2025/05/08
中国の大豆価格の急騰はじまる!
2025/04/30
中国のアメリカ大豆輸入が半減
トランプの対中145%関税に対抗して、中国も対米関税を125%に引き上げたことはご存じのことでしょう。
その効果はさっそく、アメリカ大豆の激減となって、中国に現れ始めています。中国は、毎年、1億トンほどの大豆を輸入してきました。
輸入先はブラジル、アメリカなどで、アメリカの統計(FAS)によると、対中輸出は、2023年に2,640万トン、2024年には2,720万トンでした。
全輸入量の26~27%がアメリカから、ということになりますね。以前は、半分がアメリカでしたが、第一次トランプ政権の誕生による米中経済摩擦から、大きく減った経緯があります。
今回はさらに、大きな輸入減少が起きています!!!
中国海関総署統計の速報値によると、1月から3月までの大豆輸入量は前年同期にくらべてマイナス8%の1,711万トンにとどまったのです。
3月だけをみると、前年同月比でマイナス37%、マイナス350万トンと大きなマイナスを記録しています。
中国の海関総署の速報値は、国別の大豆貿易データがありません。
そこで、アメリカ農務省のFASを見ると、今年1-2月統計がありましたので、紹介しますね。
それによると、バイデン政権時の2024年この時期の対中の大豆輸出量は707万トンでした。ところが、今年は半減、328万トン、マイナス54%に落ち込んでしまっています。
アメリカからの輸入減少分は、なんとか、ブラジル、アルゼンチン、カナダからの輸入でやりくりして、アメリカからの輸入減をカバーしていそうです。
中国の大豆は、豆腐、醤油、大豆油などの原料、豚のエサで欠かせない大豆粕などの用途に供給されます。いまのところ、代替輸入先はなんとかなりそうですが、困っているのはアメリカの大豆農家ではないでしょうか。
日本は、大豆の自給率が10%程度ですので、アメリカ大豆農家とトランプ大統領にとっては、かっこうの穴埋め先と映るかもしれませんが、日本が輸入できるキャパは中国の10%以下、しかも輸入は確保しており、これ以上の受け入れは無理でしょう。
日本にとっては、とんだとばっちりです。
中国の大豆生産者には、国から10アール当たり、6000円程度、省や県によっては、これに数千円を上乗せした補助金を出すなど、国産奨励を進めていますから、国産化がさらに進む可能性もあります。
2025/04/15
農村詐欺の横行に効き目はあるのか:「緑剣護糧安」法
わたしの中国農村あるきの体験で見たもの、食べたもの、触れたもの、嗅いだもの、訊いたものは数知れません。
わたしの中国フィールドワークのモットーは、「五感で臨む」、というもので、農村では、つねに、自身の身体に付随するこれらの「道具」を意識して臨んできました。
そのなかから、かなりザックリのはなしではありますが、このことは、どこの農村でも変わらない感触でした。
それは、
中国の農民は従順で素朴、貧しくとも生きる喜びや幸福のありかを探し求める人生を送っている、というものです。なかには、どこで身につけたか、権力者のまねのようなふるまいをさらす者にも会わなかったわけではありませんが、そういうひとはごく少数のように思います。
そのような農民の世界に土足で侵入する不束者、詐欺を生業とする者の横行が、農村には絶えません。中国でも日本をまねたオレオレ詐欺が世間を騒がせる時代、農村はかっこうの餌食として狙われているようです。
では、詐欺師たちは、どんなことをするのでしょうか?
つまりは、次の違法物資を売り付けたり、違法行為をして金銭を詐取しているのです。
農業経営に不可欠な農業生産資材が、とくに狙われやすい物資です。
●種をまいても芽が出ない種子、
●安全性基準や禁止物質を無視した農薬、
●ぜんぜん効き目のない化学肥料や有機肥料、
●工業規格が無視されたトラクター、耕運機、田植え機、
●家畜用医薬品の偽造。
また、これらも違法に横行しています。これらは詐欺という言葉には当てはまりませんが、社会に対する違法行為であることには変わりありません。
●安全基準を無視した遺伝子組み換え食品、農産物、
●未検査家畜等の移送(中国では、家畜移送が耳標のない大型家畜は禁止、予防接
種のない家畜飼養は禁止)と、移送中の違法薬物の使用や投与。
●無許可屠畜場と死亡家畜の放置。
●家畜飼養業者の違法薬物、たとえば「痩肉精」(家畜の成長促進剤)の販売。
2024年、これらの農村に蔓延する行為を取り締まるうごきが、「緑剣護糧安」法に向けた政府の取り組みです。
「緑剣護糧安」というのは新語です。
「緑」はグリーン、エコ、環境保全などの意味合い。
「剣」は、厳しく、緩むことなくなど、政策にこめた心意気。
「護」はあとにつづく「糧」(食糧)と「安」(安全)すなわち食糧安全を守る。
これらからわたしなりに繫げると、「緑剣護糧安」の意味は「食糧確保を守るためのグリーン政策を厳格に遂行する」というようなことといえるでしょう。
以上は、2024年2月に農業農村部が出した「「緑剣護糧安」法執行行動の実施に関する通知」とか、2025年3月の「2025年の「緑剣護糧安」法の執行に関する通知」などには、その詳細な取組みの趣旨と内容を見ることができます。
2025/03/21
農業問題が、今年も共産党にとっては厄介な問題
共産党と政府が一年間に取り組む重要な施策をまとめ、宣言する文書が中央一号文件です。
「文件」とは、平たく言えば「文書」あるいは「施策説明書」のような意味を持つ、中国独特の言葉です。
さて、今年の中央一号文件は2025年2月23日の公表でした。今年も「三農」問題が中心でした。18回党大会以降、13年連続のことです。いかに、中国にとって農業問題が厄介な課題であり続けているかを象徴するもの、と言ってよいのでしょう。
というのは、政府財政の余裕がなくなってきており、中央と地方政府の連携なしには、制約が大きいからです。地方財政は赤字構造にありますので、中央が期待するほどの政策ができないことも予想されます。
2025/02/12
進む資本制大規模農業
中国は大規模農業経営の発展をめざして、奮闘中です。これには、5つの柱があります。
1,資本制企業がリードする。
2,AIスマート+大型機械化農業を展開する。
3,遺伝子組み換え農産物+ゲノム編集農産物を全面解禁する。
4,農業生産コストを下げる。
5,食料自給率を上げる。
1,中国農業のアキレス腱は規模が小さく、若者が減っているのが現状です。零細な経営規模を変えずに、労働集約的な農業が中心にしていたのでは、この先、食料の安定的確保はできないことに、政府は気づいています。そこで、頼りにするのが資本制農業です。もう、中国農業は社会主義の体面を気にしていてはどうにもならないことになっているのです。
すでに、各地で、資本制農業が浸透し、広がっています。これには中国鉄道集団など従来、農業には関心が薄かった異業種も参入し始めています。
2,スマート農業にはAIを組み込んだ完全自動化、GPSによる施肥・農薬散布、栽培管理・収穫予想などを進めています。これで農場の規模が大きいことが、さらにプラスになると見込んでいます。
3,遺伝子組み換えについて、拒否反応がまだ残っています。しかし、アメリカやブラジルから輸入する大豆や飼料はほとんどが遺伝子組み換え作物です。政府は、その事実を徐々に公開し、消費者の遺伝子組み換えアレルギーの希薄化を進めています。
あわせて、中国が得意なゲノム編集農産物が成長をしています。こちらについては、遺伝子組み換え農産物とはちがい安全なので、政府はなんの躊躇もありません。
コメ、トウモロコシ、大豆、小麦をはじめ、多くの農産物の遺伝子組み換えの生産をはじめ、商業化がすすめられ、昨年12月末、農業部が許可を出しました。
4,生産コストを下げることは、中国農業の喫緊の課題です。主要国でコストが高く、したがって国際競争力に劣る国の二番目が中国です。 一番目? もち、わが日本です。
いま中国農業は、旧い毛沢東型の何でもいい農家寄せ集め型農業から変貌しつつあるのです。まだまだ、改善すべきことは山ほどありそうですが、日本よりは早いスピードで近代化が進んでいます。ネックは、土地制度!!!! これもいずれは変わって行くでしょう。
5,中国の食料自給率は70%台に低下しています。国家発展改革委員会のある人も、そのくらいだと公言したようです。
わたしは、何もしなければ、これから、もっと低下すると見ています。遺伝子組み換えやゲノム編集食料に力を入れる理由は、ただひとつ、食料自給率をこれ以上下げない、できれば上げることにあります。
2025/01/01
進む農村の都市化、でも、その耕地はどこへ消えたのか?
