2020/07/25

降り止まぬ中国の雨と食料不安



http://www.cma.gov.cn/2011xwzx/2011xqxxw/2011xzytq/202007/t20200725_559242.html



この図は中国気象局が7月25日午前8時44分に発表した26日午前8時~27日午前8時までの24時間の降雨予報図である。最も激しい降雨が予想される地帯は長江と淮河(黄河と長江のほぼ真ん中を流れる中国第三の大河)流域を中心に、ほぼ中国南部全域におよぶ広範囲である。この中に日本列島が2つか3つ、すっぽりと入るほどの広さだ。

これまで、両河川だけでなく黄河を含む多くの河川が危険水域を超え、一部では堤防の人工決壊や自然決壊が起き洪水が発生、三峡ダムは危険水域の170メートル強まで10メートルもないほどの高さに達したという。

 この降雨をもたらしているのは日本の梅雨前線まで一本につながる降雨前線で、これを航空母艦とすると、そのまわりに、いくつもの低気圧が護衛艦のように配置され、さながら大海原をゆく大打撃軍のように大雨を降らす魔物前線に姿を変えて居座っている。中国の降雨帯と日本の降雨帯は前線上でつながっており、この点で、両国は大雨による運命共同体を作ってしまっている。この雨は降雨量の強弱を伴いながらも2ヶ月以上降り続き、この先も予断を許さない。

私は農業気象に興味があることもあり、毎日、かならず一度はどこかのチャンネルのテレビで「気象情報」を聞き、ネットで天気図(気圧配置図)と気象衛星の写真を観ることが習慣になっている。天気図ではある程度の予見は可能であるが、それだけでは大きな限界がある。一方、管見ではあるが、ほんとに知りたいテレビの気象情報は、最近、ほとんど当たらないのが常であるような気がする。気象専門家の名誉のためにも言っておくが、明日は晴れだ・あるいは雨だ、とだれしも思うような天気は当たる。これを加えると、気象専門家の予報的中率はたぶん半分以上となるのではないか、と思う。テレビ出演される気象予報士はとりわけ優秀なのだろうが、「長かった今年の梅雨も〇〇日ころには明けそうです」ということばを、今年は何度聞いたか判らないほど頻繁に耳にした記憶があるが、少なくとも、これまでその通りに当たった試しはない。

かく言っても、べつに気象予報士や気象庁を批判することが今日の目的ではなく、それだけ、今年の天気は地球レベルで大異常だ、ということを言いたいのである。しかし、異常だと片付けてしまっていいのか、かなりの疑問もなくはない。それどころか、これまでの異常が今後の常態または「平年」になる転換点を、地球は迎えているのではないか、とさえ思える事態が地球のホウボウで起きている。

このような事態を迎え、私がもっとも心配する点は、食料確保が大丈夫かどうかという点である。豪雨が襲う中国南部はコメの大産地であり、野菜も豊富に採れるところである。

中国政府は、7月25日時点では、水稲の被災面積と減収量を公表していない。夏小麦については産地がほとんど被災していないこともあり、農業農村部は7月中旬の予想では増収とした。コメについては、なお被災が止まないことから、しばらくは収穫予想を出すことは不可能であろう。すでにコメは輸入依存が強まっていることから、減収となれば今年のコメ価格への影響も予想される。日本産のコメがどうなるか、こちらも不安材料である。

2020/07/02

マスクメロンからマスクへ―中国のハウス栽培農家の「多角経営」

 リニューアルに関わっている中国のとある大規模農場、COVID-19が猛威を振るった春節のころ、敷地内にある大きな冷蔵倉庫が、地方政府の依頼を受け、突如、マスク製造工場に早変わりした。自ら「した」、というより上からの半ば命令に近い、うむを言わせぬものであったという。大きな農場なので、農業経営には直接の影響もなく、マスク不足の最中でもあり、作り終える前から出荷先が決まっていたから、単に、商売のはなしだけなら悪くはない。
 その農場の経営主は40歳を超えたと想像する女性で、旦那は地方政府のお役人、そばで見ていると、夫婦関係に、「完全な」という表現が当てはまるかどうか知らないが、あえていえば、完全なかかあ天下、旦那は、もてきぱきと大声を出しながら、なんでも一人でこなそうとする妻には頭が上がらない。旦那の年恰好は、10歳は上ではないかと想像する。
 農場以外に、化粧品のようなものを作って商売上手を発揮しているようで、その化粧品の一部を試しだと言って小瓶をくれたが、単なる化粧品ではなく、顔に塗ると何とかに効くとか言われたが、いつのまにか、どこへ行ったか見えなくなった。
 もともとビニールハウスとガラス温室で、野菜、果物、アロエなどを広い露地では、麦やトウモロコシ栽培を、土地の一部を果樹や放し飼い鶏から採卵などを作るなかなかの多角経営ぶりであったが、これにマスクづくりが加わったというわけである。
 私は、高級マスクメロンづくりを進めたが、一足先に「メロン」ぬきマスクとなったのだが、両者はあまりにも無縁。
 ところが、当の女性経営者にとって、そんなことは大した違いではなく、要は、フトコロの膨らみ具合がどっちが有利か、があるにすぎない。日本の農場経営者からは、なんとなく、使命感のようなものを嗅ぎ取ることができるが、それとはかなり異質な農場経営者である。一緒に、この事業に関わっている私の大学の後輩は、「日本のマスクは十分にあるか?なければいつでも送るよー」という声を電話で言われたという。親切心は豊富なので嬉しいが、早くパンデミックが収まって、現地で、このおばさんたちと、この農場の今後の話しをしたいものである。

