中国では2026年に入り、豪雨、洪水、土砂災害、強風、雹、低温、干ばつなど、性格の異なる気象災害が各地で相次いでいます。これらは単なる局地的な自然災害にとどまらず、農業生産、食料供給、農産物価格、さらには国際市場にも影響を及ぼしかねない問題です。
中国の防災当局が公表した資料によれば、2026年5月には、各種自然災害による被災者が延べ660万9,000人に達し、死者・行方不明者は95人、緊急避難や緊急生活支援を必要とした人は33万5,000人に及びました。農作物の被災面積は58万6,000ヘクタール、直接的な経済損失は200億8,000万元に達しています。
被害の中心となったのは、中国南部を襲った極端な集中豪雨です。5月の全国平均降水量は76.5ミリで、平年同期を8.8%上回りました。全国的に一様に雨量が増えたのではなく、広東省、湖北省、広西チワン族自治区などの一部地域に降水が集中し、観測史上の最高値を更新した地点もありました。中国当局はこの特徴を「点強面弱、単点極値」と表現しています。すなわち、広い範囲では降水量が少ない一方、特定の地点で極端な豪雨が発生するという、地域的な偏りの大きい降水形態です。
5月には全国18省の146河川で警戒水位を超える洪水が発生し、そのうち23河川では保証水位を超え、1河川では観測開始以来最大の洪水となりました。湖南省、重慶市、貴州省、広東省、広西チワン族自治区などでは、豪雨に伴う洪水や土砂災害が相次ぎ、洪水・地質災害だけで農作物の被災面積は約50万9,900ヘクタールに達しました。
農業にとって、短期間に集中する豪雨は、単に作物を水没させるだけではありません。農地の表土流出、用排水施設の破損、土壌中の酸素不足、根腐れ、病害虫の増加、肥料成分の流亡などを引き起こし、収量と品質の双方を低下させます。水稲では、田植え直後や分げつ期の冠水が生育を阻害し、収穫期の長雨は倒伏や穂発芽、品質低下を引き起こします。トウモロコシ、大豆、野菜などの畑作物では、排水不良による根の障害や播種の遅れが発生しやすくなります。
また、5月には7回の強い対流性気象が発生し、東北部や西南部では雷雨、突風、雹による被害が広がりました。風雹災害による農作物の被災面積は約7万1,600ヘクタールに達しました。ゴルフボール大の雹害は短時間で葉、茎、果実を物理的に損傷させるため、被害を受けた果樹や野菜では、収量減少だけでなく、外観品質の低下によって商品価値が失われます。収穫直前の作物が被害を受けた場合には、それまでに投入した種苗、肥料、農薬、労働費を回収できず、農家経営に深刻な打撃を与えます。
他方、西南部や西北部の一部では、大風、降雪、気温低下も発生しました。低温や季節外れの降雪は、苗の活着不良、開花・結実障害、生育遅延を引き起こす可能性があります。このように中国では、同じ時期に、ある地域では過剰な降水が問題となり、別の地域では低温や水不足が問題となるという、複合的な気象災害が発生しています。
6月になると、北方地域では夏作物の収穫と作付けがおおむね順調に進んだものの、南方では繰り返される強い降水により、低地農地で冠水や過湿が発生しました。広東省と広西チワン族自治区の多くの地域では、月間降水量が250~600ミリに達しました。一方、新疆、西北部、黄淮、江南などの一部地域では、降水量が平年を3~8割下回りました。
この降水分布の極端な不均衡は、中国農業にとって重大な問題です。中国は広大な国土を有するため、全国平均の降水量だけを見ても、農業への影響を正確に把握することはできません。全国平均では平年並みであっても、主要な穀倉地帯で洪水や干ばつが発生すれば、特定作物の供給に大きな影響が生じます。逆に、降雨によって全国的な干ばつ面積が縮小したとしても、同時に南部の低地農地で冠水が広がれば、農業全体のリスクが解消されたとはいえません。
とりわけ注意すべきなのは、7月後半から8月前半にかけての「七下八上」と呼ばれる中国の主要な洪水警戒期です。中国当局は、2026年のこの期間について、南北双方に多雨地域が形成され、局地的な豪雨や洪水が多発する可能性があると警戒しています。さらに、強い台風が北上して内陸部に影響を与える可能性も指摘され、華北、東北、西北東部を含む広い範囲で防災上の緊張が高まっています。
中国農業への最大の懸念は、災害が一度で終わらず、作物の生育段階を通じて連続的に発生することです。播種期の豪雨は作付けを遅らせ、生育期の高温や干ばつは収量を低下させ、収穫期の長雨は収穫作業と品質を悪化させます。同じ地域で豪雨の後に高温が続けば、病害虫の発生や土壌環境の悪化が進みます。また、洪水で道路、橋梁、倉庫、集荷施設が被害を受ければ、作物自体が無事であっても、市場への出荷が滞ります。
異常気象による農業被害は、まず被災地域の農家所得を減少させます。次に、地域市場における野菜、果物、穀物、畜産物などの供給量を減らし、価格上昇を引き起こします。さらに、飼料作物の減産や輸送費の上昇は、牛肉、羊肉、豚肉、鶏肉、卵、乳製品などの生産費にも波及します。中国では豚肉価格が消費者物価や家計の食料支出に与える影響が大きいため、飼料穀物や養豚地域の被災は、農業部門だけの問題にはとどまりません。
中国国内で供給不足が生じた場合、政府や企業は、トウモロコシ、小麦、大豆、食用油、砂糖、畜産物などの輸入を増やす可能性があります。中国は世界最大級の農産物輸入国であるため、その輸入量の変化は国際価格に影響を与えます。とくに、複数の主要生産国で異常気象が同時に発生している場合、中国の追加輸入は世界市場の需給を一段と逼迫させ、食料輸入依存度の高い国々に価格上昇という形で波及するおそれがあります。
ただし、現段階で全国的な食料不足が確実に生じると断定することはできません。中国は広大な生産地域、一定規模の備蓄、農産物輸入能力を有しており、一部地域の減産を他地域の生産や在庫で補うことも可能です。重要なのは、全国平均の生産量だけではなく、主要産地別、作物別、生育段階別に被害を継続的に確認することです。
今後は、東北部のトウモロコシ・大豆、華北・黄淮地域の小麦とトウモロコシ、長江流域および華南地域の水稲、南方の野菜・果樹などについて、作付面積、単収、冠水面積、収穫進捗、品質低下、病害虫の発生状況を注意深く見る必要があります。また、農産物の卸売価格、飼料価格、備蓄放出、輸入契約の増減も、災害が食料市場に波及しているかを判断する重要な指標となります。
2026年の中国で起きている異常気象は、従来のように「洪水の年」あるいは「干ばつの年」と一つの言葉で説明できるものではありません。豪雨、洪水、雹、低温、干ばつ、高温が地域ごとに偏在し、ときには同じ地域で連続して発生する複合災害の性格を強めています。農業生産の安定性を考えるうえでは、年間の総生産量だけでなく、気象災害によって失われる収量、品質、農家所得、物流機能を一体的に捉える必要があります。中国の農業災害は、同国の食料安全保障だけでなく、アジアと世界の農産物市場の安定に関わる問題として、今後も慎重に監視していく必要があります。
広く影響を与えた、先だっての大型台風9号による被災状況を当局はまだ発表していません。今後、被害状況があきらかになるにしたがって、すでに昨年を上回る勢いの食料輸入にさらに拍車がかかる気配が濃厚になっています。
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