先ごろ中国のあるデータ解析センターが発表したデータから、最近の省別の都市化率におおきな格差があることが分かります。ここでいう都市化率とは、地域ごとの人口に占める都市在住人口の割合のことを指しています。「都市」の定義が全国一定でも、その計測はまちまちのところが否めないことをご承知ください。
都市の定義ですが、「街道」の集合体、とするのが一般的です。街道とは、都市部(農村部以外)に設置された人口集中地区で、これを単位に「居民委員会」という日本の町内会のような組織があります。この居民委員会の会員が都市住民です。一種の自治組織のようなものですが、その地域に住む、ほぼ全員が会員になります。
しかし厳密にいうと曖昧なところがあるのです。それは、農村から都市部に出稼ぎに来て、なかば定住あるいは本格的な定住をしている農村戸籍を持つ人たち、彼らは実質的な都市住民といってもいいのですが、統計的にはカウントされません。
ということは、都市住民は表面的な数字より実際はもっと多く、したがって都市化率はもっと高い、と見ることもできます。以下の数字は、この部分がない数であることをご承知おきください。
ところで、一般に、都市化率は地域の非農業化を反映しますから、農民人口の縮小を意味します。農村から移住してくる人口がよほど大きくないかぎり、都市化率は上昇しません。
実際は、そういうことはまれですから、都市化率の上昇とは、農民人口の都市人口への社会移動が起きていることを意味しています。つまり農民の脱農民化=市民化、といわれる現象です。戸籍を農村から都市へ変更することですね。
さて、本題です。最近の全国平均の都市化率は65%程度といわれています。これを地域別に分解すると、都市化率が4つの直轄市を除く上位3位、1位江蘇省73.4%、2位浙江省77.2%、3位遼寧省72.1%。ものすごい都市化率です。
一方、都市化率が低い下位3位は、最下位チベット35.7%、下から2位雲南省50.1%、下から3位甘粛省52.2%と、大きな差があります。
さきほどの説明を当てはめると、都市化率が高い江蘇省、浙江省、遼寧省などでは農民をやめて都市住民になった人がとても多い、ということを意味しています。一方、チベット、雲南省、甘粛省などでは、そのような社会移動はとても少ない、ということになるでしょう。
ですから農民から市民になった人が多い地域では、残った農民の手に耕地が移動するはずなので一人当たり耕地面積は増え、そうでない地域ではあまり変わらないはずです。
そこで、これら地域の一人当たり耕地面積をみましょう。全国平均は5.1アールです。
都市化率の高い地域:江蘇省18.2アール、浙江省7.2アール、遼寧省43.7アール。
一方都市化率の低い地域:チベット18.9アール、雲南省22.9アール、甘粛省43.6アール。
このように、都市化率と一人当たり耕地面積との間には、かなり明瞭な逆の関係があること、すなわち都市化率が高い地域では1人当たり耕地面積が小さく、逆の場合は逆という関係があるといえます。
しかし本来は、さきほども言ったことですが、都市化率の高い地域では、よほどの面積の耕地から建設用地への地目転換でもないかぎり、一人当たり耕地面積は土地集中が進むはずですから大きくなるはずなのですが、これと逆のことが起きているのです。ただ都市化率の低い地域では一人当たり耕地面積が大きい現象がみられ、理論にかなっているといえます。
都市化率の高い地域で、1人当たり耕地面積が小さいのはなぜでしょうか?これは一時点のことですから、本来の動きを見るには、時系列的な少なくともデータの2点間変化を示すデータをつくる必要がありますので、逆のことが起きている、とは断定はできません。
断定はできませんが、なぜさきほどのようなことになっているのか、という点も検討する価値はあるでしょう。いまの段階ではそこまでしていませんが、次のことが予想はできます。
1,データが示すような都市化は、実際には起きていない。
2,都市住民になった農民の土地の移転登記が済んでいないか、その措置をしていない。
3,農業をやめて都市住民になった農民の耕地が耕作放棄地になったままである。
4,農業をやめた農民の耕地がほぼまるごと、都市用途に転換された。
ほかにも理由があるかもしれませんが、それには、どんなことが考えられるでしょうか?
2024/11/28
中国の識者、食糧自給率、65%への低下を初めて認める!!!
中国の識者が、初めて、食糧自給率が60パーセント台であることを認めました。これは、まじめなネットサイトで、中国の経済、社会、政治、文化、海外情報など多彩な情報を発信して、読者に考えさせる狙いを持つサイトで、わたしもよく開くサイトです。
私は中国の総合的な食料自給率を、2021年のデータでは約75パーセントと見ているのですが、これを大きく下回ります。記事の65パーセントと私の75パーセントは、対象品目がちがいますし、計算方法がこまかな点ではちがうところもあると思うのですが、65ペーセントとは、正直いって驚きました。
自給率の計算対象品目を私の場合、穀物、畜産物(飼料に換算)、食用油(原材料に換算)、青果物、魚介類、砂糖製品(原材料に換算)なのですが、この人は穀物だけだと思います。もし、畜産物を加えると、さらに正確な自給率が算出されると思います。
私の計算方法は、すべての食料を年間の国産量、輸入量に、すべての品目を重量当たりエネルギー含有量に換算した後に、自給率を計算する方法です。
この計算方法では、畜産物、食用油、砂糖製品などの一次産品の製造効率を上げると、それだけで、食料自給率が上昇することが分かります。
中国の食料事情を中央政府や地方政府の統計情報、ネット情報、政府発信情報などを総合して思うことですが、穀物の国産・輸入に変化が起きていることが分かります。また、国産量が操作されている可能性を否定できません。
2024/09/06
今年の早稲は、作付面積は増えるも単収が減っている-その背景とは?
中国国家統計局が8月下旬に発表したところによると、2024年の早稲(ワセ)生産量は、
2023年を0.6%、163,000トン下回る28,174,000トンという。
作付面積は47,548,000ヘクタール、2023年を0.5%、217,000ヘクタール上回った。
10アール当たりの生産量は592.5キログラム、2023年を1.0%、6.16キログラム下回
ったという。
結局、全体の作付面積は増えたものの生産量は減ったということになる。このところ、中
国の早稲生産は、作付面積と単収の2つが同時に減少する動きを続けており、その結果と
して輸入が増える反作用も生まれているのだ。
作付面積の減少の理由は2つ。
一つは、このところの干ばつ、大雨による異常気象がもたらす農地被災の拡大である。つまりは、そのために作付面積が途中で減少するのである。中国の統計では、作付面積は田植え面積ではなく、実際に農産物を収穫した面積である。
早稲の主な生産地帯は南方の湖南、江西、広東、広西自治区などなのだが、最近は、田植
えが終わり、田に根が張り出すちょうどその頃に、大雨や洪水が直撃、多くの稲作農家
の首を締め上げているのだ。
二つには、米の作付自体を嫌う農家が増えていると見られること。農家の後継ぎが減り、高齢化が進み、体力と費用のかかるコメ作り農家が減っているのだ。
私はこれまで、何十年間も、中国の方々で遭った農家に「息子に農業を継がせる気があるか?」と尋ねてきた。これは、日本の全国の農家を回っていた時と同じ質問だった。しかし例外なく、中国農民の答えは「継がせない」で一致していた(日本でもほぼ同じ)。
自分の苦労を、率先して子供にも継がせたいと願う親はいない。もうだれも、意に反することを強制できる者や集団の圧力は、中国にも存在しなくなったのだ。
作付面積が減少しただけでなく、単収も減っているのだがその理由も二つ。
一つはやはり異常気象と水田土壌の劣化。異常気象は今後も続くだろうが、一層、深刻なのは、農薬と化学肥料ですっかり変わってしまった水田土壌の改良が、遅々として進まないことだ。各地の水田を歩き、必ずや田の中の土や泥を握って観てきた。
水田土壌は、極端なはなしだが、まるで植物工場の水耕栽培かスポンジ栽培かと思えるくらい殺伐としている。これでは単収は減る一方だろう。
二つには、それでもなお作付面積を多く見積もり過ぎの可能性である。実際の作付面積は、政府の見立てよりも、実際は更に少ない可能性がある。
各地で起きている現象だが、コメを作るといいながら、水田をもっとカネになる野菜栽培やビニール温室、さらには禁止されている商業用地に変える問題も起きている。農地を住宅地に変えるなどの「大棚房」として、大きな問題にもなっている。
こうなると、統計上の作付面積を実際の面積が下回り、こんなはずじゃなったということになりかねない。
2024/07/23
丁戊奇荒から学ぶ
世界の気象体質は明らかに変わったという。体質の変化が確かめられた、その後に確実にやってくるのは、その体質を隠すことなく表現する気象現象であろう。この気象現象は、すでに世界各地で猛威を振るい始めていることは先刻ご承知の通りである。
その影響は人間の生産活動や日常活動にも深刻なダメージをもたらし始め、やれ真夏日だ、やれ熱中症だのとテレビは騒ぎ、海の向こうでは気温が40度を超えたという一方では洪水だ、干ばつだとの、真逆の気象現象が、世界同時に起きているニュースが続く。
これが太古のむかしのことであれば、権力を持つ祭司たる役目にある支配者が臣民の先頭に立って神に向かい、起きている恐怖を抑えてくれよと乞い叫ぶことであろう、などと想像してしまう。
私は、一農業学者の立場から、中国におけるこれらの現象を農業と結びつけて長らく観察してきたが、昨今の異常気象は、異常という表現がぴったりするほどである。
言うまでもないことかも知れないが、政府の公式の農業統計は、嵐などない凪だけの海面が延々と続く大海原のごとくである。ときに起こる波もいつのまにか、左官がコテをもって壁に塗ったモルタルを均すかのように、過去に立ち戻って平にしてしまう神業をほどこす。
この方面のニュースを流す中国のネットの書き方が変わり出したのは、ここ2,3年、とくに1,2年のことのように思う。
たとえば、干ばつ。中国の農業史はウラを返せば干ばつ史の様相を呈する。長い中国史のステージから見れば最近の出来事に属する大飢饉の丁戊奇荒は、その典型的な災難の一大事であった。
日本にも起きた飢饉、たとえば天明の大飢饉では樹食や人食は日常のことであったようだが、その規模のけた違いの大きな災難がこの飢饉である。このような飢饉は、日本でも中国でも、二度と起きて欲しくはない。
中国の甘粛省の省都蘭州の真ん中を流れる黄河には、巨大な水車がいまも残る。黄河から離れ、やや沙漠気味の大地を歩くと、干上がった元河川の低い堤防跡と川底だったことを想像させるところに、水の流れに任せて自然に整ったかのように並ぶ砂利の列が見える。河川の消滅は、中国の各地で起きてきたことだ。
農業の欠点は、干ばつと洪水にからきし弱いことだ。広く起伏の激しい中国農業大地、異常気象は始まったばかり、私のその観察は今日も、明日も続きます。
2024/06/24
"超異常気象が中国農業を襲う!
