。なぜかというと、政策の最大の課題、土地政策にメスを入れていないからです。メス無しで、手術はできません。

 この辺りの問題については、私自身、長い間指摘してきており、中国の土地問題の学者のうち、御用学者以外の人も強い関心を持ち、抜本的な改革を主張しています。

 私もいま、中国の土地問題に焦点を絞り、著書原稿を執筆中です。

 さて、本題の一号文件の内容を簡単に紹介しましょう。

 今回は、以下の6つの主要な側面に焦点を当てています。

 1,重要農産物の供給保障能力の強化:穀物の播種面積を安定させ、単位面積あたりの収量と品質の向上を図り、穀物の安定生産と豊作を確保する。また、大豆の増産成果を強化し、油糧作物の栽培拡大を支援する。

 2. 畜産業の安定的発展の支援:生産能力の監視と調整を行い、肉牛や乳牛産業の困難を解消し、基礎的な生産能力を安定させる。

 3. 耕地保護と質の向上の強化:耕地の総量管理を厳格に行い、高標準の農地建設を推進し、耕地の質を向上させる。

 4. 農業科学技術の共同の取り組みの推進:種子産業の振興行動を深化させ、生物育種の産業化を推進し、スマート農業の発展を支援。

 5. 農業防災・減災能力の強化:気象サービスを強化し、災害リスクの監視と予測を強化し、農地防護林の建設を強化する。

 6. 穀物生産支援政策体系の健全化:稲や小麦の最低買入価格政策を実施し、トウモロコシや大豆の生産者補助金政策を改善し、耕地地力保護補助金政策を安定させる。

 ただし、すべてが十分に実施されるか、成果が期待できるか、となると疑問もないわけではありません。

というのは、政府財政の余裕がなくなってきており、中央と地方政府の連携なしには、制約が大きいからです。地方財政は赤字構造にありますので、中央が期待するほどの政策ができないことも予想されます。

 

2025/02/12

進む資本制大規模農業

 中国は大規模農業経営の発展をめざして、奮闘中です。これには、5つの柱があります。

1,資本制企業がリードする。

2,AIスマート+大型機械化農業を展開する。

3,遺伝子組み換え農産物+ゲノム編集農産物を全面解禁する。

4,農業生産コストを下げる。

5,食料自給率を上げる。


1,中国農業のアキレス腱は規模が小さく、若者が減っているのが現状です。零細な経営規模を変えずに、労働集約的な農業が中心にしていたのでは、この先、食料の安定的確保はできないことに、政府は気づいています。そこで、頼りにするのが資本制農業です。もう、中国農業は社会主義の体面を気にしていてはどうにもならないことになっているのです。

すでに、各地で、資本制農業が浸透し、広がっています。これには中国鉄道集団など従来、農業には関心が薄かった異業種も参入し始めています。


2,スマート農業にはAIを組み込んだ完全自動化、GPSによる施肥・農薬散布、栽培管理・収穫予想などを進めています。これで農場の規模が大きいことが、さらにプラスになると見込んでいます。


3,遺伝子組み換えについて、拒否反応がまだ残っています。しかし、アメリカやブラジルから輸入する大豆や飼料はほとんどが遺伝子組み換え作物です。政府は、その事実を徐々に公開し、消費者の遺伝子組み換えアレルギーの希薄化を進めています。


あわせて、中国が得意なゲノム編集農産物が成長をしています。こちらについては、遺伝子組み換え農産物とはちがい安全なので、政府はなんの躊躇もありません。


コメ、トウモロコシ、大豆、小麦をはじめ、多くの農産物の遺伝子組み換えの生産をはじめ、商業化がすすめられ、昨年12月末、農業部が許可を出しました。


4,生産コストを下げることは、中国農業の喫緊の課題です。主要国でコストが高く、したがって国際競争力に劣る国の二番目が中国です。 一番目? もち、わが日本です。

いま中国農業は、旧い毛沢東型の何でもいい農家寄せ集め型農業から変貌しつつあるのです。まだまだ、改善すべきことは山ほどありそうですが、日本よりは早いスピードで近代化が進んでいます。ネックは、土地制度!!!! これもいずれは変わって行くでしょう。


5,中国の食料自給率は70%台に低下しています。国家発展改革委員会のある人も、そのくらいだと公言したようです。


わたしは、何もしなければ、これから、もっと低下すると見ています。遺伝子組み換えやゲノム編集食料に力を入れる理由は、ただひとつ、食料自給率をこれ以上下げない、できれば上げることにあります。

2025/01/01

進む農村の都市化、でも、その耕地はどこへ消えたのか?

