2026/09/26

農民の小資産家、プチブル、準資本家への脱皮進める―中国で広がる「土地托管」

 

1,拡大する土地托管

中国農村で近年、注目すべき変化が進んでいる。それが「土地托管(とちたくかん)」。

土地托管とは、農民が自分の請負農地を売ったり、土地経営権を全面的に他人へ移したりするのではなく、耕起、播種、施肥、防除、収穫などの農作業を専門のサービス業者に委託する仕組みである。「専門のサービス業者」とは何か、については後述しよう。

この業者がする仕事は、実に多彩、何でもありである。

単一作業だけを委託する場合もあれば、耕起から収穫まで一括して委託する「全程托管」とか「全托管」とか呼ばれる場合もある。

「土地托管」の重要な特徴は、農民と土地との権利関係を維持したまま、実際の農作業だけを外部化できることにある。私が、はじめてこれを現地でみたのは2017年頃だったと思う。どこかに、その時のことを書いた記憶もある。

当時は、これほどまでに全国的に拡大し、おおきな流れになるとは思わなかった。

なんと、2025年にはかの国家標準規格GBが出来、GB/T 45888-2025《托管土地利用准则》が生れ、全国統一的な仕組みと評価基準の対象になったのだ。驚きます。

そこでは、土地托管について

①土地承包関係は変えない、

➁農民の経営主体としての地位を変えない、

⓷農民を受益主体とする関係を変えない」という、3つの「変えない」原則を明記した。

 

2,「農民」が消え、小資産家、プチブル、準資本家が

つまり、現在の土地レジームは変えませんよ、ということを前提とし、 農業は農民から引き剝がし、日本の農業経済学者梶井功氏が日本の農民と農業の変化を指して言った「土地持ち労働者」のように、中国農民がなることを容認する、ということにほかならない。

小農民は土地に縛られているからこそ、制度としての農民なのだが、小農民は農作業をする必要がなくなったのだからもはや小農民とはいえず、その半分を担うことになった専門のサービス業者が農民の役割を担うのだ、と解釈できよう。

 

では、小農民をどう呼べばいいのだろうか????

中国版の「土地持ち労働者」でもない。たんなる「土地所有者」では、もちろんない。

それは、小資産家、プチブル、準資本家と呼ぶのがもっともふさわしいのではないか。

 

3,土地托管の仕組み   

 

托管の担い手は、大企業だけではない。

農業農村部は、農業社会化サービスの主体として、専門サービス会社、農民合作社、供銷合作社、農村集体経済組織、さらに農業サービス専門業者(非農家もOK)などを挙げる。

したがって、村内で大型トラクターやコンバインを所有する業者が、周囲の数十戸の農家の農作業を一括して請け負うことも土地托管の一形態となるし、まるごと全作業を担うことも可能である。

もともと中国では、春にはトラックの荷台に大型トラクターを載せて、南から北へ走る「賃耕」業者が、秋にはトラクターを大型コンバインに替えて高速道路を走る「賃刈」業者が列をなすほど高速道路を埋める。この季節、彼らの高速運賃は特例で無料化されるほど優遇されてもいた。

そんな習慣があるので、土地托管がとくに異質で珍しいというわけではない土壌があったのである。

2025年の国家標準GB/T 45889-2025では、サービス主体について、資格、専門人員、農業機械、事業所、安全管理、契約・記録管理などが評価項目として定められているが、この資格はなきも等しい。重要なのは契約をしっかりと結ぶことである。

 

4,どの程度普及しているのか

土地托管をリードしたのが供銷合作社、本来はこちらの方が主役とおぼしき農民専業合作社ではなく、純粋な民間組織なのである。

実は、供銷合作社に根拠法はない。わずかに市によっては条例があるのみ。これ自体が、不思議なことで、筆者はこれには背景があると思っているが、まだ未検討である。いくつかの供銷合作社を訪問したことがあるが、その「無法状態」を納得有る説明をしてくれた例はない。

 

ただ土地托管の実施面積は不明である。中国では、土地に関する仔細な統計は未整備、あるいは未公表である。

ここでは全国に約2万社あると見られている供銷合作社が実施している土地托管面積に絞ると、2017年で7,316万ムー(490万ヘクタール)、2018年には9,167万ムー(614万ヘクタール)へ増加した。

2024年になると、全国供銷合作社系統による土地托管面積は約1.6億ムー(1,072万ヘクタール)に達している。ただしこれは全程托管だけでなく、農作業の一部を委託する部分托管も含む広義の土地托管面積である点には注意して欲しい。

供銷合作社以外のサービス業者全体を含むデータはないが、部分的ながら10数か所の省・自治区などの事例調査から察するに、いまや全農地の30~40%が土地托管によって担われ、ますます増えるだろう。

 

5,なぜ土地托管が急速に普及したのか

最大の背景は、農村労働力の非農業化、農民の小資産家意識の醸成である。

約3億人に達した農民工をはじめ、多くの農村住民が工場、建設、物流、飲食、小売など農業以外の仕事から所得を得るようになった。その結果、農民は自家農業に投入できる労働時間は減少したし、政府の手厚い各種補助金のためもあって、なんとか食べて行けるようになった。