ここ数年、中国を異常気象が襲うようになっている。しかも、ますます過激になっている
のだ。それを指して、ここでは暫定的に「超異常気象」と言う。まだ、「超常」といえる
ほどではないので、やや控えめな表現にとどめたつもりである。
国土を南北に分ける境界を揚子江とすると、北へ行くほど干ばつ、南へ行くほど洪水と、
両極端の気象が続いている。添付した画像は、2024年6月24日の中国国土の衛星写真だ。
やや見えにくいが、画像の下部は中国南部。厚い雲で覆われて国境線も見えにくい。上部は茶色の土が丸見えで、乾燥している様子が手に取るようにわかる。そのやや上部は東北地方の一部だが、やや雲がかかっている。しかし、この地方、今年も干ばつの恐れがあると、政府自身が伝えている。
最近の南部は洪水がつづき、桂林上流の桂林江付近では堤防をこえて氾濫し、史上最大の洪水になったという。なんと、同江の水位は一時146メートルにも達したらしい。6月20日18時時点の桂江全域で、警戒水位を超えたという(水利部、6.20)。
また、広西自治区を流れる西江でも洪水が発生、河川は警戒水位を約6メートル上回る24メートルに達したらしい(中国水利部、2024.6.21)。
広西自治区や近くの広東省は米、サトウキビ、豆類、露地野菜、果物の産地である。洪水が起きても、中国政府は農産物の被害状況を報道することはない。洪水の映像も街中の様子を放映するだけで、農産物や農村の様子を伝えることはまれにしかない。
だから、農産物の被害状況を具体的に知ることはほぼ不可能である。
一方、北部は相変わらず水不足でカラカラだ。雨は降るには降るが、人工降雨依存、満足できる状態ではない。
そこで始めた取り組みが節水品種と節水農業の普及だ。ソルガムやキビなど畜産物の飼料や一部は食用加工品にまわす雑穀だが、干ばつ耐性品種を植えると10アール当たり90立方メートルの水が節約できる。
あるところでは、冬小麦の作付けを休耕、その結果節約できた地下水をトウモロコシ、油脂作物、雑穀などの栽培に振り向け、地下水を90%節約できたという。少雨の影響は地下水の減少を招き、穀物の減反も引き起こすから深刻だ。
(衛星画像:中国気象局)
2024/03/19
中国農民の顔の表情
中国へ行きたい最も大きな理由は、むらむらのあぜ道や広い見晴らしの真っ平らな畑の側の道端をあるきたいがためである。
何があるわけでもないし、特別の違いがあるわけでもない。新潟のコメ作地帯の集落で生まれた身にとって、どこであっても、農村の光景は何処と無しに、故郷の香がする。
中国の農村はなお発展途上にあることも事実である。筆者の眼から、日本の農村との最大の違いは、区画整理が済んでいない田んぼがなお目立つこと、用排水路が未整備なこと、灌漑施設が不十分なためか、排水が十分でないことなどは、改善の余地があると映る。
都市近郊、たとえば河北省の都市近郊には中型のトラクターに乗った農民の姿を多く見かけるが、たとえば江西省の水田は区画整理が遅れ、しかも専業農家が限られるせいか、トラクターで作業中の農民を見かける機会も限られた。農業は日本の委託経営のようにひと任せだ。
しかし、どこの農民も、よく似た環境にあることを痛感する。素朴な顔をしていることも共通する気がする。土着的な風情が漂う。だから好きだ。
都市住民は、やはりどこの国だろうと似ている。顔は青白く、無症状で、どことなくカリカリしている風情だ。心の底に、一人ひとりがだれかの、何かの、代表のような自分を探しているからだろうか・・・・・・。
その点、何をも代表しない自分がそのまま顔に出ている素直さが農民にはある。
2024/02/27
畜産物輸入を抑えるため、米と小麦の生産量を下げ、輸入を増やし、トウモロコシの生産を増やす中国
中国政府は昨年末から今年の初めに、2023年の食糧生産の実績をかなりこまかく発表しました。
まず発表どおりの内容をかいつまんでお知らせします。
作付面積:1億1900万5000ヘクタール
収穫量:6億9541万トン
収穫量の増加率:1.3%
1ヘクタール当たり収穫量:5.843トン(10アール当たり584.3キログラム)
収穫増加量(2022年比):888万トン
作付増加面積(同) :636,432ヘクタール
1ヘクタール当たり収穫量:13.95トン(10アール当たり1395キログラム)
これが事実であれば、なんと!!!、新しく増えた作付面積についての新しく増えた収穫量(増加土地生産性)(1395kg/10アール)は、従来の作付け面積全体の収穫量(土地生産性)(584.3kg/10アール)の2.38倍!ということになります。常識では考えられないことです。
新しく増えた作付面積についての収穫量の増え方が従来の増え方と同じとすると、収穫量の増加は888万トンではなくて、約372万トン(5.843×636,432)のはずでしょう。
もし収穫量の増加が372万トンにとどまるとしたら、2023年の収穫量の増加率は1.3%ではなく自動的に、0.55%に下がることになります。
中国の4大穀物の収穫量の前年比は、米:マイナス0.9%、小麦:マイナス0.8%、トウモロコシ:プラス4.2%、大豆:プラス2.8%でした。
収穫量が最大の穀物はトウモロコシ、近年、増え方も大きくなっています。その理由は簡単です。飼料として需要が高まるトウモロコシの収穫量を増やすことは、需要が増える畜産物の輸入を抑え、国内生産を増やすことができるからです。
米と小麦の収穫量をトウモロコシに回した、ということですね。
国家経営的な目から見ると、価格の高い畜産物の輸入を、それにくらべて価格の安いコメと小麦の輸入に代えた方が得、ということでしょう。トウモロコシの価格は?、米や小麦よりさらに安いのです。なので、中国はトウモロコシの輸入量もけっこうなものです。
ますますおいしい畜産物の消費が増えるはずですので、中国の今後は、畜産物を軸として米、小麦、トウモロコシ、大豆が作付け・貿易の調整が行われていくでしょう。というのは、もう国内には適当な農地資源がありません。農民が増えることもありません。10年先の中国農村は日本の10年前の農村を鏡で写すと分かりやすいかもしれません。
2024/01/11
中国農村調査は継続困難か?
