2025/08/24

深刻化する中国農業被災―つづく異常気象―

 このコラムは、中国の農業気象を追いかけていますが、近年の中国には異常気象と思える現象が日常化しているようです。

今回は、そんな中国の驚くべきかどうかは分かりませんが異常気象について、中国の気象局が出している情報を参考にしながらお伝えします。

日本でも同じような異常気象が起きていますが、地球規模の現象の一環なのでしょうね。

 

20257月の災害、経済損失は半年分に匹敵

中国では20257月、洪水や地質災害が相次ぎ、延べ5865千人が被災し、293人が死亡または行方不明となったそうです。住宅の被害は17,500棟の倒壊、115,100棟の損壊に及び、農作物の被害面積はなんと911,200ヘクタールに達しました。直接的な経済損失は445億元に上り、わずか1か月で上半期全体の被害に迫る規模となりました。

2025年上半期は、干ばつが深刻

202516月に発生した各種自然災害では、延べ2,5037千人が被災し、307人が死亡または行方不明となりました。被災者数は前年同期(3,2381千人)から約734万人減少しましたが、依然として大きな規模でした。

住宅被害は倒壊が29,600棟、損壊が347,200棟で、前年同期の倒壊23千棟、損壊279千棟を上回ったといからこわいことです。

農作物の被害面積は2182,900ヘクタールで、前年同期の3172,100ヘクタールからは減少しました。直接的な経済損失も5411千万元と、前年同期の9316千万元に比べて約4割減少しましたが、昨年の被害がいかに大きかったかを物語るものです。

一方で、干ばつ災害の影響は深刻でした。延べ1,0836千人が被災し、116万人が生活救助を必要としました。農作物は992,700ヘクタールが被害を受け、さらに家畜約320万頭(羽)が飲み水不足に直面しました。経済損失は437千万元に上りました。

7月の洪水等災害で年間被害は拡大の見込み

2025年上半期は、被災者数や経済損失が前年同期より減少していましたが、7月の大規模な洪水・地質災害(地すべり、地震、鉄砲水など)が状況を大きく変えています。

死亡・行方不明者は1か月で293人にも達し、上半期の総数に匹敵しました。経済損失も445億元に上り、半年分の被害額に迫りました。7月の災害は、非常に大きかったということでしょう。

このため、2025年通年の自然災害による被害は、前年を上回る可能性が高いとみられています。特に農作物被害の拡大や農村地域での生活基盤の損壊が懸念されており、政府あげての復旧と支援の加速が望まれます。

 

今年の大雨前線は南北型

これまでの、天気は、ともかく雨が多い年となっています。下の降雨図は8月23日に、中国気象局が発表したものです。

この図では、南北に降雨帯がやや斜めの形で伸びています。この図では、いくらか降雨も治まっているように見えますが、いつもですと、もっと濃い茶色の降雨帯が南北を走っています。これから、中国では米、トウモロコシ、小麦の収穫が増えますが、影響が懸念されています。



この地図に引いた赤い線は、中国を地理的に南北に分ける「秦嶺–淮河線」です。降雨帯は、これを縦断するように伸びています。つまり、いま中国を襲っている異常降雨は、中国全土を左右に分断するように、なっている。それだけ、農業への影響の懸念が大きいということなのです。

2025/07/30

三峡ダムの3倍、世界最大の水力発電ダムを着工-中国

 

719日、中国は三峡ダムの3倍の発電量、年間3千億キロワット時の水力発電ダムの着工式をおこなった。

チベット高原を流れる海抜が世界一高いヤルツァンポ川(中国名・雅魯蔵布江 Yarlung Tsangpo:チベット高原を源流とし、最後はバングラディシュの河口からベンガル湾に注ぐ)の中流域に建設するもので、建設場所はチベット自治区の東の端に位置する。

完成は2030年を目指すとしている。

 世界最大の水力発電ダム、三峡ダムは847億キロワット時、ダムサイトの幅が2.3キロメートルだから、単純にその3倍となると、サイトの幅は7キロメートルとなり400メートルトラックを17.5周もしないとゴールにたどり着けない、恐ろしく巨大なダムとなる予定だ。

                                                         中国がこの巨大ダムを建設する背景として、私は、次があると思う。

40004500メートルと、海抜の高いこの地方一帯の慢性的な水不足への対応。因みに私の場合は4000メートルが限界、このあたりで病院に急行運搬していただいたことがある。持参した3本のおおきな酸素ボンベは、すぐにカラになった。

慢性的な電力不足への対応(中国では、55基の原発が稼働、建設中24基。特に北方においてだが、山岳部では太陽光発電、平野部では風力発電が盛んに稼働しているが、なお不足している)。

③下流に位置するインド、バングラディシュ、とくにインドへの戦略的手段としての水の活用価値が大。

三峡ダムの長さは600キロメートルだから、新しいダムはその3倍、1800キロメートルにも達する可能性がある。完成後の下流地帯は、常に、流量の不足あるいは過剰に、慄く(おののく)ことであろう。

④中国にとっては、一種の巨大な公共投資、1.2兆元(24兆円)の建設費用は、投資乗数を3とすれば3.6兆元(72兆円)の経済効果を生むだろう。政府は、不況であえぐ中国経済の助け舟の一つとして位置づけているはずだ。

 

この巨大ダム建設をめぐっては、さまざまな懸念が指摘されている。ネットでサーチすると、まずはダム下流の位置するインドとバングラディシュからの既述の懸念、これは誰にも理解できよう。

次は環境NGOからの、環境への計り知れない影響発生という懸念だ。巨大なダム建設が、地球の地軸の傾きの変化や自転速度へ影響する、といった地学的なものから、気象への影響や、もしも決壊した場合に予想される途方もない洪水被害の発生不安などだ。

特に最近は中国全土で、降る雨の大きさがハンパでなくなっていることなどから、想定外のことが起こったら、いったい、誰が救ってくれるのか、誰が被害を補償してくれるのか、といった不安の声もあるという。

 地形的なリスクとしては地震の不安がある。この辺りは、中国国土の地層が歪んでいるところにあるからだ。

しかし、これらの不安や懸念に中国は一切耳をふさぎ、リスクをかえりみず、猪突猛進を繰り返す姿勢は、おおきな反発と不安を広げるだけではないのか。

2025/06/30

温暖化のスピード上がる中国―「中国気候変動青書」2025年版から―

 