農業をせずとも済むなら、無税の土地権利を手放す理由はますます遠のいた。請負農地は農業資産というよりも、農民にとっては有形資産に変質したと受け取められるようになったのである。同時に、将来もし帰村すれば、いくばくかの生活保障の一部ともなると思われ始めたし、いい値段で売れる楽しみにもなった。

 

このため、

「自分では耕したくない、あるいは耕せない。しかし土地権利だけは維持したい」

という農民が増えたのだ。

中国農業には、一戸当たり耕地面積が小さいという基本条件がある。農業農村部も「大国小農」を中国農業の長期的条件と位置づけ、短期間に土地流転だけで大規模経営へ移行することは困難としている。その解決策として、生産托管などの社会化サービスによって、小農家の土地をまとめて機械化・標準化する政策を進めはじめた。

したがって現在起きている変化は、次のように表せる。

農村労働力の非農業化、農業はしたくない意識

        ↓

自家農業に使える労働力の減少

        ↓

しかし農地権利は保持したい

        ↓

農作業を外部へ委託

        ↓

土地托管の拡大

        ↓

土地権利は小資産化・農民優遇化

 

これは中国の重要な構造変化である。従来は、農業の規模拡大といえば土地を集める「土地流転」が中心に考えられてきた。しかし土地托管の発展は、土地を集中させなくても、生産機能を集中させることが可能であることを示している。

中国農業は今、家庭請負制を温存したまま、その上に新しい農業サービス組織を重ねることで、大規模・機械化農業を結びつけようとしているのである。

しかし、これは一見きれいなステンドグラスのように見えても、一面ではガラス細工のように壊れやすい宿命を負うことも疑えない。

それは、多数の都市戸籍者にとっては、「農民だけに、なぜ、使いもしない土地を与え続けるのか」、という不満・政府に対する不信に火が付く日を近づけるにおかないからである。

2026/07/19

中国で頻発する異常気象と農業災害――食料安全保障と農産物価格への懸念

 

中国では2026年に入り、豪雨、洪水、土砂災害、強風、雹、低温、干ばつなど、性格の異なる気象災害が各地で相次いでいます。これらは単なる局地的な自然災害にとどまらず、農業生産、食料供給、農産物価格、さらには国際市場にも影響を及ぼしかねない問題です。

中国の防災当局が公表した資料によれば、2026年5月には、各種自然災害による被災者が延べ660万9,000人に達し、死者・行方不明者は95人、緊急避難や緊急生活支援を必要とした人は33万5,000人に及びました。農作物の被災面積は58万6,000ヘクタール、直接的な経済損失は200億8,000万元に達しています。

被害の中心となったのは、中国南部を襲った極端な集中豪雨です。5月の全国平均降水量は76.5ミリで、平年同期を8.8%上回りました。全国的に一様に雨量が増えたのではなく、広東省、湖北省、広西チワン族自治区などの一部地域に降水が集中し、観測史上の最高値を更新した地点もありました。中国当局はこの特徴を「点強面弱、単点極値」と表現しています。すなわち、広い範囲では降水量が少ない一方、特定の地点で極端な豪雨が発生するという、地域的な偏りの大きい降水形態です。

5月には全国18省の146河川で警戒水位を超える洪水が発生し、そのうち23河川では保証水位を超え、1河川では観測開始以来最大の洪水となりました。湖南省、重慶市、貴州省、広東省、広西チワン族自治区などでは、豪雨に伴う洪水や土砂災害が相次ぎ、洪水・地質災害だけで農作物の被災面積は約50万9,900ヘクタールに達しました。

農業にとって、短期間に集中する豪雨は、単に作物を水没させるだけではありません。農地の表土流出、用排水施設の破損、土壌中の酸素不足、根腐れ、病害虫の増加、肥料成分の流亡などを引き起こし、収量と品質の双方を低下させます。水稲では、田植え直後や分げつ期の冠水が生育を阻害し、収穫期の長雨は倒伏や穂発芽、品質低下を引き起こします。トウモロコシ、大豆、野菜などの畑作物では、排水不良による根の障害や播種の遅れが発生しやすくなります。

また、5月には7回の強い対流性気象が発生し、東北部や西南部では雷雨、突風、雹による被害が広がりました。風雹災害による農作物の被災面積は約7万1,600ヘクタールに達しました。ゴルフボール大の雹害は短時間で葉、茎、果実を物理的に損傷させるため、被害を受けた果樹や野菜では、収量減少だけでなく、外観品質の低下によって商品価値が失われます。収穫直前の作物が被害を受けた場合には、それまでに投入した種苗、肥料、農薬、労働費を回収できず、農家経営に深刻な打撃を与えます。

他方、西南部や西北部の一部では、大風、降雪、気温低下も発生しました。低温や季節外れの降雪は、苗の活着不良、開花・結実障害、生育遅延を引き起こす可能性があります。このように中国では、同じ時期に、ある地域では過剰な降水が問題となり、別の地域では低温や水不足が問題となるという、複合的な気象災害が発生しています。

6月になると、北方地域では夏作物の収穫と作付けがおおむね順調に進んだものの、南方では繰り返される強い降水により、低地農地で冠水や過湿が発生しました。広東省と広西チワン族自治区の多くの地域では、月間降水量が250~600ミリに達しました。一方、新疆、西北部、黄淮、江南などの一部地域では、降水量が平年を3~8割下回りました。