 先ごろ中国のあるデータ解析センターが発表したデータから、最近の省別の都市化率におおきな格差があることが分かります。ここでいう都市化率とは、地域ごとの人口に占める都市在住人口の割合のことを指しています。「都市」の定義が全国一定でも、その計測はまちまちのところが否めないことをご承知ください。

都市の定義ですが、「街道」の集合体、とするのが一般的です。街道とは、都市部(農村部以外)に設置された人口集中地区で、これを単位に「居民委員会」という日本の町内会のような組織があります。この居民委員会の会員が都市住民です。一種の自治組織のようなものですが、その地域に住む、ほぼ全員が会員になります。

しかし厳密にいうと曖昧なところがあるのです。それは、農村から都市部に出稼ぎに来て、なかば定住あるいは本格的な定住をしている農村戸籍を持つ人たち、彼らは実質的な都市住民といってもいいのですが、統計的にはカウントされません。

ということは、都市住民は表面的な数字より実際はもっと多く、したがって都市化率はもっと高い、と見ることもできます。以下の数字は、この部分がない数であることをご承知おきください。

ところで、一般に、都市化率は地域の非農業化を反映しますから、農民人口の縮小を意味します。農村から移住してくる人口がよほど大きくないかぎり、都市化率は上昇しません。

実際は、そういうことはまれですから、都市化率の上昇とは、農民人口の都市人口への社会移動が起きていることを意味しています。つまり農民の脱農民化=市民化、といわれる現象です。戸籍を農村から都市へ変更することですね。

さて、本題です。最近の全国平均の都市化率は65%程度といわれています。これを地域別に分解すると、都市化率が4つの直轄市を除く上位3位、1位江蘇省73.4%、2位浙江省77.2%、3位遼寧省72.1%。ものすごい都市化率です。

一方、都市化率が低い下位3位は、最下位チベット35.7%、下から2位雲南省50.1%、下から3位甘粛省52.2%と、大きな差があります。

さきほどの説明を当てはめると、都市化率が高い江蘇省、浙江省、遼寧省などでは農民をやめて都市住民になった人がとても多い、ということを意味しています。一方、チベット、雲南省、甘粛省などでは、そのような社会移動はとても少ない、ということになるでしょう。

ですから農民から市民になった人が多い地域では、残った農民の手に耕地が移動するはずなので一人当たり耕地面積は増え、そうでない地域ではあまり変わらないはずです。

そこで、これら地域の一人当たり耕地面積をみましょう。全国平均は5.1アールです。

都市化率の高い地域:江蘇省18.2アール、浙江省7.2アール、遼寧省43.7アール。

一方都市化率の低い地域:チベット18.9アール、雲南省22.9アール、甘粛省43.6アール。

このように、都市化率と一人当たり耕地面積との間には、かなり明瞭な逆の関係があること、すなわち都市化率が高い地域では1人当たり耕地面積が小さく、逆の場合は逆という関係があるといえます。

しかし本来は、さきほども言ったことですが、都市化率の高い地域では、よほどの面積の耕地から建設用地への地目転換でもないかぎり、一人当たり耕地面積は土地集中が進むはずですから大きくなるはずなのですが、これと逆のことが起きているのです。ただ都市化率の低い地域では一人当たり耕地面積が大きい現象がみられ、理論にかなっているといえます。

都市化率の高い地域で、1人当たり耕地面積が小さいのはなぜでしょうか?これは一時点のことですから、本来の動きを見るには、時系列的な少なくともデータの2点間変化を示すデータをつくる必要がありますので、逆のことが起きている、とは断定はできません。

断定はできませんが、なぜさきほどのようなことになっているのか、という点も検討する価値はあるでしょう。いまの段階ではそこまでしていませんが、次のことが予想はできます。

1,データが示すような都市化は、実際には起きていない。

2,都市住民になった農民の土地の移転登記が済んでいないか、その措置をしていない。

3,農業をやめて都市住民になった農民の耕地が耕作放棄地になったままである。

4,農業をやめた農民の耕地がほぼまるごと、都市用途に転換された。

ほかにも理由があるかもしれませんが、それには、どんなことが考えられるでしょうか?

2024/11/28

中国の識者、食糧自給率、65%への低下を初めて認める!!!