「中国気候変動青書」

先ごろ(627日)、中国気象庁は2025年版の「中国気候変動青書」を発表しました。これは、大気圏、水圏、氷圏、生物圏を対象として、気候変動の実態とその要因を分析したもので、かなりショッキングな情報を提供しています。

 

中国では日本以上に気候変動に神経を使って、最近の異常気象や気象危機を注目するようになっています。

 

今回の「気候変動青書」のポイントをいくつかお知らせし、農産物生産との関わる点にコメントしましょう。

 

まず、いくつかの気象悪化傾向を見て行きましょう。

 

 

2024年は最高気温を記録

中国の複数の観測指標は、気候温暖化傾向が依然として続いており、2024年の中国の年平均気温は初めて、基準値よりもプラス1.0℃となった、としています。これは2024年が1901年以来、最も暖かい年だったことを示しています。

 

2024年の地球全体が、そもそも1850年の観測開始以来、最も高い気温の年でした。

 

そのなかで、1961-2024年の間、中国の年平均気温は10年ごとに0.31℃上昇という、顕著な上昇を記録しました。

 

 

降水量も増加傾向

1961―2024年の間、中国の年平均降水量は、10年ごとに6.0ミリメートル増加、豪雨や暴雨に見舞われる日数が10年間で4.5%増加しました。

 

台風の大型化傾向

台風は、1990年以降、中国に上陸する台風は年々大型化、強力化しています。2024年秋に大型の台風が6個上陸、は1949年以降、最大・最強の台風も上陸しました。

 

異常気象の増加―「気候リスク指数」の増加

従来はなかったような極端な高温、極端な豪雨、極端な台風が発生するようになりました。中国では、これらをひっくるめて「気候リスク指数」といいますが、この指標が上昇傾向にあります。

 

 

氷河・凍土の溶解傾向

中国には、あまり知られていませんが氷河と凍土があります。世界の氷河と凍土は縮小傾向にあることが分かっていますが、中国も例外ではありません。

 

氷河と凍土は西部にあるのですが、天山ウルムチ1号氷河などの溶解が加速しています。また、チベット道路沿いの永久凍土の退化が、著しいスピードで進んでいると、「青書」は述べています。

 

海面上昇傾向

2024年の中国沿岸の海面温度、海洋熱含量、海面高度、はいずれも観測史上最高でした。海は水温が上昇し、海面が上昇しつづけているのです。

 

地表水資源の水位も上昇傾向

地表水、たとえば河川と湖沼の水面も上昇しています。降水量の増加がもたらしたものです。あの美しい塩水湖である青海湖は標高3千メート以上のところにあります。行ったことがあるのですが、その青さは名前どおりでした。

 

その青海湖は2005年以降、連続して水位が上昇、2024年には3196.84メートルに上昇しています。

 

 

温室効果ガス濃度も上昇傾向

中国は青海省に大気背景観測所を設置し、CO(二酸化炭素)、CH(メタン)、NO (亜酸化窒素)の濃度の変化を観測しています。これらの濃度は上昇し続けています。

 

中国農業への影響

最近、中国各地で気候変動による暴雨、高温、干ばつ、害虫被害などが頻発していますが、今回の「中国気候変動青書」は、これらの根拠と背景を説明する意味があります。

 

これらの災害は、農産物生産や食料のサプライチェーンに直接の影響を及ぼしかねません。

 

この問題は、中国にかぎったことではありませんが、広い中国では、農業防災の点で、堤潰蟻穴(ていかいぎけつ)=(小さな蟻の巣穴から水が漏れ出し、最終的には大きな堤防が決壊する、というたとえ)と、つねに隣り合わせです。

 

 

今年もすでに各地で農業災害の発生がニュースとして流れていますが、おおきな減収にならなければいいなあ、という声が中国大陸から聞こえてきます。

2025/06/12

中国の米はオンライン流通が主役、米の流通チャンネル豊富な中国

日本では米の流通量が不足して、価格の高騰を招いていますが、世界最大の米の消費国家である中国はどんな様子なのでしょうか?

 

日本の米流通は、江戸時代から、船場や「相場」という言葉が米の取り引き(堂島米会所)が盛んだった大阪で生まれたことに象徴されるように、米は日本最古の市場取引物資だったのですね。全国の津々浦から米を吸い上げ、大阪に集めたのですか、その仕組みの複雑さと堅牢さは、他の商品にくらべ抜きん出ていました。

 

その基本的な仕組みは現代まで引き継がれ、それが柔軟さに欠ける要因にもなっているのではないでしょうか?日本の米流通は、昔の仕組みを引きずっているのかもしれません。

 

さて、中国ですが日本とまったく事情が異なって、米に歴史的な形と言うものがありません。旧い流通システムは、共産党が破壊してしまって、消費生協のような供銷合作社という名の商店のような組織を全国津々浦の消費地に配置して、国家統制的な流通を展開してきたのです。

 

しかし、これもいまや過去の話し。

 

米はO2O流通が主流に

 

中国人は、世界でもっとも新しもの好きといえると思うのですが、いまや、消費者が買う米はO2O、オンラインto オフライン 、スマホでECのプラットフォームに注文すると、30分以内に注文主の自宅に届く、という方法が都市の流行、流行というか、買い物の仕方として定着しているのです。

 

この30分、というのが勝負なのです。注文から30分以内に届けないと、この注文主から、次の注文はありません。

 

オンラインというのは、スマホで注文、オフラインというのは注文した米を現物で手にする、という意味で、O2Oの 2はtoすなわち両者をつなぐ、という意味ですね。

 

ただし、オフラインには二つのパターンがあります。

 

いまの例のように、30分という短い時間内に注文主に届ける、という方パターンと、注文主が注文した米をスーパーとか米やさんの実店舗に取りに行くというパターンです。

 

いまは、バイク便のような配達が人気です。

 もう少し、くわしく説明しましょう。

 

生産された米はどこへ行くのか?