農村が好きな私は日本の47都道府県の農村(そのすべての農村ではないけど)に足を運び、中国では、チベット自治区・海南省・ウイグル自治区・貴州省・広西自治区を除く省・自治区の農村調査をしてきました。
農村調査というのは、農家+農地。家畜を見て初めて、面白さが伝わってくるものです。農村と農家がとても好きなのです。北京も上海も天津も杭州も何度も行きましたが、どの都市も、私には何の興味も魅力もありません。
新潟県の北蒲原郡の稲作農村で生まれた私は、イネのにおいが染みついているのだと思います。
中国で最も多く行った農村は寧夏回族自治区・河南省・山東省・河北省・山西省かな。。。。。。内モンゴルも多い方です。
最もきれいな農村はなんといっても、羊とバクが群れを成す青海省の高原、標高4000メートルを超えるところでした。私は4500メートルを超えると呼吸困難になる性質で、平地まで運ばれて入院した苦い経験がありますけど。
訪れた農村はどこも印象的で、新しい発見をさせてくれる宝庫です。
新型コロナが流行り出した2019年12月を最後に、私の中国農村のたびは途切れたままです。そろそろ、と思ってはいたのですが、あまり気力がわいてきません。
最近の中国政府が外国人に現地研究に蓋をする動きがかなり鮮明になってきたことも一因です。その気配は以前からあったのですが、昨今の農村には外国人監視の目が張られるようになり、調査内容によっては無許可の機密情報の取得者扱いをされないとも限りません。
農村地帯のあぜ道を1人でぶらつくことが好きな私にとって、窮屈そのものです。歩きながら、畑の土をにぎり臭いを嗅ぎ、観るのが趣味です。どんな肥料を使い、どのくらい耕しているか、大体分かることも理由です。
中国農村調査仲間のあいだにも不安が広がりつつありますね。中国農村調査のベテラン、友人のO氏のように「もう、中国は行かない」と宣言した人もいるほどです。
さて、どうするか・・・・・・・、と思いながら、40年ぶりの台湾の農村へ行きたくなりました。南の八田與一が建築に協力した灌漑施設も見てみたい、とも思っています。
2023/10/22
中国が遺伝子組み換え食品の食品表示法を改正する動きを鮮明にしました。
中国農業農村部は10月17日、「農業遺伝子組み換え生物表示管理法」改正の決定についてのパブコメ募集の通知を発したのですが、次のように変えたい意向を示したものです。
1,遺伝子組み換え原料を使用している農産物がそうでないものと混在している場合、「遺伝子組み換え」農産物を使っていることを明記すること。
2,該当する品目は大豆、大豆粉、大豆油、豆粕、大豆たんぱく、豆かす(豆くず)、トウモロコシ、トウモロコシ油、トウモロコシ粉、トウモロコシかす、トウモロコシ粕、食用油用野菜、同原料とする食用油、その粕、綿実油、綿実粕、アルファルファ、パパイヤ。
3,これらの食品またはこれらを原料とする加工食品に、これらを3%以上を含む場合、「遺伝子組み換え食品」として明記する義務がある。
中国は大豆とトウモロコシを中心に、これらの農産物等を大量に輸入しています。棉を除き、国内生産には慎重です。輸入先のアメリカ、ブラジルのこれら農産物、菜種やパパイヤを生産している国の場合も、ほとんどは遺伝子組み換え生産ですので、この法律が施行される年末か来年には、スーパーの食品売り場のこれら食品・食材の包装材には多数の「遺伝子を含む」という文字が躍ることでしょう。
2023/08/16
台風5号の中国農業への影響は甚大の模様、「害虫の口から穀物を奪取せよ」
今年の中国大陸は気象危機に見舞われている様子が伝わってくる。
農業農村部は8月8日、被害の深刻な河南省安陽市で現地「秋穀物重大病虫防除」会議を開催、現下の情勢について視察し対策を協議したと、同部は広報していた。
とくに被害の大きな安徽省の6市21県、河南省11市60県ではヨトウムシ、ワタキバガ、イネヨトウ(写真)が大発生、トウモロコシ,イネ,大豆、落花生に大量の産卵がみられ、その防除に取り組み始めたところらしい。ニカメイガは昨年の同じころにも発生したので、今年は多くの種類の作物の難敵である害虫が発生したことになる。
そんなことから「害虫の口から穀物奪取せよ」という合言葉が流行しているそうな。
台風の影響は広範に及んでいる。
北京、天津、河北、山西、内モンゴル、吉林、黒竜江、浙江、福建。
心配なのは今年の作柄である。
政府は災害復旧に乗り出しているが、台風5号までの高温と豪雨被害の影響もあり、今後の成り行きが懸念されている。
2023/06/27
穀物の収穫、今年もお天気が最大の敵に
そのサイトから拝借した左の2つの図の上は、6月26日の全国の気温上場をあらわし、下は降雨の様子をあらわしたものだ。
下の図からは南部のコメ作地帯が強い降雨に覆われている様子をうかがうことができると思う。
このような、北の高温、南の降雨という現象はここ数年のように起きているものだが、今年は、北の高温、南の降雨という二極化が鮮明になり、それが毎日のように続いていることが過去にないことになっている。
南部の降雨は日本列島に居座る梅雨前線の一体化している点も、ここ数年の特徴といえば特徴なのである。
中国農業の専門家なら「三夏」という言葉を知らない者はいない。陰暦の四月を猛夏、5月を夏の中盤、6月を夏そのもの、といったような意味だが、農業では収穫、播種、栽培管理の区分として使われることもある。「三つの夏」を三年という意味で使うこともある。
いま、今年の三夏を豊作を実現しながらどう乗り切るか、という点に農業農村部も気象局もやっきの様子が伝わってくる。
全体の収量の3割程度の冬穀物(前年の冬の前に播種し、夏まえに収穫期を迎える穀物)の収穫の約7割を超えたいまであるが、豊作の声はあまり聞こえてこないが、もう少し様子をみてみようと思うこの頃である。そのうち、続きをおしらせしたいと思う。
2023/05/17
今年の作柄と天気、小農経済、スパイ防止法
今年も春穀物の作柄がどうなることか、気になりだした。とくに空模様と気温が気になる。天気のニュースをみると、早くもあまりいい話が出てこない。
昨年は日本もそうだが、中国もあちらこちらで天候不順のため作柄が心配された。この方面の事情は、気象関係の役所がかなり詳しく、実態を伝えてくれている。天気の動向を今年も丹念に追っかけようと思っている。
もう一つは最大の担い手、小農経済が苦しさから脱する機会を得られるか、という点だ。私のみるところ、政府当局もこの点では苦慮している模様である。
この点は、中国における農業の生産力と制度の動向に大きな転機となる可能性もあろう。
夏を迎える時期になり、はやく現場へ行きたいのだが、躊躇する気持ちもないではない。改正されたスパイ防止法を読むと、運用次第で、だれもが標的にされる恐れが否定できない。研究者が標的の中心に置かれている感じもないではないので、迷う気持ちが捨てきれない。
どうしよう・・・・・・!
2023/03/05
農民少なくして農地多し・・・中国、今の実態
コロナ禍で減少していた2021年の農民工(主に住民登録のある故郷から離れて、6か月以上都会に住んで、農業以外の仕事に就く農民=出稼ぎ農民)の数が、なんと2億9千万人に上ったと、中国国家統計局が発表した(昨年)。
これも同じ国家統計局のデータだが、農業等就業人口(正確には第一次産業就業人口)が1億7千万人しかいないのに、出稼ぎ農民がそれよりも1億人以上も多いというのはおかしいことだが、両方を合わせると4億6千万人、幼児や学童を含む農村人口が5億人しかいないのだから、この数はどうみても理屈に合わないところがある。
この点はともかく、農民工が2億9千万人もいるという点に焦点を当てると、性別は男性が64%、女性は36%、未婚者17%、既婚者80%、死別者3%という。
この大量の農民工、短くても半年以上のあいだ農村や農業現場から離れるわけだから、実質的には離農・半離農に等しくはないだろうか。
農村に残って農業に従事する者が最大でさきほどの1億7千万人、実際は漁業や林業従事者も含まれるので、本当に農業中心の農民は1億7千万人ではなく、1億人2千万人程度と思われる。
農民の2億9千万人は農業から事実上離れているとすると、中国1億2千万ヘクタールの農地は1億2千万人ほどの者が耕している可能性があり、だとすると1人当たりでは1ヘクタールということになる。
農地は二期作とか二毛作とかとして利用されるので、耕地面積は増える。統計によると、中国では1億7千万ヘクタールに達するので、1人当たりでは1.4ヘクタールという勘定になるではないか! 多い!