中国の識者が、初めて、食糧自給率が60パーセント台であることを認めました。これは、まじめなネットサイトで、中国の経済、社会、政治、文化、海外情報など多彩な情報を発信して、読者に考えさせる狙いを持つサイトで、わたしもよく開くサイトです。

私は中国の総合的な食料自給率を、2021年のデータでは約75パーセントと見ているのですが、これを大きく下回ります。記事の65パーセントと私の75パーセントは、対象品目がちがいますし、計算方法がこまかな点ではちがうところもあると思うのですが、65ペーセントとは、正直いって驚きました。 

自給率の計算対象品目を私の場合、穀物、畜産物(飼料に換算)、食用油(原材料に換算)、青果物、魚介類、砂糖製品(原材料に換算)なのですが、この人は穀物だけだと思います。もし、畜産物を加えると、さらに正確な自給率が算出されると思います。

私の計算方法は、すべての食料を年間の国産量、輸入量に、すべての品目を重量当たりエネルギー含有量に換算した後に、自給率を計算する方法です。

この計算方法では、畜産物、食用油、砂糖製品などの一次産品の製造効率を上げると、それだけで、食料自給率が上昇することが分かります。

中国の食料事情を中央政府や地方政府の統計情報、ネット情報、政府発信情報などを総合して思うことですが、穀物の国産・輸入に変化が起きていることが分かります。また、国産量が操作されている可能性を否定できません。

2024/09/06

今年の早稲は、作付面積は増えるも単収が減っている-その背景とは?

 中国国家統計局が8月下旬に発表したところによると、2024年の早稲(ワセ)生産量は、

2023年を0.6%、163,000トン下回る28,174,000トンという。

 

作付面積は47,548,000ヘクタール、2023年を0.5%、217,000ヘクタール上回った。

 

10アール当たりの生産量は592.5キログラム、2023年を1.0%6.16キログラム下回

ったという。

 

結局、全体の作付面積は増えたものの生産量は減ったということになる。このところ、中

国の早稲生産は、作付面積と単収の2つが同時に減少する動きを続けており、その結果と

して輸入が増える反作用も生まれているのだ。

 

作付面積の減少の理由は2つ。

 

一つは、このところの干ばつ、大雨による異常気象がもたらす農地被災の拡大である。つまりは、そのために作付面積が途中で減少するのである。中国の統計では、作付面積は田植え面積ではなく、実際に農産物を収穫した面積である。

 

早稲の主な生産地帯は南方の湖南、江西、広東、広西自治区などなのだが、最近は、田植

えが終わり、田に根が張り出すちょうどその頃に、大雨や洪水が直撃、多くの稲作農家

の首を締め上げているのだ。

 

二つには、米の作付自体を嫌う農家が増えていると見られること。農家の後継ぎが減り、高齢化が進み、体力と費用のかかるコメ作り農家が減っているのだ。

 

私はこれまで、何十年間も、中国の方々で遭った農家に「息子に農業を継がせる気があるか?」と尋ねてきた。これは、日本の全国の農家を回っていた時と同じ質問だった。しかし例外なく、中国農民の答えは「継がせない」で一致していた(日本でもほぼ同じ)。

 

自分の苦労を、率先して子供にも継がせたいと願う親はいない。もうだれも、意に反することを強制できる者や集団の圧力は、中国にも存在しなくなったのだ。

 

作付面積が減少しただけでなく、単収も減っているのだがその理由も二つ。

 

一つはやはり異常気象と水田土壌の劣化。異常気象は今後も続くだろうが、一層、深刻なのは、農薬と化学肥料ですっかり変わってしまった水田土壌の改良が、遅々として進まないことだ。各地の水田を歩き、必ずや田の中の土や泥を握って観てきた。

 

水田土壌は、極端なはなしだが、まるで植物工場の水耕栽培かスポンジ栽培かと思えるくらい殺伐としている。これでは単収は減る一方だろう。

 

二つには、それでもなお作付面積を多く見積もり過ぎの可能性である。実際の作付面積は、政府の見立てよりも、実際は更に少ない可能性がある。

 

各地で起きている現象だが、コメを作るといいながら、水田をもっとカネになる野菜栽培やビニール温室、さらには禁止されている商業用地に変える問題も起きている。農地を住宅地に変えるなどの「大棚房」として、大きな問題にもなっている。

 

こうなると、統計上の作付面積を実際の面積が下回り、こんなはずじゃなったということになりかねない。

 

2024/07/23

丁戊奇荒から学ぶ

世界の気象体質は明らかに変わったという。体質の変化が確かめられた、その後に確実にやってくるのは、その体質を隠すことなく表現する気象現象であろう。この気象現象は、すでに世界各地で猛威を振るい始めていることは先刻ご承知の通りである。

その影響は人間の生産活動や日常活動にも深刻なダメージをもたらし始め、やれ真夏日だ、やれ熱中症だのとテレビは騒ぎ、海の向こうでは気温が40度を超えたという一方では洪水だ、干ばつだとの、真逆の気象現象が、世界同時に起きているニュースが続く。