 

農家が生産した米には、3つの流通ルートがあります。以下は、そのうちの2つについて焦点を当てましょう。残るもう1つは、政府備蓄米としての販売ですが、今回は捨象します。

 

●伝統的な多段階流通ルート

比較的小規模農家(中国の大部分がこれです)が「米販子」と呼ばれる米集荷人(ブローカーですね)が村単位で米を買い取ります。

 

米販子は、集荷した米を農民専業合作社(短粒種の一大産地となった五常大米合作社などは有名です)へ売り渡します。

 

その後、地域にある、けっこう広域的な産地卸売市場に集められ、精米工場へ回されます。米は、ここまでは玄米の状態です。

 

そして精米工場で精米され、等級化され、都市の消費卸売り市場(北京ですと、有名な新発地卸売市場が有名ですね。二三度行きましたが、ここは非常に大きい市場です。)へ回されます。

 

精米されていますから、消費はのんびりできません。しかし、このとき、スーパーや米の小売店に行くことがおおむね決まっていますから、問題はありません。

 

ECルート

これには、少なくとも3つのパターンがあります。

 

(1)合作社ルート:

農家から農民専業合作社等に集荷されます。集荷された米(玄米)はひとまず、ここでストックされます。

 

消費地近郊の倉庫へ移動、適量を精米します。

 

次に、ECプラットフォーム(ウイチャット、抖音小店など)を経由して、注文が来ますと、出荷です。

 

(2)O2O生鮮ルート

農家から美団などの産地EC倉庫へ輸送します。

 

次いで、都市消費地の拠点倉庫へ。一定量を精米保管。

 

注文が来ると、30分以内に配達します。

 

(3)企業契約栽培ルート

企業が稲作農家と栽培の契約を結びます。

 

収穫後、米は、玄米のまま農家から消費地近郊倉庫に輸送され、そこで保管されます。

 

そこで、一定量の精米を確保し保管します。

 

京東などの予約サイト注文を受けて、米は注文主に配達されます。

 

消費者は、QRコードから、注文した米の生産者がどのような人で、どのように栽培されたかを知ることができます(トレーサビリティ)。

  

これらにさまざまなバリエーションが加わる、豊富なルートが形成されています。

 

ますます中国の米流通は合理化され、消費者サービスの向上がはかられつつあります。いったいどこまで、発展するのでしょうか?

 

2025/05/25

2024年産中国の穀物7億トンの大台に達する、一方で大量輸入の現実

中国農業農村部 の韓俊部長(大臣)は、さきごろ、中国の2024年産穀物生産量が史上はじめて、7億トンの大台に達したと発言し、注目されています。

もっとも、中国の穀物は「糧食」と表現され、薯類を含みます。また、コメ、小麦、大麦、トウモロコシ、あわ、コウリャン、きびなども含まれる、定義として幅広い穀物類を指しています。

しかし穀物の定義の広さを考慮しても、7億トンという数字は、とても多いものであることはまちがいありません。

 中国の人口は約14億人、一人当たりの生産量は約500キログラムになりますね。 私の計算では、穀物は、直接の食料、畜産物の飼料、次の作付けのための種子、デンプンなどの若干の工業原料などの需要に応じようとすると、一人当たり500キログラムは必要となります。

 その意味でも、中国は需給が均衡する生産量を確保したことになるでしょう。中国の穀物の方策にはおめでとう!というべきでしょうね。

 

とはいっても、手放しでは喜べない事情があることを忘れてはなりません。

 

それは、穀物の輸入量が毎年のように、大きな数量を数えているという点です。

2024年1年間の「糧食」輸入量は薯類を除いて1億5,800万トン(前年比ではマイナス2.3%でした)、大麦25.8%増の1,400万トン、コウリャン66%増の870万トン、大豆6.5%増の1億50万トンなど増え続けるものも少なくありません。

 

その他、小麦やトウモロコシは、それぞれ1,000万トン以上、豚肉や牛肉 670万トン、食用油950万トン(食用油1トン精製するには、5トン度の穀物や種子が必要です。換算すると5,000万トン程度の穀物などを輸入したことになります)と続きます。 

 

こんなに多くの生産量があるのに、なぜこんな大量の穀物や肉類、食用油の輸入が行われているのでしょうか??? 不思議と思われる方も少なくないことでしょうね・・・・

  そのすべての理由は、私にも分かりません。謎なんです!!!

 理由の一つは、農産物と畜産物の価格レベルが、国産>輸入となっているからです。この点は、データから確認できます。

もう一つの考えられる理由は、生産量についての地方政府からの中央政府への届け出に、データと推定値との間の乖離です。

中国ほどの広い面積、約1億3,000万ヘクタールもの土地の収穫物は実測ができません。サンプルによる生産量の推定なのです。推定には、5%程度の誤差はつきものですから、それだけで3,500万トンもの差が生れます。

 もし、これに水増しのような手心が加えられたりすれば、優に、5,000万トンは実態からズレることになりかねません。

 

中国の「統計法」は運用が厳しく、かりに、農産物の生産に虚偽の報告があった、となれば責任者は即刻の首です。ですから、意識的に、このような統計不正が日常化しているとは思われません。

収穫量の実際と報告との間には、上述のような意味での誤差を理由とする乖離があり、それが国産量の「豊作」にもかかわらず、大量の輸入が避けられない理由の一つと思われるのです。

 

ですから、作付面積一定、気象悪化、農業の担い手減少と高齢化なども考慮すると、実際のところ、穀物生産の7億トンというは、なお難しいのではないか、と思います。

 

 

 

 

 

 

 



 

 

 

2025/05/08

中国の大豆価格の急騰はじまる!


 

輸入関税の影響大
中国の輸入関税の引上げの影響が、中国で、早くも大豆と、大豆を原料とする大豆粕(主に、ブタの飼料用)の卸売価格が急騰する気配を見せ始めたようです。

上の図1は、トランプ大統領が当選した頃から、最近までの大豆価格、下の図2
大豆粕の価格の推移を追ったものです。

二つの図の赤い星は、左から、トランプ当選、トランプが大統領就任、右端がアメリカと中国がそれぞれ145%と125%の関税を課すと表明した頃(4月初・中旬)のものです。

トランプ大統領の誕生が決まった直後、二つの物品の価格はどちらかというと穏健な動き方をしていました。むしろ、二つとも低下する気配さえありました。

大豆価格急騰
12月以降、大統領就任式が近ずくにつれて、トランプ氏の対中強硬発言が勢いを増すようになってか、大豆価格も大豆粕価格も急速に上昇を始めます。

そして1月20日、ついにトランプ大統領が正式に誕生します。すると、アメリカから毎年3千万トンほどの輸入をしている大豆の価格は急速に上昇を始めたのです。

2月1日、トランプ大統領は中国に10%の追加関税を課すと表明したからです。

一方、大豆粕価格は、在庫をみながら低下を見せ始めたのです。これは、大豆柏そのものの輸入とブラジルからの大豆輸入、一部はロシアからの輸入が市場の緊張感を緩めた結果でした。

