2019/04/03

中国の農業政策の方向は大規模革新農業経営の樹立にある

 各地の中国農村を回っていると気づくことがあります。共通する点は、若者と中年層が少ないこと。未舗装の村の家々が連なる薄茶色の小道を歩きながら思うことです。とくに若者が少ない、というよりもほとんど見かけることがないことです。

 将来、中国の農業や食料生産はどうなるのかと、気をもむこともありました。
 しかし、最近は考えを徐々に変えるようになりました。

 生産性の低い限界地は次第に淘汰され、条件のよい場所では大規模経営が発達し、一部では農業生産の効率を上げていくことでしょう。大規模化の進展は中国農業の大きな光明です。いま各地で、日本では想像もつかない斬新な農業方式が生まれ、これに政府が支援するモデルが広がっています。

 でも、それで自給率は大丈夫なのか、との心配がないではありません。ありますが、不足する食料は輸入で補充する方向に行くでしょう。農産物貿易の数字をみていると、中国が、すでに農業の国際競争力を失いつつあるか失ったことがうかがわれます。

 学者の一部は、これを農村の賃金上昇に求めていますが、理由はそれだけではありません。土の劣化、零細農業、農業資本装備の立ち後れ、若者層の農村忌避思想の広がり、安い農産物価格、高い肥料・農薬、安全な農産物生産農法の不足などもその理由です。

 効率の悪い農業は淘汰し、競争力のある農業を中心に構造改革を断行していく様子が見えてきました。


2019/03/28

土は国家を語る

私が長い間、研究上こだわってきたことに土があります。中国農村の野菜畑やトウモロコシ畑などへ行くと、まず素手で畑の土を握って、匂いを嗅いで、見つめます。この作業は、日本でも、東南アジアでも、どこへ行っても続けてきました。

私は、土には二つの顔があると考えています。
新鮮かつ栄養分のつまった農産物を育てるための養分の貯蔵庫 としての顔。この顔は農産物にとっては何よりも重要なものであり、農業生産にとっての生命線でもあります。この顔は土の持っている物理的な性格を示しています。

しかしこの顔は、土が生まれながらにして持っている部分と、後で雨や風、雑草や木の葉など、やはり自然による作用で変わった部分、農民や国家など人工的な手が加えられることによって変化した部分とからなります。土地改良や肥料投下などによる方法がそれです。土を機能論的に観たものです。

もう一つの顔は土自身が持っている、土を使っている国家を反映する鏡としての一面で、この顔は土の社会科学的な性格を表すものです。この顔は土が生まれながらにして持っている顔ではなく、農業用の土となってから、土の利用者や国家など、土に直接・間接に関係する者が土壌 養分や水分を付け加えたり削ったりした結果の顔であり、原状から変化していることが多いといえます。

この顔は、土を表象論的に観たものともいえます。
最近これをもとに、「中国における土資本論」を考えています。まだ、これといった成果はできていませんが、こだわってみたいと思っています。

2019/03/13

中国スパイ防止法実施細則の紹介


2014111日、中国のスパイ防止法(中華人民共和国反間諜法)が成立したが、その3年後の2017126日に、同法実施細則(中人民共和国反间谍细则)が公安部から交付された。

 法律段階では具体的な内容がはっきりしなかったが、この細則によって、スパイ防止法のかなり具体的な内容が分かってきた。法律公布から3年後にやっと実施細則が出るというのはやや奇異な気がしないでもない。この細則によると、法律公布後の様子をみて、後付けしたような点も見られなくもない。その最大の点は、スパイ行為の代理を最も重視しているように見える点だ。

  具体的には、国内外の機関から有償等の対価を得てスパイ活動を行う組織や個人に焦点を当てているような点である。つまりは、自分の意思というよりは、しかるべき機関の委託スパイ活動は容赦しない、ということだろう。該当する部分は以下のような内容になっている。
 スパイ活動の意思を持つ組織・個人から資金を得て中国の体制存立・維持に反する情報収集・敵対行為を行うこと、これらを国内外の組織・個人と共謀して行うこと、と要約することができる。

 どういうケースがあるいは拘束される可能性について、日本では次のように言われている。
○中国に協力的な大手商社員が拘束されたことに対して、「だれもが拘束される可能性がある」、「拘束されるのはどういうケースか不明で、駅の写真すら撮ってはいけない」・・・・・。

 そういう見方のすべてが間違いだというわけではないが、おそらく、拘束する方の中国では、その理由ははっきりしているだろう。ただし拘束するかどうかについての判断には幅があり、機械的なものではないだろうから、疑われやすい行為は危険というべきである。

私などは、ただ中国に於ける農民の暮らし方や農業の技術・技能のあり方などを研究しているだけで、けっして中国の国家転覆とかは考えていないのだが、そうと疑われる恐れがないとも断言できない点も皆無とはいえない。

それでも、農村調査はやめられません。これ、私にとっても研究法なのですから。
ここまで書いて、大事なことを忘れていました。中国には外国人社会調査管理法なる、調査規制法があることを。この規制は2004年に法制化されたものですが、前身は97年の暫定規則でした。この規制も、自由な研究者にとってはあまり嬉しくないものです。破ると、やはり刑法の対象になることがあります。このあたりのことは、実は、拙著『国際社会調査』に詳しく書いてあります。

 以下は、実施細則の関係部分の要約です。ご参考まで。
○敵対的な組織であるかどうかは、国務院の国家安全主管または国務院の公安部門によって確認される。
○中華人民共和国「スパイ防止法」に記載されている「資金調達」という用語は、国内外の機関、団体および個人の次のような行為を指す。
1)スパイ活動団体または個人に、資金、場所、物資を提供すること。
2)一般の団体または個人にスパイ活動を実施するための資金や場所、物資を提供すること。
○「スパイ防止法」でいう「共謀」とは、中華人民共和国の国家安全を脅かすスパイ行為の実施をいい、以下の国内外の組織や個人の行為を指す。
1)国家安全を危険にさらすようなスパイ活動を海外の機関、組織、および個人と共同で計画または実施すること。
2)国家安全を危険にさらすスパイ活動を実行するように資金を受け入れること、または外国の機関、組織または個人に指示すること。
3)海外の機関、組織、個人との接触を恒常化し、支援、援助を受け、国家の安全を脅かすスパイ活動を行うこと。
○以下の行為は、「スパイ防止法」第39条に規定されているように、「スパイ以外の国家安全にかかわるその他の行為」として分類される。
1)国家の分裂を組織し、計画し、そして実行し、国家の団結を弱体化し、国家権力を破壊し、そして社会主義体制を転覆すること。
2)国家安全を危険にさらすテロ活動を組織し、計画し、そして実行する。
3)事実のねつ造または歪曲、国家安全を危険にさらす言葉または情報の公表または配布、あるいは国家安全を危険にさらすオーディオビジュアル製品またはその他の出版物の作成、配布または公表。
4)国家の安全を危険にさらす活動を行うために社会組織または企業や機関を利用すること。
5)国家安全を危険にさらすために宗教を利用すること。
6)国家安全を危険にさらすためのカルトの組織化と利用。
7)民族紛争を起こし、民族分裂を扇動し、国家安全を危険にさらすこと。
8)関連する規制に違反し、その説得に耳を傾けず、国家安全の行為または国家安全を危険にさらす行為について深刻な疑いがある国内の人物と会う外国人。