これが太古のむかしのことであれば、権力を持つ祭司たる役目にある支配者が臣民の先頭に立って神に向かい、起きている恐怖を抑えてくれよと乞い叫ぶことであろう、などと想像してしまう。

私は、一農業学者の立場から、中国におけるこれらの現象を農業と結びつけて長らく観察してきたが、昨今の異常気象は、異常という表現がぴったりするほどである。

言うまでもないことかも知れないが、政府の公式の農業統計は、嵐などない凪だけの海面が延々と続く大海原のごとくである。ときに起こる波もいつのまにか、左官がコテをもって壁に塗ったモルタルを均すかのように、過去に立ち戻って平にしてしまう神業をほどこす。

この方面のニュースを流す中国のネットの書き方が変わり出したのは、ここ2,3年、とくに1,2年のことのように思う。

たとえば、干ばつ。中国の農業史はウラを返せば干ばつ史の様相を呈する。長い中国史のステージから見れば最近の出来事に属する大飢饉の丁戊奇荒は、その典型的な災難の一大事であった。

日本にも起きた飢饉、たとえば天明の大飢饉では樹食や人食は日常のことであったようだが、その規模のけた違いの大きな災難がこの飢饉である。このような飢饉は、日本でも中国でも、二度と起きて欲しくはない。

中国の甘粛省の省都蘭州の真ん中を流れる黄河には、巨大な水車がいまも残る。黄河から離れ、やや沙漠気味の大地を歩くと、干上がった元河川の低い堤防跡と川底だったことを想像させるところに、水の流れに任せて自然に整ったかのように並ぶ砂利の列が見える。河川の消滅は、中国の各地で起きてきたことだ。

農業の欠点は、干ばつと洪水にからきし弱いことだ。広く起伏の激しい中国農業大地、異常気象は始まったばかり、私のその観察は今日も、明日も続きます。






2024/06/24

"超異常気象が中国農業を襲う!

 

 

ここ数年、中国を異常気象が襲うようになっている。しかも、ますます過激になっている

のだ。それを指して、ここでは暫定的に「超異常気象」と言う。まだ、「超常」といえる

ほどではないので、やや控えめな表現にとどめたつもりである。

 

国土を南北に分ける境界を揚子江とすると、北へ行くほど干ばつ、南へ行くほど洪水と、

両極端の気象が続いている。添付した画像は、2024624日の中国国土の衛星写真だ。

 

やや見えにくいが、画像の下部は中国南部。厚い雲で覆われて国境線も見えにくい。上部は茶色の土が丸見えで、乾燥している様子が手に取るようにわかる。そのやや上部は東北地方の一部だが、やや雲がかかっている。しかし、この地方、今年も干ばつの恐れがあると、政府自身が伝えている。

 

最近の南部は洪水がつづき、桂林上流の桂林江付近では堤防をこえて氾濫し、史上最大の洪水になったという。なんと、同江の水位は一時146メートルにも達したらしい。62018時時点の桂江全域で、警戒水位を超えたという(水利部、6.20)。

 

また、広西自治区を流れる西江でも洪水が発生、河川は警戒水位を約6メートル上回る24メートルに達したらしい(中国水利部、2024.6.21)。

 

広西自治区や近くの広東省は米、サトウキビ、豆類、露地野菜、果物の産地である。洪水が起きても、中国政府は農産物の被害状況を報道することはない。洪水の映像も街中の様子を放映するだけで、農産物や農村の様子を伝えることはまれにしかない。

 

だから、農産物の被害状況を具体的に知ることはほぼ不可能である。

 

一方、北部は相変わらず水不足でカラカラだ。雨は降るには降るが、人工降雨依存、満足できる状態ではない。

 

そこで始めた取り組みが節水品種と節水農業の普及だ。ソルガムやキビなど畜産物の飼料や一部は食用加工品にまわす雑穀だが、干ばつ耐性品種を植えると10アール当たり90立方メートルの水が節約できる。

 

あるところでは、冬小麦の作付けを休耕、その結果節約できた地下水をトウモロコシ、油脂作物、雑穀などの栽培に振り向け、地下水を90%節約できたという。少雨の影響は地下水の減少を招き、穀物の減反も引き起こすから深刻だ。

(衛星画像:中国気象局)