しかし、4月9日、トランプ大統領が中国に対して、145%関税を課すと、おどろきの表明をしたのでした。

それにより、中国はその二日後の11日、アメリカからの輸入品に対して125%の報復関税を課すとしてのでした。

大豆価格も大豆粕価格もこれにすぐに反応、図1図2のように、二つは急騰を始めたのです。

世界最大の養豚国
世界最大の養豚国の中国は、豚肉が毎日の食卓に欠かせないほど大事な食材、今後、関税の影響は食卓を直撃することでしょう。これに関連して考えられることは、中国の豚肉輸入が増えることです。

これまで中国の豚肉輸入量は落ち着いていて、減少する傾向がみられましたが、それでも年間、100万トン以上の輸入大国であることに変わりありません。

国際豚肉価格上昇は必須
輸入先の相手もアメリカが含まれますが、今後は、スペイン、ブラジル、デンマークやドイツ、ロシアなどからの輸入が増える可能性もありますが、そうなると、日本もあおりを受け、国際豚肉価格の上昇が家庭を襲うことにならないともかぎりません。

コメ価格の急騰で苦しむ食卓に、またまた別の圧力が加わって来るかもしれません。泣きっ面にハチ、とはこのことでしょうか?

このような世界1,2の経済大国の関税戦争は、両者にとってマイナスであるばかりでなく、世界にとってもマイナスですね。







2025/04/30

中国のアメリカ大豆輸入が半減

 トランプの対中145%関税に対抗して、中国も対米関税を125%に引き上げたことはご存じのことでしょう。

その効果はさっそく、アメリカ大豆の激減となって、中国に現れ始めています。中国は、毎年、1億トンほどの大豆を輸入してきました。

輸入先はブラジル、アメリカなどで、アメリカの統計(FAS)によると、対中輸出は、2023年に2,640万トン、2024年には2,720万トンでした。

全輸入量の26~27%がアメリカから、ということになりますね。以前は、半分がアメリカでしたが、第一次トランプ政権の誕生による米中経済摩擦から、大きく減った経緯があります。


今回はさらに、大きな輸入減少が起きています!!!


中国海関総署統計の速報値によると、1月から3月までの大豆輸入量は前年同期にくらべてマイナス8%の1,711万トンにとどまったのです。

3月だけをみると、前年同月比でマイナス37%、マイナス350万トンと大きなマイナスを記録しています。


中国の海関総署の速報値は、国別の大豆貿易データがありません。

そこで、アメリカ農務省のFASを見ると、今年1-2月統計がありましたので、紹介しますね。


それによると、バイデン政権時の2024年この時期の対中の大豆輸出量は707万トンでした。ところが、今年は半減、328万トン、マイナス54%に落ち込んでしまっています。


アメリカからの輸入減少分は、なんとか、ブラジル、アルゼンチン、カナダからの輸入でやりくりして、アメリカからの輸入減をカバーしていそうです。


中国の大豆は、豆腐、醤油、大豆油などの原料、豚のエサで欠かせない大豆粕などの用途に供給されます。いまのところ、代替輸入先はなんとかなりそうですが、困っているのはアメリカの大豆農家ではないでしょうか。


日本は、大豆の自給率が10%程度ですので、アメリカ大豆農家とトランプ大統領にとっては、かっこうの穴埋め先と映るかもしれませんが、日本が輸入できるキャパは中国の10%以下、しかも輸入は確保しており、これ以上の受け入れは無理でしょう。


日本にとっては、とんだとばっちりです。

中国の大豆生産者には、国から10アール当たり、6000円程度、省や県によっては、これに数千円を上乗せした補助金を出すなど、国産奨励を進めていますから、国産化がさらに進む可能性もあります。



2025/04/15

農村詐欺の横行に効き目はあるのか:「緑剣護糧安」法

 わたしの中国農村あるきの体験で見たもの、食べたもの、触れたもの、嗅いだもの、訊いたものは数知れません。

わたしの中国フィールドワークのモットーは、「五感で臨む」、というもので、農村では、つねに、自身の身体に付随するこれらの「道具」を意識して臨んできました。

そのなかから、かなりザックリのはなしではありますが、このことは、どこの農村でも変わらない感触でした。

それは、

中国の農民は従順で素朴、貧しくとも生きる喜びや幸福のありかを探し求める人生を送っている、というものです。なかには、どこで身につけたか、権力者のまねのようなふるまいをさらす者にも会わなかったわけではありませんが、そういうひとはごく少数のように思います。

そのような農民の世界に土足で侵入する不束者、詐欺を生業とする者の横行が、農村には絶えません。中国でも日本をまねたオレオレ詐欺が世間を騒がせる時代、農村はかっこうの餌食として狙われているようです。

では、詐欺師たちは、どんなことをするのでしょうか?

つまりは、次の違法物資を売り付けたり、違法行為をして金銭を詐取しているのです。

農業経営に不可欠な農業生産資材が、とくに狙われやすい物資です。

●種をまいても芽が出ない種子、

●安全性基準や禁止物質を無視した農薬、

●ぜんぜん効き目のない化学肥料や有機肥料、

●工業規格が無視されたトラクター、耕運機、田植え機、

●家畜用医薬品の偽造。


また、これらも違法に横行しています。これらは詐欺という言葉には当てはまりませんが、社会に対する違法行為であることには変わりありません。

●安全基準を無視した遺伝子組み換え食品、農産物、

●未検査家畜等の移送(中国では、家畜移送が耳標のない大型家畜は禁止、予防接  

 種のない家畜飼養は禁止)と、移送中の違法薬物の使用や投与。

●無許可屠畜場と死亡家畜の放置。

●家畜飼養業者の違法薬物、たとえば「痩肉精」(家畜の成長促進剤)の販売。


2024年、これらの農村に蔓延する行為を取り締まるうごきが、「緑剣護糧安」法に向けた政府の取り組みです。


「緑剣護糧安」というのは新語です。

「緑」はグリーン、エコ、環境保全などの意味合い。

「剣」は、厳しく、緩むことなくなど、政策にこめた心意気。

「護」はあとにつづく「糧」(食糧)と「安」(安全)すなわち食糧安全を守る。


これらからわたしなりに繫げると、「緑剣護糧安」の意味は「食糧確保を守るためのグリーン政策を厳格に遂行する」というようなことといえるでしょう。


以上は、2024年2月に農業農村部が出した「「緑剣護糧安」法執行行動の実施に関する通知」とか、2025年3月の「2025年の「緑剣護糧安」法の執行に関する通知」などには、その詳細な取組みの趣旨と内容を見ることができます。