中国の農業の特徴は「多人地少」、人口が多くして土地は少なし、といわれているが、実態は、農民少なくして農地多し、なのではないかと思うこの頃である。
2023/01/12
中国2022年産穀物は実質マイナスだった可能性
2022年産の糧食(穀物+イモ類)生産量は6億8,653万トン、2021年の6億8,285万トンに比べ0・5パーセント・24千トンの増加でしかなかった。2021年が前の年を2パーセント・134万トン増えたのと比べるとかなりの差だ。
実際はマイナスだったかもしれない。
発表では、2022年の小麦の生産量の増加はわずか0.6パーセント、トウモロコシは1.7パーセントの増加、大豆は作付け奨励補助金の効果もあり19.6パーセントの増加だがコメは2パーセントの減少だった。最近、コメの生産は伸び悩む傾向があるがかなり大きな減り方だ。
穀物の庭先価格や政府買い取り価格が下がったわけではなく、生産費が上がったことが大きな理由だろう。
中国の農産物生産費は、主要国の中では日本に次ぐ高さになった。主に農薬・肥料・農業機械・地代・人件費などの上昇による。
根本の問題は、中国式農地制度のあり方が限界に来た点にある気がする。
生産量に勢いが乏しい理由としてはほかに2つ、1つは作付面積がほとんどの穀物で縮小していること、もう1つは土地生産性(面積単位当たり生産量)の伸びに勢いがなくなっていることだ。
穀物それぞれ土地生産性は未発表だが、穀物全体では前年を下回る。前年比で0.99。
土地生産性が伸び悩んでいることは、農地制度自体の問題、そして土壌の改良や灌漑設備の改良・新設が期待したほどには進んでいない可能性も。特に懸念されるのは土壌劣化である。最近、政府は「黒土化」つまり土壌改良に力を入れ始めた。いいことである。
2022年の作付面積は穀物全体で0.6パーセント増えたが、コメ・小麦・トウモロコシは減った。耕地面積の拡大には限りがあるにしても自給率が低下するなか苦しい選択をしたものだ。
2021年に対し作付面積の減り方が大きかったのはコメでマイナス1.4パーセント、トウモロコシ0.6パーセント、小麦0.2パーセントと、大豆を除く主要な穀物の作付面積が減少した。
中国の農産物価格は今後、上昇傾向を強める可能性がある。一般家計の負担増に直結する。一方、企業業績はストレスをため込んでおり、賃上げに応じることは難しいかもしれない。低下しつつあった家計のエンゲル係数は再上昇、庶民の生活を直撃する可能性も否定できまい。
2022/09/01
中国の穀物生産量の記録的な減収に現実味
地球レベルの天候異変から、今年の穀物生産量がどうなるかに世界の注目が集まっています。穀物生産が天候と深いかかわりがあることは常識です。
氷河の雪が溶け、北極の気温が30度を超える日が続き、世界中で、高温と洪水が同時多発的に起きているのが今年の現実です。
その顕著な例が、いま、中国各地で起きているのです。中国ではこれから秋の本格的な穀物の収穫時期を迎えます。中国で年間生産される穀物の70~80%は秋以降の収穫が占めますので、その生産量の大小は、9月以降にならないと全容が判明しません。
ですから、いまの段階で今年の穀物生産量が平年作にくらべて多いか少ないかを決めつけることはできません。
しかしですね、この春からずーーと中国の天候の推移を見てきた自分としては、異変が起きている、と直感することがあまりにも多過ぎました。
この点は中国気象局がネットで毎日発表する天候情報、日本の気象庁が発表する天気図や衛星写真に写る雲の流れなどを見ると、素人目に見ても感じ取れることです。
中日新聞WEBのコラムにも最近書いたことですが、たとえば、高温。8年間(2015-2022年8月まで)毎日の気温を記録した湖南省長沙市の気温を8年間のうち前の4年間と後ろの4年間の毎日の気温の平均(同じ日の4年平均)で比べると、最近4年間の7月~8月の気温は、その前の4年間よりも3度以上上がって、40度近くに達していることが分かりました。わずか4年の間に、3度も上昇したことになります。
高温は大地と河川・湖沼の乾燥を招き、水位が低下した長江の川底から約600年前に作られたとみられる仏像が3体姿を現したり、最大の淡水湖の鄱阳湖(日本語読みで「ぽようこ」:中国語で「ポヤンフ」)が干上がったり、かといえば年間300ミリ程度しか雨の降らない内モンゴルや水田地帯の江西など南方では大洪水が発生したり、自然災害の発生を聞かない日がないほどです。
そのために水田が干上がり、他方では水田や畑が流されています。この被災は局地的なものでもなければ、一過性のものではないことが深刻なことです。
2021年の統計によると、中国の生産量はコメ(玄米)1億4260万トン、小麦1憶3694万トン、トウモロコシ2億7255万トン、合計5億5209万トンでした。
私の予測では少なく見積もって600から1000万トンは減収になるのではないか、と見られます。この数字は、パーセントにして1.1から1.8パーセントのマイナスに相当します。
今年は5年に一度の共産党大会(10月)が開催される予定、習政権の延長がほぼ間違いないともいわれています。中国当局にとって、このお祝いごとに泥をかけることは絶対に避けなければなりません。
残された一か月の間に中国のコメさん、小麦さん、トウモロコシさんはどれだけ「頑張る」ことができるでしょうか?
2022/06/07
穀物自給率100%未満が大部分、149か国・84%も
このほど統計がそろう世界178か国のカロリーベース穀物自給率(対象は畜産物の飼料を含むコメ、小麦、トウモロコシ、大豆)を試算してみた。最新の統計データ(FAO:酪農品に補足上の弱点があるので留意の必要あり)は2019年。
その結果、自給率が100%以上の国・地域は29、わずか16%にとどまることが分かった。残りの149か国84%は100%未満(グラフ参照)。
もっとも高いのはウクライナ500%を超える。ちなみにロシアは117%。両国はいつ終わるとも分からないドンパチをやっていることもあり、世界の穀物の需給は不安定さを増す。
世界最大の穀物生産国の中国(本土)は80%そこそこ、日本は、といえば驚くなかれ
21%少し。この秋、日本の穀物と畜産物(豚肉・牛肉・鶏肉・酪農品・・・)の価格は円安の拡大ともあいまって、高騰する可能性がある。
輸出余力のある、100%以上の少数の国は南北アメリカ、ウクライナ、ロシア、豪州、フランスなど欧州のごく一部にとどまる。
しかしどの国も地球をめぐる新しい変化、たとえば気候危機、土壌危機、農薬など化学物質汚染に直面し、貧しい国ほど、豊かな国による食料買い占め競争や戦争・紛争のあおりをうけ、食糧が手に入りにくくなっている。貧しい国は二重の理由から深刻な食糧危機に直面しつつある。
2022/04/19
中国の農地制度が質的な転換をし始めたことについて-農地請負資格者に「商工企業等社会資本」を追加-
中国の農地制度の基幹となる法律は「中国農村土地請負法」というものです。2003年に制定されてから15年がたち、この法律を支えるはずの農村の社会基盤が大きく変わりました。
2018年、この法律は質的な転換を図りました。ついに、それまで禁止されていた、農地請負権の資格者に、「商工企業等社会資本」と呼ぶ「資本制企業」を認めることにしたのです。これには資格者としての妥当性を審査する要件を設けましたが、実質的にはこれら資本の農業経営への直接参入を許容したといえましょう。
「中国農村土地請負法」は中国農地制度の脱社会主義化の一歩、農民は耕作の自由の拡大を通じて生産意欲を膨らませ、食料生産の社会的増加に大きく貢献するようになれたのでした。
しかし中国の経済社会の大きな変化・膨張は、やはり農村のあり方を根本から変えました。古い時代に生まれた発想は、時代の変化とともに農地制度をも新しいものに変えざるを得なくなったのです。
同法の社会基盤だった若者は農村から消え、農家世帯は高齢者が占め、若い夫婦は都会に出稼ぎに行き、お金を稼ぎ、生活もレベルや食生活も向上しました。
他方、家族的結びつきの弱体化が進んでしまいました。後継ぎするはずだった子供はみな進学、専門学校や大学へ、卒業後は都会に就職・定住、古い農村基盤が崩れるのは抑えることのできない必然だったのです。
農業の担い手が個人(農民)から企業へ、しかも単なる企業ではなく資本制企業という、利潤を目的とするものへと広げざるを得なくなったのですね。
中国農業はますます資本主義的になり、やがては私的営利企業が農業と農地制度の担い手の中核に成長する可能性が濃厚になってきたように、私には思えます。
この改正にともなって、農地の出し手と受け手が交わす農地請負契約書の書式も変わり、ようやく2021年に、そのひな形も公布されました。中国の農地制度は、またまた大きく質的に変わり始めています。
2022/02/17
中国が世界を牛耳る100の分野、3月刊行の光文社新書の表紙が出来上がりました。
2022/01/25
発展する中国の農民合作社と非メンバー農民(農民の准組合員)
このほど発表した中国の農業農村部情報によると中国全体の法人登記済の農民合作社数は221万9千社に上ったといいます。一合作社当たりの正式メンバー(日本のJAに例えれば正組合員=農民)は245人ですから、とても小さいですね。だから、数が多いということでしょう。
メンバーの総数は5億4400万人ですが、中国の農民合作社は総合経営を行う日本のJAとはちがい、大部分が専業農協のような単一経営体です。農業機械合作社(農機共同利用)、リンゴ合作社、信用合作社、野菜合作社等々。ですから、一人の農民が複数の合作社に加入することは少なくありませんから、この5億4400万人には同じ農民が複数数えられていますので、実質は、こんなに多くはありません。
このメンバー以外、おもしろいことに日本のJAの准組合員に似た「非メンバー農民」という制度があり、その数が一合作社当たりなんと778戸もあるというのです。正式メンバー数の3倍にもなります。しかも日本のJAの准組合員は原則的に非農家で=地域住民ですが、中国の農民合作社の場合は農民なのです。
その理由は比較的単純です。規則どおりに、出資金を払っていないが合作社を利用することが許される農民がいるということなのです。
日本ではとても許されないことですが、そこは弾力的というかルーズというか、いかにも中国農村らしい点が滲み出ています。