2024/03/19

中国農民の顔の表情

中国へ行きたい最も大きな理由は、むらむらのあぜ道や広い見晴らしの真っ平らな畑の側の道端をあるきたいがためである。

何があるわけでもないし、特別の違いがあるわけでもない。新潟のコメ作地帯の集落で生まれた身にとって、どこであっても、農村の光景は何処と無しに、故郷の香がする。

中国の農村はなお発展途上にあることも事実である。筆者の眼から、日本の農村との最大の違いは、区画整理が済んでいない田んぼがなお目立つこと、用排水路が未整備なこと、灌漑施設が不十分なためか、排水が十分でないことなどは、改善の余地があると映る。

都市近郊、たとえば河北省の都市近郊には中型のトラクターに乗った農民の姿を多く見かけるが、たとえば江西省の水田は区画整理が遅れ、しかも専業農家が限られるせいか、トラクターで作業中の農民を見かける機会も限られた。農業は日本の委託経営のようにひと任せだ。

しかし、どこの農民も、よく似た環境にあることを痛感する。素朴な顔をしていることも共通する気がする。土着的な風情が漂う。だから好きだ。

都市住民は、やはりどこの国だろうと似ている。顔は青白く、無症状で、どことなくカリカリしている風情だ。心の底に、一人ひとりがだれかの、何かの、代表のような自分を探しているからだろうか・・・・・・。

その点、何をも代表しない自分がそのまま顔に出ている素直さが農民にはある。







2024/02/27

畜産物輸入を抑えるため、米と小麦の生産量を下げ、輸入を増やし、トウモロコシの生産を増やす中国

 中国政府は昨年末から今年の初めに、2023年の食糧生産の実績をかなりこまかく発表しました。

まず発表どおりの内容をかいつまんでお知らせします。

作付面積:1億1900万5000ヘクタール

収穫量:6億9541万トン

収穫量の増加率:1.3%


1ヘクタール当たり収穫量:5.843トン(10アール当たり584.3キログラム)


収穫増加量(2022年比):888万トン

作付増加面積(同)    :636,432ヘクタール


1ヘクタール当たり収穫量:13.95トン(10アール当たり1395キログラム)


これが事実であれば、なんと!!!、新しく増えた作付面積についての新しく増えた収穫量(増加土地生産性)(1395kg/10アール)は、従来の作付け面積全体の収穫量(土地生産性)(584.3kg/10アール)の2.38倍!ということになります。常識では考えられないことです。


新しく増えた作付面積についての収穫量の増え方が従来の増え方と同じとすると、収穫量の増加は888万トンではなくて、約372万トン(5.843×636,432)のはずでしょう。

もし収穫量の増加が372万トンにとどまるとしたら、2023年の収穫量の増加率は1.3%ではなく自動的に、0.55%に下がることになります。


中国の4大穀物の収穫量の前年比は、米:マイナス0.9%、小麦:マイナス0.8%、トウモロコシ:プラス4.2%、大豆:プラス2.8%でした。

収穫量が最大の穀物はトウモロコシ、近年、増え方も大きくなっています。その理由は簡単です。飼料として需要が高まるトウモロコシの収穫量を増やすことは、需要が増える畜産物の輸入を抑え、国内生産を増やすことができるからです。


米と小麦の収穫量をトウモロコシに回した、ということですね。

国家経営的な目から見ると、価格の高い畜産物の輸入を、それにくらべて価格の安いコメと小麦の輸入に代えた方が得、ということでしょう。トウモロコシの価格は?、米や小麦よりさらに安いのです。なので、中国はトウモロコシの輸入量もけっこうなものです。

ますますおいしい畜産物の消費が増えるはずですので、中国の今後は、畜産物を軸として米、小麦、トウモロコシ、大豆が作付け・貿易の調整が行われていくでしょう。というのは、もう国内には適当な農地資源がありません。農民が増えることもありません。10年先の中国農村は日本の10年前の農村を鏡で写すと分かりやすいかもしれません。









2024/01/11

中国農村調査は継続困難か?

農村が好きな私は日本の47都道府県の農村(そのすべての農村ではないけど)に足を運び、中国では、チベット自治区・海南省・ウイグル自治区・貴州省・広西自治区を除く省・自治区の農村調査をしてきました。

農村調査というのは、農家+農地。家畜を見て初めて、面白さが伝わってくるものです。農村と農家がとても好きなのです。北京も上海も天津も杭州も何度も行きましたが、どの都市も、私には何の興味も魅力もありません。

新潟県の北蒲原郡の稲作農村で生まれた私は、イネのにおいが染みついているのだと思います。

中国で最も多く行った農村は寧夏回族自治区・河南省・山東省・河北省・山西省かな。。。。。。内モンゴルも多い方です。

最もきれいな農村はなんといっても、羊とバクが群れを成す青海省の高原、標高4000メートルを超えるところでした。私は4500メートルを超えると呼吸困難になる性質で、平地まで運ばれて入院した苦い経験がありますけど。