2025/03/21

農業問題が、今年も共産党にとっては厄介な問題

 共産党と政府が一年間に取り組む重要な施策をまとめ、宣言する文書が中央一号文件です。

「文件」とは、平たく言えば「文書」あるいは「施策説明書」のような意味を持つ、中国独特の言葉です。

 毎年、1月末か2月、世間は春節の祝いムードが漂う頃に公表されるのが慣例です。

さて、今年の中央一号文件は2025223日の公表でした。今年も「三農」問題が中心でした。18回党大会以降、13年連続のことです。いかに、中国にとって農業問題が厄介な課題であり続けているかを象徴するもの、と言ってよいのでしょう。

 今年のタイトルは『農村改革のさらなる深化と農村の全面的振興の着実な推進に関する意見』です。「農村改革の進化」、「農村振興」はこの10年余り、中国が力を注いできた言葉です。

 私から見ると、実際の進展は、非常にのろいというひと言に尽きます。なぜかというと、政策の最大の課題、土地政策にメスを入れていないからです。メス無しで、手術はできません。

 この辺りの問題については、私自身、長い間指摘してきており、中国の土地問題の学者のうち、御用学者以外の人も強い関心を持ち、抜本的な改革を主張しています。

 私もいま、中国の土地問題に焦点を絞り、著書原稿を執筆中です。

 さて、本題の一号文件の内容を簡単に紹介しましょう。

 今回は、以下の6つの主要な側面に焦点を当てています。

 1,重要農産物の供給保障能力の強化:穀物の播種面積を安定させ、単位面積あたりの収量と品質の向上を図り、穀物の安定生産と豊作を確保する。また、大豆の増産成果を強化し、油糧作物の栽培拡大を支援する。

 2. 畜産業の安定的発展の支援:生産能力の監視と調整を行い、肉牛や乳牛産業の困難を解消し、基礎的な生産能力を安定させる。

 3. 耕地保護と質の向上の強化:耕地の総量管理を厳格に行い、高標準の農地建設を推進し、耕地の質を向上させる。

 4. 農業科学技術の共同の取り組みの推進:種子産業の振興行動を深化させ、生物育種の産業化を推進し、スマート農業の発展を支援。

 5. 農業防災・減災能力の強化:気象サービスを強化し、災害リスクの監視と予測を強化し、農地防護林の建設を強化する。

 6. 穀物生産支援政策体系の健全化:稲や小麦の最低買入価格政策を実施し、トウモロコシや大豆の生産者補助金政策を改善し、耕地地力保護補助金政策を安定させる。

 ただし、すべてが十分に実施されるか、成果が期待できるか、となると疑問もないわけではありません。

というのは、政府財政の余裕がなくなってきており、中央と地方政府の連携なしには、制約が大きいからです。地方財政は赤字構造にありますので、中央が期待するほどの政策ができないことも予想されます。

 

2025/02/12

進む資本制大規模農業

 中国は大規模農業経営の発展をめざして、奮闘中です。これには、5つの柱があります。

1,資本制企業がリードする。

2,AIスマート+大型機械化農業を展開する。

3,遺伝子組み換え農産物+ゲノム編集農産物を全面解禁する。

4,農業生産コストを下げる。

5,食料自給率を上げる。


1,中国農業のアキレス腱は規模が小さく、若者が減っているのが現状です。零細な経営規模を変えずに、労働集約的な農業が中心にしていたのでは、この先、食料の安定的確保はできないことに、政府は気づいています。そこで、頼りにするのが資本制農業です。もう、中国農業は社会主義の体面を気にしていてはどうにもならないことになっているのです。

すでに、各地で、資本制農業が浸透し、広がっています。これには中国鉄道集団など従来、農業には関心が薄かった異業種も参入し始めています。


2,スマート農業にはAIを組み込んだ完全自動化、GPSによる施肥・農薬散布、栽培管理・収穫予想などを進めています。これで農場の規模が大きいことが、さらにプラスになると見込んでいます。


3,遺伝子組み換えについて、拒否反応がまだ残っています。しかし、アメリカやブラジルから輸入する大豆や飼料はほとんどが遺伝子組み換え作物です。政府は、その事実を徐々に公開し、消費者の遺伝子組み換えアレルギーの希薄化を進めています。


あわせて、中国が得意なゲノム編集農産物が成長をしています。こちらについては、遺伝子組み換え農産物とはちがい安全なので、政府はなんの躊躇もありません。


コメ、トウモロコシ、大豆、小麦をはじめ、多くの農産物の遺伝子組み換えの生産をはじめ、商業化がすすめられ、昨年12月末、農業部が許可を出しました。


4,生産コストを下げることは、中国農業の喫緊の課題です。主要国でコストが高く、したがって国際競争力に劣る国の二番目が中国です。 一番目? もち、わが日本です。

いま中国農業は、旧い毛沢東型の何でもいい農家寄せ集め型農業から変貌しつつあるのです。まだまだ、改善すべきことは山ほどありそうですが、日本よりは早いスピードで近代化が進んでいます。ネックは、土地制度!!!! これもいずれは変わって行くでしょう。


5,中国の食料自給率は70%台に低下しています。国家発展改革委員会のある人も、そのくらいだと公言したようです。


わたしは、何もしなければ、これから、もっと低下すると見ています。遺伝子組み換えやゲノム編集食料に力を入れる理由は、ただひとつ、食料自給率をこれ以上下げない、できれば上げることにあります。

2025/01/01

進む農村の都市化、でも、その耕地はどこへ消えたのか?