2019/01/20

中国農業の成否を分ける経営者のウデ

先日、北京郊外の農村部を廻ってきた。北京中心部から高速を使って1時間半も行けば、
そこは、ここも北京市なのかと思ってしまうほどの田舎になる。北京市の人口はこのところ、やや減ってはいるが2千万人を大きく超える巨大都市だ。

 そこに生きる都市農業は、東京圏に比べ、はるかに都市住民の食生活と近い。農産物は
市場を通さず、北京市住民が直接農場に買いに来たり、ネット業者を通じて、トラックが
戸口へ配達することが普通だ。だから、農場は都市住民のニーズや評判にすこぶる敏感だ。
中間層以上の都市住民のニーズは有機農産物、それも完全無農薬・完全化学肥料野菜や果物
に変化した。農場は都市住民のニーズに合わなと買ってもらえないので、いい商品づくりに
没頭する。

 北京の中間層以上の消費者は、栽培方法が看板どおりかどうかを自家用車で確かめに来
る。彼らが乗ってくるクルマのほとんどは黒塗りの高級車、日本のスタンダードだと3ナ
ンバー車だ。私などは、いまだかって運転したことのない車種だ。

 先だって訪ねた農場の一つは、面積が1棟5アールのビニールハウスを64棟持つ中国
ではごく普通の規模の農場だ。飛び込みで訪問しても、大概はそこの経営者とか現場責任
者が親切に案内してくれる。ただし、専門家でないと無理だ。かれらなぜ専門家は親切に
迎え入れてくれるかといえば、なにかしらの参考になる話しを期待するからだ。ほとんど
の農場で聞かれるほぼ共通することは、日本のハウス栽培技術、コールドチェーン、コス
ト内容、消費者ニーズだ。というのは、彼らには、これらの問題が未解決だからだ。一通
り案内を終えると、逆質問の時間がやってくるのだ。

 話しを戻すが、その農場では44種の野菜を栽培、すべてが無農薬、無化学肥料で栽培
する。見ても握って嗅いでも、土の状態はふかふかでとてもよい。たい肥を買って撒いて
いるからだ。変わっているのは、ハウスの中で害虫を退治する天敵の昆虫を飼っているこ
とだ。さらには、害虫寄せのための植物を植え、栽培植物から遠ざける工夫もある。ここ
は成功した農場だ。

 一方、もう一つの農場は失敗した例だ。数十棟のビニールハウスは空っぽで、白っぽく
埃っぽいだけの土は乾燥してかたかった。広い場内に建てられた農場施設も荒れ放題。農
場の中には多くのしゃれた感じのコテージが建てられ、週末ともなると北京市街地から家
族が田舎暮らしを終日楽しんだこともあったにちがいない。
 そこも、いまは寒風が吹き抜けるだけだ。場内にある立て看板を観ると、そこには、こ
の農場の土壌検査結果を示した表が貼っている。土壌の重金属検査の結果表だ。すべて基
準内だ。これを見て思った。こういう表を貼ってあるくらいだから、この農場も有機栽培
や化学肥料に気を使っている、さきほどの農場と同じように、都市住民のニーズに応じて
きたにちがいない、と。

 では、なにが失敗の原因だったのだろうか。正確なことは不明だが、この似通った方法
の二つの農場を観て思ったことは、その分かれ目は、経営者の腕の差ではないか、という
ことだ。

 近頃、中国の農業はコスト上昇が大きい。人件費ばかりでなく、資材、物流、広告、施
設投資などなど、全体的な領域でコストが上がっている。ところが、ビニールハウスの普
及によってあらゆる野菜の周年栽培が進み、旬にもなると、さらに生産量が増え、市場で
は輸入農産物も激増している。消費者の階層化が進み、品ぞろえの幅が縦横に広がり、一
物一価の法則が崩れつつあるなかで、消費者ニーズに合わないものは、売れても採算が合
わなくなっている。この微妙な変化についていけない経営者は淘汰されるのだ。

 おそらくこの失敗農場は、じぶんの顧客層の求める価格帯と提供しようとする商品との
間に、大きなミスマッチングがあった。そんなことを思いながら帰途についた。
 







2019/01/01

週刊朝日掲載記事


 12月25日発売の週刊朝日新年特別号に掲載された私の4ページものの記事は、けっこう反響がありました。28日のテレビ朝日グッドモーニングから電話取材を受け、顔写真とともに画面に紹介されました。
 輸入量の34%を依存するアメリカ産輸入大豆に中国が25%の関税をかけたあと、輸入は完全にストップ、大豆自給率が10数%の中国は「大豆ショック」に見舞われ、食卓から養豚業者までを巻き込む一大パニックとなったのです。
アメリカ産の中国大豆の流れは以下のように、日本の食卓へも影響を及ぼし、これから及ぼすでしょう。 
アメリカ産大豆→中国→大豆粕→国内養豚業者と日本の養豚業者(輸入)。
A中国の大豆価格上昇(約二倍へ)→大豆粕価格上昇(約二倍に)→養豚コスト割れ→経営撤退と縮小(繁殖豚数縮小)→(ピッグサイクル)→肥育豚数減少→国際豚肉価格上昇。
B(日本への影響)中国の大豆価格上昇(約二倍へ)→大豆粕価格上昇(約二倍に)→日本の大豆粕価格上昇→養豚経営の更なる減少→豚肉輸入増加+豚肉価格上昇。
        
    このような食品のグルローバル化と食品のデジタル化は、大豆に限ったことではありません。穀物、野菜、肉類、魚介類、果物にも起きている現象です。食料自給率の低い日本では、更に、大きな渦のように世界中から食品を巻き込みながら渦の中心(日本)に引き寄せているのです。中国も徐々に、このような渦に巻き込まれようとしています。その背景には、土地の疲弊、農薬・化学肥料依存、農業労賃上昇などによる生産コストの上昇=農業の国際競争力の低下の進行という問題があります。中国農業の問題を農業労賃の上昇にのみ求める見方もありますが、これは、視野狭窄というほかありません。
         

