2022/01/09

中国の穀物在庫急増の影響と背景 日経新聞にコメントしました(紙面をクリックすると全開します)


 

 最近、中国は世界の5大穀物の新規在庫増の約半分を占めています。日経新聞2021年

12月19日日曜版は、この問題を一面トップに掲載しました。見出しがこの記事の概要をそのまま言い表しています。

ここに、求められたコメントをしました。全国紙の中で、最も中国農業に詳しい記者を擁するのは日経だと思います。各地に記者がおり、筆者がしばしば電話話しをする在中国のお二人の記者は本当に詳しいです。在中国のNHK記者の中にも詳しい記者がいます。

新型コロナが落ち着いたら、現地農村で、彼らと中国農業について話し合いたいと思っています。


2021/12/10

中国農村家庭は大きく変容しています

中国農村家庭は大きく変わりつつあります。改革開放(1978)から90年ころまで、農村家庭といえば、子供が分家したあとの老夫婦家庭、結婚して独立した若夫婦と子供の家庭、このような核家族が大部分でした。

ところが独立した新家庭の青年夫婦が共稼ぎの形で、農民工として半年連続で、あるいはほぼ常住のような形で、都会で暮らすようになると、農村家庭の構造は一変します。

子供ができた若い夫婦は、夫あるいは妻のいずれかの老夫婦(普通は夫の方)に子供を預け、自分たちだけで都会暮らしをするようになったのです。すると、核家族は徐々に減っていきました。

こうして、形の上では三世代直系同居家庭の形ができてきたのです。「サンドイッチ家庭」などの呼び方もあるようになりました。

子供を農村に残して夫婦だけが都会に出る理由は、そこに本籍がないことには子供の教育、住環境、医療など日常生活に不可欠の行政サービスや仕事を期待通り受けられない面があるからです。子供が幼少の場合には、仕事のため十分な面倒をみれない不安もあります。

しかし医療や子供の教育環境、仕事面での待遇や社会保障が次第に改善され、本籍は農村に残したまま、夫婦と子供は実質的に都会に住むようになっています。

農村に残された老夫婦または独居老人が寂しそうに庭先に腰掛ける姿が見られます。彼らを指して「空き巣老人」などと呼ぶ人もいます。農村の集落の小路を歩くのが好きな私は、どこでも、そのような光景を目にしてきました。

このような農村家庭の変化は、さらにとどまるところを知らないかのようです。

一つは農村家庭の急激な減少です。ピークの2010年には2億6千万戸以上もあったのですが、いまは1億9千万戸、10年間で7千万戸も減少しました。これからも、この趨勢は簡単には止まらないことでしょう。

もう一つは離婚世帯の増加です。都市住民を含む全体の結婚件数は、2010年に1236万件(2472万人)あり、離婚件数は268万件でした。同年中の結婚件数を分母、離婚を分子におくとその比率は21.7%です。

ところが2019年のその比率は51.0%、ほぼ2倍に膨れ上がっています。地域別には、東北部がとくに高く70%を超える高さです。農村家庭の数字は詳しく調べないと分かりませんが、各種の情報を見る限り、おそらく都市住民以上に高いことでしょう。

農村家庭のこのような変化は農村の姿をも変えるでしょうし、農村の土地制度=土地の家庭請負制度の根幹をも脅かしつつあります。これは大変なことです。中国共産党の農村基盤にヒビを入れる可能性があるからです。

しかし、そこのところを察知するのが、さすが、中国政府は抜け目なく早いのです。

最近になって、農村の土地政策は大転換に近い変化を見せ始めたからです。その一つが資本制農業企業経営の農村参入の容認と促進、これら企業形態をもつ生産・加工・流通・販売などの産業集積をおこし、そこに、残った農民を就業させるという政策です。

すると、農地諸権利はこれまで以上に流動化し、その移動先が株式化など近代的な資本形態をとる資本制大規模農業企業・農業関連企業に集まる可能性を展望させます。

中国農業制度はイデオロギーから少しずつ離れ、現実的な再編や新方式の開拓に向かわざるを得ないのです。社会主義イデオロギーで現実を抑えたりコントロールできる時代の終わりの始まりの時代です。これはまさに、中国の喧伝する意味とは異なる「新時代」の到来です。