 先ごろ中国のあるデータ解析センターが発表したデータから、最近の省別の都市化率におおきな格差があることが分かります。ここでいう都市化率とは、地域ごとの人口に占める都市在住人口の割合のことを指しています。「都市」の定義が全国一定でも、その計測はまちまちのところが否めないことをご承知ください。

都市の定義ですが、「街道」の集合体、とするのが一般的です。街道とは、都市部(農村部以外)に設置された人口集中地区で、これを単位に「居民委員会」という日本の町内会のような組織があります。この居民委員会の会員が都市住民です。一種の自治組織のようなものですが、その地域に住む、ほぼ全員が会員になります。

しかし厳密にいうと曖昧なところがあるのです。それは、農村から都市部に出稼ぎに来て、なかば定住あるいは本格的な定住をしている農村戸籍を持つ人たち、彼らは実質的な都市住民といってもいいのですが、統計的にはカウントされません。

ということは、都市住民は表面的な数字より実際はもっと多く、したがって都市化率はもっと高い、と見ることもできます。以下の数字は、この部分がない数であることをご承知おきください。

ところで、一般に、都市化率は地域の非農業化を反映しますから、農民人口の縮小を意味します。農村から移住してくる人口がよほど大きくないかぎり、都市化率は上昇しません。

実際は、そういうことはまれですから、都市化率の上昇とは、農民人口の都市人口への社会移動が起きていることを意味しています。つまり農民の脱農民化=市民化、といわれる現象です。戸籍を農村から都市へ変更することですね。

さて、本題です。最近の全国平均の都市化率は65%程度といわれています。これを地域別に分解すると、都市化率が4つの直轄市を除く上位3位、1位江蘇省73.4%、2位浙江省77.2%、3位遼寧省72.1%。ものすごい都市化率です。

一方、都市化率が低い下位3位は、最下位チベット35.7%、下から2位雲南省50.1%、下から3位甘粛省52.2%と、大きな差があります。

さきほどの説明を当てはめると、都市化率が高い江蘇省、浙江省、遼寧省などでは農民をやめて都市住民になった人がとても多い、ということを意味しています。一方、チベット、雲南省、甘粛省などでは、そのような社会移動はとても少ない、ということになるでしょう。

ですから農民から市民になった人が多い地域では、残った農民の手に耕地が移動するはずなので一人当たり耕地面積は増え、そうでない地域ではあまり変わらないはずです。

そこで、これら地域の一人当たり耕地面積をみましょう。全国平均は5.1アールです。

都市化率の高い地域:江蘇省18.2アール、浙江省7.2アール、遼寧省43.7アール。

一方都市化率の低い地域:チベット18.9アール、雲南省22.9アール、甘粛省43.6アール。

このように、都市化率と一人当たり耕地面積との間には、かなり明瞭な逆の関係があること、すなわち都市化率が高い地域では1人当たり耕地面積が小さく、逆の場合は逆という関係があるといえます。

しかし本来は、さきほども言ったことですが、都市化率の高い地域では、よほどの面積の耕地から建設用地への地目転換でもないかぎり、一人当たり耕地面積は土地集中が進むはずですから大きくなるはずなのですが、これと逆のことが起きているのです。ただ都市化率の低い地域では一人当たり耕地面積が大きい現象がみられ、理論にかなっているといえます。

都市化率の高い地域で、1人当たり耕地面積が小さいのはなぜでしょうか?これは一時点のことですから、本来の動きを見るには、時系列的な少なくともデータの2点間変化を示すデータをつくる必要がありますので、逆のことが起きている、とは断定はできません。

断定はできませんが、なぜさきほどのようなことになっているのか、という点も検討する価値はあるでしょう。いまの段階ではそこまでしていませんが、次のことが予想はできます。

1,データが示すような都市化は、実際には起きていない。

2,都市住民になった農民の土地の移転登記が済んでいないか、その措置をしていない。

3,農業をやめて都市住民になった農民の耕地が耕作放棄地になったままである。

4,農業をやめた農民の耕地がほぼまるごと、都市用途に転換された。

ほかにも理由があるかもしれませんが、それには、どんなことが考えられるでしょうか?

2024/11/28

中国の識者、食糧自給率、65%への低下を初めて認める!!!

中国の識者が、初めて、食糧自給率が60パーセント台であることを認めました。これは、まじめなネットサイトで、中国の経済、社会、政治、文化、海外情報など多彩な情報を発信して、読者に考えさせる狙いを持つサイトで、わたしもよく開くサイトです。

私は中国の総合的な食料自給率を、2021年のデータでは約75パーセントと見ているのですが、これを大きく下回ります。記事の65パーセントと私の75パーセントは、対象品目がちがいますし、計算方法がこまかな点ではちがうところもあると思うのですが、65ペーセントとは、正直いって驚きました。 

自給率の計算対象品目を私の場合、穀物、畜産物(飼料に換算)、食用油(原材料に換算)、青果物、魚介類、砂糖製品(原材料に換算)なのですが、この人は穀物だけだと思います。もし、畜産物を加えると、さらに正確な自給率が算出されると思います。

私の計算方法は、すべての食料を年間の国産量、輸入量に、すべての品目を重量当たりエネルギー含有量に換算した後に、自給率を計算する方法です。

この計算方法では、畜産物、食用油、砂糖製品などの一次産品の製造効率を上げると、それだけで、食料自給率が上昇することが分かります。

中国の食料事情を中央政府や地方政府の統計情報、ネット情報、政府発信情報などを総合して思うことですが、穀物の国産・輸入に変化が起きていることが分かります。また、国産量が操作されている可能性を否定できません。

2024/09/06

今年の早稲は、作付面積は増えるも単収が減っている-その背景とは?

 中国国家統計局が8月下旬に発表したところによると、2024年の早稲(ワセ)生産量は、

2023年を0.6%、163,000トン下回る28,174,000トンという。

 

作付面積は47,548,000ヘクタール、2023年を0.5%、217,000ヘクタール上回った。

 

10アール当たりの生産量は592.5キログラム、2023年を1.0%6.16キログラム下回

ったという。

 

結局、全体の作付面積は増えたものの生産量は減ったということになる。このところ、中

国の早稲生産は、作付面積と単収の2つが同時に減少する動きを続けており、その結果と

して輸入が増える反作用も生まれているのだ。

 

作付面積の減少の理由は2つ。

 

一つは、このところの干ばつ、大雨による異常気象がもたらす農地被災の拡大である。つまりは、そのために作付面積が途中で減少するのである。中国の統計では、作付面積は田植え面積ではなく、実際に農産物を収穫した面積である。

 

早稲の主な生産地帯は南方の湖南、江西、広東、広西自治区などなのだが、最近は、田植

えが終わり、田に根が張り出すちょうどその頃に、大雨や洪水が直撃、多くの稲作農家

の首を締め上げているのだ。

 