日本のJAは農民全戸加入の慣習があり例外なく出資金を払い込み、みな「持分」というJAの区分所有者権利を与えられますが、中国の農民合作社もこの点は変わりません。
課題の一つは、JAのような総合経営体になることですが、経営の核になる事業が見つかりにくいこともあり、スムーズにはいかないでしょう。中国なりの発展をすれば十分ではないかと私には思えます。
2022/01/09
中国の穀物在庫急増の影響と背景 日経新聞にコメントしました(紙面をクリックすると全開します)
最近、中国は世界の5大穀物の新規在庫増の約半分を占めています。日経新聞2021年
12月19日日曜版は、この問題を一面トップに掲載しました。見出しがこの記事の概要をそのまま言い表しています。
ここに、求められたコメントをしました。全国紙の中で、最も中国農業に詳しい記者を擁するのは日経だと思います。各地に記者がおり、筆者がしばしば電話話しをする在中国のお二人の記者は本当に詳しいです。在中国のNHK記者の中にも詳しい記者がいます。
新型コロナが落ち着いたら、現地農村で、彼らと中国農業について話し合いたいと思っています。
2021/12/10
中国農村家庭は大きく変容しています
中国農村家庭は大きく変わりつつあります。改革開放(1978)から90年ころまで、農村家庭といえば、子供が分家したあとの老夫婦家庭、結婚して独立した若夫婦と子供の家庭、このような核家族が大部分でした。
ところが独立した新家庭の青年夫婦が共稼ぎの形で、農民工として半年連続で、あるいはほぼ常住のような形で、都会で暮らすようになると、農村家庭の構造は一変します。
子供ができた若い夫婦は、夫あるいは妻のいずれかの老夫婦(普通は夫の方)に子供を預け、自分たちだけで都会暮らしをするようになったのです。すると、核家族は徐々に減っていきました。
こうして、形の上では三世代直系同居家庭の形ができてきたのです。「サンドイッチ家庭」などの呼び方もあるようになりました。
子供を農村に残して夫婦だけが都会に出る理由は、そこに本籍がないことには子供の教育、住環境、医療など日常生活に不可欠の行政サービスや仕事を期待通り受けられない面があるからです。子供が幼少の場合には、仕事のため十分な面倒をみれない不安もあります。
しかし医療や子供の教育環境、仕事面での待遇や社会保障が次第に改善され、本籍は農村に残したまま、夫婦と子供は実質的に都会に住むようになっています。
農村に残された老夫婦または独居老人が寂しそうに庭先に腰掛ける姿が見られます。彼らを指して「空き巣老人」などと呼ぶ人もいます。農村の集落の小路を歩くのが好きな私は、どこでも、そのような光景を目にしてきました。
このような農村家庭の変化は、さらにとどまるところを知らないかのようです。
一つは農村家庭の急激な減少です。ピークの2010年には2億6千万戸以上もあったのですが、いまは1億9千万戸、10年間で7千万戸も減少しました。これからも、この趨勢は簡単には止まらないことでしょう。
もう一つは離婚世帯の増加です。都市住民を含む全体の結婚件数は、2010年に1236万件(2472万人)あり、離婚件数は268万件でした。同年中の結婚件数を分母、離婚を分子におくとその比率は21.7%です。
ところが2019年のその比率は51.0%、ほぼ2倍に膨れ上がっています。地域別には、東北部がとくに高く70%を超える高さです。農村家庭の数字は詳しく調べないと分かりませんが、各種の情報を見る限り、おそらく都市住民以上に高いことでしょう。
農村家庭のこのような変化は農村の姿をも変えるでしょうし、農村の土地制度=土地の家庭請負制度の根幹をも脅かしつつあります。これは大変なことです。中国共産党の農村基盤にヒビを入れる可能性があるからです。
しかし、そこのところを察知するのが、さすが、中国政府は抜け目なく早いのです。
最近になって、農村の土地政策は大転換に近い変化を見せ始めたからです。その一つが資本制農業企業経営の農村参入の容認と促進、これら企業形態をもつ生産・加工・流通・販売などの産業集積をおこし、そこに、残った農民を就業させるという政策です。
すると、農地諸権利はこれまで以上に流動化し、その移動先が株式化など近代的な資本形態をとる資本制大規模農業企業・農業関連企業に集まる可能性を展望させます。
中国農業制度はイデオロギーから少しずつ離れ、現実的な再編や新方式の開拓に向かわざるを得ないのです。社会主義イデオロギーで現実を抑えたりコントロールできる時代の終わりの始まりの時代です。これはまさに、中国の喧伝する意味とは異なる「新時代」の到来です。
2021/11/02
中国固体廃棄物汚染環境保全法がスタート 狙いは一石二鳥
中国の農村を歩くと、農業廃棄物が目に留まることがよくあります。ため池や中小河川の汚染はだいぶ改善されてきましたが、取組みが遅れている部分もあります。これも廃棄物の未処理が原因の一つでしょう。
そこに改善の手を付けようとする法律が「中国固体廃棄物汚染環境保全法」です。この法律は2021年8月に公布されたのですが、私がこの法律から感じた意図は次のようなものです。
要約すると、一石二鳥を狙ったものといえましょう。
一の鳥:環境保全です。
この法律は、●畜産物の糞尿、●収穫後の農作物の茎、●栽培用ビニール(トンネルやビニールハウスから出るもの)、●農薬の包装容器の4つの汚染物を無くすことを目標にしています。
2019年の数字ですが、政府によると、それぞれの廃棄量は糞尿30.5億トン、茎8.7億トン、ビニール246.5万トン、包装材35億個という膨大な量に上ります。
このうち農作物の茎とはなにか、解りにくいかもしれません。晩秋の農地を見渡すと、多くのところで山積みされたトウモロコシやコウリャン、それにイネなどの茎をみることがあります。これは処分がけっこう厄介で、次の耕運作業をするまでに柔らかくなったり風化したりすることはありません。しっかりと乾燥しながら残るのです。
仕方なく燃やす場合もありますが、空気汚染につながるという批判もあり、最近はやや減ってきました。
畜産物の糞尿のうち、牛糞は水分が少ないので乾きやすく、処理しやすいですので冬の燃料に使ったり、堆肥にして土に戻したりできます。牛糞堆肥は「肥」という文字が付きますが、肥料養分は低く、主に土壌改良向けに使います。
しかし鶏糞と豚の糞尿は役に立つ代物です。
鶏糞は水分が多い上に臭いが強い。豚の糞尿の臭いもきついですが水分も多量です。
鶏糞は細かなオガクズ(木材をのこぎりで切った際に出る米粒状の木くず)などを混ぜ、80度程度に自然発酵させると最高の肥効を持つ肥料に変わります。発酵は自然に起きます。
豚の糞尿は飼料の消化率が悪いのでに匂うのですが、その分、栄養分はたくさん残っています。しかし、これをすぐ堆肥にはできないので、少し寝かせます。
ところが、堆肥作りをせず、鶏舎や豚舎の脇にくぼみを掘り、そこに流し込むだけの農家がけっこう多いのです。不衛生この上ない惨状になります。
一方、化学肥料の使用はうなぎのぼり、これが農産物コストの押上げにもつながっているのです。中国の農畜産物の多く、穀物も畜産物も、コストが上昇しています。もはや、アメリカや欧州にはかないません。
新しい法律を作ったのも、こんな現状だからという面もあるのでしょう。
また、有機物の不足から土壌の劣化が進み、養分と水分吸収力の低下が進む現状への配慮があってのことかもしれません。最近、農地土壌の持つ水分吸収力の低下が、収穫作業の障害要因になっています。
二の鳥:この法律では、畜産物の糞尿は土に還すべきことを謳っています。土壌改良がもう 一つの狙いでしょう。
日本では、家畜・家禽を飼いながら農作物を栽培する「有畜農業」が伝統的な農法でしたが、いまでは非常に少なくなっています。土づくりには欠かせない方法でしたが、これでは経済的にも労力的にも成り立たない時代です。
ただ日本の農家の多くは堆肥や有機肥料を調達して、土づくりには手間ひまをかけています。
中国でも、家畜を飼養し栽培も行う大規模農場もあることはありますが、まだ多くはありません。
この法律が、農地の土壌にいい影響を与えることになるかどうか、今後、注目して行きたいと思っています。
2021/10/04
水先物取引、ついに来た水の新しい時代―やがて、空気さえも?―
ついに、水までも先物商品取引所の投機対象になりました。
去年の12月7日、初日の取引価格は496ドル/1エーカー・フット。日本人の中に1エーカー・フットとは何のことかを知っている人は少ないと思います。私にもさっぱり分かりません。
欧米の単位は複雑で、日本人は混乱したり大きなミスをおかしたり・・・・・。たとえば麦やトウモロコシの量の単位に「ブッシェル」というのがありますが、大豆、麦、トウモロコシ、それぞれブッシェルを使うのですが、実はそれぞれ、中身が違います。
つまり、大豆1ブッシェルと麦1ブッシェルは、単位の呼び方は同じでも重さが全く違うのです。大豆1キログラムと麦1キログラムは同じですので、分かりやすくていいですよね。
さて、水の単位、日本では立方メートル(㎥)やリットル(ℓ)を使いますが、アメリカなどでは、このエーカー・フットという単位を使うのが一般的のようです。調べてみました。高さ1フィート、面積1エーカーの箱のことです。
1フィートは30.48センチ、1エーカーは63.6メートル四方。この箱1杯の水を1エーカー・フットと呼ぶのだそうです。これをリットルに換算すると1,233,482ℓだそうです。さっぱり見当がつきません。大体ですが畔の高さが30センチくらい、面積40アールほどの田んぼを想像するとイメージがわきそうです。
ついでに、では、なぜ1エーカー・フットが水価格の単位になったかというと、カリフォルニアの一般世帯が1年間で消費する水の量を平均すると、大体1エーカー・フットなのだそうです。なんだか後付けのような気もしないではありませんが、そういう説明を見つけたのです。
さて、水の先物取引を始めたところはナスダック・ベルズ・カリフォルニア・水先物インデックス(NASDAQ VELES CALIFORNIA WATER INDEX FUTURE)というボードです。取引名は分かりやすいH2O。
初日の価格は496ドル(0.4セント/ℓ)、取引参加者は期待ほどにはいなかったようです。
まえから気になっていたこともあり、ナスダックの該当情報に入り込んで、最近の相場を見てみました。