2021/11/02

 中国固体廃棄物汚染環境保全法がスタート 狙いは一石二鳥

中国の農村を歩くと、農業廃棄物が目に留まることがよくあります。ため池や中小河川の汚染はだいぶ改善されてきましたが、取組みが遅れている部分もあります。これも廃棄物の未処理が原因の一つでしょう。

そこに改善の手を付けようとする法律が「中国固体廃棄物汚染環境保全法」です。この法律は2021年8月に公布されたのですが、私がこの法律から感じた意図は次のようなものです。

要約すると、一石二鳥を狙ったものといえましょう。

一の鳥:環境保全です。

この法律は、●畜産物の糞尿、●収穫後の農作物の茎、●栽培用ビニール(トンネルやビニールハウスから出るもの)、●農薬の包装容器の4つの汚染物を無くすことを目標にしています。

2019年の数字ですが、政府によると、それぞれの廃棄量は糞尿30.5億トン、茎8.7億トン、ビニール246.5万トン、包装材35億個という膨大な量に上ります。

このうち農作物の茎とはなにか、解りにくいかもしれません。晩秋の農地を見渡すと、多くのところで山積みされたトウモロコシやコウリャン、それにイネなどの茎をみることがあります。これは処分がけっこう厄介で、次の耕運作業をするまでに柔らかくなったり風化したりすることはありません。しっかりと乾燥しながら残るのです。

仕方なく燃やす場合もありますが、空気汚染につながるという批判もあり、最近はやや減ってきました。

畜産物の糞尿のうち、牛糞は水分が少ないので乾きやすく、処理しやすいですので冬の燃料に使ったり、堆肥にして土に戻したりできます。牛糞堆肥は「肥」という文字が付きますが、肥料養分は低く、主に土壌改良向けに使います。

しかし鶏糞と豚の糞尿は役に立つ代物です。

鶏糞は水分が多い上に臭いが強い。豚の糞尿の臭いもきついですが水分も多量です。

鶏糞は細かなオガクズ(木材をのこぎりで切った際に出る米粒状の木くず)などを混ぜ、80度程度に自然発酵させると最高の肥効を持つ肥料に変わります。発酵は自然に起きます。

豚の糞尿は飼料の消化率が悪いのでに匂うのですが、その分、栄養分はたくさん残っています。しかし、これをすぐ堆肥にはできないので、少し寝かせます。

ところが、堆肥作りをせず、鶏舎や豚舎の脇にくぼみを掘り、そこに流し込むだけの農家がけっこう多いのです。不衛生この上ない惨状になります。

一方、化学肥料の使用はうなぎのぼり、これが農産物コストの押上げにもつながっているのです。中国の農畜産物の多く、穀物も畜産物も、コストが上昇しています。もはや、アメリカや欧州にはかないません。

新しい法律を作ったのも、こんな現状だからという面もあるのでしょう。

また、有機物の不足から土壌の劣化が進み、養分と水分吸収力の低下が進む現状への配慮があってのことかもしれません。最近、農地土壌の持つ水分吸収力の低下が、収穫作業の障害要因になっています。

二の鳥:この法律では、畜産物の糞尿は土に還すべきことを謳っています。土壌改良がもう   一つの狙いでしょう。

日本では、家畜・家禽を飼いながら農作物を栽培する「有畜農業」が伝統的な農法でしたが、いまでは非常に少なくなっています。土づくりには欠かせない方法でしたが、これでは経済的にも労力的にも成り立たない時代です。

ただ日本の農家の多くは堆肥や有機肥料を調達して、土づくりには手間ひまをかけています。

中国でも、家畜を飼養し栽培も行う大規模農場もあることはありますが、まだ多くはありません。

この法律が、農地の土壌にいい影響を与えることになるかどうか、今後、注目して行きたいと思っています。













2021/10/04

水先物取引、ついに来た水の新しい時代―やがて、空気さえも?―

 ついに、水までも先物商品取引所の投機対象になりました。

去年の127日、初日の取引価格は496ドル/1エーカー・フット。日本人の中に1エーカー・フットとは何のことかを知っている人は少ないと思います。私にもさっぱり分かりません。