2018/12/02

中国農業と米中FTA

ブエノスアイレスでの米中首脳会談は新聞報道によると、中国側は、25%の輸入関税をかけ、事実上締め出していたアメリカ産大豆を含む農産物輸入を即刻増やすと言明したらしい。中国、アメリカ双方にとって、いいニュースだ。

これで、高騰していた中国国内の大豆価格、家畜の飼料として欠かせない豆粕価格も落ち着く方向に動くだろう。

とはいえ、中国の養豚農家などがこれまで受けた損害はのこったままだ。また、せっかく上がった大豆価格で一息ついていた中国の大豆農家や中間業者は、またまた産品の低価格とコストとのし烈な競争の波に戻っていくのだろう。せっかく増産機運が盛り上がり、十数%にまで低下した国内自給率の期待された反転も消え失せる。

大豆に限らず、多くの農産物が輸入されるとなると、このままでは、中国農業は敗北の道を行く可能性がますます高まろう。そこで重要なことは、農業の構造の改革―土地制度の自由化、土地と農民をセットにした農村戸籍制度廃止、農産物市場制度の改正などー根本的な見直しが必要となろう。長年、改革を先に先にと伸ばしてきたつけを払うときが見えてきた。

アメリカは、これからの交渉過程で、おそらく、米中FTAを念頭におくだろうから、中国の農業問題改はいよいよ大きく動き出すのではないか・・・・・。

2018/11/02

米中首脳会談決まるー貿易紛争の落ち着き方ー

先ほどのニュースはトランプと習両首脳が久しぶりに楽しそうに電話会談をし、今月開催されるG20を利用して会談をすることを決めた可能性を報じていた。まことに喜ばしいことだが、会談の内容がどう転ぶかは、ひとえに中間選挙の結果次第だろう。

選挙の結果がトランプ氏の満足のいくように終われば、当面、対中関税政策の方向は変わるまい。しかし、会談で、習氏が中国の自主的な輸出制限のようなトランプ氏を喜ばせるような提案を示せば、事態は大きく動き、本格的な二国間貿易協議が始まり、大きな対立の火種は縮小に向かうはすだ。

今回の米中間の関税合戦、私は、どちらも大人げない姿勢をしてしまったと思う。輸入はその国の需要が源泉、これに関税をかければ自国の需要市場が苦しむのは当然なのに、これを軽視・無視して、輸出国が苦しむだろうと決めつけるのは物事の片面しかみていない証拠だ。どうしてこんな軽はずみな行為を選んでしまったのか、理解できるひとは少ないか、いないのではないか?

しかしもし、米中紛争の落としどころが協議開始のような方向に歩みだせば、トランプ氏が今度は日本に矛先を向け、日本も中国と同様の措置をとることを迫るにちがいない。

すでに、日米の二国間協議は既定の方針だから、あとは内容だ。真っ先に迫るのは農産物、特に牛肉、乳製品、コメであることは疑う余地がない。豚肉も対象になろうが、日本は、独特の差額関税制度を設け、日本の養豚農家を保護する制度を設けている。場合により、この撤廃もしくは緩和を求めることは十分にあり得よう。




2018/10/24

打開策さぐる米中だが・・・・・・・・・・

打開策探る米中だが・・・   アメリカ向けの中国による大豆と豚肉の25%の関税引き上げは、中国自身を苦しめる魔手に変わった。アメリカは高値で買ってくれる中国という上客を失い、6~8月の3か月間で対中輸出が前年比73%減(153万トン減)となったが、その穴を埋めるどころか、数地域向けのみで前年同期を54万トン上回る輸出を確保した。  アメリカの輸出統計によると、アメリカの大豆輸出は南米、インド、東南アジア、中東向けが大幅に伸びた。結局、中国がかけた大豆関税で困ったのは、アメリカではなく中国自身だったことになる。  しかし大豆のシカゴ先物相場は、紛争勃発前の1㎏当り0.347ドルから現在は0.268ドル、23%も低下しており、大豆大国アメリカにとっても局面の転換を図りたいところだろう。    この点は中国も同様だが、自身からこぶしを下ろすことはなくアメリカの出方を待つ姿勢を崩しまい。しかしアメリカの中間選挙、ブエノスアイレスでのG20での首脳会談が予定される11月末以降は大きな山場を迎える。  中間選挙で共和党が負けなければ、事態の打開は先送りとなろうし、負ければ事態の収拾へ動く可能性がある。アメリカの関係業界も我慢の限界といわれているからだ。その結果によっては、FTAなど、米中2国間経済連携協定の模索を始める可能性がある。  その場合、大豆をはじめとして、弱い農業を抱える中国は厳しい交渉を強いられよう。いずれにしても、中国も、いつかは、長年のつけを払わなければ収まるまい。  中国政府筋からは、再び自力更生のはっぱをかけだすほど恐怖におののいている様子が伝わってくる。株価、成長率などの経済指標は、不安材料が膨れ上がりつつある要因となり、これからも、アメリカと対抗していくだけの気力を発揮できるかどうか、注視したい。

2018/10/17

                         先だって中国のスーパーで撮影した大豆油です。大きく「遺伝子組み換えでない」と表示されています。  中国では遺伝子組み換え大豆についての消費者の忌避が広まり、こう表示しないと売れなくなったのです。国営放送のCCTVも、遺伝子組み換え農産物の産地でガンの罹患率が高くいと警鐘を鳴らすような報道番組みを流すようになりました。  CCTVといえば中国政府の宣伝機関ですから、そこが作った番組みが遺伝子組み換え食品の危険性を喧伝し始めたのはおどろきです。  写真の大豆油の「遺伝子組み換えでない」との表示、大きな文字で書いてあります。売り場では、ほとんどの食用油がこのような表示が書いてあります。中国人の消費する食用油に原料は大豆、菜種、ひまわり、ラッカセイですが、どれも同じような表示方法です。  売り場の棚の隅っこに、このような表示がないもの―つまり遺伝子組み換え原料で作った食用油―もありますが、両方とも、価格はほぼ同じです。  栽培コストが違うはずなのに、価格が変わらない。なぜだと思いますか?   実は、両方とも原料は同じ遺伝子組み換え大豆だからでしょう。    実際、このような表示の仕方には疑問を覚えます。何となれば、遺伝子組み換えでないとされる国産大豆、その量は国内消費量の15%もなく、大部分がブラジル、アルゼンチン、アメリカからの輸入組み換え大豆を原料とするからです。アメリカからの大豆輸入は今年の春から減少、輸入関税で高騰したため、8月にはほとんどストップしていますが、ブラジル、アルゼンチンとも名だたる遺伝子組み換え大豆大国との評判の高い国です。  中国消費者の忌避傾向、まずます広がりを見せています。  そこで、注目され出したのがゲノム編集大豆やさまざまな農産物です。中国では、6~7年ほど前から、ゲノム編集農産物の実用化に向けた実験がはじまり、中国農業科学院深圳 農業ゲノム研究所(写真)、中国科学院北京ゲノム研究所などが実用化に向けた多くの農産物や家畜、魚介類の試験研究に取り組んでいます。ゲノム編集食品が中国人の食卓に上る日は、そう遠くではないと見られています。でも安全かどうか、やはり不安は消えないようです。