この降水分布の極端な不均衡は、中国農業にとって重大な問題です。中国は広大な国土を有するため、全国平均の降水量だけを見ても、農業への影響を正確に把握することはできません。全国平均では平年並みであっても、主要な穀倉地帯で洪水や干ばつが発生すれば、特定作物の供給に大きな影響が生じます。逆に、降雨によって全国的な干ばつ面積が縮小したとしても、同時に南部の低地農地で冠水が広がれば、農業全体のリスクが解消されたとはいえません。

とりわけ注意すべきなのは、7月後半から8月前半にかけての「七下八上」と呼ばれる中国の主要な洪水警戒期です。中国当局は、2026年のこの期間について、南北双方に多雨地域が形成され、局地的な豪雨や洪水が多発する可能性があると警戒しています。さらに、強い台風が北上して内陸部に影響を与える可能性も指摘され、華北、東北、西北東部を含む広い範囲で防災上の緊張が高まっています。

中国農業への最大の懸念は、災害が一度で終わらず、作物の生育段階を通じて連続的に発生することです。播種期の豪雨は作付けを遅らせ、生育期の高温や干ばつは収量を低下させ、収穫期の長雨は収穫作業と品質を悪化させます。同じ地域で豪雨の後に高温が続けば、病害虫の発生や土壌環境の悪化が進みます。また、洪水で道路、橋梁、倉庫、集荷施設が被害を受ければ、作物自体が無事であっても、市場への出荷が滞ります。

異常気象による農業被害は、まず被災地域の農家所得を減少させます。次に、地域市場における野菜、果物、穀物、畜産物などの供給量を減らし、価格上昇を引き起こします。さらに、飼料作物の減産や輸送費の上昇は、牛肉、羊肉、豚肉、鶏肉、卵、乳製品などの生産費にも波及します。中国では豚肉価格が消費者物価や家計の食料支出に与える影響が大きいため、飼料穀物や養豚地域の被災は、農業部門だけの問題にはとどまりません。

中国国内で供給不足が生じた場合、政府や企業は、トウモロコシ、小麦、大豆、食用油、砂糖、畜産物などの輸入を増やす可能性があります。中国は世界最大級の農産物輸入国であるため、その輸入量の変化は国際価格に影響を与えます。とくに、複数の主要生産国で異常気象が同時に発生している場合、中国の追加輸入は世界市場の需給を一段と逼迫させ、食料輸入依存度の高い国々に価格上昇という形で波及するおそれがあります。

ただし、現段階で全国的な食料不足が確実に生じると断定することはできません。中国は広大な生産地域、一定規模の備蓄、農産物輸入能力を有しており、一部地域の減産を他地域の生産や在庫で補うことも可能です。重要なのは、全国平均の生産量だけではなく、主要産地別、作物別、生育段階別に被害を継続的に確認することです。

今後は、東北部のトウモロコシ・大豆、華北・黄淮地域の小麦とトウモロコシ、長江流域および華南地域の水稲、南方の野菜・果樹などについて、作付面積、単収、冠水面積、収穫進捗、品質低下、病害虫の発生状況を注意深く見る必要があります。また、農産物の卸売価格、飼料価格、備蓄放出、輸入契約の増減も、災害が食料市場に波及しているかを判断する重要な指標となります。

2026年の中国で起きている異常気象は、従来のように「洪水の年」あるいは「干ばつの年」と一つの言葉で説明できるものではありません。豪雨、洪水、雹、低温、干ばつ、高温が地域ごとに偏在し、ときには同じ地域で連続して発生する複合災害の性格を強めています。農業生産の安定性を考えるうえでは、年間の総生産量だけでなく、気象災害によって失われる収量、品質、農家所得、物流機能を一体的に捉える必要があります。中国の農業災害は、同国の食料安全保障だけでなく、アジアと世界の農産物市場の安定に関わる問題として、今後も慎重に監視していく必要があります。

広く影響を与えた、先だっての大型台風9号による被災状況を当局はまだ発表していません。今後、被害状況があきらかになるにしたがって、すでに昨年を上回る勢いの食料輸入にさらに拍車がかかる気配が濃厚になっています。

2026/04/22

中国の食料自給率はピークが過ぎ、低下するばかり

 2010年から2023年までの14年間の中国の食料自給率(穀物、青果物、畜産物、食用油、砂糖類など64品目をカバー)を計測しました。その結果は、以下の通りです。

 

中国の食料自給率推移

 2010年:88.8%

2011年:90.0

2012年:88.2

2013年:90.2

2014年:90.4

2015年:88.9

2016年:85.5

2017年:83.2

2018年:81.7

2019年:80.9

2020年:75.3

2021年:73.2

2022年:74.6

2023年:73.7

 

2010-2023年の14年間のうち、中国の食料自給率は2013年、2014年がピークだったことが分かります。2013年、2014年といえば、習近平が最高権力の座に就いた2012年末の「中央八項規定」に始まる反腐敗、反高級接待指示、ここでは過剰接待や赤じゅうたん、横断幕、花飾りなどをやめる方針が打ち出され、2013~2014年にはその執行が一気に強まりました。

 さらに2013年12月には「党政機関国内公務接待管理規定」が発令され、中国人の文化の一種でもあった接待飲食気運が急速にしぼんで行きました。

 中国人一般家庭の食事場所は、屋台や広い歩行者道路にまで張り出したテーブル食からまち食堂など、さまざまですが、これらの規制気運は、無関係な庶民の心にも浸透、食事は簡素化しました。