訪れた農村はどこも印象的で、新しい発見をさせてくれる宝庫です。

新型コロナが流行り出した2019年12月を最後に、私の中国農村のたびは途切れたままです。そろそろ、と思ってはいたのですが、あまり気力がわいてきません。

最近の中国政府が外国人に現地研究に蓋をする動きがかなり鮮明になってきたことも一因です。その気配は以前からあったのですが、昨今の農村には外国人監視の目が張られるようになり、調査内容によっては無許可の機密情報の取得者扱いをされないとも限りません。

農村地帯のあぜ道を1人でぶらつくことが好きな私にとって、窮屈そのものです。歩きながら、畑の土をにぎり臭いを嗅ぎ、観るのが趣味です。どんな肥料を使い、どのくらい耕しているか、大体分かることも理由です。

中国農村調査仲間のあいだにも不安が広がりつつありますね。中国農村調査のベテラン、友人のO氏のように「もう、中国は行かない」と宣言した人もいるほどです。

さて、どうするか・・・・・・・、と思いながら、40年ぶりの台湾の農村へ行きたくなりました。南の八田與一が建築に協力した灌漑施設も見てみたい、とも思っています。


2023/10/22

中国が遺伝子組み換え食品の食品表示法を改正する動きを鮮明にしました。

 中国農業農村部は10月17日、「農業遺伝子組み換え生物表示管理法」改正の決定についてのパブコメ募集の通知を発したのですが、次のように変えたい意向を示したものです。

1,遺伝子組み換え原料を使用している農産物がそうでないものと混在している場合、「遺伝子組み換え」農産物を使っていることを明記すること。


2,該当する品目は大豆、大豆粉、大豆油、豆粕、大豆たんぱく、豆かす(豆くず)、トウモロコシ、トウモロコシ油、トウモロコシ粉、トウモロコシかす、トウモロコシ粕、食用油用野菜、同原料とする食用油、その粕、綿実油、綿実粕、アルファルファ、パパイヤ。


3,これらの食品またはこれらを原料とする加工食品に、これらを3%以上を含む場合、「遺伝子組み換え食品」として明記する義務がある。


中国は大豆とトウモロコシを中心に、これらの農産物等を大量に輸入しています。棉を除き、国内生産には慎重です。輸入先のアメリカ、ブラジルのこれら農産物、菜種やパパイヤを生産している国の場合も、ほとんどは遺伝子組み換え生産ですので、この法律が施行される年末か来年には、スーパーの食品売り場のこれら食品・食材の包装材には多数の「遺伝子を含む」という文字が躍ることでしょう。

2023/08/16

台風5号の中国農業への影響は甚大の模様、「害虫の口から穀物を奪取せよ」

 

今年の中国大陸は気象危機に見舞われている様子が伝わってくる。

農業農村部は8月8日、被害の深刻な河南省安陽市で現地「秋穀物重大病虫防除」会議を開催、現下の情勢について視察し対策を協議したと、同部は広報していた。

とくに被害の大きな安徽省の6市21県、河南省11市60県ではヨトウムシ、ワタキバガ、イネヨトウ(写真)が大発生、トウモロコシ,イネ,大豆、落花生に大量の産卵がみられ、その防除に取り組み始めたところらしい。ニカメイガは昨年の同じころにも発生したので、今年は多くの種類の作物の難敵である害虫が発生したことになる。

そんなことから「害虫の口から穀物奪取せよ」という合言葉が流行しているそうな。

台風の影響は広範に及んでいる。

北京、天津、河北、山西、内モンゴル、吉林、黒竜江、浙江、福建。

心配なのは今年の作柄である。

政府は災害復旧に乗り出しているが、台風5号までの高温と豪雨被害の影響もあり、今後の成り行きが懸念されている。






2023/06/27

穀物の収穫、今年もお天気が最大の敵に

 中国の気象局には、農業専用サイトがありほぼ1週間単位で小麦やトウモロコシやコメなど、重要な穀物の作況や植え付け、栽培管理、収穫時期、天気図、その予測など、専門的な話で埋まる。


そのサイトから拝借した左の2つの図の上は、6月26日の全国の気温上場をあらわし、下は降雨の様子をあらわしたものだ。


上の図は、35度C以上の高温地帯が北部の中央から南部の中央にかけて山脈のように連なっている様子が一目瞭然であろう。


下の図からは南部のコメ作地帯が強い降雨に覆われている様子をうかがうことができると思う。


このような、北の高温、南の降雨という現象はここ数年のように起きているものだが、今年は、北の高温、南の降雨という二極化が鮮明になり、それが毎日のように続いていることが過去にないことになっている。