2018/10/10

中国の農村現地で聞いたはなし   豚コレラが猛威

 先週、中国の河南省で聞いたこと。日本にも発生したが、いま中国ではアフリカ豚コレラが蔓延、あおりを受けてか豚肉の消費者価格が低下している。実際、スーパーの売り場を見ると、等級や産地に関わりなく、値下げして売っている。それでも、観察しているかぎり買っていく消費者はいなかった。    豚コレラは人間には感染しないと言われているが、一般消費者には不安があるらしい。  売れずに困るのは小売店にとどまらず、生産者、中間流通業者と広い。だが、打つ手がないのが現状だ。結果、とくに生産者の経営圧迫は大きく、倒産の危機を我慢で潜り抜けようとする気配があった。  実際、養豚業者に会って話を聞くと、自分の経営も我慢の限界にきているがエサを安くして時間が過ぎ去ることをじっと待っているだけだという。しかも、政府からの資金面でのサポートは皆無なのだという。  いなかの高速道路の方々で、豚の違法輸送移動がないかを検問するゲートが目立つのだった。  今回の調査結果概要は、今後、折に触れて書く予定です。

2018/10/03

中米貿易摩擦の取材、急きょ訪中

 急きょ、中米貿易摩擦の中国における影響の現れ方を取材するため、中国のある地方へ行くことにしました。 今回は朝日新聞のM記者が同行します。これまで、報道された中国でのこの影響、ほとんどが記者の知識不足と勉強不足から、掘り下げ方が弱く素人でさえピンとこないものが多く見受けられました。    今回は、周到な準備のもと資料を調べに調べ、取材相手はピンポイントで絞っています。取材相手は、日本人は警戒され、なかなかほんとのことを言ってくれないことが多いのです。若いころ、鵜呑みにして失敗した経験が身に染みています。  今回は、中国が国慶節で連休中にもかかわらず、取材の協力をしてくれる方がたを探しました。私は、トランプの経済外交は間違いであることはいうまでもなく、かならず失敗すると思います。経済を多少は勉強した者の目からみると、めちゃくちゃな思い込みが、今回の間違いを生みだしたというほかありません。問題は、中国が、これにすっぽりとはまってしまっている点にあります。対抗措置が間違いの上乗りをして、出口を失っているのが問題です。これによって、自国民が大変な被害を被っているのです。  現地の取材概要は、追ってこの欄で紹介しましょう。

2018/10/01

食品由来の薬剤耐性を考える

 ある週刊誌からの取材申し込みがあって、いつものことだけど用件を確かめて、下調べをしてみた。用件は、日本の抗生物質と成長ホルモンのことだけど、答えるまえに、軽く書きたくなった。話の筋は別なところにありそうだから、買いてもいいでしょう。  驚いたことに、日本の薬剤耐性出現率、ペニシリンに関しては世界最悪の40%を超えているんです。簡単にいうと、これがだんだんと効かなくなっているということ。ペニシリンで菌が強くなったのです。ペニシリン以外に、抗生物質はまだたくさんの種類があるが、厚労省はできるだけ使ってほしくなさそうだ。  一方、抗生物質の日本の製造量と輸入量は大きく、年間の売り上げは290憶円の市場。EUでは禁止している抗生物質、日本は、まだ決断できていないのです。昨日から今日にかけて、けっこう大量のデータを調べると、家畜、水産物、加工食品に基準超えが目立つ。統計的にいったら少ないが、宝くじと一緒で、基準超えに当たった人は運が悪いことになる。最近、まち医者へ行っても、風邪くらいでは抗生物質は処方しない。私の行きつけのお医者さんは、注射もしない。なかなか、治りにくい薬をくれるだけだ。しかたない。むしろ売薬に、効くものがある。  抗生物質の侵入経路は、1家畜・魚介類・加工食品、2医薬品。輸入依存の高い日本では、前者は減らないだろう。できそうなことは医薬品を選ぶことだが、そのまえに、健康管理に気をつけることしかない、としみじみ思った次第である。

2018/09/28

中国で大豆価格と豆粕価格が上昇と日本

 中国がアメリカからの大豆輸入に25%の関税をかけ、発動されてから中国の大豆価格と養豚のタンパク質飼料として欠かすことができない豆粕価格が上昇しています。 大豆価格の上昇は、大豆油メーカーと消費者、豆粕メーカーと養豚業者、ひいては中国人全部といってよい豚肉消費者にマイナスの影響を与えています。 ところが豚そのもの価格は、現時点(9月末)むしろ低下しているのです。これは矛盾のように見えます。しかし、実態は理路整然としていることです。  つまり、大豆の輸入関税引き上げが経営コストの上昇を招くと察知した養豚業者は、はやめに出荷してしまっているため、価格が軟調になったのです。この集中出荷時期を超えると、豚肉価格はコストプッシュの上昇を始めることでしょう。その時期は、12月~春節の時期になろうと思われます。  では、日本にとって、以上のことはどんな問題をもたらすでしょうか? 火を見るよりも章かなことですが、日本が輸入する大量の豚肉を使った加工食品の価格が上がるでしょう。大豆の自給率が極端に低い日本にとって、大豆価格の世界的上昇は、多くの食材の価格上昇を招く恐れがあるでしょう。米中貿易摩擦は、対岸の火事ではないことになります。

2018/09/24

中国、アメリカらの穀物(大豆)輸入が激減、8月の輸入統計 

昨日(9月23日)中国政府が発表したデータと、去年の同じ時期のデータを比較してみました。 すると、今年8月のアメリカからの穀物輸入量が10分の1以下に激減していることが分かりました。  この多くはアメリカ依存の大きかった大豆と思われますが、こんなことは過去なかったことです。  アメリカに対抗して、中国が自給率10数パーセントの大豆に、25パーセントの輸入関税をかけた事が大きな影響として現れた格好です。  マスコミの一部は、ブラジル、アルゼンチン、インドから代替輸入すれば良いなどといいますが、大豆の品種は同じではありません。  すでに中国の大豆価格、家畜の餌として欠かせない豆粕などの価格は上昇を始めています。  代わって輸入される大豆は、遺伝子組換え大豆がほとんどなのです。これらの国に、非遺伝子組み換え大豆を作り、輸出することは不可能です。 化学肥料と農薬で土壌が死んでいるのです。 勇気のある人ばかりなら良いのですがー。

2018/09/22

中国は対米反撃のため、保有するアメリカ国債を売るのか????