その行き過ぎた食の引き締め気運が、食料消費の伸びを抑えたのでした。2013年、2014年の食料自給率が高止まりした背景ではないかと推察します。

 さて、2010―2023年までの14年間の食料自給率の平均は83.2%です。ところが、この17年間を、前後7年ずつに分けると明白なことが分かります。

 2010-2016年の7年間は88.9%なのに対し、2017―2023年の7年間は77.5%です。

 つぎに、2017―2023年の7年間を、3年間と4年間、すなわち ① 2017―2019年と② 

 2020―2023年とに分けると、①  81.9% ② 74.2%となり、最近になるにしたがって低下していることが分かります。

 グラフからも、この点は確認できますね。

中国人の食生活は年々豊かになって、畜産物の消費は、伝統的な豚肉・羊肉・鶏肉を使った料理や豆乳から、牛肉・バターやチーズ・牛乳をふんだんに消費するようになり、街には肥満の男女が溢れる光景が広がっています。

 飼料として使われるトウモロコシや大豆、雑穀は、いくらあっても足りません。

 食用油も、以前は動物性のものが多かったのですが、最近は、トウモロコシ油・菜種油・大豆油・ヒマワリ油・落花生油など多彩です。これらは、大量の原料(トウモロコシや大豆など1次産品)を消費します。

 こうなると、穀物、トウモロコシや大豆(粕)などは、中国でも大量に消費されるようになります。これからも、この傾向は強まりせよ、弱まることはないでしょう。

 世界の2010-2023年間までの食料自給率(カロリーベース)の計算アプリが開発され、公開されたばかりです。

 中国にかぎらず、日本、台湾、韓国、インド、カナダ、オーストラリア、イランなど180国程度の国の食料自給率が簡単に分かります。

 興味のおありの方は、下記のURLをクリックしてみてください。

 すぐわかる世界の食料自給率アプリ


2026/03/09

新しい論文が出版されました(Agriculture and Food Security: 高橋五郎)

 2026年3月6日、私の論文

“A new method for calculating the food self-sufficiency ratio: supply-side food self-sufficiency ratio”
が、食料安全保障分野のQ1ジャーナルである Agriculture & Food Security (S


pringer Nature,BMC)に掲載されました。

この論文では、従来の食料自給率では十分に評価できなかった肉類、乳製品、油脂、砂糖、水産物などを含め、食料供給全体をより実態に即して評価するために、SSFSSR(Supply-Side Food Self-Sufficiency Ratio:サプライサイド食料自給率) という新しい指標を提示しました。

この方法の鍵となるのが、PPCR(Primary Product Conversion Rate) です。これは、二次産品を生み出すために必要な一次産品量を換算するための係数です。論文では、この PPCRの低下を図ることで、単純な食料増産に頼らずとも、食料自給率の上昇を実現しうることを明らかにしました。これは、食料安全保障政策に新しい視点を与えるものです。

この方法による計測では、中国2023年の食料自給率は78.5%、2010年の88.8%から大きく低下しています。

また、日本の食料自給率は農林水産省の公表する38%の約半分であることも示されました。これは、日本の食料安全保障を考える上で、従来の指標だけでは不十分であることを示唆しています。

掲載論文の詳細は以下です。
Goro Takahashi, “A new method for calculating the food self-sufficiency ratio: supply-side food self-sufficiency ratio,” Agriculture & Food Security, 14, 46.

 論文URL:  

https://doi.org/10.1186/s40066-025-00570-z









2026/02/13

過大評価だった?中国土地革命


 (写真:中国内陸のある村の光景。高橋撮影)

中国の最大の課題は土地制度、実際の土地利用、土地権利の諸矛盾などの諸問題をどう解決するか、というものだ。

 

技術、自然資源、交通に問題はなく、教育、市場機能、暮らし等々もどちらかといえば平穏だ。ただし経済成長はほぼ終焉するステージにあるので、これからは、日本やアメリカと同じように、富の分配をめぐる対立(よくいわれる「分断」は、それが表面化したものだろう)が起こる可能性は否定できないだろう。

 おそらく、中国は冒頭で示した課題を置き去りにしたまま、経済成長がほぼ終焉するステージに入り込むのではなかろうか。

 とすれば、土地問題の解決はさらに遠のき、農民の普遍的であるはずの権利も空のかなたへ消えゆくかもしれない。

 そこでだが、これまでの土地の歴史は、おおむね次のようなものだった。

 はるかむかしの西周(紀元前11世紀頃)から、今日までの約3000年の中国史を「土地レジーム」というキーワードでふりかえると、王朝(支配者の象徴)と農民(被支配者の象徴)の対立の歴史だった一面が見えてくる。

 対立は、ときに農民反乱、生活苦からの逃散(むらから逃げ出すこと)や盗賊化を生み出した。逃げた者は、土地が欲しかったわけではない。逆だ。土地から逃げたかった、農民の立場から逃げたかったのである。

 時代が下ったあと、宋代、元代、明代、清代、民国期以後においても、農民が王朝や大土地所有者からの苛斂誅求(むごく厳しく、非道に取り立てること)に合って来たことに変わりはない。