南部の降雨は日本列島に居座る梅雨前線の一体化している点も、ここ数年の特徴といえば特徴なのである。

中国農業の専門家なら「三夏」という言葉を知らない者はいない。陰暦の四月を猛夏、5月を夏の中盤、6月を夏そのもの、といったような意味だが、農業では収穫、播種、栽培管理の区分として使われることもある。「三つの夏」を三年という意味で使うこともある。

いま、今年の三夏を豊作を実現しながらどう乗り切るか、という点に農業農村部も気象局もやっきの様子が伝わってくる。

全体の収量の3割程度の冬穀物(前年の冬の前に播種し、夏まえに収穫期を迎える穀物)の収穫の約7割を超えたいまであるが、豊作の声はあまり聞こえてこないが、もう少し様子をみてみようと思うこの頃である。そのうち、続きをおしらせしたいと思う。













2023/05/17

今年の作柄と天気、小農経済、スパイ防止法

 今年も春穀物の作柄がどうなることか、気になりだした。とくに空模様と気温が気になる。天気のニュースをみると、早くもあまりいい話が出てこない。

昨年は日本もそうだが、中国もあちらこちらで天候不順のため作柄が心配された。この方面の事情は、気象関係の役所がかなり詳しく、実態を伝えてくれている。天気の動向を今年も丹念に追っかけようと思っている。

もう一つは最大の担い手、小農経済が苦しさから脱する機会を得られるか、という点だ。私のみるところ、政府当局もこの点では苦慮している模様である。

この点は、中国における農業の生産力と制度の動向に大きな転機となる可能性もあろう。

夏を迎える時期になり、はやく現場へ行きたいのだが、躊躇する気持ちもないではない。改正されたスパイ防止法を読むと、運用次第で、だれもが標的にされる恐れが否定できない。研究者が標的の中心に置かれている感じもないではないので、迷う気持ちが捨てきれない。

どうしよう・・・・・・!




2023/03/05

農民少なくして農地多し・・・中国、今の実態

コロナ禍で減少していた2021年の農民工(主に住民登録のある故郷から離れて、6か月以上都会に住んで、農業以外の仕事に就く農民=出稼ぎ農民)の数が、なんと2億9千万人に上ったと、中国国家統計局が発表した(昨年)。

これも同じ国家統計局のデータだが、農業等就業人口(正確には第一次産業就業人口)が1億7千万人しかいないのに、出稼ぎ農民がそれよりも1億人以上も多いというのはおかしいことだが、両方を合わせると4億6千万人、幼児や学童を含む農村人口が5億人しかいないのだから、この数はどうみても理屈に合わないところがある。

この点はともかく、農民工が2億9千万人もいるという点に焦点を当てると、性別は男性が64%、女性は36%、未婚者17%、既婚者80%、死別者3%という。

この大量の農民工、短くても半年以上のあいだ農村や農業現場から離れるわけだから、実質的には離農・半離農に等しくはないだろうか。

農村に残って農業に従事する者が最大でさきほどの1億7千万人、実際は漁業や林業従事者も含まれるので、本当に農業中心の農民は1億7千万人ではなく、1億人2千万人程度と思われる。

農民の2億9千万人は農業から事実上離れているとすると、中国1億2千万ヘクタールの農地は1億2千万人ほどの者が耕している可能性があり、だとすると1人当たりでは1ヘクタールということになる。

農地は二期作とか二毛作とかとして利用されるので、耕地面積は増える。統計によると、中国では1億7千万ヘクタールに達するので、1人当たりでは1.4ヘクタールという勘定になるではないか! 多い!

中国の農業の特徴は「多人地少」、人口が多くして土地は少なし、といわれているが、実態は、農民少なくして農地多し、なのではないかと思うこの頃である。





2023/01/12

中国2022年産穀物は実質マイナスだった可能性

2022年産の糧食(穀物+イモ類)生産量は6億8,653万トン、2021年の6億8,285万トンに比べ0・5パーセント・24千トンの増加でしかなかった。2021年が前の年を2パーセント・134万トン増えたのと比べるとかなりの差だ。

実際はマイナスだったかもしれない。

発表では、2022年の小麦の生産量の増加はわずか0.6パーセント、トウモロコシは1.7パーセントの増加、大豆は作付け奨励補助金の効果もあり19.6パーセントの増加だがコメは2パーセントの減少だった。最近、コメの生産は伸び悩む傾向があるがかなり大きな減り方だ。