二つには、米の作付自体を嫌う農家が増えていると見られること。農家の後継ぎが減り、高齢化が進み、体力と費用のかかるコメ作り農家が減っているのだ。

 

私はこれまで、何十年間も、中国の方々で遭った農家に「息子に農業を継がせる気があるか?」と尋ねてきた。これは、日本の全国の農家を回っていた時と同じ質問だった。しかし例外なく、中国農民の答えは「継がせない」で一致していた(日本でもほぼ同じ)。

 

自分の苦労を、率先して子供にも継がせたいと願う親はいない。もうだれも、意に反することを強制できる者や集団の圧力は、中国にも存在しなくなったのだ。

 

作付面積が減少しただけでなく、単収も減っているのだがその理由も二つ。

 

一つはやはり異常気象と水田土壌の劣化。異常気象は今後も続くだろうが、一層、深刻なのは、農薬と化学肥料ですっかり変わってしまった水田土壌の改良が、遅々として進まないことだ。各地の水田を歩き、必ずや田の中の土や泥を握って観てきた。

 

水田土壌は、極端なはなしだが、まるで植物工場の水耕栽培かスポンジ栽培かと思えるくらい殺伐としている。これでは単収は減る一方だろう。

 

二つには、それでもなお作付面積を多く見積もり過ぎの可能性である。実際の作付面積は、政府の見立てよりも、実際は更に少ない可能性がある。

 

各地で起きている現象だが、コメを作るといいながら、水田をもっとカネになる野菜栽培やビニール温室、さらには禁止されている商業用地に変える問題も起きている。農地を住宅地に変えるなどの「大棚房」として、大きな問題にもなっている。

 

こうなると、統計上の作付面積を実際の面積が下回り、こんなはずじゃなったということになりかねない。

 

2024/07/23

丁戊奇荒から学ぶ

世界の気象体質は明らかに変わったという。体質の変化が確かめられた、その後に確実にやってくるのは、その体質を隠すことなく表現する気象現象であろう。この気象現象は、すでに世界各地で猛威を振るい始めていることは先刻ご承知の通りである。

その影響は人間の生産活動や日常活動にも深刻なダメージをもたらし始め、やれ真夏日だ、やれ熱中症だのとテレビは騒ぎ、海の向こうでは気温が40度を超えたという一方では洪水だ、干ばつだとの、真逆の気象現象が、世界同時に起きているニュースが続く。

これが太古のむかしのことであれば、権力を持つ祭司たる役目にある支配者が臣民の先頭に立って神に向かい、起きている恐怖を抑えてくれよと乞い叫ぶことであろう、などと想像してしまう。

私は、一農業学者の立場から、中国におけるこれらの現象を農業と結びつけて長らく観察してきたが、昨今の異常気象は、異常という表現がぴったりするほどである。

言うまでもないことかも知れないが、政府の公式の農業統計は、嵐などない凪だけの海面が延々と続く大海原のごとくである。ときに起こる波もいつのまにか、左官がコテをもって壁に塗ったモルタルを均すかのように、過去に立ち戻って平にしてしまう神業をほどこす。

この方面のニュースを流す中国のネットの書き方が変わり出したのは、ここ2,3年、とくに1,2年のことのように思う。

たとえば、干ばつ。中国の農業史はウラを返せば干ばつ史の様相を呈する。長い中国史のステージから見れば最近の出来事に属する大飢饉の丁戊奇荒は、その典型的な災難の一大事であった。

日本にも起きた飢饉、たとえば天明の大飢饉では樹食や人食は日常のことであったようだが、その規模のけた違いの大きな災難がこの飢饉である。このような飢饉は、日本でも中国でも、二度と起きて欲しくはない。

中国の甘粛省の省都蘭州の真ん中を流れる黄河には、巨大な水車がいまも残る。黄河から離れ、やや沙漠気味の大地を歩くと、干上がった元河川の低い堤防跡と川底だったことを想像させるところに、水の流れに任せて自然に整ったかのように並ぶ砂利の列が見える。河川の消滅は、中国の各地で起きてきたことだ。

農業の欠点は、干ばつと洪水にからきし弱いことだ。広く起伏の激しい中国農業大地、異常気象は始まったばかり、私のその観察は今日も、明日も続きます。






2024/06/24

"超異常気象が中国農業を襲う!

 

 

ここ数年、中国を異常気象が襲うようになっている。しかも、ますます過激になっている

のだ。それを指して、ここでは暫定的に「超異常気象」と言う。まだ、「超常」といえる

ほどではないので、やや控えめな表現にとどめたつもりである。

 

国土を南北に分ける境界を揚子江とすると、北へ行くほど干ばつ、南へ行くほど洪水と、

両極端の気象が続いている。添付した画像は、2024624日の中国国土の衛星写真だ。

 

やや見えにくいが、画像の下部は中国南部。厚い雲で覆われて国境線も見えにくい。上部は茶色の土が丸見えで、乾燥している様子が手に取るようにわかる。そのやや上部は東北地方の一部だが、やや雲がかかっている。しかし、この地方、今年も干ばつの恐れがあると、政府自身が伝えている。

 

最近の南部は洪水がつづき、桂林上流の桂林江付近では堤防をこえて氾濫し、史上最大の洪水になったという。なんと、同江の水位は一時146メートルにも達したらしい。62018時時点の桂江全域で、警戒水位を超えたという(水利部、6.20)。

 

また、広西自治区を流れる西江でも洪水が発生、河川は警戒水位を約6メートル上回る24メートルに達したらしい(中国水利部、2024.6.21)。

 

広西自治区や近くの広東省は米、サトウキビ、豆類、露地野菜、果物の産地である。洪水が起きても、中国政府は農産物の被害状況を報道することはない。洪水の映像も街中の様子を放映するだけで、農産物や農村の様子を伝えることはまれにしかない。

 

だから、農産物の被害状況を具体的に知ることはほぼ不可能である。

 

一方、北部は相変わらず水不足でカラカラだ。雨は降るには降るが、人工降雨依存、満足できる状態ではない。

 

そこで始めた取り組みが節水品種と節水農業の普及だ。ソルガムやキビなど畜産物の飼料や一部は食用加工品にまわす雑穀だが、干ばつ耐性品種を植えると10アール当たり90立方メートルの水が節約できる。

 