 それを変えようと、孫文、次いで毛沢東がいわゆる土地革命に乗り出した。孫文は「平均地権」(土地所有の平均化)、「耕者有其田」(耕作者が土地を持つ)などの斬新な改革案を打ち出した。しかし孫文は、農民問題の解決に本気ではなかった。

 一方の毛沢東は、というと、真剣だった。

地租軽減、地主制度の解消、土地分配策などの土地革命を打ち出し、農民の歓心策を展開した。

そして毛沢東は土地革命を急いだ、急ぎ過ぎたので、さまざまな非道もあった。この頃、毛沢東ひとりの意向が国のなりゆきを左右した。

 貧しく、正直な農民たちは、「私の味方になれば、あなた達には土地をやる」という毛沢東のことばを額面どおりに信じて、大多数が反国民党戦線と抗日戦線に、命をかけて積極的に参加した。

 1949年の中国革命が画期的だったことは、間違いないなかろう。一度は農民に土地に与え、私有化を認めもした。農民は歓喜の渦に包まれ、方々で、毛沢東と土地革命の成功を祝う農民歌が生まれ、老若男女の農民の歌声が村々で響き渡ったという。

 ところが農民にとっては信じられないことに、すぐあとで官製の合作社、そして人民公社に、ほとんどの土地や農具、そして労働力までもが、供出を強制されることになった。歯車が逆回転したように。

 農民は「なにごとか?」・・・・と、悲愴と迷いで混乱したことだろう。

 

少し時間をおいて、人民公社の失敗が明らかになり、農地は農家のかなり自由な耕作裁量が広がり、時代はいまに至った。

 しかし農民に、自分の農地はない。農民集体という実体のないところの農地を耕作するようになったが、農民が零細な農耕をすることに、なにも変わりはない。

 実体のない農民集体から農民が農地を借りることを中国政府は「請負い」と表現しているが、経済学的には農地貸借、あるいは農作業請負(職業分類上は「サービス業」)である。

 農業所得は農家所得の三割強程度、生活費の大部分を出稼ぎなど、いまも、農外就労に依存しなければ生活は成り立たない。

 荒っぽいいい方だけど、最近、1949年の中国革命を過大に評価し、それまでの王朝時代と比較して、農民問題や土地問題が、質的に、大々的に、途方もなく、画期的に改善された、と思い込んでいただけかもしれない、という疑問が筆者の脳裏をかすめるようになった。

 もしかして、革命を評価し過ぎて、見るべきことをどこかに追いやってしまっていたのではないか、と思うこの頃である・・・・・・。

2026/01/13

穀物単収、最大2:1の地域差

   

  中国政府によると2025年の穀物生産量はこれまでの最高、7億1,500万トンに上り、前年比  

  1.2%、838万トンの増加だったといいます。

 作付面積は1億1,940万ヘクタール(二期作を含む)、前年比9万ヘクタール、0.1%の増加だったといいます。いくら中国とは言え、毎年、よくもこうも面積を増やせるものですね・・・・・・。

 

とは言っても、生産量は作付面積の増加以上に増加したのですから、単収の増加が背景にあったわけです。これだけの世界の天候不順にかかわらず、これだけの豊作を実現したのだから、中国農業おそるべき耐久力と成長力を持つと言えそうですね。

 

そのかげで、コメや大豆、食用油などの輸入量が前年を上回る趨勢にあることも事実で、一方には、生産は増えたけれど消費に追い着かない中国の姿もあるということです。人口は停滞していますが、食料需要はどんどん増えているのです。

 

だから、SSFSSR方式による筆者試算の食料自給率も改善している状況とはいえず、70%台にあります。この点は、近いうちにくわしくこの場にお知らせする予定ですので、その節はぜひお読みください。

 

こんなにおおくの穀物が生産されているのですが、面積当たり生産量(単収:10アール当たり生産量、kg)は地域ごとにみると大差があります。

地域イコール省・自治区・直轄市(北京、上海、重慶、天津)としますと、最大で2対1くらいの差があるのです。

 

品種の差や天候の差、農地の質や水利、地形、標高などが影響いていると考えられますが、その様子をグラフにしてみました。データは2025年、中国農業農村部が作ったものです。

 

このグラフは、単収が最大の新疆ウイグル自治区の単収から、各地の単収を引いた数字をそれが少ない順に並べてありますので、一番右には、その差が最大の青海省が位置します。

 

知覚的にも、その差のなんと大きなことか想像がつくことでしょう。

 

最も単収が高いのは小麦とトウモロコシの産地、新疆ウイグル自治区で829kg/10アールとすごいのです。次は上海ですが、そもそも作付面積が少ないので飛ばした次が吉林省、743kg、最も少ないところが青海省の392kg、二番目に少ないところが貴州省で421kg。

 

増穀物単収の地域差が非常に大きい中国、最大で2対1ものひらきがあるのです。

 


厳密にいいますと、栽培する主な穀物が何であ
るかによって、この序列は影響を受けます。一般的には、単収が最大の穀物はトウモロコシ、次に米、最後に小麦の順ですので、トウモロコシが主産地のところはこの序列が上に、小麦が主産地のところは最後になる傾向があります。

 

でもトウモロコシ栽培が盛んだからといって、序列が上位に来るとはかぎりません。内モンゴル自治区や黒竜江省がその例で、序列は31の省・自治区・直轄市のうち内モンゴルは14位、黒竜江省はコメの産地でもあるのですが21位にとどまっています。

 

同じことは貴州省にも当てはまり、コメが最大の穀物ですが前述のとおり421kg、序列は30位です。

ですから、穀物の単収に与える影響が大きい要因とは何なのか、筆者にはよく分かりません。これからの課題にしておきましょう。

2025/12/10

中国、ネズミとの勝負には勝てぬ?