欧米の単位は複雑で、日本人は混乱したり大きなミスをおかしたり・・・・・。たとえば麦やトウモロコシの量の単位に「ブッシェル」というのがありますが、大豆、麦、トウモロコシ、それぞれブッシェルを使うのですが、実はそれぞれ、中身が違います。

つまり、大豆1ブッシェルと麦1ブッシェルは、単位の呼び方は同じでも重さが全く違うのです。大豆1キログラムと麦1キログラムは同じですので、分かりやすくていいですよね。

 

さて、水の単位、日本では立方メートル(㎥)やリットル(ℓ)を使いますが、アメリカなどでは、このエーカー・フットという単位を使うのが一般的のようです。調べてみました。高さ1フィート、面積1エーカーの箱のことです。

1フィートは30.48センチ、1エーカーは63.6メートル四方。この箱1杯の水を1エーカー・フットと呼ぶのだそうです。これをリットルに換算すると1,233,482ℓだそうです。さっぱり見当がつきません。大体ですが畔の高さが30センチくらい、面積40アールほどの田んぼを想像するとイメージがわきそうです。

 

ついでに、では、なぜ1エーカー・フットが水価格の単位になったかというと、カリフォルニアの一般世帯が1年間で消費する水の量を平均すると、大体1エーカー・フットなのだそうです。なんだか後付けのような気もしないではありませんが、そういう説明を見つけたのです。

 

さて、水の先物取引を始めたところはナスダック・ベルズ・カリフォルニア・水先物インデックス(NASDAQ VELES CALIFORNIA WATER INDEX FUTURE)というボードです。取引名は分かりやすいH2O

 

初日の価格は496ドル(0.4セント/ℓ)、取引参加者は期待ほどにはいなかったようです。

 

まえから気になっていたこともあり、ナスダックの該当情報に入り込んで、最近の相場を見てみました。

先物ですから限月(将来の決済月数または何か月後の価格を売買するか)が必要ですが、ひと月、ふた月、三月、五月、七月、九月・・・24か月辺りまでとなっておるようです。

 そこで、直近の価格ですが、限月ひと月もの857ドル、2年先もの993ドル、この二つに挟まる期間は、先になるほど上昇するようです。



先物取引の初日のほぼ倍に上昇しています。

 

水は有限な資源であることはどなたも知っています。海には計りきれない量の水があるのに有限、とは理解しがたいことのように聞こえますが、人類が使える水は南極圏と北極圏を除く陸地にある水と雨ですからほぼ固定的です。

 

一方、ウオーター・フットプリントの観点から、コメ1kg生産には3,400ℓ、牛肉1kgには15,500ℓの水が、工業用品も生活用水も負けず劣らずの水が必要ですので、人口が増え、生活レベルが上がると、水は足らなくなることは目に見えています。

 

水にはすでに価格がついています。1立方メートル当たり、生活用水を例にとると、東京は下水道料金抜きで22円(基本料金を除く)、中国は28元(約45円:水道水)です。

両国とも、水価格は上昇傾向にあります。価格には取水・給水・設備費などのコストがかかり、純粋な水価格の比較はできないのですが、上昇傾向にあることは否定できません。

 

おそらく、人類全体にとって、水はますます貴重なものになっていくことでしょう。水の先物取引所の開設はこの点が背景にあります。はたして、人類の水の適正な使用に効果があるのかどうかは不明です。水が、たんなる投機の対象にならないことを願いましょう。

もしそんなことが起きれば、やがて空気さえ、先物取引の材料として上場されないとも限りません。


2021/08/29

中国のコメの早生収穫さえず

 中国のコメの早生品種の収穫が終わりました。1年間のコメの収穫量全体に占める早生品種の割合は10~13%といったところですが、1年間の収穫量の動向を占う指標ともいえるものです。

中国政府の発表によると、2021年の早生品種の収穫量は2802万トン、これだけで日本の1年間のコメ収穫量の4倍くらいにもなる大変な量です。中国の1年間のコメの収穫量はだいたい2億トン強という大きな量になります。