 米中貿易摩擦問題を打開するため予定されていた米中政府間交渉が、急きょ取りやめになったというニュースが流れた。トランプの対中第三弾となる2000億ドル規模にのぼる制裁関税引き上げが発表されたことが原因という。話し合いによる解決が望ましいことはいうまでもないが、早くとも、共和党の劣勢が伝えられる中間選挙が終わるまで、話し合いの糸口は見つかるまい。  弾の残るアメリカ、反撃の弾が底を突きそうな中国、勝負はあったと、早とちりをする動きもある。また、一方では中国には1兆3000億ドルものアメリカ国債があり、これを売ればアメリカの金利は上がり(国債価格は暴落)、国家財政は破たんするだろうから、中国の勝ちだいうのも、一種のはやとちりだ。中国も売ればいいというのではなく、買ったときの額面利回りと現在の市場金利との比較をしなければ、自分が大損をするだけだから、ことはそう単純ではないだろう。中国が持っている国債は、期間も買った時期もまちまちでバラバラ、その間、国際的な市場金利は変動を繰り返していた。    加えて、元とドル相場、傾向的に元高へ動いてきたが、それもいまは、元高のようで元安に動いたりと、単純ではないのだ。売るにしても、全部いちどきに売ることはありえないということで、いわれるような投げ売りはあり得ないというべきだ。  つまり、米中、双方ともに決定打がないのである。相互依存関係にある両国は、結局は元のさやに収まることが最善の成り行きなのだ。

2018/09/17

中国、アメリカからの輸入大豆に25%の関税の影響

 中国政府による、アメリカからの輸入大豆に25%の報復関税をかけた中国国内の影響は、いずれはコスト上昇となって、飼料メーカー、家畜業者、食用油メーカーに及び、遺伝子組み換え大豆の輸入増、国内生産の可能性に及ぶ可能性が出てきた。    すでに、飼料を海外に依存する中国の家畜コストは上昇、それはさらに拍車がかかるだろう。家畜業者の悩みは飼料と家畜の病気だ。とくに養豚業者は豚コレラ、口蹄疫などの伝染病、養鶏業者はこれから冬に向かい渡り鳥のシーズンを迎え、鳥インフルが猛威をふるう懸念がある。それには、高いクスリを準備しなくてはならない。  ただでさえコスト高に苦しめられているのに、経営費のうちでもっとも比率の高い飼料が値上がりするとなれば、経営は火の車となってもおかしくない。  遺伝子組み換え大豆は、すでに中国の食卓にのぼっている。
                        写真の食用油は、私が中国のスーパーで買ったモノ。ラベルには、原料が遺伝子組み換え菜種と大豆であることが記されている。いま、これを書いている私の机に立てかけてある。 こうした食品がさらに増える可能性もある。なお、遺伝子組み換え大豆の輸入量や消費情報は、いま、中国のネットから削除されている。    家畜業者の飼料原料の大豆はブラジルやアルゼンチン、インドなどから代替するようだが、品質や品種は変わる可能性があり、量だけ確保できればいいというものではない。もっとも、大部分は遺伝子組み換え大豆だから価格は抑えられるかもしれないが。  しかし、これを消費者に広まれば、これまであまり遺伝子組み換え作物に関心がなかった消費者間に健康不安がおそい、スーパーの棚から写真のような食油が消えるかもしれない。そして飼料にもそれが使われているということを知ったら、消費者はどう反応するだろうか?

2018/09/15

新著です。

食品汚染問題の本質に迫った本です。

中国が輸入関税を25%に引き上げた大豆だが・・・・中国産大豆の惨状を現場からレポート

 今年(2018年)8月、山西省の農村地帯を歩いた際、探して歩いた大豆畑をついに見つけた。大豆の産地は黒竜江省など東北三省に広がっているが、中国人になくてはならない大豆、気象条件(比較的北方)が合えば、農民だれもが作れる作物だ。     ところが、中国の現状はどうかというと、自給率は13~15%、多くはアメリカとブラジルなどからの輸入に依存し、輸入量は年々増加、1億トン手が届きそうな窮状なのだ。 その背景には、大豆消費量の増加に追い付かない国内生産という実態があるが、生産が追い付かないどころか、生産自体が減っていることが大きな要因になっている。ちなみに、国家統計局のデータによると、大豆(統計表示は豆類だから、すべてが大豆とはいえないが大部分が大豆と考えてよい)の作付面積と生産量のピークだった1994年と直近の2016年を比較すると、以下のとおりである。           1994年           2016年   作付面積  1,273万6,000ヘクタール   970万ヘクタール   生産量   2,096万トン         1,731万トン  減少は作付面積303万ヘクタール、生産量365万トンにも達してる。これだけの縮小が起きたのはなぜか? 1、米、トウモロコシ、小麦、野菜、果物、果樹にくらべ、土地面積当たり収益が少ない(マイナスの場合も)。 2、面積当たり収量の伸びが低い(1994年:1650㎏/ha、2017年:1790kg/ha)。確かに面積当たり収量は少しだけ上がっている。だが、収益が上がらない理由を写真(上)が物語っている。実が少ないのだ。  ではなぜそうなのか? 1、土が弱体化。地力がほぼ消滅していること。 2、写真(下:大豆畑は右側、左はコウリャン)が示すように、畑全体の手入れがほどこされていない。つまり細かな手作業をコツコツとやる農作業労働力が不足しているのだ。  ちなみに、写真(上)の日本産大豆、ころころと太って、しかも甘味があり、ビールのお供にも最高! とはいっても、日本も威張ってはおられない。大豆自給率は、中国にはるかに及ばないのだから。  