 世界には1,600種のネズミがいるという。ネズミと言っても「いえネズミ」、「野ネズミ」、「草原ネズミ」など、生態によって異なる。ただ、雑食だが、どちらかというと穀物や植物の根や茎など、それぞれ好みがある点でも共通する。

 中国には1,600種のうち、どのくらいの種がいるかまでは分かっていない。比較的一般的なネズミはドブネズミ、クマネズミ、ハツカネズミ、ハタネズミ、大倉ネズミ、モグラ型ネズミ、モンゴルスナネズミ、ダウリアジリス、ジャンプ型ネズミといわれる。

 棲息地域別の主な分布にも若干の特徴があり、ドブネズミは全土、クマネズミは南部・沿岸部、ハツカネズミは全土、ハタネズミは華北―東北、大倉ネズミは遼寧・河北・山東など、モグラ型ネズミは青海・甘粛・四川など、モンゴルスナネズミはモンゴル・新疆、ダウリアジリスは華北・モンゴル・東北、ジャンプ型ネズミは新疆・甘粛の砂漠地帯とされている。

 ネズミはどの国にもいて、どの国にも迷惑をかけ、ときに、人間生活や経済活動に大きな害を与える。げっ歯類のなかでも凶暴、戦闘的、高い繁殖力、雑食、病原菌保持、賢こさ、集団性など、やっかいな習性のもとで生きている。

 かりに人間が滅んでも、ネズミの方は生き残る、という学者もいるほど生命力が強い生き物だ。

 世界では、毎年、収穫された穀物の20%がネズミ被害によって損失しているという。2024年の世界の穀物生産量は、FAO(国連食料農業機関)によると28.5億トン。その20%は5.7億トン、だから単純にいうと、2024年に、実際に供給に回ったのは22.8億トンということになろう。

 人類の飢餓が救われるかもしれない大量の穀物が、ネズミに横取りされているということだ。

 では、中国ではどうか、穀物生産量が6億5,000万トン程度の中国で、その20%というと1億3,000万トン、大変な量である。

 政府からは公式なデータは伝わってこないが、穀物の損失率の世界平均の20%よりも、中国の損失率が高いことも十分に想定できよう。ネズミが棲息するには好条件があまりにも揃っている。

 なにせ、中国にとってネズミは良きにつけ悪しきにつけ、身近かな生き物の一種なのである。

 それはどういうことかというと、大躍進や文化大革命時代、食糧が不足した時代、住民のなかには、ネズミが穴深くに隠した貯蔵穀物を失敬して、飢えをしのぐ足しにした人がいたという話もある。持ちつ持たれつの関係が、人とネズミの間にはあったのである。

 この話は、実際に、実際に自分が体験したという中国人から聞いたもので、私の創作ではない。

 持ちつ持たれつとは言っても、損害は人間の方が圧倒的に多く、ネズミが人間にとってはにっくき生き物である点に変わりはない。

 そこで、国を挙げたネズミ退治が常に重要な取り組みになる。とくにどこでも行われるのが、ネズミ退治訓練やネズミ退治運動である。

 この運動は、ドローンを使っての殺鼠剤の撒布や薬による不妊化対策、鷹やキツネなどの天敵の普及が全国土を対象に恒常的に行われている。

 しかし、ネズミが減ったという話は、これまでに聞いたことはない。もしかして、ネズミの頭脳の方が人間よりも上、ということか・・・・・・・。

 



写真は青海省の三江源近くのネズミとその穴(筆者が、待つこと30分して撮影)。

2025/11/04

コスト高の悩みから生まれた、中国の26階建て高層養豚の大きな課題 (つづき)

 前回、ここで紹介した中国高層養豚(繁殖から肥育までの一貫養豚経営)のつづきを書くことにした。関心のおありの方がけっこうおられることも分かった。

いま中国でみられる高層養豚は26階建て程度の高層ビルに、人間ではなく、豚が短い生涯を送る施設を作ろうという動きが始まり、各地で広がる動きを見せている、ということなのだ。中国人以外には、とても思いつく話しではないと思う。

今後、高層養豚が中国で安定的に拡大し、経営がうまく行くかどうか私には判らない。背景に養豚農家の減少、拠点集中養豚、糞尿・衛生管理・病気改善、コスト抑制などがあると思うが、これらの問題を解決できるのかどうか、課題も少なくないと見られるからである。

今回はこの視点に立って、高層養豚を検討してみよう。

まず、高層養豚は金食い虫、だという問題がある。高層ビル建設費、パイプ式糞尿処理施設(豚は特に排尿量が非常に多く、糞も泥状である)、糞尿が発するガスや気体などの被害対策、無菌室設計と建設、脱臭装置、水道光熱費、高層の飼料パイプ、解体と解体時の血液・糞尿処理、骨や歯その他残滓の送管や保管、解体後の固体管理・冷蔵冷凍倉庫、コンピューター管理装備、高層養豚専門飼育員養成・・・・・・・・数え上げたらきりがない。通常の養豚事業ではほとんどが無縁のものだ。