穀物の庭先価格や政府買い取り価格が下がったわけではなく、生産費が上がったことが大きな理由だろう。

中国の農産物生産費は、主要国の中では日本に次ぐ高さになった。主に農薬・肥料・農業機械・地代・人件費などの上昇による。

根本の問題は、中国式農地制度のあり方が限界に来た点にある気がする。

 

生産量に勢いが乏しい理由としてはほかに2つ、1つは作付面積がほとんどの穀物で縮小していること、もう1つは土地生産性(面積単位当たり生産量)の伸びに勢いがなくなっていることだ。

穀物それぞれ土地生産性は未発表だが、穀物全体では前年を下回る。前年比で0.99。

土地生産性が伸び悩んでいることは、農地制度自体の問題、そして土壌の改良や灌漑設備の改良・新設が期待したほどには進んでいない可能性も。特に懸念されるのは土壌劣化である。最近、政府は「黒土化」つまり土壌改良に力を入れ始めた。いいことである。

2022年の作付面積は穀物全体で0.6パーセント増えたが、コメ・小麦・トウモロコシは減った。耕地面積の拡大には限りがあるにしても自給率が低下するなか苦しい選択をしたものだ。

2021年に対し作付面積の減り方が大きかったのはコメでマイナス1.4パーセント、トウモロコシ0.6パーセント、小麦0.2パーセントと、大豆を除く主要な穀物の作付面積が減少した。

中国の農産物価格は今後、上昇傾向を強める可能性がある。一般家計の負担増に直結する。一方、企業業績はストレスをため込んでおり、賃上げに応じることは難しいかもしれない。低下しつつあった家計のエンゲル係数は再上昇、庶民の生活を直撃する可能性も否定できまい。


2022/09/01

中国の穀物生産量の記録的な減収に現実味

地球レベルの天候異変から、今年の穀物生産量がどうなるかに世界の注目が集まっています。穀物生産が天候と深いかかわりがあることは常識です。

氷河の雪が溶け、北極の気温が30度を超える日が続き、世界中で、高温と洪水が同時多発的に起きているのが今年の現実です。

その顕著な例が、いま、中国各地で起きているのです。中国ではこれから秋の本格的な穀物の収穫時期を迎えます。中国で年間生産される穀物の70~80%は秋以降の収穫が占めますので、その生産量の大小は、9月以降にならないと全容が判明しません。

ですから、いまの段階で今年の穀物生産量が平年作にくらべて多いか少ないかを決めつけることはできません。

しかしですね、この春からずーーと中国の天候の推移を見てきた自分としては、異変が起きている、と直感することがあまりにも多過ぎました。

この点は中国気象局がネットで毎日発表する天候情報、日本の気象庁が発表する天気図や衛星写真に写る雲の流れなどを見ると、素人目に見ても感じ取れることです。

中日新聞WEBのコラムにも最近書いたことですが、たとえば、高温。8年間(2015-2022年8月まで)毎日の気温を記録した湖南省長沙市の気温を8年間のうち前の4年間と後ろの4年間の毎日の気温の平均(同じ日の4年平均)で比べると、最近4年間の7月~8月の気温は、その前の4年間よりも3度以上上がって、40度近くに達していることが分かりました。わずか4年の間に、3度も上昇したことになります。

高温は大地と河川・湖沼の乾燥を招き、水位が低下した長江の川底から約600年前に作られたとみられる仏像が3体姿を現したり、最大の淡水湖の鄱阳湖(日本語読みで「ぽようこ」:中国語で「ポヤンフ」)が干上がったり、かといえば年間300ミリ程度しか雨の降らない内モンゴルや水田地帯の江西など南方では大洪水が発生したり、自然災害の発生を聞かない日がないほどです。

そのために水田が干上がり、他方では水田や畑が流されています。この被災は局地的なものでもなければ、一過性のものではないことが深刻なことです。

2021年の統計によると、中国の生産量はコメ(玄米)1億4260万トン、小麦1憶3694万トン、トウモロコシ2億7255万トン、合計5億5209万トンでした。

私の予測では少なく見積もって600から1000万トンは減収になるのではないか、と見られます。この数字は、パーセントにして1.1から1.8パーセントのマイナスに相当します。

今年は5年に一度の共産党大会(10月)が開催される予定、習政権の延長がほぼ間違いないともいわれています。中国当局にとって、このお祝いごとに泥をかけることは絶対に避けなければなりません。

残された一か月の間に中国のコメさん、小麦さん、トウモロコシさんはどれだけ「頑張る」ことができるでしょうか?