2016/11/08

中国農業大転換~安徽大学の国際シンポに参加して~

 この6日、安徽大学の世界農業・・・・というテーマのシンポジウムに招聘され、「中国農業大転換~日中農業比較の視点から~」という報告をした。  みなさん、興味があったらしく、報告を終えると、さっそく5名の方が私の周りを囲み、話した内容の確認やら自身のご意見やらを離してくれた。私の報告の概要は、中国農業が社会主義を捨て、小農的農業を残存させながらも太宗は資本主義的な農業に転換しつつあるということ、現在は制度的にない農地価格も地代の高水準化によって実質的に価格を持つようになり、その価格が工業用地と変わらないほどになっている地方もあること、などである。  一方、日本の農業は農地法を守らなければ農業そのものが崩壊するという強迫観念が蔓延しているため、変革は難しいことを紹介した。進んでいたと思っていた、日本農業の担い手の平均年齢が66歳であり、食料自給率がカロリーベースで40%であることなどは信じられないといった反応だった。  しかし、考えてみれば66歳でもできる農業技術があることにもなるし、けっして捨てたものではない。同時に、それが自給率を上げられない理由の一つかもしれない。こうした矛盾を抱え続ける日本農業の一方で、中国農業は急速に姿を換えつつある点に私は注目しており、春になったら、現場でより確かな状況を調べるつもりだ。

2016/07/27

悪化する「ジジ係数」

2015年の日本人の平均寿命は男性が80.79歳、女性が87.05歳と、さらに延びたそうです(厚労省7月27日発表)。 でも、健康寿命はほとんど延びていないのが現実です。「ジジ係数」は悪化しているのです。 「デジタル食品の恐怖」では、この点も分析しています。

2016/07/22

デイリー新潮の記事―日本人も、遺伝子組み換え大豆を食べている筈です

デイリー新潮が拙著「デジタル食品の恐怖」中の遺伝子組み換え大豆の部分を紹介してくれました。 毎日の食卓に欠かせない大豆製品ですが、その多くの部分には遺伝子組み換え大豆が使われている筈だということを、大豆の国内生産量、輸入量などから割り出した部分です。 href="http://www.dailyshincho.jp/article/2016/07221030/?all=1"

2016/07/17

朝日新聞 「ひと」欄に紹介されました

 大新聞に評価され、こんなに嬉しいことはありません。

 なんでもそうですが、こうして認められるようになるには、少なくとも、一つへのこだわり、執着心が不可欠なんですね。
 
 それが、わたしには中国の農業問題、農民問題、食品問題です。けっして華やかな分野とはいえませんが、わたしにとっては、どんな問題よりも大事な、そして大問題なのです。





デジタル食品の恐怖

約2年ぶりの新刊です。デジタル食品、モジュール食品、ジジ係数、無形食品、「その他食品」・・・造語ですが、新しい言葉がないと理解できないほど、現代の食はますます不可解なものになっています。 私にとって、たくさんのことを調べ、確認するいい機会になりましたが、塩分消費量には隠された事実があり、36グラム/日が実態です。言われているような10グラムどころではありません。デジタル食品のためです。加工食品の包装容器などに記されている食品成分表には黒い枠があり、その面積がおおむね30㎠で、その理由はなぜかをご存じでしょうか?

新刊書の紹介

2016/05/18

不思議・・・・

実は、このブログには私が中国で撮影したさまざまな写真が貼ってあったのです。

ところが、いつのまにか、その多くが消えてしまいました。あまり気にしない性質ですが、
不思議。

2015/12/20

激変する中国と農業経営

中国農業経営が日本を超える


中国農業には、遅れているところが沢山残っています。
一方、日本農業を超えつつある、あるいはすでに超えているところもあります。

超えつつあるところは、個人農の規模拡大―大は100ヘクタール経営もあります。個人農です―。
企業による農業経営が急速に増加していること―大は何千、何万ヘクタール経営。コメ、麦、トウモロコシ、牛、豚、羊・・・・・。

日本では、農地バンクの利用が予定の6割にしかなっていない、と新聞やテレビのニュースです。
手を変え、品を変えて、農水省も大変ですね。中身は、30年、40年まえの農地対策と同じです。

日本は、農地法改正あるいは廃止をすぐにやりましょう。これなしで、日本農業を救う方法はありませんよ。

中国農業はアメリカ式を目指しています。若い農民が減り、その代わり、若い非農民が農業経営に参入しています。

2015/04/27

改正食品安全法が公布された

先週、中国は食品安全法の改正を行って、公布した。施行は今年の10月1日。
日本の食品安全基本法、食品衛生法の中身をよく研究し、6年ぶりの改正(2009年に、それまでの「食品衛生法」を廃止。食品安全法を施行)だが、条文を大幅に増やし、実に細かく規定している。すでに翻訳し、JST(科学技術振興機構)CRCCに提出した研究報告に織り込んでいるので、読みになりたい方は、間もなく入手可能になると思う。

2015/04/20

中国住宅不況の英語論文、ダウンロード数が好調です。

http://www.scirp.org/Journal/PaperInformation.aspx?PaperID=55102

(Ctrl 押しながらクリック)  
Two Main Conditions for Collapse of the Bubble Economy of China—Large Number of Unsold Houses and Deregulation of Deposit Interest Rates
 
 
 

食品汚染問題の解き方


昨今の消費者には、中国食品イコール「汚染」というイメージがある。

これは半分が実態を反映し、半分が実態と異なっている。

実態を反映している半分も、すべてが中国固有の原因というわけではない。部分的に汚染された中国原産の野菜や肉類に、部分的にしろ、すでに汚染されたさまざまな輸入加工食品、輸入調味料、輸入添加物が加えられ、中国で新しい加工食品が生まれ、汚染が濃縮され、それが海外に輸出されるという構図が出来上がりつつある。

この場合、多数の加工食材はHSコード(商品の名称及び分類についての統一システム)等で分類不可能な、そして食材として固有の名称を付けにくいものが、あたかも電子時計のモジュール部品のように細分化され、しかも多国籍化もしくは無国籍化しつつある。この実情をわたしは「食品モジュール化」ということばで表現している。

中国の場合、このような食材生産の世界のハブとして変容を遂げつつあり、この実態に着目すると、食品汚染は食材即ち食の部品化を通じて形成されていることが分かる。

あとの半分は、食品汚染は中国食品に限った現象ではないということである。食品モジュール化を通じて、日本にもアメリカにも、どの国にも、食品汚染は起こる可能性がある。また、日本の残留農薬基準、使用許可添加物、使用許可抗生物質等はけっして厳格ではないという指摘もあり、日本固有の汚染原因を作っている場合も否定できない。食品モジュール化は、これを広げる作用をする。