早生品種を栽培しているところは、主に湖南、江西、貴州、四川など南方です。

コメは小麦、トウモロコシと並んで中国では3大穀物の一つ、収穫量は小麦のだいたい1.5倍です。収穫量自体が最大はトウモロコシの2億6千万トンくらいですが、飼料用・加工用が大部分で、日本のスイートコーンのようなものはまだ少ないので生食用は限られます。


さて、そのコメの早生品種なのですが最近、次のようなことになっています。やや注目されますので取り上げました。

1,最近(2015~)、収穫量が低迷。前年を下回ることも頻繁に。

2、コメの作付面積がはっきりとした減少傾向にある。

3,単位面積当たり収穫量が低迷、減少する傾向がはっきりと確認できる。

けっして需要が減っているわけではありません。むしろ増えており、不足を輸入に頼る傾向がはっきりしてきています。

日本のコメのように需要減少で供給が余って困るなどというゼイタクはむかしからありませんでしたが、一時期、自給体制が出来上がった時期もありましたので、それにくらべると、現在は、かなり窮屈な食糧事情を迎えつつあるといえるでしょう。

こうした傾向はコメに限ったことではありませんが、ここではコメに焦点を当てています。


こんな話を中国の人に向かってすると、かならず返ってくることばに、

「いまの中国は食べものに苦労はない。あなたはどこの国の話しをしているのか?」

というのがあります。

不足分は輸入しているのですから、食べものに苦労している実感があろうはずはありません。この点は、中国よりも食べものの輸入依存が強い日本ですら当てはまる

ことです。

 

収穫量の低迷は3種穀物全体に見られる現象なのです。中国の食糧(中国語では「糧食」)には3種穀物の他、大豆、高粱、キビ、アワ、小豆などだけでなく薯類が含まれます。日本では薯類は統計的に別扱いです。

こうした食糧事情の変化が起きていることに対して中国政府は、「非糧化」(コメ作農地などを、大豆や野菜などに転作)、「土壌劣化」、「洪水など気象変動」などをその主な理由としています。

これらに加え、私は農地公有制に限界がきているからだとみています。

中国の農地所有者を誰だとお思いでしょうか????

答えは、無しが正解です。私は、中国の憲法をはじめ、土地や農地に関するあらゆる法律、施行令、条例を読破しましたが、土地も農地も、その所有者がだれか、どこにも書いてありません。 なぜでしょう????

それは体制のなかに、巧みな、そして意図的な背景があるからです。








2021/07/21

海水稲は成功するか?

 稲作の最大の敵の一つは塩分だ。稲の持つこの弱さを克服しようと「発見」され、品種改良を続けているのが、中国の稲の父と言われ、先ごろ亡くなった袁隆平氏率いた青島海水稲研究発展センターだ。

もともと海水稲は1986年、広東海洋大学の陳日勝という研究者が「発見」し、実用化の研究を始めたのが始まりと言われる。これを稲と言えば袁先生、ということになって、研究の権威付けと商品化の道を探り始めた、というのが近いらしい。

海水稲とはどんな稲なのか?文献によると、塩分濃度が0.3%以上でも栽培できる塩分耐性種なのだそうだ。塩分0.3%といってもピンとはこない。

通常、日本ではpH濃度がこの方面の指標だから、塩分0.3%をpHに換算できないかと、あれこれ方法を探してはみたものの、筆者の手には負えないことが分かったので面倒くさいことは止めた。

ならば、ということで海の塩分濃度を調べたら大体、3~3.5%だそうだ。0.3%というと海水を10倍に薄めた程度だから、かなり濃度は高い。海水浴のシーズンになったので海へ行かれる方は、ぜひ、試しに10倍に薄めた海水を適当に飲んでみてください。きっと、みそ汁を薄めたようなものではないかと想像します。

もともと中国全土はpHが高い。つまりアルカリ性の高い農地がほとんどだ。中国とは逆に酸性土壌の多い日本の常識でもpH7.5くらいが限界で、6~7くらいを標準におく土づくりや品種作りをする。