これらを合わせた建設資金やその他の事業資金がどのくらいに上るのか、いっさい明らかにされていない。総額40億元(600億円以上)・・・・という数字は聞こえてくるが。事業は地方政府の公的資金援助を受けていなければ、到底できないことである。

以上の問題はどれもこれも解決しようとすると難題で、高層養豚を始めたはいいが、いまのところは試行錯誤の段階、新たに生まれた課題も多く、まずは運転資金調達をどうするか、販路をどうするか、といった課題に直面している模様である。

筆者からみると、どれもこれも大変な問題なのだが、豚の棲む場所は無菌室なので、おそらくは換気も制限され、糞尿から出るアンモニア、硫化水素(下水管の腐植で日本でも問題になっている気体)、メタン、二酸化炭素、一酸化炭素、亜酸化窒素など有害物質の排出に制約があると予想される

これらの気体には、鉄やコンクリートを破壊するものも含まれ、巨額の費用を投じた建物や内部の設備の建設コスト増や寿命そのものに、悪影響を及ぼす恐れがある

さらには、いま流行りの動物倫理、いくら家畜とはいえ、人間本意の扱いをしてはいけないという風潮を軽視できない。

高層養豚を始めた背景の一つは、中国の養豚の国際競争力を向上させようとする意図だったことは否定できない。例えば養豚業のコストと深いかかわりのある豚肉(枝肉、冷蔵・冷凍)の生産者価格は、主要な世界の豚肉生産国と比べ格段に高いグラフがその実態を如実に表している。

飼育場を移動する豚(「街溜」より)



データはFAO統計の2023年、年間ベースのトン当たりドルである。これによると、中国(本土)は3,633ドル、豚肉輸出国のデンマークは2,390ドル、アメリカは2,266ドル、中国を1,000ドル以上も下回る低さなのである

このような大きな差が生まれる最大の要因は、経営単体当たり飼養規模の違いである。中国には家庭養豚といって、繁殖メス豚を数匹飼って仔豚を売る者、30頭とか50頭とかの子豚を仕入れて120㎏程度まで肥育して、肉豚として出荷する者がまだまだ多数残っている。需要が国内供給を上回っているので、こうした低効率すなわち高コスト養豚農家が食べていける生産者価格を温存せざるを得ない事情がある。

高層養豚の始まりは、はこうした問題をなんとかするつもりでもあったかもしれないが、あまりにも極端な方法を思いついたものである。いかにも中国らしい、大は小を兼ねる式の発想におぼれ過ぎてはいまいか。

2025/10/05

「高層ビル養豚」 が拡大中

 

高層養豚とは文字通り、10階建てのほどの高層ビルで行う養豚事業のことだ。2019年、農業農村部が政策化、急速な展開をみせはじめた、世界ではじめての養豚モデルだ。

 

この養豚事業モデルは、給餌、繁殖、肥育、屠畜、解体、部位分類、精肉、保管、出荷、残滓処理、糞尿処理まで、一貫していることだ。豚の立場に立つと、「揺り籠から墓場まで」、コンクリートのビルの中で生涯を送ることになる。

 

いま、中国各地で建設が進んでいる(写真:平台小王より)。

 

しかも、養豚ビル一棟で、年間で出荷する頭数は80万頭、生まれてから100㎏ほどで出荷するが、ここは効率出荷が標準化されているので回転率は年2.5回、だから常時、30万頭弱の飼養頭数となろう。

 

中国全国の年間平均の飼養頭数(2024年:国家


統計局)は4億2,742万頭、豚肉の出荷量は5700万トンと世界一である。

 

中国人にとって、回鍋肉や紅焼肉は、この料理を聞いただけでよだれが出てきそうな大好物。その食材が豚肉である。ほんとに、おいしい。

 

中国では、小規模の繁殖養豚と小規模の肥育豚農家が分離し、新型コロナが流行した2019年、多くの養豚農家が離農または崩壊した。国全体としてもコストが増加、国際協力が低下し、輸入の増加を招き続けた。

国として、豚肉の生産農家の減少と飼料確保の困難、したがってコスト増、疾病対策、畜産公害対策などが急務であり、その対応策として高層養豚が生まれたのである。

 

課題も多いが、別稿をお楽しみに。

2025/08/24

深刻化する中国農業被災―つづく異常気象―

 このコラムは、中国の農業気象を追いかけていますが、近年の中国には異常気象と思える現象が日常化しているようです。

今回は、そんな中国の驚くべきかどうかは分かりませんが異常気象について、中国の気象局が出している情報を参考にしながらお伝えします。

日本でも同じような異常気象が起きていますが、地球規模の現象の一環なのでしょうね。

 

2025年7月の災害、経済損失は半年分に匹敵

中国では2025年7月、洪水や地質災害が相次ぎ、延べ586万5千人が被災し、293人が死亡または行方不明となったそうです。住宅の被害は1万7,500棟の倒壊、11万5,100棟の損壊に及び、農作物の被害面積はなんと91万1,200ヘクタールに達しました。直接的な経済損失は445億元に上り、わずか1か月で上半期全体の被害に迫る規模となりました。

2025年上半期は、干ばつが深刻

2025年1~6月に発生した各種自然災害では、延べ2,503万7千人が被災し、307人が死亡または行方不明となりました。被災者数は前年同期(3,238万1千人)から約734万人減少しましたが、依然として大きな規模でした。