2020/01/11

中国の先端技術農場の建設をお手伝い



このたび、中国政府系のある組織から先端技術を導入した農場建設を3箇所も請け負うことにになりました。そのために、まずは現場へと行き、足と手で現在の農場を見てみました。その時に、撮られた写真ですが、哀愁漂う男の放浪姿のように見えます。土壌を掘り返しているところと、農地を歩き、土壌の硬さ、水分、土質などを見ているところ。ハウスは、現在アロエを栽培していますが、生育はよくありません。そこで、まず土壌検査を。PH,EC,微生物、重金属。結果が出次第、訪中し、対策と今後の栽培・投資計画を決める予定です。そとから見ただけでは、けっして農地の状況は分かりません。なので、また勉強です。大学は退職したけど、休みなし。本も執筆中ですので、とても忙しい日々です。

2019/09/05

孤高の農家の話し。江西省富山郷にて。2019年8月22日


江西省農村は初めて行ったところです。上海から高鉄で約4時間乗ると、省都の南昌市があります。車窓に広がる田園地帯を眺めながら、区画整理がまったくといっていいほど手付かずの状態です。このあたりは中国南方の伝統的稲作地帯ですから、もっと基盤整備ができていて当然だと思ったのですが・・・・。
 作っているコメは長粒種です。水田のイネの茎の長さも、作られているコメ品種の特徴をよく表しています。
 この地方では中国で流転という農地流動化が極端に進んでいて、訪ねた農家のほとんどは近くの工業団地勤務、農業は自家消費用の野菜を作るくらいのものです。月収を聞くと5,000~6,000元(9万円と少し)。でもみな乗用車を持っていて、大都会周辺の農家よりその割合はずっと高いです。この月収でよく買えるねと聞くと、農産物は買う必要がないし、夫婦で働くので買えるのだ、といいます。

 気温が40度はあろうかと思われるなか、村内を散歩しながら、畑と家々の作りなどを観察しました。畑の広さは家庭菜園程度、栽培されている野菜はナス、サトイモ、インゲン、キュウリ、トマト、名も知らぬ緑色野菜と、賑やかです。家々は中国農村のどこでも見ることができるつくりで、特徴はありませんがつくりは丈夫です。家並みから、経済的に貧しいとか豊かだとかという判断はできませんでした。
 
 村の農家から農地を100ムー(約6.7ヘクタール)も集めていると村人が教えてくれた人が、水田を案内してくれました。あぜ道は狭くてでこぼこ、チャーターしたミニバンの運転手さんは、揺れるハンドルを握りながら「行けない」「危ない」「この先は無理だ」とさかんに文句をいいながら運転します。私の隣の席にいた100ムーの農家は、私たちと飲んだ昼のアルコールが残っているらしく半分酔った口調で、「いつも収穫したコメを積んで、この道を走っている」「この道で行けないところはない」(わたしには理解できない方言でそう言ったそうです。通訳してくれたのは江西出身で、いまは大阪の大学で働く友人です)と、反論。ついに、水田の奥まで私たちを運んでくれたのです。
 あとはクルマを降りて、水田観察です。そのときのスナップが、上二枚の写真です。
出穂期を迎え、水を求めるイネに、小さな用水路から水を田に引こうとした写真です。草ぼうぼうで、隠れてしまった取水溝を手でまさぐりながら探し出して、水を田内に流し込みます。
 イネの生育はどうかというと、まっすぐ、力強く伸びています。きっと、ことしも豊作でしょう。

 水田に行くとほぼ必ずと言ってよいほど、観察するものがわたしにはあります。生育状況は言うまでもありません。
①草刈りができているか?
②イネを水平に眺め、イネ先は水平か、線から抜け出したような雑草はないか?
③用排水路がきれいに保たれているか?
④どんな農薬を撒いているか(かならず、空き容器や袋類があぜ道などに落ちている)?