こうした食品をめぐる環境のもとで、中国はもちろんのこと日本の消費者もまた「食の権利」を主張する必要がある。と同時に、食品を供給する側は、その権利に応じるための義務を履行する姿勢を持つべきである。

食品をめぐる世界は大きく変容していると認識することが、日中間における「食品汚染論争」の解決の途を探る際に、とても大事なことだと思っている。

 

2014/11/01

食品表示制度についての大新聞の誤解もしくは認識不足

遺伝子組換え食品にかぎらず、日本の食品表示制度には要注意です。


次は、ある大新聞(私が信頼を置く新聞の一つです)が遺伝子組換え農産物がアメリカ、フィリピンで盛んに作られていることを報じた最近の記事です。


「日本では組み換え作物の栽培は認められているものの、研究機関での試験栽培を除き、販売目的の商業栽培は行われていない。大豆、トウモロコシ、ナタネなど大量の組み換え作物を米国などから輸入。輸入トウモロコシの約7割は組み換えで、家畜の餌、食用油の原料、清涼飲料の甘味料などに使われている。輸入ナタネも約9割が組み換えだ。

 日本国内では組み換え作物への抵抗感が依然として強くスーパーなどで販売されている豆腐や納豆など「表示義務」が課せられた食品は組み換えでない原料が使われている。(毎日新聞 2014年10月31日)



青字の部分が問題のか所です。

日本の食品表示制度によれば、食品(加工食品)に遺伝子組換え作物が使われていても、赤字で書いた部分(ただしがき以下)の条件を満たすと、その事実を記載する必要がありません(農水省資料)。
  • 「ただし、次のいずれかにあてはまる食品には、遺伝子組換え農産物の使用の有無についての表示がないことがあります。
    • 大豆(枝豆、大豆もやしを含む)、とうもろこし、ばれいしょ、なたね、綿実、アルファルファ、てん菜、パパイヤのいずれもが食品の主な原材料(注1)ではない
    • 遺伝子組換え農産物を原材料として使っていても、組み込まれた遺伝子やその遺伝子が作るタンパク質が製品中に残っていない(例:油やしょうゆ)
    • 遺伝子組換えでない農産物を原材料として使っている


    • (注1)
      主な原材料とは、使った量を重い方から順に並べたときに3位以内であって、すべての原材料の重さに占める割合が5%以上である原材料をいいます(ただし、水は除く)。」

  • 青字の部分は、よく間違われる部分ですが、遺伝子組み換え作物(食品原材料)や農産物そのものは、この条件に隠れて忍び込んでいると考えた方がいいでしょう。

  • この点は遺伝子組み換え食品全般にかぎらず、あらゆる食品原材料に当てはまります。

  • 毎日、摂る食品の4%は遺伝子組換え食品かもしれませんし、軽くても量の多い非表示義務のない危険な原材料や食品が氾濫している可能性も否定できません。
  • 実態を知ったうえで、食べるか食べないかを決めるのは個人の自由ですが、まずは真実を知るべきでしょうし、知らせるべきでしょうね。

2014/05/02

中国「世界の工場」の終わり―「世界の財布」へ

中国の成長は、「世界の工場」になることでした。78年以来30数年、ひたすらその道を走ってきました。それもどうやら最終コーナーを残すだけになったように思います。中国「世界の工場」の終わりです。

GDPのうち、ついに第三次産業が第二次産業を凌駕することになりました。こうなると、経済成長は緩みます。資本の回り方、巡り方が徐々に変わっていき、資本装備は増やす必要もなくなり、設備投資も土地開発投資も従来のような勢いを失い、おカネが更に余り出します。

おカネが不足する間、成長は続きますが余り出しますと、成長は必要ありません。お金が溢れているのに、さらに求める理由がなくなるからです。欧米も日本も同じ経験をしてきました。

今後の中国経済の呼び方は、そうです。「世界の財布」です。しかし、溢れ返って、泡となる懸念もないではありません。

2014/04/25

日米首脳会談と共同声明と「桜吹雪」

今週は、時間の推移がなぜか長く感じました。北京から帰った後、仕事が溜まっていたことも理由のひとつでしょうか?

日米首脳会談とあの共同声明、あまり実質的な成果はなかったように思うのですが・・・・・。
なにか、風とともに散る紙製の桜吹雪を観るような空虚さを覚えたのです。

もともと、「尖閣奪取」のために「華」の国が軍事行動に出ることはありえないのに、なにかの空文と引き換えに、TPP交渉で米に借りを作る始末。
「満額回答」とはしゃぐ国際世間オンチが我国の中枢とは、なんと情けないことでしょう。

それにしても、アメリカの凋落ぶりは痛ましさを覚えるほどですね。オバマ大統領の姿に、威厳は見えず、普通の国の首相のような雰囲気しか感じられなかった。
それでいいのでしょうけど。

威勢のいい割に偽被害者風であっても困るし、やみくもにもっともらしい威厳をまき散らす偽正義漢風であっても困りものです。


さて、明日から英文投稿論文を作りはじめます。
テーマは、中国農地資本ストックの国家収奪によるその国家への移転がいびつなシャドーバンキングを招いていることを論じるものです。
ドラフト完成まで、たぶん、速くて3か月。英文推敲にひと月、ネット公開される時期は早くて年末でしょう。





2014/04/21

先週は忙しかったです。
16日夜10時からNHK「国際報道2014」に出演、翌日は、「夕刊フジ」の著者インタビュー、夕刻に名古屋に戻り、12:30発の飛行機で北京へ。

宿に着いたのが、飛行機が遅れに遅れて午前3時、8時からシンポに参加、報告、夜は宴会。しかも、二回(うち一回は、在北京の博士課程ゼミ生や卒業生と)、そして翌朝、7時にホテルを出て帰国です。1泊3日の変則出張でした。

今日21日は東海ラジオで番組「チャイナ・ナウ」二回分の収録、放送は5月18日、25日、日曜日です。朝、8時45分=9時までですのでお聞きください。

今回は二回目の出演ですが、一回目(18日)が中国農業の現状と二回目(25日)は現在取組んでいる日中産官学連携事業の紹介です。

2014/04/01

新年度初日に想う

きょうは、2014年度の初日です。
中国農村は、少しずつですが変化してます。富裕層や中間層が使うおカネが、知恵のある農民に回り始めているのです。

商業性のある農産物を作る、貯蔵するなどによってはひと月で5000元も稼ぎ出す農民は少なくありません。5000元は日本円で8万円程度ですが、中国の農村では、苦も無く暮らせる額です。

先週会った農民は冷蔵庫を4台預かり、その中に貯蔵する冬ナツメの管理料のみでかなりの生活水準にたどり着いています。しかし、ここには農民の智恵と経験がありました。智恵には経験が経験には智恵が薬ですね。極意、技能、そんなことがこの農民にはありました。

日本の農民も同じです。同じ茶豆を作っていても、一軒ちがえば味も香りも違います。技術は伝承・普遍化できますが、極意や技能は無理です。1人で会得する以外にありません。

話しは変わりますが、この中国の農民は、私たちを自分でも分からない方言を話す中国人、と思ったようです。私は、田舎の農民の話す中国語には閉口するので現地の人に通訳を頼み、ゆえに私が話したのは日本語です。
でも、彼は日本語を聞いたことが初めてだったので、私たちを自分が理解できないほどひどい放言を話すどこかの中国人だと思ったのでした。中国は広い!