住宅被害は倒壊が2万9,600棟、損壊が34万7,200棟で、前年同期の倒壊2万3千棟、損壊27万9千棟を上回ったといからこわいことです。

農作物の被害面積は218万2,900ヘクタールで、前年同期の317万2,100ヘクタールからは減少しました。直接的な経済損失も541億1千万元と、前年同期の931億6千万元に比べて約4割減少しましたが、昨年の被害がいかに大きかったかを物語るものです。

一方で、干ばつ災害の影響は深刻でした。延べ1,083万6千人が被災し、116万人が生活救助を必要としました。農作物は99万2,700ヘクタールが被害を受け、さらに家畜約320万頭(羽)が飲み水不足に直面しました。経済損失は43億7千万元に上りました。

7月の洪水等災害で年間被害は拡大の見込み

2025年上半期は、被災者数や経済損失が前年同期より減少していましたが、7月の大規模な洪水・地質災害(地すべり、地震、鉄砲水など)が状況を大きく変えています。

死亡・行方不明者は1か月で293人にも達し、上半期の総数に匹敵しました。経済損失も445億元に上り、半年分の被害額に迫りました。7月の災害は、非常に大きかったということでしょう。

このため、2025年通年の自然災害による被害は、前年を上回る可能性が高いとみられています。特に農作物被害の拡大や農村地域での生活基盤の損壊が懸念されており、政府あげての復旧と支援の加速が望まれます。

 

今年の大雨前線は南北型

これまでの、天気は、ともかく雨が多い年となっています。下の降雨図は8月23日に、中国気象局が発表したものです。

この図では、南北に降雨帯がやや斜めの形で伸びています。この図では、いくらか降雨も治まっているように見えますが、いつもですと、もっと濃い茶色の降雨帯が南北を走っています。これから、中国では米、トウモロコシ、小麦の収穫が増えますが、影響が懸念されています。



この地図に引いた赤い線は、中国を地理的に南北に分ける「秦嶺–淮河線」です。降雨帯は、これを縦断するように伸びています。つまり、いま中国を襲っている異常降雨は、中国全土を左右に分断するように、なっている。それだけ、農業への影響の懸念が大きいということなのです。

2025/07/30

三峡ダムの3倍、世界最大の水力発電ダムを着工-中国

 

7月19日、中国は三峡ダムの3倍の発電量、年間3千億キロワット時の水力発電ダムの着工式をおこなった。

チベット高原を流れる海抜が世界一高いヤルツァンポ川(中国名・雅魯蔵布江 Yarlung Tsangpo:チベット高原を源流とし、最後はバングラディシュの河口からベンガル湾に注ぐ)の中流域に建設するもので、建設場所はチベット自治区の東の端に位置する。

完成は2030年を目指すとしている。

 世界最大の水力発電ダム、三峡ダムは847億キロワット時、ダムサイトの幅が2.3キロメートルだから、単純にその3倍となると、サイトの幅は7キロメートルとなり400メートルトラックを17.5周もしないとゴールにたどり着けない、恐ろしく巨大なダムとなる予定だ。

                                                         中国がこの巨大ダムを建設する背景として、私は、次があると思う。

①4000~4500メートルと、海抜の高いこの地方一帯の慢性的な水不足への対応。因みに私の場合は4000メートルが限界、このあたりで病院に急行運搬していただいたことがある。持参した3本のおおきな酸素ボンベは、すぐにカラになった。

②慢性的な電力不足への対応(中国では、55基の原発が稼働、建設中24基。特に北方においてだが、山岳部では太陽光発電、平野部では風力発電が盛んに稼働しているが、なお不足している)。

③下流に位置するインド、バングラディシュ、とくにインドへの戦略的手段としての水の活用価値が大。

三峡ダムの長さは600キロメートルだから、新しいダムはその3倍、1800キロメートルにも達する可能性がある。完成後の下流地帯は、常に、流量の不足あるいは過剰に、慄く(おののく)ことであろう。

④中国にとっては、一種の巨大な公共投資、1.2兆元(24兆円)の建設費用は、投資乗数を3とすれば3.6兆元(72兆円)の経済効果を生むだろう。政府は、不況であえぐ中国経済の助け舟の一つとして位置づけているはずだ。

 

この巨大ダム建設をめぐっては、さまざまな懸念が指摘されている。ネットでサーチすると、まずはダム下流の位置するインドとバングラディシュからの既述の懸念、これは誰にも理解できよう。

次は環境NGOからの、環境への計り知れない影響発生という懸念だ。巨大なダム建設が、地球の地軸の傾きの変化や自転速度へ影響する、といった地学的なものから、気象への影響や、もしも決壊した場合に予想される途方もない洪水被害の発生不安などだ。

特に最近は中国全土で、降る雨の大きさがハンパでなくなっていることなどから、想定外のことが起こったら、いったい、誰が救ってくれるのか、誰が被害を補償してくれるのか、といった不安の声もあるという。

 地形的なリスクとしては地震の不安がある。この辺りは、中国国土の地層が歪んでいるところにあるからだ。

しかし、これらの不安や懸念に中国は一切耳をふさぎ、リスクをかえりみず、猪突猛進を繰り返す姿勢は、おおきな反発と不安を広げるだけではないのか。