先物ですから限月(将来の決済月数または何か月後の価格を売買するか)が必要ですが、ひと月、ふた月、三月、五月、七月、九月・・・24か月辺りまでとなっておるようです。
そこで、直近の価格ですが、限月ひと月もの857ドル、2年先もの993ドル、この二つに挟まる期間は、先になるほど上昇するようです。
先物取引の初日のほぼ倍に上昇しています。
水は有限な資源であることはどなたも知っています。海には計りきれない量の水があるのに有限、とは理解しがたいことのように聞こえますが、人類が使える水は南極圏と北極圏を除く陸地にある水と雨ですからほぼ固定的です。
一方、ウオーター・フットプリントの観点から、コメ1kg生産には3,400ℓ、牛肉1kgには15,500ℓの水が、工業用品も生活用水も負けず劣らずの水が必要ですので、人口が増え、生活レベルが上がると、水は足らなくなることは目に見えています。
水にはすでに価格がついています。1立方メートル当たり、生活用水を例にとると、東京は下水道料金抜きで22円(基本料金を除く)、中国は2・8元(約45円:水道水)です。
両国とも、水価格は上昇傾向にあります。価格には取水・給水・設備費などのコストがかかり、純粋な水価格の比較はできないのですが、上昇傾向にあることは否定できません。
おそらく、人類全体にとって、水はますます貴重なものになっていくことでしょう。水の先物取引所の開設はこの点が背景にあります。はたして、人類の水の適正な使用に効果があるのかどうかは不明です。水が、たんなる投機の対象にならないことを願いましょう。
もしそんなことが起きれば、やがて空気さえ、先物取引の材料として上場されないとも限りません。
2021/08/29
中国のコメの早生収穫さえず
中国のコメの早生品種の収穫が終わりました。1年間のコメの収穫量全体に占める早生品種の割合は10~13%といったところですが、1年間の収穫量の動向を占う指標ともいえるものです。
中国政府の発表によると、2021年の早生品種の収穫量は2802万トン、これだけで日本の1年間のコメ収穫量の4倍くらいにもなる大変な量です。中国の1年間のコメの収穫量はだいたい2億トン強という大きな量になります。
早生品種を栽培しているところは、主に湖南、江西、貴州、四川など南方です。
コメは小麦、トウモロコシと並んで中国では3大穀物の一つ、収穫量は小麦のだいたい1.5倍です。収穫量自体が最大はトウモロコシの2億6千万トンくらいですが、飼料用・加工用が大部分で、日本のスイートコーンのようなものはまだ少ないので生食用は限られます。
さて、そのコメの早生品種なのですが最近、次のようなことになっています。やや注目されますので取り上げました。
1,最近(2015~)、収穫量が低迷。前年を下回ることも頻繁に。
2、コメの作付面積がはっきりとした減少傾向にある。
3,単位面積当たり収穫量が低迷、減少する傾向がはっきりと確認できる。
けっして需要が減っているわけではありません。むしろ増えており、不足を輸入に頼る傾向がはっきりしてきています。
日本のコメのように需要減少で供給が余って困るなどというゼイタクはむかしからありませんでしたが、一時期、自給体制が出来上がった時期もありましたので、それにくらべると、現在は、かなり窮屈な食糧事情を迎えつつあるといえるでしょう。
こうした傾向はコメに限ったことではありませんが、ここではコメに焦点を当てています。
こんな話を中国の人に向かってすると、かならず返ってくることばに、
「いまの中国は食べものに苦労はない。あなたはどこの国の話しをしているのか?」
というのがあります。
不足分は輸入しているのですから、食べものに苦労している実感があろうはずはありません。この点は、中国よりも食べものの輸入依存が強い日本ですら当てはまる
ことです。
収穫量の低迷は3種穀物全体に見られる現象なのです。中国の食糧(中国語では「糧食」)には3種穀物の他、大豆、高粱、キビ、アワ、小豆などだけでなく薯類が含まれます。日本では薯類は統計的に別扱いです。
こうした食糧事情の変化が起きていることに対して中国政府は、「非糧化」(コメ作農地などを、大豆や野菜などに転作)、「土壌劣化」、「洪水など気象変動」などをその主な理由としています。
これらに加え、私は農地公有制に限界がきているからだとみています。
中国の農地所有者を誰だとお思いでしょうか????
答えは、無しが正解です。私は、中国の憲法をはじめ、土地や農地に関するあらゆる法律、施行令、条例を読破しましたが、土地も農地も、その所有者がだれか、どこにも書いてありません。 なぜでしょう????
それは体制のなかに、巧みな、そして意図的な背景があるからです。
2021/07/21
海水稲は成功するか?
稲作の最大の敵の一つは塩分だ。稲の持つこの弱さを克服しようと「発見」され、品種改良を続けているのが、中国の稲の父と言われ、先ごろ亡くなった袁隆平氏率いた青島海水稲研究発展センターだ。
もともと海水稲は1986年、広東海洋大学の陳日勝という研究者が「発見」し、実用化の研究を始めたのが始まりと言われる。これを稲と言えば袁先生、ということになって、研究の権威付けと商品化の道を探り始めた、というのが近いらしい。
海水稲とはどんな稲なのか?文献によると、塩分濃度が0.3%以上でも栽培できる塩分耐性種なのだそうだ。塩分0.3%といってもピンとはこない。
通常、日本ではpH濃度がこの方面の指標だから、塩分0.3%をpHに換算できないかと、あれこれ方法を探してはみたものの、筆者の手には負えないことが分かったので面倒くさいことは止めた。
ならば、ということで海の塩分濃度を調べたら大体、3~3.5%だそうだ。0.3%というと海水を10倍に薄めた程度だから、かなり濃度は高い。海水浴のシーズンになったので海へ行かれる方は、ぜひ、試しに10倍に薄めた海水を適当に飲んでみてください。きっと、みそ汁を薄めたようなものではないかと想像します。
もともと中国全土はpHが高い。つまりアルカリ性の高い農地がほとんどだ。中国とは逆に酸性土壌の多い日本の常識でもpH7.5くらいが限界で、6~7くらいを標準におく土づくりや品種作りをする。
ところが、中国では、いつか、どっかにも書いた記憶があるが8とか8.5とかpHの高い土壌はざらなのだ。
よく日本の農業技術者や農業経験者が中国へ行かれて、農業技術指導面で苦労される話を聞くことがあるが、中国と日本とでは、土壌の重要な性質の一つの尺度が真逆であることが災いすることも大きな理由ではあろう。
さてこの海水稲、試験収量は10アール450キログラムというからまあまあ。味は知らないが、精米色はかなり茶色かかっているようだ(写真)。
できれば、普通のジャポニカ系かインディカ系の白い米がいいに決まっているが、中国なりの事情もあって、新しい銘柄米への成長・発展を願っているというところだと思う。背景には、コメ不足があるであろうが、やがておいしいブランド米誕生の成功を祈りたい。

2021/06/14
中国のゲノム編集食品(含む農畜産物)の発展と立ち遅れる日本
ゆえあって、中国のゲノム編集食品の開発・研究の現状と今後を調べた。その過程で、日本のゲノム編集食品開発・研究の立ち遅れが際立つことに気づいた。
ゲノム編集技術が遺伝子組み換え技術と本質的に異なることは、世間にだんだんと浸透してきた。遺伝子組み換え食品の安全性にはかなりの疑念を持つ筆者だが、現段階では、ゲノム編集食品の「食品としての危険性」は少ないかゼロ、という見方を持っている。
遺伝子組み換え技術は、例えば豚の遺伝子に鳥の遺伝子を組み込むことだから異生物が生まれる可能性を捨てきれない。ブーブーと鳴きながら羽根をばたつかせて空を飛ぶ豚、コケコッコーと叫びながら丸々と太った丸い鼻をもった鶏、SF漫画が現実になる恐れを抱く消費者もなかにはいるかもしれない。
ゲノム編集技術はこれと異なり、自分の遺伝子の一部を切り取ったり、場所を入れ替えたりするだけなので、豚は豚、鳥は鳥のままで生物学的属性が変わることはない(とされている)。
さあ、そのゲノム編集技術にはZFN、TALEN、CRISPR/CAS9があり(説明は省く)、中国科学院系、中国農業技術院系、大学、民間企業の多数のゲノム編集技術専門の開発・研究機関がしのぎをけずりあっている。
最近は3つの方法のうち最も進んだ技術のCRIPR/CAS9に、開発・研究資源が投入される傾向がある。世界的には、この分野の特許戦争が起きている。
中国がこの分野で成果を出し始めるのは2015年以降だが、特許戦争の準勝者になろうとしているのだ。コメ、小麦、トウモロコシ、大豆、野菜、果物、魚、豚、牛、鳥、羊・・・・品目はなんでもあれだ。
その背景に食料自給率の低下が進んでいるという事実があり、遺伝子組み換え食品の市場性に見切りをつけ、新しいゲノム編集技術分野に賭けようとしているのではないか、と思われる。
最も進んだ技術のCRISPR/CAS9による中国における農業、食品開発・研究成果を調べると、すでに特許申請に至っているものが約500件、うち特許権成立が130件、審査中のものから特許権成立するものが多数見込まれる。
日本では、GABAトマト(血圧を下げる効果ありとされるもの)、おとなしいマグロ、肉厚の鯛などが話題になっているが、日本の大学等の特許権成立件数は多くない。むしろ非常に少ないと言った方がよいくらいだ。
ゲノム編集技術のうちCRISPR/CAS9発案者(投稿論文中、最速で研究成果を発表した者)は昨年のノーベル賞を受賞した。
この分野の特許権の多くを握っているのはアメリカ。その次に多いのが中国、日本はとても中国にはかなわないし、韓国にも後れをとっているともいえる。
中国は、アメリカの特許項目をかいくぐるように隙間を狙い、有効な特許権を幅広く獲得しつつある。このたび、筆者はそのすべてを調べた。
中国の特許には、日本やアメリカにも認められたもの(国際特許)が多数ある。今後も、この勢いはつづくだろう。
対する日本、全部で20周の陸上競技を走っているとして、アメリカに10周遅れとすれば中国には5周遅れている、というのが筆者の感想だ。中国もまもなくゴール、日本はまだ4周も残っている。
2021/05/17
農民の思想の自由とウソ
なにやら不穏当なニュースが飛び込んできました。
教育・研究の枠組みや内容を国家が規制するのだそうです。そんなことできますか?