2014/03/03

3月20日、文春新書『日中食品汚染』が発売になります。食品汚染問題は中国、というのは誤りです。
日本にも問題があります。この点をくわしく書きました。

2013/07/10

中国のシャドー・バンキングこそが表の金融市場

いま話題のシャドーバンキングについて一言。
なにか、コントロール可能のようなことが中国政府筋から聞こえてきます。金利自由化されないかぎり、シャドーバンキングが消えることはないでしょう。金融制度の市場化が実現されていない現状では、シャドーバンキングが本来の市場金融でありまして、人民銀行が管理しているいわば表のバンキングこそがシャドーなのです。

行きづまったのか?中国経済(1)

http://chuplus.jp/blog/list.php?category_id=225


行きづまった感も出てきた中国経済、これからが普通の経済大国になっていく転換期でしょうか。

2013/04/12

「週刊文春」、中国の食品安全問題に一石

週間文春今週号、2013年4月18日号

中国の食品安全問題とH7N9問題を特集しています。私も取材に応じ、問題を提起、かなり多くの行数を割いてくれています。

2013/02/08

ルイスの転換点の罠

「ルイスの転換点」をまことしやかに議論する人たちが居るんですね。

中国も工業化が進み、農村から労働力が工業部門に移り、農村には労働力が枯渇する、と同時に、賃金水準が平準化、つまり、工業労賃と農業労賃が一緒の水準になるんだとさ。

もし、それが現実に起きるなら、農民にとって、こんなに歓迎すべきことはない。余剰労働が消え、所得が上がるのだから。

 でも、実際は、市場経済の社会では、絶対にこういうことは起きない。市場経済のもっとも進んだ欧米、あるいは日本でも、こんなことはあり得ないし、現に起きていない。学者という者の中には、暇学問が好きなひとがかならず居るんですね。
陥りやすい「ルイスの転換点の罠」なんでしょう。

欧米、日本の農業部門と工業部門の賃金格差は、けっして中国をとやかく言えるほど小さいわけではないんです。

2013/02/07

専業農民の急減、農外収入依存高まる

中国の専業農民が急減している。年齢構成別にみると、20~30歳代は一ケタ%も農業現場には残っていない。農業をするのは50歳以上となってしまった。そのかげで、大豆も米も小麦も等も鱗氏も輸入増加が止まらない。

こうしたなか、統計的には、農民の所得の源泉構成が大きく変化している。農業所得は伸び悩み、増えるのは出稼ぎ、農外就労、仕送りだ。

ほんとうに皮肉なことだけど、そのためか、農民間の所得格差は少しずつ縮小しているのである。

むしろ、専業農民の経営が苦しい。これは日本も同じこと。コスト計算などに縁がない兼業農民が、市況と無関係に作る農作物が大量に市場に流れ込むために、農民の手取り価格はどんどん下がる。価格決定権はいまや兼業農民にあり、専業農民はたまったものではない。この点も、日本も同じこと。
中国では、このところ、農産物消費者価格が高騰しているが、農民には無縁だ。なぜか?川下の最後の1kmの業者が、その大部分を取っているからである。

2013/01/09

農産物価格急騰中の中国




中国(全国)の農産物卸売市場価格が図のように、今年に入って急騰の気配を強めています。
冬になると、農産物価格が上がることは例年のことですが、今年は、とくに激しいようです。

そのわけは、気温の低さからくる野菜などの出荷減、家畜飼料価格の上昇。とくに、豚肉、牛肉、羊肉の上昇が目立ちます。
野菜は、ビニールハウス栽培が普及しているので、生産が落ちることはあまりないとみていましたが、今年はやや特別のようです。

今年の春雪は2月10日ですが、これから一気に上げ足を強める可能性が大でしょう。

2012/12/08

農業保険の制度化はじまる

このほど、国務院は「農業保険条例」を公布、来年3月から、農産物、農業施設などを対象に、農業保険制度を始めることにした。

ながいあいだの、課題であったが漸く、実現にむかって歩みだした。

いま、中国には「中国保険法」はあるが、農業保険は事実上存在しなかった。保険機構が保険者となり、農民が契約者および被保険者となる。

保険料、保険金額、期間など、仔細は今後明らかになると思う。

農民の負担と保証がどのていどになるのか、まだ不確定要素が多いが一歩前進といえる。

2012/12/01

習近平が住んでいたというヤトトン

習近平が陝西省で住んでいたというヤトトンとは、右の二枚の写真のうち、下にある形式のものです。内部は、きれいなものです。
ヤオトンに住んでいたというと、なにか、貧困生活をしていたかのような、むらびとの暮らしがわかるかのような解説が目立ち、それが習近平の体験の人間的な側面を強調するのに役立っているようだが、実態は少々ちがう。貧困生活者はこのようなヤオトンには住めず、上の写真の方に住むのである。
いずれも筆者が現地で撮った写真である。この二つでは、内部のレイアオウトも綺麗さもまったく異なる。陝西省は甘粛省などでは、昔はみな、こんな暮らしをしていたのであって、特別なことではない。

中国農民のローエンド自動車保有の増加

私の統計的な分析では、年間実所得が15,000元(200,000円程度)になると、農民の10%が自動車を持つようになる。
日本では、平均月収300,000円になったとたん、50%が車をもつようになった。それは1978年ころのことであった。
中国の都市住民の場合、50%の保有率になる層は年間実所得が58,000元(750,000程度)である。
いま、中国には1億台を超える自動車が走っている。そのうち、わずか700万台が農民所有である。

しかし、いま、農村をわかせているのは、300,000円程度の電池自動車だ。この程度だと、買える農民層も少なくない。この手のローカル・ローエンド車をつくるメーカーは、私の資料調査では、中国に200社はある。
この調子で、農民の車所有はどんどん増える構図ができつつある。