ところが、中国では、いつか、どっかにも書いた記憶があるが8とか8.5とかpHの高い土壌はざらなのだ。

よく日本の農業技術者や農業経験者が中国へ行かれて、農業技術指導面で苦労される話を聞くことがあるが、中国と日本とでは、土壌の重要な性質の一つの尺度が真逆であることが災いすることも大きな理由ではあろう。

さてこの海水稲、試験収量は10アール450キログラムというからまあまあ。味は知らないが、精米色はかなり茶色かかっているようだ(写真)。

できれば、普通のジャポニカ系かインディカ系の白い米がいいに決まっているが、中国なりの事情もあって、新しい銘柄米への成長・発展を願っているというところだと思う。背景には、コメ不足があるであろうが、やがておいしいブランド米誕生の成功を祈りたい。


2021/06/14

中国のゲノム編集食品(含む農畜産物)の発展と立ち遅れる日本

 ゆえあって、中国のゲノム編集食品の開発・研究の現状と今後を調べた。その過程で、日本のゲノム編集食品開発・研究の立ち遅れが際立つことに気づいた。

ゲノム編集技術が遺伝子組み換え技術と本質的に異なることは、世間にだんだんと浸透してきた。遺伝子組み換え食品の安全性にはかなりの疑念を持つ筆者だが、現段階では、ゲノム編集食品の「食品としての危険性」は少ないかゼロ、という見方を持っている。

遺伝子組み換え技術は、例えば豚の遺伝子に鳥の遺伝子を組み込むことだから異生物が生まれる可能性を捨てきれない。ブーブーと鳴きながら羽根をばたつかせて空を飛ぶ豚、コケコッコーと叫びながら丸々と太った丸い鼻をもった鶏、SF漫画が現実になる恐れを抱く消費者もなかにはいるかもしれない。

ゲノム編集技術はこれと異なり、自分の遺伝子の一部を切り取ったり、場所を入れ替えたりするだけなので、豚は豚、鳥は鳥のままで生物学的属性が変わることはない(とされている)。

さあ、そのゲノム編集技術にはZFN、TALEN、CRISPR/CAS9があり(説明は省く)、中国科学院系、中国農業技術院系、大学、民間企業の多数のゲノム編集技術専門の開発・研究機関がしのぎをけずりあっている。

最近は3つの方法のうち最も進んだ技術のCRIPR/CAS9に、開発・研究資源が投入される傾向がある。世界的には、この分野の特許戦争が起きている。

中国がこの分野で成果を出し始めるのは2015年以降だが、特許戦争の準勝者になろうとしているのだ。コメ、小麦、トウモロコシ、大豆、野菜、果物、魚、豚、牛、鳥、羊・・・・品目はなんでもあれだ。

その背景に食料自給率の低下が進んでいるという事実があり、遺伝子組み換え食品の市場性に見切りをつけ、新しいゲノム編集技術分野に賭けようとしているのではないか、と思われる。

最も進んだ技術のCRISPR/CAS9による中国における農業、食品開発・研究成果を調べると、すでに特許申請に至っているものが約500件、うち特許権成立が130件、審査中のものから特許権成立するものが多数見込まれる。

日本では、GABAトマト(血圧を下げる効果ありとされるもの)、おとなしいマグロ、肉厚の鯛などが話題になっているが、日本の大学等の特許権成立件数は多くない。むしろ非常に少ないと言った方がよいくらいだ。

ゲノム編集技術のうちCRISPR/CAS9発案者(投稿論文中、最速で研究成果を発表した者)は昨年のノーベル賞を受賞した。

この分野の特許権の多くを握っているのはアメリカ。その次に多いのが中国、日本はとても中国にはかなわないし、韓国にも後れをとっているともいえる。

中国は、アメリカの特許項目をかいくぐるように隙間を狙い、有効な特許権を幅広く獲得しつつある。このたび、筆者はそのすべてを調べた。

中国の特許には、日本やアメリカにも認められたもの(国際特許)が多数ある。今後も、この勢いはつづくだろう。

対する日本、全部で20周の陸上競技を走っているとして、アメリカに10周遅れとすれば中国には5周遅れている、というのが筆者の感想だ。中国もまもなくゴール、日本はまだ4周も残っている。