あるところでは、冬小麦の作付けを休耕、その結果節約できた地下水をトウモロコシ、油脂作物、雑穀などの栽培に振り向け、地下水を90%節約できたという。少雨の影響は地下水の減少を招き、穀物の減反も引き起こすから深刻だ。

(衛星画像:中国気象局)


2024/03/19

中国農民の顔の表情

中国へ行きたい最も大きな理由は、むらむらのあぜ道や広い見晴らしの真っ平らな畑の側の道端をあるきたいがためである。

何があるわけでもないし、特別の違いがあるわけでもない。新潟のコメ作地帯の集落で生まれた身にとって、どこであっても、農村の光景は何処と無しに、故郷の香がする。

中国の農村はなお発展途上にあることも事実である。筆者の眼から、日本の農村との最大の違いは、区画整理が済んでいない田んぼがなお目立つこと、用排水路が未整備なこと、灌漑施設が不十分なためか、排水が十分でないことなどは、改善の余地があると映る。

都市近郊、たとえば河北省の都市近郊には中型のトラクターに乗った農民の姿を多く見かけるが、たとえば江西省の水田は区画整理が遅れ、しかも専業農家が限られるせいか、トラクターで作業中の農民を見かける機会も限られた。農業は日本の委託経営のようにひと任せだ。

しかし、どこの農民も、よく似た環境にあることを痛感する。素朴な顔をしていることも共通する気がする。土着的な風情が漂う。だから好きだ。

都市住民は、やはりどこの国だろうと似ている。顔は青白く、無症状で、どことなくカリカリしている風情だ。心の底に、一人ひとりがだれかの、何かの、代表のような自分を探しているからだろうか・・・・・・。

その点、何をも代表しない自分がそのまま顔に出ている素直さが農民にはある。







2024/02/27

畜産物輸入を抑えるため、米と小麦の生産量を下げ、輸入を増やし、トウモロコシの生産を増やす中国

 中国政府は昨年末から今年の初めに、2023年の食糧生産の実績をかなりこまかく発表しました。

まず発表どおりの内容をかいつまんでお知らせします。

作付面積:1億1900万5000ヘクタール

収穫量:6億9541万トン

収穫量の増加率:1.3%


1ヘクタール当たり収穫量:5.843トン(10アール当たり584.3キログラム)


収穫増加量(2022年比):888万トン

作付増加面積(同)    :636,432ヘクタール


1ヘクタール当たり収穫量:13.95トン(10アール当たり1395キログラム)


これが事実であれば、なんと!!!、新しく増えた作付面積についての新しく増えた収穫量(増加土地生産性)(1395kg/10アール)は、従来の作付け面積全体の収穫量(土地生産性)(584.3kg/10アール)の2.38倍!ということになります。常識では考えられないことです。


新しく増えた作付面積についての収穫量の増え方が従来の増え方と同じとすると、収穫量の増加は888万トンではなくて、約372万トン(5.843×636,432)のはずでしょう。

もし収穫量の増加が372万トンにとどまるとしたら、2023年の収穫量の増加率は1.3%ではなく自動的に、0.55%に下がることになります。


中国の4大穀物の収穫量の前年比は、米:マイナス0.9%、小麦:マイナス0.8%、トウモロコシ:プラス4.2%、大豆:プラス2.8%でした。

収穫量が最大の穀物はトウモロコシ、近年、増え方も大きくなっています。その理由は簡単です。飼料として需要が高まるトウモロコシの収穫量を増やすことは、需要が増える畜産物の輸入を抑え、国内生産を増やすことができるからです。


米と小麦の収穫量をトウモロコシに回した、ということですね。

国家経営的な目から見ると、価格の高い畜産物の輸入を、それにくらべて価格の安いコメと小麦の輸入に代えた方が得、ということでしょう。トウモロコシの価格は?、米や小麦よりさらに安いのです。なので、中国はトウモロコシの輸入量もけっこうなものです。

ますますおいしい畜産物の消費が増えるはずですので、中国の今後は、畜産物を軸として米、小麦、トウモロコシ、大豆が作付け・貿易の調整が行われていくでしょう。というのは、もう国内には適当な農地資源がありません。農民が増えることもありません。10年先の中国農村は日本の10年前の農村を鏡で写すと分かりやすいかもしれません。









2024/01/11

中国農村調査は継続困難か?

農村が好きな私は日本の47都道府県の農村(そのすべての農村ではないけど)に足を運び、中国では、チベット自治区・海南省・ウイグル自治区・貴州省・広西自治区を除く省・自治区の農村調査をしてきました。

農村調査というのは、農家+農地。家畜を見て初めて、面白さが伝わってくるものです。農村と農家がとても好きなのです。北京も上海も天津も杭州も何度も行きましたが、どの都市も、私には何の興味も魅力もありません。

新潟県の北蒲原郡の稲作農村で生まれた私は、イネのにおいが染みついているのだと思います。

中国で最も多く行った農村は寧夏回族自治区・河南省・山東省・河北省・山西省かな。。。。。。内モンゴルも多い方です。

最もきれいな農村はなんといっても、羊とバクが群れを成す青海省の高原、標高4000メートルを超えるところでした。私は4500メートルを超えると呼吸困難になる性質で、平地まで運ばれて入院した苦い経験がありますけど。

訪れた農村はどこも印象的で、新しい発見をさせてくれる宝庫です。

新型コロナが流行り出した2019年12月を最後に、私の中国農村のたびは途切れたままです。そろそろ、と思ってはいたのですが、あまり気力がわいてきません。

最近の中国政府が外国人に現地研究に蓋をする動きがかなり鮮明になってきたことも一因です。その気配は以前からあったのですが、昨今の農村には外国人監視の目が張られるようになり、調査内容によっては無許可の機密情報の取得者扱いをされないとも限りません。

農村地帯のあぜ道を1人でぶらつくことが好きな私にとって、窮屈そのものです。歩きながら、畑の土をにぎり臭いを嗅ぎ、観るのが趣味です。どんな肥料を使い、どのくらい耕しているか、大体分かることも理由です。

中国農村調査仲間のあいだにも不安が広がりつつありますね。中国農村調査のベテラン、友人のO氏のように「もう、中国は行かない」と宣言した人もいるほどです。

さて、どうするか・・・・・・・、と思いながら、40年ぶりの台湾の農村へ行きたくなりました。南の八田與一が建築に協力した灌漑施設も見てみたい、とも思っています。