現代の世の中をナメテマセンカ?
できないはずですが、やってしまうところに、言いようのない怖さがあります。そして、それにしたがって先頭をきっていく学者が、優秀な等級を手にするのが現実なのですね。
華の国(かのくに)の学者の多くは、知る限りですが優秀です。優秀だけにとどまっていればいいのですが、お利口でもあるのです。どなたか、ガリレオ・ガリレイのような、不器用だけども自説を曲げず生きている華の国の人ご存じありませんか?
ともあれ、心配になることが一つあります。
農民の思想の自由です。農民は、理由あってのことなのですが、もの知らずぶります、都会人がもっている農民イメージどおりに振舞います。
そうすることが、だれからも目を付けられず恨まれず、静かに生きる術だったからです。農民にだって、韜光養晦くらいできるのです。だれかの専売特許ではありません。この点、時に、農民もウソつきになります。
もっと大事なことですが、農民の技能の発達や貧しさの中で最大の幸せを得ようと努力する暮らしに、思想の自由はかかせない。
農民と話してごらんなさい、豊かに実の詰まった、たくさんの面白い話をしてくれますから。なぜかというと、そうした知識や経験がないと、土を耕して、種を植え、農産物の栽培をすることなど、とてもできるものではないからです。
工業の現場は規制とか基準とか杓子定規のことだらけでしょうが、田野の仕事はいっときも休まずダイナミックに変化する自然相手ですから、常にそれらと対話することなしには、仕事が進まない仕組みになっているのです。
思想とは客体と、ときには自分との対話を保障する仕掛けです。農民同士の対話はどんな内容であっても規制してならない、と思います。
当の規制をかけようとするお上の先生に当たる人は、思想とは人間の意識からではなく実社会の物質的なんとか関係から生まれるといったようなことをいった記憶があります(くどくてすいません)。農民は、そのとおりに生きているのです。
ならば、先生のいうことを聞いて、現場の声や思想は、お上の意識によって変えられるようなものではないはずだ、と思っていただきたいものです。
本来、思想に政治思想も社会思想も農業・農民思想もありません。思索の自由、対話の自由が思想の自由そのものだと思うのです。
2021/03/17
食料自給率がさらに気になる
食料自給率は国家のあり方に、大きな影響を与える要因の一つだ。
まず日本―
日本は先進国の中では、最低、カロリーベースで40%未満という無残な姿をさらして半世紀、国は少しでも上げようとしているようにみえるが、実際の効果は上がっていない。政策が間違っているからである。
需要は余るほどあるのに、供給が追い着かない産業は農業以外にない。需要>供給という図式が工業生産物やサービス業だったとしたら、どの供給業者も寝る間もなく増産に増産を重ねて頑張るに相違ない。
なぜか?いくらでも増産できる仕組みがあるからである。それに対して農業は増産するにも平均年齢が70歳近い人が担い手では、狭い農地をいくら工夫しても限界がある。年齢が高くても、高い技術と意欲と所得があれば農業はできる時代だが、本当に農業は、儲からないようにできているかのようだ。
国民が食べる食料の半分以上を海外に依存することは、日本という国のあり方にどんな影響を与えているだろうか?
一、政府公表の資料をみると分かるが、安全性に疑問符が付きそうな輸入食料がなくならないから国民の健康への影響が懸念される。安心して食べられないということだ。やたら加工をするのは、消費者の不安を隠すには好都合な方法なためでもあろう。
二、農地が消える、田園が消える。農地は耕作放棄地がどこにも広がり、荒野か山林に化けた農地が増えた。北海道や九州、日本の山間部、平地の田舎の農地の買い手はなく、荒れるに任せざるを得ない元農地が無残な姿をさらしている。輸入をやめれば、生き返るだろうに。
三、日本は世界中から食料を輸入しているが、その代金は誰が負担するかと言えば、突き詰めれば消費者だ。2019年の日本の農産物輸入額は6兆6千億円、輸入全体の8%に相当する。農地や水など農業資源が十分にあり、やろうと思えば若い作り手も蘇るし、需要は十分にある。でもなぜ、輸入に頼らなければいけなくなったのか?
こたえは、本当の農業構造改革を農協の反対、政治家の反対、食品工業の反対から怠ってきたからだ。
世界で10番目に人口が多い日本、金持ち日本は、自らの農業資源を放棄して海外から農産物を買いあさってきたのだ。
そのために、そして世界の穀物独占企業(穀物メジャー)とグルになった輸出国が、世界の農産物価格が一時的な低下はあっても、長期的には上昇し続ける価格構造に仕立て上げてしまったのだ。
そのあおりを受けた多くの途上国は、食料を買えずに餓死する貧困家庭が、国単位で買うに買えない状況を作り出している。日本が、自分で作っていれば、多くの世界の飢餓をなくすことができたことだろう。日本の貧相な食料自給率は、こうして世界に大迷惑をかけ続けている。日本だけで済む問題ではないのだ。
次いで中国―
この国の食料自給率の公式データはないので、推計してみた。その結果、長期的に低下し続け、ついに、直近のデータから推計した2018年の食料自給率はなんと、カロリーベースで80%を割っているのだ。
では、上がる見込みはあるか????これは簡単にはいえない。
ただ、いえることは中国にも耕作放棄地は広がっている。農民数も多い。だから、作ろうと思えばできる、といえる。日本農業を似た構図だ。
ということは、農業資源に余裕があるかどうかと自給率が上がるかどうかは無関係、ということを示唆する。いえることは、中国にも、時代の変化に即応した、別の次元の特別の施策が必要になっているということだと思う。
それはなにか?私はやはり、土地制度の改革だと思う。どうせ、できない相談だろうが。こんなことはわかりきっているつもりだ。だが、研究者の矜持のアカくらいは持っていてもバチは当たるまい。
2021/01/23
<社会主義所有制相対性論>について
中国に行った際に普通の農民と接しているときに感じることだが、自分たちが政治制度上は社会主義といわれる国に住んでいることをどれくらい自覚し、本来の社会主義なるものをどれくらい理解しているのかとなると、ほとんど乏しい。ほとんどの農民にとり、中国の社会主義制度は、実はあまり重要なものではなくなってきているのではあるまいか。
むしろ、生き方を心得た人間としても、農業人としても優秀な方であると思う。若い頃、中国以外の国、アメリカ、豪州、東南アジア、東西の欧州諸国や日本全国すべての都道府県の農村調査をした経験からいうと、この点は、どこもほぼ同じである。
農業人としても優秀、という点は、農業に素人な筆者や都会人ではとうてい知り得ないしできないことを身に付けており、それを理解し、日々、技術や技能を発見し更新し、それを全身に上書きする能力の持ち主なのである。
彼らが身に付けている農業技術や技能は、地主や貴族あるいは王族が農民に教え伝えてきたものではない。彼らは、何も知らないのだから教えようもない。みな、あるものは仲間から、あるものは自分の経験と努力からうまれ、改良してきたものだ。
では、実態はどうであろうか?
農業部門に限定して、いまの中国に照らして確認すると、そこには優れた点と問題点とが併存している。
(1)上述した農民自身の努力以外に、品種、基盤整備、栽培・飼養、収穫、保管などの新農業技術開発と普及に、資金、頭脳の国家的集中投資が行われ、多くの国際特許権を獲得しているほどだ。
その結果、農業参入を行う農外企業が増え、しかも数百、数千ヘクタールの農業経営企業を輩出した。
2、問題点
(1)現在の農地所有は制度的には(集体)集団経済所有制で、定義的には、農民の農地はそこからの借地である。
農地の所有制度なぜこうした制度になっているか、といえば土地は憲法で全人民所有制(公有、国有)とされているからで、なぜそうしたのかといえば、社会主義制度の国だからと、卵と鶏の順番争いのようになる。
社会主義の指導者であり実権掌握者は党だから、実際は、農地を含む中国のすべての土地は見方を変えれば「党有」とも呼べる。つまり農民は、党から借地をしているともいえる。
これら私有資産の隊列に土地が加わったところで、中国の体制に影響するところはまずないであろう。つまり政治の社会主義や共産党一党支配という実務的制度と所有制度は相対的なものであり、分離してよいと思うのである。社会主義イコール土地公有というのは、観念論に過ぎないともいえる。社会主義の国にも私有制度は成立しうる。