 これらについて、やはり、100ムーおじさんの水田でも観察しました。

 さてこの人に、もし政府がいま耕している水田を返せと言ってきたらどうするつもりか、聞いてみました。こたえは、「もちろん返せと言われた水田は全部返す。あとは年金で暮らす。」でした。
 そのこたえが本心からでたものかどうかは分かりませんが、とても従順な人だと思いながら、そんな日が来ないことを願っているのだろうなと推し量りつつ、真夏の太陽が照り付ける緑一色の水田を後にしたのでした。


 

2019/07/11

中国の農土を握り、臭いを嗅ぎ続けて

 中国の農村が好きなのですが、そこかしこで土を握り、嗅ぐことが習慣になりました。農土はもはや自然物ではなく、何百年、何千年と耕され、何千人という農民や地主に酷使され、すでに、絞っても絞っても一滴の水分も出なくなった乾いたタオルのように、あらゆる養分が吸い取られ干からびてしまった農土もあります。

 いま、緑の植物を育てている農土も、すでに自然物ではありません。手を変え品を変えしてあらゆる手を尽くして延命措置をほどこし、鞭打つように激務に耐えさせられ続けてきた農土。

 そのような農土を握り、嗅いでいると、なぜかその土がいとおしくさえ感じられることもあるのです。手ですくい、ときにかたくなったのを道具で掘り返して握った時の感覚は、実にさまざまです。

 中国の農土、ものの記録によると農土は中国の最初の夏王朝(紀元前2000年ころ建立)以前から、栽培のために使われた可能性があるそうです。そして、その 農土は、4000年以上過ぎたいま、河南省に住むだれかによって耕されている可能性があることになります。

 となると、使われ方やケアのされ方はともかく、農土の寿命はとてつもなく長く、これに勝る人間が作り上げた生産手段は他にはないといってもいいでしょう。どんなに優れた機械や工場も、その命は農土にくらべれば稲妻の光ほどもない短さではないでしょうか? 驚きですね。

 その中国の農土ですが、長年の経験から、地域によってパターンはさまざまですが、握るといくつかの感触に分けることができます。実際は、もっと微妙な差がありますが、省略します。

 臭いに、土本来の臭いはなく、肥料臭や農薬臭、ときに機械油が混ざったような人工的な臭いが混ざっています。しかし、よく嗅ぐと、農土にも個性があるものです。皆さんも、近くのあちこちの農土を、なければその辺の土を握って、嗅いでみてください。面白いですよ。

1、柔らかく小さな玄武岩を含む赤土・・・・握ると、ぐにゃっと指の間からはみ出す。しぶくてキノコ臭が新鮮な土と混ざったような臭い。
 山土(やまつち)に多くみられ、雲南、福建、湖南などで遭遇する機会が多い。

2、黒くて柔らかな粘土のような土・・・・握った感覚は上の赤土と似ているが、色は濃い茶色で、あまりきれいとは言えない。ほとんどが、落ち着いた普通の土の臭いがベースになっている。
 南方や西方、たとえば広州、四川、青海などで遭遇する機会が多い。 

3、灰黒色で、やや砂土や水晶系かガラス系の細かな粒子が混ざった土・・・・・握ったとたん手のひらが砂を感じる、やや乾燥。土の団粒構造はかなり疲弊し、乾燥というよりも固まった土の感がする。比較的無臭だが、深く吸い込むと、私の故郷、新潟北方の土と最もよく似ている。
 浙江、上海、江蘇、河南、山東、吉林、遼寧などで遭遇する機会が多い。

4、やや茶色で、粘土質を含む砂地系の土・・・・・握った感覚は上の土(3)と似ている。無臭に近く、深く吸い込むと子供のころ工作で使った粘土に似た臭いがする。
 北京、河北、山西、内モンゴルなどで遭遇する機会が多い。

5、黒っぽい砂質土壌で比較的さらさら感がある土・・・・握っても固まることなく、すぐに崩れてバラバラいになる。湿り気があり近くに大河川が流れている光景に出会うことがある。臭いは腐敗した木の葉のように、自然感がある。
 黒竜江では多くがこの農土。

6、黄色に近い茶色をして、粘土質の濃い、やや硬い農土・・・・・握っても、手のひらの形はできず、手のひらを下に向けるとバラバラになって下に落ちる。乾燥がそうしたのか、土の団粒構造が破壊されたためなのか、土同士の結びつきはゆるい。
 陝西、甘粛、寧夏などで遭遇する機会が多い。

 どんな農土にも、家禽・家畜・人糞・魚介などの有機肥料(中国では農家肥料と呼びます)あるいは化学肥料の臭い、あきらかに化学薬品臭のする農薬の臭いが混ざり合っています。
 私は、経験から、その農土に使われている家禽・家畜・人糞・魚介などの別を嗅ぎ分けます。しかし、まかれている農薬の種類までは区別できません。